第45話 ボイスチャット、天の声
第45話 ボイスチャット、天の声
「フレンド」というのは「げーむ」上での友達の事だと、揚弘は言った。
とりあえず手許で操作する小さい機械の突起を押してみると、
「フレンド登録」を了承したらしく、「井伊直政」なる兵士から、
「ぱーてぃ」の誘いが送られて来た。
揚弘が音声で会話する装置を探して来て、それを俺の耳に当てて、
線を小さい機械に開いた小さな穴に差し込み、「パーティに参加する」を選択した。
「しゃべれ、フライド丸」
「こ、こんにちは…あのですよう…あのですよう…」
俺は緊張しながら口元の音を取る部分に向かって話しかけてみた。
「あ、やっぱり。そのあやしい関西弁はフライド丸か。
ゲーマータグが『Friedmar NS_CYBERPUNK』だから、
フライド丸かなと思ってたんだけど…『Friedmar』て『フレイドマル』のパクリ?」
耳元の音が流れて来る部分から、井伊どんの「ぞんび」の声がした。
「井伊どん…何天界のもんが『げーむ』ばしとっと?
てか、『Friedmar』は子安どんが考えてくれてん、『ぱくり』やなかと!」
「天界にも死人検索用の電脳があり、電脳網も当然存在する。
天界の電脳網はお前らの電脳にもつながっているぞ」
「あの、井伊のゾンビ。ゲーマータグの『IIDX』て、天界人も音ゲーするんか?」
揚弘が目をぐるぐるさせながら、電脳網の向こうの井伊どんの「ぞんび」に聞いた。
「『IIDX』は『井伊デラックス』の事だ、正式には『井伊直政デラックス』だ」
そこへまたぽこんと通知音がして、画面下の楕円形をした小窓が開いた。
「xxxTOYOHISA_LOVE4EVERxxxからフレンド登録の依頼です」と出た。
「まさかあれ…島津義弘? 何ちゅ『たぐ』や…『地雷ぷれいやあ』の筆頭か?」
「受けてくれ、今パーティ招待出すから」
「いいやああ! やめええええ!」
俺が悲鳴を上げている隙に、揚弘が小さい機械をいじり、
勝手に「フレンド」登録を了承してしまった。
またぽこんと音がして、画面下に小窓が開いて通知文が表示された。
「xxxTOYOHISA_LOVE4EVERxxxがパーティに参加しました」。
「いいやっほう! 声聞きたかったよ豊久あ! ラブラブクレイジーバーニングファイア!」
島津の勘違いデブの野太い声がする。
やっぱ本人なんだ…。
揚弘が会話をする装置の集音器をくいと曲げて怒鳴り込んだ。
「フライド丸交代や、俺が豊久。このサイバーストーカーデブが、誰と間違うとる。
島津豊久はこの俺! 島津豊久withフライド丸『ねお薩摩サイバーパンク』、
ツッコミ担当! 武闘派脳筋揚げ揚げ揚殺機! よろしゅうな!」
とりあえず俺たち「ねお薩摩」の者らと天界の2人は「げーむ」をしてみる事にした。
手許の小さい機械をいじって、引き受ける任務を選ぶ。
俺は目がよく見えないから画面にびっちり張り付きだ。
「…任務はこいでよかと、『敵中突破』。難易度は地獄、と…」
「『敵中突破』! 島津家プレイキター! 今日はこの義弘が豊久のために捨てがまりい!
烏頭坂スイサイド! 島津ウィズドローアルウォーフェア! のき☆ぐち!」
「アホかデブ! こん任務はそげん作戦やなか!」
俺は飛行潜入兵、揚弘は歩兵、井伊どんの「ぞんび」は空爆を誘導する支援兵、
島津の勘違いデブは四刀流の重装兵と、使う登場人物はばらばらだった。
色も俺が子安どんの使っていたままの黒と朱、揚弘が揚げたてこんがりきつね色一色、
井伊どんの「ぞんび」が赤と金、島津の勘違いデブが桃色の濃淡とそれぞれだった。
任務が始まっても誰も突撃しない、みんなわかってる。
そこは全員経験者、俺たちは全員がある意味実戦経験の豊富な歴戦の猛者だ。
開幕、井伊どんの「ぞんび」が乗り物を呼び、敵陣ど真ん中に空爆を要請した。
広範囲の空爆だ。
揚弘は後ろに下がり、戦場の建物の上から狙撃を始めた。
俺と島津の勘違いデブは敵陣を迂回し、空爆が完了するのを待って、
ななめ後ろからの突入を試みた。
俺は敵陣付近の建物の上で飛行のための力を溜めて、そして高く大きく飛翔し、
敵が湧いて来る巣を強力な槍で突いて速攻した。
「おし! 巣撃破!」
「グッジョブフライド丸」
井伊どんの「ぞんび」が声をかけた。
「井伊どんもいっちょ! 空爆!」
「おけ、全員退避!」
井伊どんの「ぞんび」は再度空爆を要請した。
同じ広範囲のものである。
俺は空爆する予定地点に向かって飛翔し、その上空に留まった。
こうすれば敵を空爆予定地点に集める事が出来る。
これは電脳網協力戦で編み出した作戦だ。
「何っ! 釣り野伏せと同時に捨てがまりだと!
退避じゃ豊久! 退避! 死ぬなマイトゥルーラブ!」
島津の勘違いデブも空爆予定範囲に入って来た。
俺は慌てた。
「アホかデブ! 誰が豊久じゃ! こいは脳筋ならではん作戦ぞ!
死ぬでこん勘違いデブが! こげん電脳網んとこまで『すとーかー』すなボケが!」
空爆は始まり、俺は撃たれてふっ飛んだ。
そして復帰と共にまた空爆が降って来た。
さっきので体力を大きく減らしてしまった、俺は死を覚悟した。
その時、上を影が覆った。
「死なすか、豊久ああ! グレートラブシールド! らびゅーん!」
島津の勘違いデブが俺に覆い被さるようにして、上空に盾を構えていた。
空爆が始まり、盾に爆撃がばしばし当たる。
助かった、俺は槍で攻撃を始めた。
「お…おおきに。じゃどんおい、おまんさん豊久やなかと。
おいはフライド丸、『ねお薩摩サイバーパンク』んフライド丸ぞ…勘違いすなカスがあ!」
俺は槍で島津の勘違いデブを突いた。
揚弘がそんな俺を制止した。
「フライド丸、フレンドリーファイアはあかんて!」
「豊久あ、よくもこの義弘を、伯父を撃ったな…! 許さぬ! 愛しておるのに!
島津ヤンデレ愛憎ファイア!」
島津の勘違いデブも俺を長い槍で突いた。
揚弘もデブを狙撃した。
「間違うな、俺が豊久やボケ!」
「やめんかお前ら! フレンドリーファイアは晒しスレで晒されるぞ!」
井伊どんも不要になった空爆を要請した。
結局、俺たちの戦いは敵そっちのけでお互い殺し合いになってしまった。
散々だったが、どう言う訳かそれ以来「ぱーてぃ」を組んで戦うようになった。
天界のやつらは俺らしか「フレンド」がいないらしい、淋しいやつらだ。
揚弘も中古で「げーむ」の機械一式と中身を揃え、本格的に参戦するようになった。
揚弘の「たぐ」は「ToyohisaS NS_CYBERPUNK」で、
俺の「たぐ」を見て、「ねお薩摩サイバーパンク」で語尾を揃えていた。
「げーむ」での名前はもちろん「島津豊久」にしてあった。
「おい、フライド丸よ。これ見てみい」
ある日の午後、揚弘が家にやって来て、薄型電脳小箱の画面を見せた。
「このゲームの大会が盆にあるらしいで」
「ほんま?」
「団体戦部門は4人1チームで参加やて、俺ら参加してみいへん?」
「え…じゃどんあと2人どげんすっと?」
「今回はでっかいスポンサー付いとるし、結構な賞金出るで」
賞金、それを聞いて俺は反応した。
薄型電脳小箱欲しい…。
「出もす! 井伊どんの『ぞんび』と島津の勘違いデブば引きずり込んで出もす!
くくく…あいつら『ねお薩摩』が戦ん派遣しちゃる!
今こそ悪ん歌う時! 昼間殺してん『あさしね』ぞ!
うちら『ねお薩摩サイバーパンク』は『あささん』、敵は『あさしね』ぞ!」
俺はんぷうと鼻息を荒げて高らかに出場宣言をした。




