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第27話 陰はまた来る

第27話 陰はまた来る


「せんとりーがん」が作動し、回転しながら箱の注ぎ口から銃弾の嵐が吹き荒れる。

林に隠れていたマンションの住民たちが飛び出して、敵を囲む。


「あれ…子安どんがおらんとね?」


味方の軍の中に子安どんがいない事に気がついた。

あれだけ顔の濃い女ならすぐにわかるのに、どうしたのだろう。


「兄さんもや」


揚弘も気がついていた。

そういや島津の大きいのもいない。

くそ、島津の大きいのめ、子安どんと二人で何してるんだ。

衆道だからって油断は出来ないな!


手砲で敵の足元をくじき、伊集院どんが装備を盗んで、

俺と揚弘は命を取るだけの簡単なお仕事だった。

敵が妙に少ないのは気のせいだろうか。


ふと横を向くと、新納どんがはちすのように発射口の穴がいっぱいあいた、

妙な四角い手砲を使っている。

はちすの発射口から射出された、流線型の先が尖った砲弾は、

曲線を、円を描いて、曲がりながら進み、敵を捜して着弾している。

魔弾だ、あれは魔弾だ…!


「どうりで敵がやけに少なか思もたら、新納どんのそいか?」

「いや、これはただの足止めだよ」

「じゃあなしてこげん敵が少なかね」

「そりゃあ後衛ががんばってるからさ」


後ろを向くと、草や木の枝で出来た小さな山が2つ盛り上がっており、

その山から銃弾が発射されていた。

子安どんと島津の大きいのの狙撃班か。

なるほど、子安どんの2丁狙撃銃を分けたのか。

子安どんの狙撃が上手いのはわかったが、それにしても島津の大きいのも上手い。

子安どんより上手いかも。

やくざは接近戦だけでなく、狙撃もこなすのか。


「揚…いや、豊久さあ。おまんさとこの兄さあ、何あげん狙撃上手かね?」


俺は敵の頭を拳銃で打ち抜きながら揚弘に聞いた。


「知らんの? 兄さん若かった頃、組でスナイパー…狙撃手しとったんよ」

「へ、へえ…子安どんはヤクザに教わった言うちょったど」

「そら兄さんや、子安っさんは兄さんの最初の弟子やからな」

「え…でも、付き合うてた男て…」


俺はどきどきしてたまらなかった。

嫌な予感がぐるぐる渦巻いている…。

気が散って戦いどころではない。


「フライド丸ほんまに何も知らんのやな…子安っさんは兄さんの前の女やん。

まあ振られたんは兄さんの方やけど」


やっぱり。

嫌な予感ほど当たるもんだ。


「島津の大きいのが…」

「もう昔の事やん、みいんなフライド丸が来る前に終わた事やん。

兄さんは俺と結婚したし、子安っさんかて今はフライド丸を…」

「もう良か、聞きとうなか」


俺は心を閉ざして耳を塞いだ。

もう揚弘の声は聞こえない、もう誰の声も聞こえない。

愛にこんな辛く苦しいものがあるなんて。

俺の心に陰はまた来る…。


「島津の大っきいのん!」


俺は林の入口の二つの山のうち、大きい山に刀を向けた。


「なんだ、邪魔するなフライド丸」


島津の大きいのは山の下で草にまみれながら、遠くの敵に狙いをつけていた。


「貴様、子安どんと…」

「あ、揚弘に聞いたんだ」

「今も忘れてなかか? 今でん子安どんば思うちょっとか!」

「何を今さらそんなとっくに終わった事を…まあ、近所の友達ぐらいには」

「貴様…!」


俺たちが内輪もめしているのを、敵はめざとく見つけた。


「おい、内輪もめしてるぞ」

「これは好機、一気に畳み掛けるぞ!」


まずい、嫉妬に気を取られ過ぎた。

敵の軍団が一丸となってこちらに向かって来る。

ひー!


「貴様ら退避!」

「ここは俺らで足止めしよう」

「新納どん!」


新納どんと手砲を持った者らがそう言って、その場に留まった。

俺たちはおおきにを言って、移動を始めた。

俺たち「島津マンション」の住民は、徳川の軍に追い回されて走りながら、

その途中途中で軍の一部を少しずつ切り離して行った。


「くそ、捨てがまり戦法か…!」

「誰が捨てがまりじゃ、後ろ見てみいボケ!」


俺は揚弘に引きずられながら、徳川の軍に舌を出した。


捨て置かれたはずの隊は敵を倒し、俺たちの後を追いかけて、

徳川の軍を前後に挟んでいた。


「おいたちは誰も捨てちょらんし、誰も捨てがまっちょらん」


俺含む先行の隊は後ろを向いた。

後ろから追いかけて来る隊と一緒に挟み撃ちにする。

力の差は明らかだった。

徳川の軍がいくら数で押そうが、「島津マンション」の恐ろしい装備、

そして効率重視の今様の戦い方では、ただ戦力を溶かすだけだった。

俺たちは元来た徳川の陣まで戻ってしまった。


「ただいま戻りました!」


俺は陣の前まで着くと叫んだ。


「うむ、報告せよ」


中から声がする。

徳川の将の声か。


「敵『島津マンション』、装備強し、戦力の層厚し、徳川軍全滅にございまする。

残るは家康どんただお一人…!」

「そこで『どん』はあかんやろ、フライド丸」


横から揚弘が肘で突いて注意した。


「あ、しもた」

「マイルド関西弁でぶち壊しや」

「行っど揚…いや、豊久さあ」


俺は徳川の陣の中へと入って行った。

揚弘も仕方なく俺に付いて行く。


「邪魔すっで」

「何だお前らは」


こうして見ると、家康どんもデブだな。

でもまあ島津のデブよかましか。

俺は揚弘を前に押し出した。

そして島津家の居間の小人が入って動く箱でやっていた、今様の挨拶を思い出し、

満面の笑顔で人差し指と中指を立ててくっつけ、片目をぱちとつぶりながら、

指を額に着けてぱっと離した。


「あ、こいつはおいが相方ん島津豊久、侍従中務大輔のん。よろしゅうな、徳川どん!」

「どもどもーこんちはー!「ねお薩摩サイバーパンク」の島津豊久でーす、よろしゅう!

なあなあフライド丸、今日びの戦国武将てどない思う?」

「化粧厚いんやなかとね、まろやまろ。おいも出かけっ前化粧ばしとって、

白粉真っ白に塗りたくって、まゆ毛ぽちいて書いてな…て、まろやん!」

「アホか! 俺も出陣前に白粉ごつう塗って、紅引いてえ、

まゆ毛ぽちい描いてえ…まーろー! 」


揚弘は公家の物まねを顔でした。

乗り乗りだな、揚弘!

家康どんはそんな揚弘に戸惑った。


「えっ…豊久殿はそのような上方言葉ではなかった気が…。

それにそのような性格ではなかった気が…もっとこう…」

「議を言うな、どう見てんこいが豊久さあじゃっどが! 議いを挟むな!」

「そういうお前は何者だ? どこかで会った事あるような…」


さあな、そんなん知らん。


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