22.折り合い
「……何? やつに魔法力等を返却すれば確実に招集に応じるというのか? ロクリアよ」
王はロクリアの提案に対して目を丸くする。
「はい。必ず飛びつくはずです。あの男の性格は、恥ずかしながら幼い頃から見知った仲なので熟知していますから……」
笑みを浮かべつつも、口元をわずかに引き攣らせるロクリア。その後ろでは、勇者アレクが怯えたように周りをきょろきょろと見回していた。
「……バブー……」
「アレク様ぁ、可哀想ですぅ……」
「まったくだ。アレク様をこんな風にしたオルドを絶対に許――」
「――その汚らわしい名前を二度と口にしないで!」
戦士エスティルに対して憎悪の目を滾らせるロクリア。
「す、すまん。ロクリア。つい汚物の名前を出してしまった……」
「わかればいいのよ、エスティル。見て御覧なさい、アレク様は、全然可哀想なんかじゃない……」
「ママァ……」
うずくまって指を咥え出したアレクの頭を、ロクリアがそっと撫でる。
「――コホンッ……。心中、察するにあまりあるぞ、ロクリア。話を続けるがよい」
「はい、王様。ありがたき幸せ……。賢者であることだけが唯一の誇りだったあの男にとって、魔法力は絶対に取り返したいはずです。なので、招集しようとしても必ずやそれを条件にしてくるでしょう。そこでこちらから先手を打つのです。名誉も魔法力も条件次第で返却すると……」
「しかし、そう上手くいくものなのか? お主がやつの性格を熟知した幼馴染だとしても、あのような目に遭えばさすがに警戒されるだろう」
「それはそうでしょうね。ですが、こちらから折れれば考えも変わるはずです。あの男は人格者として生きてきたつもりのようですので、今更それを変えられないでしょう」
「ふむう……しかしだ。それでもやつに魔法力を返すのはためらう……。逃げられるか、あるいは反逆を企むかもしれん……」
「それでしたらご心配には及びません。まずあの男は人格者としての仮面を捨てきれないでしょうし、魔法力も全て返すのではなく、半分だけにすればいいのです。それなら強化した魔王といえど協力し合えば充分に渡り合えると思いますし、私たちに歯向かおうとしても力が足りません。魔王を倒したあとに全部返すことにして、倒したらあの男も速やかに始末すればいいのです」
「……うーむ、それならばいいが、そんなに都合よくいくものかの……。そこにおるアレクがやつにいいようにやられて精神を病んだと聞いたぞ?」
「……いいえ、病んでなどいません」
「……な、何?」
曇り一つないロクリアの笑顔に驚く王。
「アレク様は決して病んでいるわけではなく、疲れておいでなのです。世界を救った勇者として、度重なる苦労をなさいました。そこを姑息な男に突かれてしまって……ゆえに少し疲れているだけなのです……」
「バブバブゥ……」
「よしよし、いい子いい子……」
ぐずり始めたアレクを抱きしめるロクリア。その場はしばらく気まずい空気に包まれるのだった……。
◇ ◇ ◇
「――ふう。こんなもんでいいか」
例のボロ小屋の中、俺は手紙をしたためると、早速転送魔法で目的の場所まで飛ばした。
「オルドよ、一体何を書いたのだ? 我も見たかったぞ」
「オルド様、クオンも見たかったです」
「すぐにわかるさ」
俺はフェリルとクオンの二人に向かって目配せする。
「しかし、オルドよ……やつらの条件を受け入れるにしても、すんなり応じれば逆に怪しまれる羽目になりかねんぞ……?」
「クオンもそう思います」
「まあ、そこんところはちゃんと条件って形で折り合いをつけることにしてるから大丈夫だ」
「「条件?」」
「あとのお楽しみで」
待つ楽しさ、考える楽しさっていうものもある。なんでもかんでもすぐ終わらせてしまうだけなのは味気ないし、じっくり味わうのもいい。
「グルルァ。我は不満だ……」
「ウミュアァッ。クオンもです……」
「撫でてやるから我慢するんだ。フェリルもクオンも俺のペットなんだろ?」
「……わ、わかった」
「わかりました」
「よしよし……」
「グルルゥ……」
「ウミュゥ……」
二人とも俺に頭をなでなでされるのが日常的になってきたな。凄く気持ちよさそうだし、まさしくペットってところだ。本当の意味は死んでも言えないが。
さて、俺の誠意を籠めた手紙に対してあいつらがどう返してくれるのか、今から楽しみだ……。




