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薄暗く月明かりが微かに足下を照らすような、そんな森の中を、休むことなく走る。何かに追われるかのように、時々辺りに視線をやりながら、それでも足を止めて、休むことはしない。
身体が覚えるくらいに、何度も下見をしたため、目的地までの道順に不安はない。
ただただ、腕に抱くものが今しばらく静かであることだけを祈る。
もう少し、もう少しの間だけーー。
信頼できる場所を探した。
お金や名誉よりも、情を優先してくれるような、そんなお人好しを……。それがどれほど贅沢なことを言っているかは百も承知である。自分ですら……頼みに行く立場である、自分ですら、きっとこんな依頼を受けることはしないだろう。
だが、見付けた。
どん詰まりになり、いっそ誰かが夜逃げしようかとまで思い詰めた時、ようやく見付けたのだ。
ーー人情溢れる彼を。
歓喜の想いを必死で殺し、何度も、下見をしたのだ。ずっと、ずっと観察を続けたのだ。
そして、決めた。
彼に宝を託すことをーー。
どうか、どうか……我らが主の宝を、守ってくれ……。
どうか、どうか……健やかに、育ってくれ……。
立ち止まると、一気に汗が吹き出た。
息を整えることすら惜しむように、ポケットからペンダントを取り出すと、ソッと首にかけた。キラリと月明かりに反射して、メダルが光った。封書をお腹周りのリボンに挟み込み、準備は完了だ。
後は、タイミングを図るのみだ。
逸る気持ちを抑え、瞬くことを忘れたかのように、ジッと扉を見続ける。
早く、早く……!
一秒が何分にも感じられてきた頃、ようやく扉が開いたーー。




