第41話 アサシネのうた
第41話 アサシネのうた
揚弘は急いで薄型電脳小箱から、敵発見の情報を送った。
俺はそろそろと逃げ出そうと足を忍んだ。
「…豊久!」
島津の勘違いデブは、ぱあと陽が射したような笑顔になった。
「アホか貴様! 誰が豊久さあじゃ、勘違いすなボケが!」
「フライド丸交代、俺が豊久。 てか何やねんあのボケは」
通信を終えた揚弘が割り込んで来てくれた。
助かった。
「あん勘違いデブ、おいを豊久さあと思い込んじょる」
「なんでや? 似とんのか?」
「らし、おいはそう思わんけんど…」
島津の勘違いデブは揚弘に飛びかかった。
「ぎゃあ! 衆道! 衆道!」
揚弘は悲鳴をあげながらも、するりと島津の勘違いデブの手からすり抜けた。
俺は揚弘を放置して建物の陰に隠れた。
「…お前の探しとる豊久はここや、島津の勘違いデブが。
俺は島津豊久、お笑いコンビ『ねお薩摩サイバーパンク』のツッコミ担当。
そこんとこよろしゅうな!」
揚弘は笑って島津の勘違いデブを挑発した。
「え…豊久はお笑いなどでは…」
島津の勘違いデブは戸惑った。
勘違いデブとは言えさすが戦国武将、全国の武将と話すため言葉がきれいだ。
「お笑いや、一度勘違いしたんやったら、勘違いを通し!」
「違う! そなたは豊久などではない!」
島津の勘違いデブは揚弘を振り切って、俺を追いかけ始めた。
俺は隠れていた建物の陰から飛び出して、街を走り出した。
「待てい豊久! 私と一緒に天界へGO!」
「どこでそげん言葉覚えたんじゃ! 共に天界へ『ごー』て、そいは心中ぞ!」
逃走する俺に揚弘も追いついて、俺の肩を抱いた。
「カスが! 貴様がKNOCKIN'ON HEAVEN'S DOORや! 死にさらせ!
フライド丸、マンションまで逃げ切るで!」
揚弘は追いかける島津の勘違いデブに吐き捨てると、
俺を抱き上げて住宅街を疾走した。
島津の勘違いデブはゆっくりながらも、でも俺たちを見失う事なく追走を続けた。
「子安どん! 子安どん!」
俺たちはマンションの敷地に入った。
その時、ぷおおとほら貝の音が集会所の方から聞こえて来た。
どうやらほら貝の音で島津の勘違いデブを正気に戻そうと試みているらしい。
「ぬおおおお! 豊久ああ、この義弘とGO TO HEAVEN!
天界で一緒に暮らそうぞ! 義弘と豊久、二人ラブラブエバーラスティングラブ!」
「嘘やん! 子安っさんのほら貝効かへん! 島津義弘のくせに!」
「誰があんデブに変な言葉仕込んだんじゃ! 井伊どんか!」
島津の勘違いデブはマンションの敷地の中にまで入って来て、俺たちを追い回す。
子安どんも中から出てきて、2丁の狙撃銃をぱんぱん交互に撃ちながら、
島津の勘違いデブを追い回す。
「くそ…命中しているはずだ、なぜ効かぬ!」
「霊に銃弾など効かぬ」
井伊どんの「ぞんび」が建物の壁からぬうと抜け出して来て、子安どんに言った。
子安どんの銃口はくるりと向きを変え、井伊どんの「ぞんび」に向けられた。
まずい、あの二人が鉢合わせだ。
「…井伊直政! 貴様こんなところにまで…フライド丸のストーカーめ、殺す!」
子安どんは井伊どんを撃った。
当たり前だが銃弾は井伊どんの体を突き抜けて、マンションの塀にぶつかり、
一瞬めり込み、かちんと音をさせて地面に落ちていった。
井伊どんは子安どんに言った。
「悪いけど俺も霊なんだ、ごめんなお嬢さん」
「お嬢さんだと…この変態ストーカーが!」
「変態ストーカーはあっち! 島津義弘! 身柄確保!」
子安どんと井伊どんも島津の勘違いデブを追いかけた。
分散していた組がぼちぼち戻り始めて、
島津の大きいのも2丁拳銃をぱんぱか鳴らしながら、新納どんと帰って来た。
「殺す! 殺す! 島津義弘SATSU☆GAI! 揚弘を狙うやつは明らかに殺害!」
島津の大きいのは俺と揚弘のお笑いコンビと、島津の勘違いデブの間に立ちはだかった。
長い黒髪が風に巻き上げられて、まるで生き物のように踊った。
魔王だ…あれ絶対魔王だろ。
「♪うちの〜ショタ枠のお〜尻を狙うやつはあ〜、SATSU☆GAI!
Je vous assassiner〜、ジュヴーアサシネ〜、アサシネ〜、アサーシネー〜、
昼間殺してもお〜アサシネ〜、夜殺してもお〜アサシネ〜。
タンドゥアサシナ〜、殺しの時代〜、モマンダサシナ〜、殺しのひと時〜。
俺はアササン〜、お前はアサシネ〜♪」
島津の大きいのは懐に手を入れて、何やらあやしい歌を歌い出した。
くそ、あいつもあの歌知ってやがる。
二人の歴史ってやつか、元彼侮り難し!
「歌てる場合か! 何の歌じゃ大っきいのん!」
「どうだフライド丸、俺の新曲『アサシネのうた』は! 大ヒット間違いなし!」
島津の大きいのは外套の内側の物入れ袋から小刀を取り出して開き、
島津の勘違いデブの首筋をぱっと掻いた。
早い、そこはやっぱりヤクザなんだな、慣れている。
しかし、霊を切る事は出来ず、島津の勘違いデブの首に出来た切り傷は、
たちどころに動いて塞がり、元へと戻って行った。
「斬撃が効かないなら、こういうのはどうだい?」
島津の大きいのは勘違いデブの胸に飛び込んで行った。
そしてまたも物入れ袋から何か小さな袋を取り出し、
その白い中身をデブの口をこじ開けて放り込んだ。
「井伊の兄さんに痛いって感覚があるなら、お前も同じだろ。
昨日北から入荷したてのユキネタだ。痺れろ島津義弘、ぶっ飛んじゃいな!」
「え…痺れ…」
島津の大きいのが、もごもご言う島津の勘違いデブの頭を掴んで手で口を塞いだ。
俺たちはその隙に全員でデブを取り押さえ、身柄の確保と拘束を試みた。
「確保! 確保!」
「嫌じゃあ! 私は天界に豊久を伴うのじゃ! 義弘と豊久二人はエターナルラブ!」
島津の勘違いデブは暴れに暴れた。
「ねお薩摩」を戦う猛者どもが囲んでいるにも関わらず、暴れるデブの力は凄まじく、
猛者どもが思わず引いてしまうほどだった。
島津の勘違いデブは俺を見た。
「豊久、私と共に天界へ行こうぞ…」
俺はつかつかと歩いて、デブの目の前に出た。
そして島津の勘違いデブの頭を両手で挟んで、目一杯頭突きを喰らした。
「勘違いもええかげにせい、こんボケがあ!」




