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8話 最高の足跡

 白浜拓哉と九条緋真は、紅葉色に染まる公園を訪れていた。project『アクアリウム』は1週間前に終わりを迎えている。


 タコの体に限界が近付いている事は、2人の目に明らかだったのだ。季節は10月、彼等が出会ってから丁度2年が経過している。


 『アクアリウム』発の論文は150にも及び、その全てが九条緋真と白浜拓哉の共同著作となっている。彼等はその中で幾つもの新事実を解明し、およそ学生としては考えられない功績を残した。


 論文は日に何度も引用され、最も権威ある学術誌に幾度も掲載された。九条緋真のスケジュールは過密である。アクアリウムを終了させた後、国内外から多岐に渡るオファーが殺到しているのだ。


 しかし当の彼女は、うららかな秋晴れの下、傍らの水槽に語り掛けている。


「綺麗な空だね」


「そこで空にいくのが緋真らしいよ。普通は紅葉だろ」


「紅葉は茹蛸ユデダコ色だから避けたのよ」


「まぁ、綺麗な空だな」


 拓哉が言うと、緋真が急に真面目な顔をする。


「ねぇ、怖くないの? 貴方もう限界に近いわ」


「心残りだらけだが、怖いとは思わないよ」


 心残りと聞いて、緋真が眉をひそめるが、拓哉は違うと頭を振る。


「心残りが無い人生ってつまらないモンだろ? 心残りが有った方が幸せなのさ」


「そんなものかしら」


「そんなモンだ。何も俺の心残りを俺が解消する必要は無い。居る奴が適当にやればいいんだよ」


「それを心残りが無いって言うのよ」


 緋真が水槽を叩き、そして澄み渡る空を見上げた。


「ねぇ拓哉。私、続けることにしたよ。私大学に残って研究する」


「そうか」


「応援してくれる?」


「当たり前だろ」


 緋真は再び口を開こうとして逡巡しゅんじゅんする。しかし意を決して口を開く。


「ねぇ、まだ好きって言ってもらってないね」


 緋真が言った刹那、拓哉の身体がビクリと震える。


「なんだよ、いきなり」


 緋真はそんな拓哉の様子を見て、得意気に笑う。


「だって貴方、私の事好きでしょ?」


「……別に好きじゃねぇよ」


「最後くらい、素直になっても良いんじゃない?」


 拓哉は沈黙したまま一向に口を開かない。


 暫くして、緋真は小さく息を吸った。


「帰ろっか」

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