第35話 皆殺しお笑いミンストレル
第35話 皆殺しお笑いミンストレル
こないだの演習で支給された拳銃はあまり使っておらず、弾も残っていた。
弾倉に装填できる弾数は6、連続で撃てる。
補填の時間はない。
外さなければ、きちんと急所に入れることができれば、
距離を置きながら6人も殺せる。
「フライド丸、あかん!」
少し先へ行った揚弘が戻って来ようとしている。
「…おいはろくん目えも見えん、足手まといじゃ。
盲の足手まといが捨てがまって迎撃すっ事ん何が悪っかと!」
「アホかフライド丸!」
「来っな!」
俺は狙いをつけて発砲した。
種子島なる火縄の長い銃は戦で使って来た。
この拳銃は短いけれど、殺傷能力も精度も種子島より格段に上だ。
俺は電脳世界「ねお薩摩」の精度を信じる。
「おいはフライド丸、お笑い芸人…『ねお薩摩サイバーパンク』が片割れ。
相方ん安全ば守っは芸人として当然至極!」
最初の一発は敵の頭部に命中した。
二発目、敵の胸に命中。
三発目は敵に動かれて外れた。
敵はいよいよ近づいて来る。
四発目、五発目、六発目を連続で当てる。
俺は刀に持ち替えた。
「薩摩…島津軍の残党か!」
「…島津軍とか、なんであげんカスにこんおいが!
島津はとっくに終了しよったわ、滅亡! お家断絶!」
俺は刀を構えて接近する集団へと走り出した。
集団はたった一人のお笑い芸人などたちどころに飲み込み、
黒い闇となって俺をすっぽりと包み込んでしまった。
…今こそ捨てがまり命を戦場に置いて死す時。
敵中は斬れば道が開けるのだから…!
俺は男たちの作る暗闇を動いた。
斬って噴き出す血を灯りに。
男たちは地面に倒れて、また花となりだらしなく体を弛緩させた。
…俺は木陰の花に屹立する一本の雌しべ。
赤を纏って膨らみ実る豊穣。
もっと血を、もっと戦を。
もっと生命を、俺に…!
「貴様らもっと来んか! 何け死んじょっ! 戦はこれからぞ! 起きんか!」
俺は刀を捨て、死に絶えた敵の死体を殴りながら、
敵を起こして続きをしようと必死だった。
揚弘はそんな俺を見て、恐怖に震えていた。
「フライド丸もう止めたれや…敵死んどんやん、もう起きられへんて。
何目えらんらんさして、股膨らかしてんねや、気いでも狂うたんやあるまいし」
揚弘は声まで震えていた。
「もっと…戦を…もっと、殺戮を…」
俺は地面に血を垂れ流しながら横たわる、死体の、肉片の間を彷徨い続けた。
揚弘は飛び出して、そんな俺を力いっぱい殴った。
「アホかフライド丸! こいつらだけが敵やないで、敵はこれからもっと来っで!
奥さん離縁して子安っさんと一緒なるんやろ!」
「…しもた、戦うちょったらつい入り込んでもうた」
俺はようやく正気に戻った。
俺たちは敵の死体から金品を探って奪い取った。
そしてまた揚弘の腕と肩に掴まって走り出した。
「何やのあれ、めためた恐かったで…あれが地い、戦国武将のお前なんか?
ろくに見えへんくせして、なんであんな事出来んねや…」
「はは…恐い顔しちょるとこ見られてしもうたな、子安どんには内緒じゃっどね?」
俺は自分の入り込んでいる顔を見られたのが恥ずかしくて、
赤くなりながら力なく笑った。
「そういやフライド丸、戦国武将言うけどさ…お前ほんとは何ちゅ名前なん?
島津家の家臣か何かか、やたら詳しいけど…『島津ヲタ』か?」
「誰が島津の家臣ぞ! おいはフライド丸、子安家家臣のフライド丸ぞ…」
俺はもう死んだ、死んで新しく生まれた。
過去と言う骸を歩かせる訳にはいかない。
歩くのは「ぞんび」の井伊どんと、お笑い芸人島津豊久の名前だけで十分だ。
「お、また敵やぞ、どこの軍だ?」
「金や、金、金、船代稼がんと」
「行くでフライド丸」
俺たちは顔を見合わせると、新しい敵集団へと突っ込んで行った。
「銭や! 銭、銭! 貴様ら銭置いてき!」
俺たちは追いはぎを繰り返して、大坂まで進んだ。
大坂は堺を目指して、俺たちはひた走る。
「まいったなあ…全然足りへん。
こんなんやったら船乗られへんやん、陸路で九州入るしかないで?」
堺の港で薩摩までの船代の相場を聞いてみると、
追いはぎの成果は意外にも乏しく、薩摩までの船代には足りなかった。
みんな関ヶ原の戦いで所持金を減らしてしまっていたのだ。
「値切ってみっと。ここは大坂じゃ、値切らんと!」
俺は船に近づいて水夫らに交渉を始めた。
しかし、交渉に応じてくれないどころか、どの船も薩摩までは行かないと言う。
揚弘も交渉に加わったが、俺たちの要求に応える船はなかった。
そうこうしていると、どこかの軍が一隻の船に乗り込もうとしているのを見つけた。
「おい、フライド丸あれ…」
「良かね、船代0円『ふぇあ』じゃっど。『すうぱあ』のお買い得ん事そげん言っと」
「やっちゃう?」
「あい水夫どんだけ残して、ぼぼーん皆殺ししたらよかと! 行けっで!」
「行ける! あの船足場にもっとでかい船に移ればなお行ける!」
俺と揚弘は船に突進した。
別の船を足場にして飛び乗る。
「俺らを薩摩まで乗っけてってえな」
揚弘があらかじめ抜いておいた刀を構える。
俺も揚弘の背中で刀を構える。
「なんだ貴様ら!」
「おいがフライド丸で、あれが島津豊久。で、二人まとめてお笑い『こんび』、
島津豊久withフライド丸『ねお薩摩サイバーパンク』や」
「『島津』…!」
船の上の兵士たちはどよめいた。
しまった、あんなショボでも島津豊久は一応武将だった。
「どっちでもええわフライド丸、『島津』は『島津』や。さして変わらん。
えー、皆様には残念なお知らせがございます。
私、島津豊久は戦国武将を辞めて、新しくお笑い芸人として生まれ変わりました。
…ご祝儀よろしゅうな貴様ら!」
揚弘は包丁のような刀を振って、敵を数人まとめて斬った。
…速い、さすが「ねお薩摩」の剣豪。
俺は水夫の首に刀を当てて脅した。
「船出し、早う! 殺されたかか!」
「へ…へえ!」
水夫たちは碇を上げて、船を漕ぎ出した。
船は港から離れ、乗り損ねた兵士たちは手を伸ばして何やら叫んでいる。
俺たちは兵士を殺し、突き飛ばし、一人ずつ海へと落として行った。
こうして俺たちは大坂を離れた。




