学校編 1の1
この町を黒に染めようとしている奴がいる。
それを白に染めるのが俺たちの役目なんだ。
神子学園中学校。
其処の二年生のクラスにその役目を背負う人物がいた。
「…光流ー」
そう言って髪を右側で団子にしている少女――羽慧琶月は机に突っ伏す。
琶月の隣の席に座る葉鏡光流は溜息をついてから口を開いた。
「何だ、羽慧。そのだるっそーな声」
「だってさー昨日も昨日で魔物何体倒したと思ってるのよ。夜中ぶっ通しだったから眠いったらありゃしない」
「そりゃ眠いけど…怠くはない」
「光流って体強いのね」
「お前が弱いだけだ。……んで、どうすんだよ。今日もどうせ夜になったら出動なんだろ」
「そうよ。…でもさー今でも十分魔物の反応するのよねー」
「残念だけど俺も反応してるのは分かる。…ったくこんな朝っぱらから何しようってんだ」
そう言うと光流は小さく欠伸をする。
それにつられてか琶月も同じ事をした。
(昨期から分かる限りで五体ぐらいはいるな…)
「授業抜けるわけにはいかないしねーどうする?」
「知るか。…取り敢えず休み時間だな、使うとしても」
「そうね…あ、そう言えば光流は置いてきたの?ヤミを」
ヤミと言うのは光流の妖精と言ったところだろうか。
元々ヤミに言われ光流はこの仕事を始めた。
「置いてきた。彼奴連れてきたら何しでかすか分からない。どうせ、お前もだろ」
「えへへ、正解っ。ヒカリも同じような感じだしね」
琶月の傍にいるのはヒカリという妖精。
ヤミと共に人間界へ来て仕事を頼んだ。
だがヤミもヒカリもかなりやんちゃな性格故か悪戯とかもよくやる。
そのたびに琶月と光流は頭を抱えている。
学校で悪戯等されたら困るというわけで連れてこなかったのだという。
ふと琶月は表情を険しくして辺りを見渡した。
「…光流」
「数増えてきてないか、これ」
「確実に…増えてきてるよね」
(なんなんだこれ。十五体ぐらいいる!?)
先程まで反応が小さかったのが一気に増加した。
妙な増え方だ。
「はーあ、朝っぱらから片付けしなきゃなんないのね」
「しゃーねーだろ。…行くか」
「OK!」
始業時間まで残り五分を切っているというのにもかかわらず光流と琶月は席を立ち教室を出た。
「羽慧、反応どこから来てる」
「えぇっと…屋上から十体、グラウンドから五体の反応」
「なんだ。分かれてるのか」
「そうね…。まぁ屋上が一番の溜まり場みたいなんだけど」
そう言うと琶月は苦笑した。
「じゃあ俺は屋上の方を取り敢えず片付ける。終わって羽慧の方が終わってなかったらそっちに加勢する」
「ありがとう。…じゃあ、行こうか」
「分かった」
グラウンドに行く道と屋上へ行く道それぞれを琶月と光流は走り始める。
屋上へ行く道を走っている間に懐から札を五枚取り出す。
(こ、これだけで足りんのか…?火炎と水泡と雷光と濃霧と…雷炎か)
…余裕で足りるな。
雷炎一枚で済むんじゃないのかこれ。
そう思った後微苦笑し、札をまた懐にしまう。
その頃には屋上の扉の手前まで来ていた。
扉の前で少しだけ息を整えてから扉を一気に開け放った。
屋上の所にはぴったし十体魔物がいた。
「うっわ。十体本当にいてやがる」
そう言いつつ札を取り出し戦闘の構えをする。
「雷炎!」
その声の後札から火と稲妻が混ざり魔物の元へ一気に走る。
雷炎の気配すら気がつかないのか魔物は別方向ばかりを向いている。
(俺に気がつかないってすげぇな。…あぁ、そうか。普通の人だと思われてるのか)
そう思った数秒後。
瞬く間に魔物は無数の光となって消え、その場は一旦おさまる。
「雷炎一枚で済んだか。…やっぱこれはつえーわ」
そう言った後その札を懐にしまいふぅと息をついた。
「…で、彼奴の方はどうなってるんだ」
「終わったわよ、とっくに」
「うわっ。いたのか!」
「何よそのいちゃ駄目な感じの台詞は!加勢しようと思ったのに」
「おせーよ。来るのにどれだけかかってる」
「うるっさいわねーごちゃごちゃと。飛べたら話は早いのに」
「飛べるだろ…って言っても学校でそれは駄目だってヤミとヒカリに言われたな」
「そうよ。…で、どうする?もう一時限目始まっちゃってるけど」
「サボリで良いんじゃねーの?」
「ちょっとー!それってあたし巻き込みー!?」
「なんだよ。授業の途中から入るの禁止なの分かってんのか?」
「…あ、そうか…」
「だったらサボリで良いだろ」
「…はいはい。…じゃあ、これ使っておこうか。……守護!」
琶月は札を取り出しそう言う。
光流と琶月を包むように結界が出来た。
「これで先生が探しに来ても大丈夫」
「そんな札あったのか」
「うん。昨日ヒカリから貰ったの。…もう一枚あるから光流にあげる」
はい、と守護とかかれた札を光流に渡す。
それをありがとうと言いつつ光流は受け取る。
「自分の体を守らないと行けない時ってあるでしょ?その時に使ってって」
「おい、待てよ。今使ってて良いのか」
「良いの良いの!先生から身を守る、ってことで良いじゃない」
「何処までも気軽なお嬢だな」
「何よー!文句ある!?」
「ねーよ。気軽さが欲しいぐらいだ。ま、万が一追試に出されようがお前成績良いしどうって事はないんだろうけどよ」
「光流だって同じじゃないのよ!いつも授業の一部聞き流したりしてるのに成績だけは良いんだから!この前だって学年トップだったじゃない」
「あーまぐれだと思え」
「思えないわよ!光流、ちょっと賢さ分けて」
「どうやって分けろって言うんだよ」
とにかく分けて!
だからどうやって分けろって言うんだ
そんな会話が一時限目終わるまで、続いていたんだとか。
その後――
教室に戻った二人を見て教師は開口一番追試だと言うことを告げた。
「へーやっぱりそう来たんだ」
「ま、予想通りだったな」
お互い苦笑しつつ、追試を受けたらしい。
そして二人とも満点で追試余裕合格だった。