歯について
第1章「何故、人類は鳥類であると言えるのか」(2)
次に目立つ違いと言えば、人類には歯があるが、鳥類には無い点だろうか。これは簡単な話であって、鳥類には歯を生やす遺伝子があっても、それを抑制する遺伝子があり、人類が抑制する遺伝子を獲得しなかったという違いに過ぎない。だから人類の方がより原始的、という事なのである。
ニワトリに歯を生えさせる、という有名な実験はいくつもあるので、ここではこれ以上取り上げない。ただ、人類も歯を減らす方向に進化している事は指摘しておいても良いのかもしれない。
近代の学問自体の祖、とでも言うべきアリストテレスは、「動物誌」において次のように記述している。
「ヒトでは最後の釘歯(臼歯)は男でも女でも二十歳前後に生える。八十歳の女に一番奥の釘歯が生えた例もいくつかあるが、生える時には苦痛を伴うもので、男の場合も同様である。これは青年期に「成歯」の生えなかった場合に起こる事である。」(岩波文庫 P.73)
アリストテレスの時代にも、既に永久歯の数は減る傾向にあったようだが、時代が下ってダーウィンも「人類の起源」において、この件に触れている。第3大臼歯は変異を受けやすく、顎が短縮化されている、そしてそれは、「文明人がいつも柔らかい料理された食物を食べ続けていて、その結果、顎をあまり用いないことによるものだと、私は考えてる。」と述べ、さらに「アメリカ合衆国の子供の顎は、正常な数の歯が完全に発達できるほど十分に大きく成長しないので、大臼歯のどれかを抜歯するのが一般的の習慣になりつつある、ということを聞いている。」と述べている。(中央公論社「世界の名著「人類の起原」P.83)
そしてとうとう現代では、「永久歯欠損症」なるものまで出現していて、乳歯から永久歯への生え替わりが遅れたり、永久歯が生えないという事象まで生じているのである。
さて、私はこれまで、人類は鳥類である、と漠然と記述してきたが、ここでその仮定の範囲を狭めておきたいと思う。それは、人類は肉食走鳥類である、という想定である。肉食であるが故に、歯を温存してきたのではないか、という推測なのである。
何故、肉食だったかという根拠は、著名な人類学者であるリチャード・リーキー氏が提唱している、人類が、エネルギーを浪費する脳を発達させ、維持するには、肉食であったと考えるべきである、という説にある。ただ、同氏は、人類には単独で獲物を捕らえる程の能力は無かったと考え、肉食であっても死骸を食べる、ハイエナに象徴されるようなスカンベンジャー(腐肉食動物)であったと考えている。だが私は、人類は集団で狩りをする肉食鳥であったと考えるので、多少の想定の違いはあるが、肉食であったという点では符合するのである。
(付録童話3を参照)