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第71話 MONSTER-島津

第71話 MONSTER-島津


「民衆の食いつきそうな書き込みを一人が投稿すれば、

それに反応したやつがその投稿を他のやつと共有する。

その共有された投稿がさらに他のやつに共有されさらに…つまりねずみ算だ。

しかも電脳網の反応は即時。

俺と島津会はこれを利用して、他人を煽情し動かしている」


戦国の世界で民を動かそうとなれば、相当な手間と時間がかかる。

それを指先だけでやってのけるとは、電脳網恐るべし。

確かに魔物の行いだ。

島津会は電脳網を駆ける妖怪なのだ。

そして電脳網は島津会の領域なのだ。

巣にある蜘蛛のように操り、駆け、罠を仕掛け、戦う。

彼らはそうして他人の人生を糧として来たのだ…。


「…はい、揚弘?」


島津の大きいのの「すまーとふぉん」が鳴った。

揚弘からの電話だった。

名前を使われて怒っているのだろうか。


「…悪かったよ、お前をだしにして。今度ごはん連れてってやるからさ、な?

フライド丸? 一緒だよ、代わろうか?」


島津の大きいのは「すまーとふぉん」を差し出した。


「フライド丸、お前のカラオケ長過ぎんねん! 何しとんねや!

兄さんまで一緒になって…ん? お前なんやおかしいなあ、どないしたん?」

「…電脳、冷たか炎、豊久、電飾…魔法ん時間じゃ貴様ら!

おいは電脳島津豊久機、熱なく燃えっ電飾が炎…おいは人ん形ばした機械、

電脳が網ば駆けて殺すまで! がー!」

「ちょっ…兄さんフライド丸に何したんだよ、ばっきばきやん!」


島津の大きいのが俺が「すまーとふぉん」を取り上げた。


「魔法だよ、ここがフライド丸にとってのファンタジー世界なら、チートが要るだろ?

普通の戦国武将を選ばれし勇者に変える魔法ってやつさ。

じゃあな揚弘。もうすぐ帰るよ、今夜は島津マンションダンジョンでクエストだ」


俺の隣でふふと笑いながら、島津の大きいのは電話を切り、

後続車両から身を乗り出して発砲して来る、

井伊どんの「ぞんび」とくそな方の島津家久に、大型の自動銃で応戦していた。

俺も窓から体を半分出し、拳銃で敵を狙った。

くそな方の家久が引っ込み、代わりにおやかたさあが出てきて、

長い銃を構えて発砲すると、弾が島津の大きいのの肩に命中してしまった。

吹き出した血は車が生み出す速い風に流れ、「ねお薩摩」の明るい夜へと消えていく。


「大っきいの!」

「急所じゃないから大丈夫…」


そう言うけれど、島津の大きいのは肩を押さえて顔をしかめていた。

やはり痛むのだ。

俺は運転手に行き先変更を頼んだ。


「…島津マンションへ、早う!」



…時々戦い、入り組んだ道に入って敵を攪乱しながら、

俺たちの車はマンションのある街まで戻ってきた。


「豊久、おとなしく観念しろ!」


おやかたさあが発砲を続ける。

姿勢を低くしていると、後ろの窓に銃弾が当たってびいどろが割れる。

割れたびいどろは波紋を作り、それが幾重にも重なって窓は真っ白になった。

貫通はしないのか、「ねお薩摩」のびいどろはすごいびいどろだ。

俺は大きいのの持っていた自動銃を借りて、おやかたさあに発砲した。

おやかたさあは車に出入りしながら発砲する。

勘違いデブがおやかたさあにどいてろと叫ぶと、ごつい拳銃で撃って来た。


「アホか! 誰狙うちょる、ちいとも当たっとらん!」

「アホはお前だ豊久…お前は生け捕りだ、狙ってなどおらぬ!」


俺たちの乗っている車の車輪部分から、かちかちという音がし、

次第に挙動がおかしくなって、車がずるりと左右にぶれだした。


「パンクしたっす!」


運転手は必死にハンドルを掴みながら叫んだ。


「停めてくれ、降りよう」


運転手は速度を徐々に落とし、路肩に車を停めた。

その車を囲うように島津のやつらの車が滑り込んで来て、

前輪だけで回転するように俺たちの前へ回り込んだ。

そこへよいよいの歳久が続けざまに銃弾を6発、車に命中させたが、

俺たちは降りた後で空っぽだった。


「ドリフトかよ、うっそだろ忠恒!」

「くそ…忠恒んやつ性格最悪んくせに、どこでそげん運転技術を…天界か?」

「地獄の峠攻めはこんなもんじゃねえぞ豊久あ!」


忠恒は運転席から吠えた。


「あ…地獄ん行きよっとか、さすが忠恒。性格最悪、行いも最悪」

「さすがDQN四天王の一角、走りもばっちりたしなんでいるって訳か…」


島津の奴らもばらばらと車から降りて来た。

俺は運転手に島津の大きいのを頼んだ。


「おっきいの運転手どんと逃げ。逃げっせえ、通りん出て車拾い。

おいが時間ば稼いじょく! 早よ行きい!」

「バカか、逃げるのはお前だフライド丸!

お前あいつらに戦国連れてかれて、残りの人生を島津豊久として生きるつもりか!」


島津の大きいのは拳銃でよいよいの歳久を狙った。

弾は歳久の胸に当たったが、体の中を貫通してさらにその先へと走っていった。

確かに死人の青い血は流れる、でも痛がる様子も倒れる様子もない。


「…あの顔の濃い女にも言ったはずだ、霊に銃弾は効かぬと」


井伊どんの「ぞんび」が言った。

その顔は俺の中を突き抜ける風と同じくらい冷たかった。

こんな井伊どんは見た事ない、これが本性か。


運転手は島津の大きいのを連れて逃げだした。


「フライド丸、早く!」

「早くっす! ここは逃げるしかないっす!」


俺は少し走ると立ち止まり、後ろを向いて発砲した。

…確かに命中しても貫通して行く。

俺は攻撃を諦め、刀を握って二人の後を追った。


俺たちは街を走った。

途中、南蛮料理屋の軒先に唐辛子とにんにくが吊るしてあったのを見つけ、

それを刀で斬って奪うと追って来る島津の霊たちに投げつけた。

唐辛子とにんにくには魔除けの効果があると言う。


「がっ!」


後ろで忠恒の悲鳴が聞こえる。


「熱ち! 熱ち! おのれ豊久あ!」


振り返ると、忠恒の片腕の皮膚が焼けただれたようになっていた。

いける。

俺は走りながら、魔除け効果のありそうな物を次々に奪っては投げつけた。


「アホか豊久! 魔除けは地獄へ行ったあれ、忠恒性格最悪だけじゃ!

浄土へ行った我々には効かぬ!」


島津の勘違いデブが怒鳴った。

そんなデブの足を忠恒が横から蹴飛ばし、デブは転んでしまった。


「あれあれ言うな! 忠恒…家久さあと呼べ、このデブが!」

「なんで俺がお前みたいなカスと同じ名前にならんといけん!

島津家に家久は俺だけで十分!」

「見苦しいぞお前ら、ここはくじ引きでだな…!」

「だめだよ義久兄さん! くじ引きなんてしてる場合じゃないよ!」


下品な家久が忠恒を突き飛ばした。

仲間割れしている。

攻撃は無効だが、足止めは出来るって事か。

俺は立ち止まって振り返った。

そして島津のやつらを笑った。


「貴様ら…亀寿さあん話ばつまみに酒盛りか、卑しいの。

家育ては大失敗じゃっどな! おお不吉じゃ! 不吉!

おまけに豊久やらショボが恥ん上塗りか、島津家…くそ笑ろた!

じゃどーん…しょぼーん、みたいな? うけるう!」


俺は言いながらツボに入ってしまい、自分でげらげら大爆笑してしまった。

そしてひいひい喘ぐように笑い続けながら、島津家のやつらに突っ込んで行った。


「ひい、ひい…行っど、魔法ん時間ぞ…ひーひひ!」


笑うって気持ちいい、生きてるって感じがする。

あいつらは死人、俺は生きた男。

俺は今、ここに生きている。

俺は車から持ち出した、小さな包みの中身を舐めた。

この包みの中身はさっきのとは違う…。

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