第44話 NAOMASA_IIDX1561@オンライン
第44話 NAOMASA_IIDX1561@オンライン
「なんで? フライド丸、戸籍あれば留っちゃんと結婚出来るのに…」
島津の大きいのは驚いて顔をぱっと上げた。
「生きんか。死ぬとか言うな、揚弘ん事思うなら生きんか。
揚弘のために生きんか、抗争に巻き込まれてん、銃口を突きつけられてん生きんか、
例え殺さいても生きい…! 愛ちゅうんはそばんおってこそ、揚弘が言うちょった!
おいも今ば生きっと、おっきいのも今ば生きんね!」
俺は島津の大きいのの肩を掴んで揺さぶった。
島津の大きいのの目が揺れて、涙がぱらぱらとこぼれ落ちる。
「…そいでも死んだら、おいが代わり務めちゃる。
おまんさん代わりに『島津幸弘』ば務めちゃる! おいは演技派芸人ぞ!
おいはフライド丸、『ねお薩摩サイバーパンク』ん演技派ん方ぞ!」
俺は島津の大きいのを抱きしめた。
春の花の髄の匂いがする、生きた人の匂いがする。
島津の大きいのは泣きながら笑った。
「何だよ、そのあやしい関西弁は…揚弘の言う『マイルド関西弁』かあ…?」
「『まいるど関西弁』でええ…こいは『まいるど』関西弁、こん『ねお薩摩』ん言葉ぞ」
「やだよ、東京の標準語がそんな方言になるの…」
家に帰ると、子安どんが玄関で腕を組んで恐い顔で仁王立ちしていた。
「フライド丸よ、どこへ行っていた?」
「…市場ん特売で島津の大きいのと遭うて、肉ば巡て喧嘩しちょりもした」
俺は小さく縮こまって小声で消え入るように応えた。
子安どんは俺の両耳を引っ張って、アホかと怒鳴った。
「お前自分の立場考えろ! お前は狙われてるんだぞ、道草食ってる場合か!
ちょっとしたきっかけで、戦国に連れ戻されるかも知れないんだぞ!
戦国の世界でお前の殺したやつが、天界へ引きずり込むかも知れないんだぞ!
井伊直政がお前を犯しに来るかも知れないんだぞ!」
子安どんは顔を真っ赤にしてまくしたてた。
井伊どんの「ぞんび」が犯しにって…そりゃないだろ。
俺はそれを笑った。
「何がおかしい!」
「可愛いなて思て…赤か顔して。心配してくれちょっとか」
「お前がいなくなったら、作品が描けなくなる。それは困る」
「ぎいやああ! なんで俺があげんアホん『きゃら』に! 嫌やあ、やめんかあ!」
子安どんが「おいは揚丸」で描く、俺を元にして作った登場人物の「揚丸」は、
視野狭窄が激しく、勘違いのままどこまでも突っ走るアホだ。
あれは島津の勘違いデブといい勝負だぞ。
「そうだ、お上が企業として参加する予定の夏コミ…夏のコミケに、私も呼ばれたぞ。
私も個人で申し込んであるので、もし受かったらその間店番よろしく」
子安どんは俺の耳を引っ張りながら、ふと思い出したように言った。
「こみ…? 毛が密集しちょるとことね? ふさふさ祭りとね?
くそう子安どんめ、俺が三十路入ったおっさんだからって…」
「『コミケ』だ、『コミックマーケット』! 同人誌即売会!
商業漫画家も宣伝の一環として、同人誌を作って参加する事がある」
それから春じゅうを子安どんは、ほとんど家に引きこもって仕事をしていた。
俺は家事が済むと暇で、子安どんが「げーむ」なる物を貸してくれたので、
リビングの隅に台を置いて、その上に画面を設置し、「げーむ」の機械をつないでもらい、
文字の入れ方も教えてもらい、「げーまーたぐ」も作ってもらって、
締め切り間近の家臣らが家に詰めている時以外は、それでずっと遊んでいた。
「げーむ」は仮想空間の中で、ひたすら虫みたいな形をした敵を倒す内容で、
戦略を大事にしないと勝てなくて、俺はそこにのめり込んで行った。
この「ねお薩摩」は家の中でも戦が楽しめるのだ、しかも血は流れない。
人も死なない、架空の敵が架空の死を迎えるだけだった。
この「げーむ」は電脳網につながっており、
それを通して日本全国のあちこちの人と一緒に遊ぶ事が出来る。
文字を使って会話をする事も出来る。
作戦会議をしたり、文字でふざけあったりして、面白くて面白くて、
俺は余計にのめり込んで行った。
ただ、子安どんはあまりやらないのか、登場人物の体力をあまり作ってはいなかった。
それですぐに死んでしまい、悔しくて俺はまず体力を作る事にした。
体力が上がって来ると、だんだん勝てるようになって来て、
俺は暇を見つけてはアホみたいに体力づくりに専念した。
「あんまし脳筋だとオンで嫌がられるぞ」
子安どんは笑っていたが、そんなの自分で「部屋」を作ればいいだけだ。
俺の体力作りは一層熱がこもり、春が逝く頃にはすっかり「脳筋」になっていた。
そんなある日のこと。
揚弘と画面を2つに分け、電脳網につながる部屋を作って遊んでいたら、
見た事の無い兵士たちが入って来て、俺たちはその名前に目をむいた。
この「げーむ」はそろそろ古く、電脳につないでいる者はけっこう限られていたからだ。
「ちょっフライド丸、『井伊直政』て…!」
「『ぞんび』が『げーむ』ばすっとか!」
「てかもう一人は『島津義弘』、サイバーストーカーやで、おい!
こら兄さん呼ばな…!」
部屋には「井伊直政」なる兵士と、「島津義弘」なる兵士がいた。
しかも体力があって、武器も強いのを持っている。
「井伊直政」なる兵士が文字で「よろしくお願いします」と挨拶をして来た。
揚弘は気が動転して、薄型電脳小箱で島津の大きいのを呼び出していた。
どうやら大きいのは出ないらしく、揚弘は電話を叩き切った。
「どうする、何て返すんや?」
「と、とりあえず『よろしくお願いします』やな…」
俺が「げーむ」の用意した定型文を出して、挨拶をすると、
「井伊直政」なる兵士から、「共に戦います☆ キラッ」と帰って来た。
やばい、文字のやりとりに慣れている、こいつ絶対上級兵士だ…!
「島津義弘」なる兵士も遅れて定型文で「よろしくお願いします」と言って来た。
「何天界んやつらが『げーむ』ばしよっと?」
「ぐ、偶然やろか? プレイヤーネームがそんまま中の人とは限らんし…」
「そ、そげん偶然なかと、『井伊直政』と『島津義弘』は天界のもんぞ!
偶然集まっ訳なかと! 」
「俺ら、プレイヤーネーム『島津豊久withフライド丸』にしたやん、
たぶんそれ見て名前合わしてくれたんとちゃうん?」
俺たちは「げーむ」を始める前に、揚弘がいるからと「げーむ」での名前を、
「島津豊久withフライド丸『ネオ薩摩サイバーパンク』」に変えようとして、
文字数が足りず、「島津豊久withフライド丸」だけにしたのだった。
ちなみに画面を2つに分けているので、俺が「島津豊久withフライド丸」、
揚弘が「島津豊久withフライド丸(1)」、略して「かっこいち」だ。
「島津義弘」なる兵士が発言をした。
文字でのやりとりに不慣れなのか、手間取っていたらしい。
“義弘とGO TO HEAVEN!>豊久はあと”
「おいおい、本人かいな…しかもフリーワードチャット」
「本人やな、どう見ても本人やな…普通ん人がこげん事言う訳なか」
「ネットて天界にも繋がっとるんやな…」
「島津義弘」なる兵士は更に発言を重ねた。
“天界からこんにちは♪ 迎えに来たよ豊久、島津義弘参☆上!
さあこの義弘と天界でエターナルラブ!>豊久”
「島津義弘ぶっ潰す! 」
「あかんでフライド丸、フレンドリーファイアはマナー違反やで!」
俺たちがぎゃあぎゃあ騒いでいると、ぽこんという通知音がして、
画面の下の方に楕円形の小窓が現れた。
そこには「NAOMASA_IIDX1561からフレンド登録の依頼です」とあった。
「フレンド!」




