第69話 島津プラプラ、ハローワールド!
第69話 島津プラプラ、ハローワールド!
島津の大きいのは黒の長い丈をした外套の物入れ袋から、
やはり黒い「すまーとふぉん」を取り出した。
「マンションの防犯カメラに映ったお前の不審な様子を皮切りに、
行きそうな地点の防犯カメラに侵入した。同時に携帯電話各社のGPSサーバを参照し、
ログを読むと、怪しい動きをしている集団を見つけた。
それをスマートフォンで追跡した、それだけだ」
「なんでそんな技術を…!」
井伊どんの「ぞんび」は、島津の大きいのの技術に目を見開いた。
「電脳の国には電脳網技術者を育成する学校がある。
俺はヤクザになる前は学生でね、情報処理科…そこの出身なのさ。
最近の極道は電脳にも力を入れていてね、
ヤクザになってからも電脳関係の仕事が多くて、詐欺システムの構築、
詐欺アプリの開発…特にソーシャルゲームな」
そういや揚弘が行った異世界は「うんこの国」って言ってたな…。
あれも島津の大きいのが作ったのだろうか。
「ゲームの世界が、うんこいっぱいの国になってしまった失敗作もあるが、
情報セキュリティはゲーム制作と一体…出来ない訳がない!」
…やっぱり。
うんことかアホな国、アホにしか作れないもんな。
島津の大きいのは拳銃をしまって、俺を囲む島津の者どもを引きはがしにかかった。
島津の山を少しずつかき分け、俺を掘り起こした。
そして俺を背負うと、島津の大きいのは建物の隙間を抜けて、
大きい通りに出、人ごみを縫って走った。
俺は持っていた刀を口にくわえた。
「待て豊久!」
「逃がさぬ!」
島津の者どもが追って来る。
井伊どんの「ぞんび」も追って来る。
島津の大きいのは道路に走る「たくしー」なる今様の籠を見つけると、
それを停めて俺を車内に押し込み、自分も乗り込んだ。
「追われている、急いで出してください。早く!」
「たくしー」なる籠は急発進し、島津の大きいのは「すまーとふぉん」を取り出し、
それをいじった。
どこかに連絡を取ってくれているらしい。
「…なんでお前が島津豊久て事になってんだよ? 島津豊久は揚弘だろが。
しかもなんで島津家総出でお前を追いかけている?」
「…………」
「そう言う事かよ…」
島津の大きいのはため息をついた。
しばらく俺たちは黙り込み、車内の計器の灯りだけの暗がりに、
他の「たくしー」からの通信だけが時折流れるだけだった。
島津の大きいのはふと、後ろを窓越しに覗いた。
「まずい、あいつらもタクシーで追跡だ。飛ばして、振り切ってください…!」
「無理です。もうすぐ新宿です、車が詰まって来ました」
「まいったな…」
島津の大きいのは降りますと言って、車が停まっている間に電脳網決済を済ませ、
俺の手を引いて車を降りた。
「新宿はうちの事務所がある、ひとまずそこへ逃げ込もう。
フライド丸、走れるか?」
「あかん、自信なか…」
新宿の人ごみの多さの中ではさすがに走れない。
人ごみにひっかかって転び、島津の大きいのともはぐれてしまう。
「しょうがないな…掴まってろ!」
島津の大きいのは俺を抱き上げ、新宿の街を走り出した。
島津家のやつらには電脳網決済はない、精算に手間取っているようだ。
秋葉原とはまた別の「ねおん」の群れが、すえたような黒い人ごみが、
俺たちをじろじろと珍しそうに見つめている。
そうして新宿の繁華街の路地を入り、「島津会」と書かれた看板のかかった、
窓の少ない建物に入って行った。
「…あれ、会長どうしたんすか?」
島津会の事務所は島津家の居間の「てれび」で見た「会社」に良く似ており、
電脳機の乗った机が並べられてあり、その片隅に応接間が設けられてあった。
違うのは電脳機がやたら多く、部屋が機械に埋まっている事だった。
事務所には宿直の者が2名おり、島津の大きいのの登場に目を丸くした。
「追われている、事によっては応戦したい。島津会招集、すぐに来れる者!」
「はい!」
宿直の者が他の組員らに連絡を取っている間、
島津の大きいのは事務所に備蓄してある飲み物と、
「かっぷ麺」なる、即席の唐麺にお湯を入れて持って来てくれた。
「今のうち食べとけ」
それから彼は本棚をずらし、奥の隠し部屋から銃火器と弾を持ち出し、
弾を装填し、すぐに使えるように準備をし、
自分の部屋から着替えを探して来てくれた。
「食べたら着替えろ、その服装はもう覚えられている」
簡単な食事を済ませて、島津の大きいのの部屋を借りて、
襟に毛皮のついた黒の外套と、帽子のついた上衣、
それから藍色の綿製の袴を脱いで、用意してくれた着物に着替える。
用意してくれた服は、白の「しゃつ」なる細身の小袖に、
黒のつや消しのスーツに「ねくたい」なる細帯、同じく黒の上等な毛織物の外套、
白の襟巻き、黒の毛織物の帽子、黒の革靴と、どうやら礼服らしかった。
島津の大きいのは、いつ何があってもいいようにと、
礼服だけは常に事務所の部屋に用意してあると教えてくれた。
「会長、お連れの方はどういった方なんすか? ポン刀なんか持ってやがる」
「チャカも持ってやがる、かたぎのくせに」
部屋の外で宿直の組員の話す声がする。
「島津揚丸ことフライド丸、俺が養子にして面倒見ている。 実家と折り合いが悪く、
逃げ出して来たのを見つけて保護したのだが、とうとう見つかってしまい、
連れ戻しに来た実家…これまた島津というのだが、
現在その島津家が総出でフライド丸を追跡している」
島津の大きいのは組員に、俺の事情を作って話した。
…違うが間違ってはいない。
「追跡者は島津義久、島津義弘、島津歳久、島津家久の4兄弟、
それに義弘の子の忠恒、彼らの味方をしている役人の井伊直政」
「は? 戦国時代じゃあるまいし」
「その戦国時代だ。敵はたった6人だが、全員ポン刀使いの猛者、銃火器もある」
私ら島津会はこれを退けてフライド丸を逃がしたい、身内の危機だ。
それからフライド丸は彼らの間で島津豊久、そういう名前になっている」
招集をかけた組員たちがぼちぼち集まり出し、作戦会議が始まった。
それから全員で「すまーとふぉん」を持ち寄り、それをいじった。
時間を合わせるのと、互いの位置情報を確認し共有するためだった。
他、随所の「せきゅりてぃ」なる鍵を突破するための、
「こーど」なる暗号も共有して、すぐに使えるようにした。
俺にも合わせた予備を1台渡して、使えと言ってくれた。
島津会のやつらはヤクザのくせに、どうも「おたく」臭い。
組員らも一応ヤクザらしいなりをしてはいるが、どこかあか抜けない。
島津の大きいのは全員に言った。
「我ら島津会電脳極道、構成員の全員が技術者。
我らは技術のその先を見るため犯罪に手を染めた、うちほど電脳に特化した組はない。
今こそ技術の神髄を見せる時、我らはホワイトハッカーに非ず。
犯罪者ならではの技術、極道ならではの戦闘、敵に見せつけよ!」
「はい! 行くぜ島津会プラプラ! プリントエフ、ハローアドバンスドワールド!」
島津会の者は変なかけ声をかけ、円陣を組んだ。
「…来たぞ、あいつらだな」
戦闘準備をし、待機していると、
少ない窓に垂れ下がる帳に隠れながら外を見張っている組員が敵襲を告げた。
別の組員が玄関付近に複数隠して設置された、暗視電影機からの映像を、
事務所の画面で拡大する。
「会長、こいつらが問題の島津家プラス井伊直政すか?」
「そうだ」
「…やらかい口調しちょる上品な細身のじじどんが島津義久、
デブが島津義弘、よいよいが島津歳久、
下品なぶにせで劣っちょんがくそな方ん島津家久、
顔見たらすぐわかっけんど島津忠恒性格最悪。
ほんで『いけめん』おんじょが井伊直政」
俺は拡大された映像を画面に貼り付いて見て指差しながら、敵をひとりひとり説明した。
しかし、組員らに俺の説明はいまいち通じないらしく、
何言ってんだ、通じないぞと怒られてしまった。
「…ああそっか、フライド丸は地方出身なんだ」
島津の大きいのが改めて説明をし直した。
敵は建物の玄関に集結して、見張り役の組員と揉めていた。
「隠れんな豊久! 逃げても無駄だ!」
「豊久出て来いコラ!」
「貴様らここをどこと間違えている、ああコラ! 島津会に喧嘩売るつもりか!
豊久とかいうボケなどおらんわ、帰れコラ!」
「私らも『島津』だ、そこをどきなさい!」
島津の大きいのは俺の手を引いた。
「…行くぞフライド丸。お前ら、後を頼む」




