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第79話 島津豊久ならアマゾン

第79話 島津豊久ならアマゾン


判決の翌日、弁護人のおやかたさあが拘置所へ面会にやって来た。

そのおやかたさあに罰金刑について聞いてみた。


「おやかたさあ、遠流はおおきに思もけんど、罰金刑て何ね?

おい、銭ば持っちょらん…どげんして払たらよかと?」

「ああ…罰金を支払えない人は、自分でお金を稼いで払いなさいって事ね」

「ちょ、懲役ちゅ事?」


俺は島津の大きいのから「懲役」という言葉を聞いていたので、大いにあせった。


「いや、お前は流罪だから。流罪の人は流された先でお金を稼ぐんだよ。

一応強制労働もあって、お給金も少ないけどちゃんともらえるし」

「流さいた先が都会とは限らん」

「さあね、そこはお上の決める事だから…」


おやかたさあはふふふと訳ありそうに笑って誤魔化した。

おやかたさあめ、絶対何か知ってるだろ。



流刑地への移送のため天界を離れる日、井伊どんの「ぞんび」と東軍の「そんび」ら、

そしておやかたさあが、俺を見送りにやって来た。

俺は腰縄をつけたまま、2名の刑務官とに先導されて、

白い花畑を歩き、その終わりまでたどり着いた。


「じゃあな、島津豊久…いや、フライド丸」

「がんばれよ」


見送りの者らが俺にはなむけの言葉をかけた。

縄が解かれ、荷物持ちの刑務官が俺に荷物を手渡した。

刑務官が刑の執行令状を読み上げる。


「島津豊久受刑者。天界法務局大臣の許可により、本日天暦2019年2月4日、

遠流ならびに罰金刑を執行します」

「…はい」


刑務官は俺を天界の縁に立たせ、その背中を押した。

俺は下へ、下へと、落ちて行く。

見送りのみんなが上から手を振っている。

…おやかたさあの目が曇って、なんだか泣いているように見えた。



俺はまず戦国の世界へと流された。

匿われていた庄屋屋敷の離れで目を覚ますと、そこには子安どんがいた。

傷が癒えると俺は子安どんを妻とし、帰農して名前を改めた。

島津豊久から子安清兵衛に。

娘のだいも産まれて、俺は頭のおかしいかわいそうな人として、子安どんと幸せに暮らした。

それが俺の見た豊久さあの世界の全貌だった。

でも俺の帰るところは戦国じゃない、「サイバーパンク」の都市「ねお薩摩」だ。

どうやって帰ろうか迷っていたら、

俺は長雨による洪水に飲み込まれて流されてしまった。


流されて行く途中で気を失って、気付くとそこは暗い森だった。

「ねお薩摩」の森よりもはるかに密度の高い、肌色をした、人の森だった。

これが「てれび」でよく言う「あまぞんの森」なのだろうか。

「日本の裏側」とも言っていたが、すごいところに流されたもんだ。


森を構成する人々は若いがみんな裸で、手枷足枷で拘束されていた。

みんな表情がなく、まるで人形のようだった。

そしてみんな首から札を提げていて、そこには名前と値段が書かれてあった。

赤子が一番高値で、次いで若い女人と、だんだんに値が下がって行く。


俺も裸にされ、手足を拘束されて、首に値札を付けられた。

床の水たまりに映してみて見ると、「島津豊久 ¥1,980」と書かれてあった。

…1980円! 安!

やっぱ傷物のおっさんは使い道が無いのか!

今ここに「まじっく」なる「ねお薩摩」の筆があれば…!

せめて商品名だけでも「フライド丸」に書き換えたい、なんで俺が豊久とかショボに!


しばらくその「あまぞん」なる森にいると、だんだんに状況が読めて来た。

この森を構成している人々は命を売る商品なのだ。

俺はここで命には優劣が、貴賤がある事を知った。

赤子や若く美しい女人ほど、高値にも関わらずすぐに売れて森を出て行く。

これでは俺がここを出る日など来やしない。

それにはどうすれば…いい事を思いついたぞ。

俺は森の片隅に鉄管を見つけて、さっそく実行に移った。


それから一晩も経っていないと思う。

森の外で商品の管理者らしき男たちの声がして、

その話の中に「島津豊久」、「配送」という単語を聞いた。

…俺が買われた?

なんで、こんな傷物のおっさんが? しかももうあの効果が?

と言うより、彼らは日本語を話す。

日系人なのだろうか、この「あまぞん」なる森がある南米は日系人が多いとも、

「てれび」で言っていたしな。

そして彼らが森へと足を踏み入れた。


「な…!」

「商品が!」


俺は肌の上に幾重にも重なった返り血の中から振り向いて、男たちを見た。

足元には「あまぞん」の森を構成していた人々の死体が、食いちぎられてもがれた手足が、

いよいよ赤く染まりながら転がって、層をなしていた。


「ようこそ『あまぞん』が森へ…貴様ら」

「まさか、お前が全員…」


俺はぱあと笑顔になった。

「営業すまいる」だ、俺はお笑い芸人だからな。


「当然。傷もんがおんじょば『お買い上げ』されっには、競合ば潰らかすとが一番ぞ。

こん『あまぞん』ちゅ森ん商品は『島津豊久』ひとりでよかと。

島津豊久なら『あまぞん』、今から貴様らは島津豊久専門店ぞ…!」


俺は鉄管の赤く染まった先端を男たちに向けた。

最高だ、裁判で俺を苦しめた豊久が、こんなところで「せーる」の投げ売りだ。

商品の管理者であるハゲたデブじじいは、そんな俺に目を見張った。


「…これは素晴らしい。これほどの殺人能力、もっと高値をつけておくべきだったな。

だがお前にはもう買い手がついた、売約済みだ。

それにうちの会社は『アマゾン』などではない、

井上会傘下山本興行、人身売買を得意とする…!」


人身売買…。

つまり天界は俺を人身売買組織に売って、その金を罰金として徴収したのだ。

目の良く見えない俺なんかを雇うところがないからだ。

俺に課せられた罰金は1980円、俺の命の値段がそのまま罰金額なのだ。

くそ、俺は「1980円の島津豊久」か…。


商品の管理者たちがやって来て、俺を捕まえた。

そして血に汚れた身体を丁寧に洗い、きれいな服を着せた。

俺はどこに売られて行くのだろう、誰に買われたのだろう。

その人は一体、何のためにこんな傷物のおっさんなんか買ったのだろう。

働かせるにも、目の良く見えない俺では不十分だ。

性のおもちゃにするにも、こんなぐちゃぐちゃの傷だらけの汚い身体をした、

しかも今様の「いけめん」にはほど遠い、足も短い、何の教養もない、

三十路過ぎのおっさんなんかに価値はない。


俺を森から出荷する準備は進められ、俺はでかい箱に詰められた。

箱の中で固定され、天界から持って来た荷物…着ていた島津の大きいのの礼服と、

子安どんの銃剣2本、おやかたさあが留置所に差し入れてくれた書物、

井伊どんの「ぞんび」が渡してくれた、天界での手続きに使われた書類の控え、

それに拳銃、日本刀、「麻薬」なる白い粉薬、手紙も一緒に入れられた。

…俺は結局おもちゃという運命から逃れられないのだ。

俺は今また何らかのおもちゃとして、どこかへ売られて行こうとしている。

俺は島津豊久、おもちゃの男。


森の外が急に騒がしくなった。

男の慌てる声がする…。


「何、もう買い手がついたのか!」

「はい、申し訳ありませんが…」

「どこに売るつもりだ、それにどこにいる、その男は」


慌てた男が森の中へ駆け込んで来る。

そして俺の梱包された箱を見て、力が抜けたようなため息をついた。


「くそ、負けたか…さすが電脳の申し子は早いな」


男は箱を開け始めた。


「あっ、困ります会長…!」

「大丈夫、買い手は俺の身内だから」

「げっ、あの『アマゾン』みたいな! あの超強い姐さんすか」


箱の上部が開いて、俺は外を見上げた。

そこには島津の大きいのがいた。

彼は笑った。


「…お帰りフライド丸、探したぞ」


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