第28話 ウォーキングデッド
第28話 ウォーキングデッド
「おい? さあな…」
「伏見だったかな? 大坂だったかな? どこかで…あ! もしかしてお前!」
家康どんは目を見開いた。
俺は彼の喉を刀で突いて斬り、髪を掴んだ。
そして、陣の隅へと押しやった。
「おいはフライド丸、ただの死人…!」
「し…死体がなぜ歩く?」
家康どんの血で赤くなった喉から、空気の漏れるひゅうひゅうと言う音が鳴る。
「そげん事簡単じゃ、生きちょっからじゃ」
「死体が…なぜ生きる…?」
「黙らんか貴様!」
俺は家康どんの腹を突いて、切っ先で中をかき回した。
すると辺りに悪臭が漂い始めた。
またかよ、どんだけ尻の穴緩いんだ。
「フライド丸、もう殺したり! 何いつまでねちねちねちねち嬲っとんねや!」
揚弘が家康どんに斬り掛かった。
俺はそれを自分の刀で受けた。
「…おいがやる。おいはけ死んで次ん世に生きっ男、『ねお薩摩』が男じゃ。
おいはもう二度と戦国ん世界には戻らん、そんために、生きっために、
おいは自分の元いた世界ば潰らかす…だから殺す!」
俺は家康どんの首を跳ねた。
揚弘が飛んだ首を拾って、陣に置かれてあった槍の先端に突き刺し、
それを陣の外へと持って行き、地面に突き刺して晒した。
「みんなおやつの時間やで! そろそろ小腹空いたやろ」
揚弘は陣を包囲している「島津マンション」の住民たちに声をかけた。
「おやつだ!」
「取って置きのおやつやでえ」
「ちょっと臭くていいね、そそるよ」
みんなも包囲を解いて陣の中へ入って来て、家康どんの死体に群がった。
うんこな死体も好きなんだ…。
「もう暗いな、灯りが要る」
「火縄銃とかどう? 一応火だし、ろうそくぐらいにはならない?」
伊集院どんがそう提案すると、新納どんが別の槍の柄を折って、裂いた布で固定し、
その折った先に陣の幕を吊るしている縄を切って来て、
それで火縄銃の引き金に引っかけて吊るし、火を点けてそれを灯りにした。
俺はそれを回してみた。
「みんな早よ死んで帰ろや」
火縄は短くなり、銃口から弾が発射されて住民のひとりに命中した。
すると残った者たちは殺し合いを始めた。
戦ではひとりも欠ける事なかったのに、みんなばたりばたりと死んで行く。
俺も子安どんの銃弾に撃たれて死んだ…。
俺たちは出発地点とは違う、マンションの駐車場の路面から、
もっこりと泉が湧き出すように帰還した。
「演習大成功だな」
「そうだな、俺たち戦国を生き抜いたんだよな」
「もう何も恐くないな」
住民たちは口々にそう言いながら、それぞれの部屋へと戻って行った。
揚弘はひとりでぶつくさ文句を垂れていた。
「まったく…フライド丸のせいでえらい目に遭うたわ。
豊久て誰やねん…てか、本人もいろいろなすり付けられて、ええ迷惑やな」
「良かよ、豊久さあはもうどっかで野垂れ死んじょんし。
何でんかんでんなすり付けちょいたら良か」
「お前もほんま悪やな」
揚弘は「ねお薩摩」の熱なき灯りを背中に苦笑した。
俺も揚弘の影武者ぶりを思い出して笑った。
「おまんさの影武者ぶりも悪なかったど、徳川ん陣中でお笑いとか肝座り過ぎじゃっどね」
「あれは…!」
「『島津ん豊久公が徳川ん陣中でお笑いば披露』、絶対逸話になっど。
け死んでお笑い芸人にされっとは、豊久さあもかわいそ!」
俺は大笑いして揚弘を冷やかした。
「そういやさ…お前豊久死んだ言うけど、ほんまに死んだんやろな?
もし生きとったらどないすんのや、俺祟られるやん」
「大丈夫、大丈夫、島津んデブが言うちょったし。
もし生きちょってん徳川全滅さしたし怒らんと、いけんかったらおいが謝っちょく」
「え…フライド丸、お前本人と知り合いなん?」
知り合いねえ…。
あんなショボを知り合いに入れていいのか微妙なところだ。
「おいも戦国のもんやし、知らん人やなか。集まりとかで顔見っで」
「まじ? 実物どんな人なん?」
子安どんは先に帰っていて、仕事部屋に閉じこもっており、
俺が声をかけてみても、「邪魔するな」と言うだけだった。
島津の大きいのの事とか話したかったのに。
とりあえず子安どんから電脳な薄い小箱を借りる事には成功した。
帰還した地点のずれは少なかったが、時間のずれは少しあり、
戻って来たのは出発した日の午後7時頃でだった。
よかった、何日もずれがあったら食品が腐るところだった。
俺は島津の大きいのに教わった、焼きうどんの簡単な夜食の支度をして、
電脳小箱を起動させる。
子安どんに教わった使い方では、調べものをするには、
箱に向かって話しても良いと確か言っていた。
「おっけー、ぐるぐる!」
確かこの合い言葉で調べものを始めるはずだ。
調べものの画面が出てきた。
「あのですよう、ええと、ええと、そのう…関ヶ原ん戦い調べてくいやんせ」
俺は緊張しながら小箱に話しかけてみた。
画面は声に反応して変わり、関ヶ原の戦いに関連する情報の一覧が表示された。
すごい、小箱の中に人が入っているようだ。
これはこれでまた電脳の極みなのだ。
一覧から、前に見た事のある項目を開いてみる。
今日の俺たちの行動が「その後」として記されてある。
敗走する島津軍とそれを追撃する東軍と家康どんが、
「島津まんしょん」なる、落ち武者狩りの集団の襲撃を受けて全滅したと。
お笑い芸人島津豊久の事はそこに書かれてはいなかった。
そこで、「関ヶ原の戦い、逸話」で改めて調べ直してみた。
すると島津豊久がお供の男と徳川の陣中で、お笑いを披露し、
それが「漫才」の発祥となったと記されてあった。
俺は体をよじらせてしばらく大笑いした。
笑いがおさまったところで「島津の退き口」を調べてみた。
だが、これについては検索結果が一件も出なかった。
俺たち「島津マンション」が関係者全員を皆殺しにしたおかげで、発生しなかったのだ。
俺は手をぐっと握りしめた。




