表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/87

第26話 置きみやげ 

第26話 置きみやげ 


「どっかの誰かさんに似とちょっとか?」


俺は驚く島津義弘を制するように言った。


「似とる、俺ん甥っ子に…お前ひょっとして…」

「そりゃ光栄なこった。でも貴様の甥っ子なんぞ知らん。

どこぞで野垂れ死んだんやなかか、そんショボは」

「いやでも…お前…」

「そげなショボは知らん。おいはフライド丸、『ねお薩摩』が男じゃ。

子安どんを放せ、こんデブが! あれはおいが女、おいが女じゃ!」


俺は刀を抜いて義弘に斬り掛かった。

義弘の体に、顔に、切り傷が増えていき、血にまみれていく…。


「やめんか豊久、やめんか!」

「残念、おいはフライド丸じゃ。誰と間違うとる、人違いもてげてげにしい。

豊久? 誰ね、そげんショボなぞ知らん、こんボケが!」


俺は逃げ回る義弘を追い回した。

そうしているうち、子安どんは義弘の手から離れて逃げ出した。

島津の夫婦が駆けて来る、新納どんが駆けて来る、伊集院どんが駆けて来る。

「島津マンション」の住民たちが駆けて来る…。


「…今日はおいがやっちゃる、貴様の甥っ子が豊久とやらに代わて、

おいがやっちゃる、こんフライド丸がやっちゃるわ!

悪っかけんど島津家は今日ここで滅亡じゃ、そこんとこよろしゅう島津のデブ!」


俺は義弘をなおも追い回しながら言った。

さすが山越えも出来ないデブ、息が上がって動きももうのろい。

俺は彼の背中を突いた。


「いやっほーう!」


俺は飛びかかって義弘を押し倒し、その上に馬乗りになった。


「どや、男ん乗られっ気分は?  辛かとが。

おいは楽しかぞ、貴様の上んなっとは」


俺は刀でまた義弘を突いた。

何度も何度も、ぐちゃぐちゃの肉が外にはみ出すまで。

こんなデブは生かしておいてはいけない。

もうこれ以上、俺の人生に陰は要らない。


「貴様ら、島津が義弘の肉じゃ! 大ごちそうやっど、食い!」


俺は集まった住民たちに叫んだ。

住民たちは義弘目がけて一斉に飛びかかった。


「え…ちょっ、まだ生きと…」


まだ義弘の息はあった。

住民たちはそんなのおかまいなしに、義弘の皮膚を裂き、

肉をえぐり出し、内なる臓を探った。


「やったぜ! 戦国時代なら殺人もOKだな!」

「死体損壊! 死体損壊!」

「これはお楽しみだな! 気っ持ちいー!」


…誰も義弘の首は要らんのだな、取ればすごい手柄になるというのに。

さすが現代戦の兵士たちだ。

俺は「せんとりーがん」を組み立てている時に、新納どんが言ってた事を思い出した。



「現代戦て何ね、新納どん」

「現代戦はモダンウォーフェアて英語で言ってね、

電脳や機械など、現代の文明を取り込んだ、今様の戦争の事なのさ」

「ふうん、『もだんうぉーふぇあ』? 戦国の戦とどう違うねん」


子安家家臣らが俺は「戦国おた」だ、「戦国おた」だって言うけれど、

新納どんは「軍事おた」なのかなと思いながら聞いてみた。

新納どんはすぐに答えを出した。

ふおお…やっぱ「軍事おた」だ。


「現代戦は効率重視だから、国力がそのまま出るね。

あと、戦国の戦みたいに敵の首とか要らないのさ、

敵陣制圧とか、自国の防衛とか、首謀者の身柄確保とか、

任務の目的が達成出来ればそれでいいのさ」

「ふうん? 変な戦やな」



…あれはこの事だったのか。

この「島津マンション」の住民たちの目的は、あくまでも軍事演習で、

自分たちの成長のためであって、誰も功績をあげる事を目的としていない。

だから義弘の首は取らないのだ。


義弘は死に、その死体はマンションの住民たちに食べられ、

骨だけになろうとしていた。

「ねお薩摩」の者は肉をよく食べるけど、特に人肉が好きだったのか…。

これで島津家も滅亡だな、歴史は変わる。

いやまだだ、戦国の世など完全に潰さねば。

俺の帰るところなど完全に潰さねば…!


「行っど貴様ら、関ヶ原じゃ!」



俺たちは義弘の骨を捨てて、山道をひた走った。

関ヶ原にはまだ残っている軍がいるはずだ。

途中で東軍の使いが馬でやって来て、追撃中止の命令を持って来たが、

俺たちはそいつを捕まえて、徳川の陣まで案内させた。


「申し上げます!」


徳川の兵士は陣の幕に隠れて言った。


「苦しゅう無い」

「島津軍全滅!」

「それはよくやった!」

「しかしながら井伊隊、松平隊、本多隊も全滅!」


そこまで話させると、島津の大きいのが先端に筒のついた拳銃で男を射殺した。


「ご苦労だった」


陣から敵将が慌てて出て来て、兵士を抱いてなにやら喚いていた。


「敵味方全滅とはどういう事だ、話せ!」


俺たちは少し離れた林の中に隠れていた。

俺はその中からすっと出た。


「おい、行って来っど。『わんもあ釣り野伏せ』じゃ」

「どこでそんな『ワンモア』なんて言葉覚えたんだか…。

俺が行ったるわ、フライド丸お前見えへんし」

「おおきに、『わんもあ』は打ち上げん時ん歌の文句ぞ」


俺の代わりに揚弘が先行して、敵を誘導する事になった。

俺はこそこそと隠れながら揚弘の後を付けて行った。

揚弘は刀を抜きながら敵陣に近づいて、中からわらわらと出て来る敵に姿を見せた。


「誰だ、くせ者か!」

「貴様らこそあのボケ共よこしやがって…おかげで俺がどんな辛い目に!

あん時の恨み晴らしたる!」


揚弘は敵に向かって吠えた。


「名を名乗れ!」

「貴様こそ名乗らんか!」

「無礼な! ここをどこだと思っている、ここは徳川の陣ぞ!」

「徳川だか何だか知らんが、とりあえず倒す!」


揚弘は敵中に向かって駆け出した。

まずい、揚弘は突撃しかないアホだ。

俺も飛び出した。


「俺は島津揚…」

「島津豊久! こいつ島津豊久ちゅうとね、よろしゅうな徳川の!」


俺は揚弘を羽交い締めにして、笑顔で敵に挨拶をし、ぱちりと片目をつぶった。


「豊久て誰やねん、なんで俺が…!」

「島津義弘の置きみやげじゃっど、もうどっかで野垂れ死んどるらし。

死人に口なしっちゅうと、名前使わしてもらおや。

ほしたらおまんさが暴れてん、みいんなみいんな豊久さあになすり付けや」


俺は揚弘の耳に唇を寄せて、小声で囁いた。


「なるほど、アホのフライド丸にしちゃあましな考えや」

「どげん悪行働いてん構わん、おまんさんすっ事はみいんな豊久さあんすっ事」

「貴様も悪やの、フライド丸…!」


揚弘は向かって来る敵の首をぱっと跳ねた。


「揚…いや、豊久さあ! 撤退!」


俺も敵の刀を受けながら、揚弘に誘導を促した。


「あ…ああ、そやな、撤退や!」


俺たちは走り、時々戦って、また走った。

地雷は埋める時間がなかった…草むらの中に隠してある。

俺たちは草むらを避けて、地面がむき出しになっている所を選んで走った。

「せんとりーがん」は設置完了だ、林に飛び込むぞ。

俺たちは「せんとりーがん」の設置場所を通過した。


「行っど貴様ら…『わんもあたいむ』!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ