第25話 ヤクザのくれた愛
第25話 ヤクザのくれた愛
「子安どん、なしてそげん戦えっとね?」
俺は子安どんに聞いた。
子安どんは敵を撃ちながらにいと笑った。
「そりゃ私も『島津マンション』の住民だからさ。
実家出たての小娘の頃にヤクザと付き合ってて、その男に教わったのさ。
俺はヤクザだから、自分の身は自分で守れってな…!」
「ヤクザ!」
確か揚弘が剣術を始めたのもそうだったな。
「私は戦う、ここがお前の帰るところなら…この島津の退き口がお前の帰るところなら、
私はヤクザのくれた愛でそれを潰すまで!」
子安どんは襲いかかる敵兵を銃で殴りつけた。
俺も彼女の背中について後ろを狙う敵を斬った。
「背中ががら空きじゃ、子安どん!」
俺たちは敵に囲まれてしまった。
いけなくはないが、これはちょっと厳しい。
「いただき!」
その時、若い男の声がして敵中を黒い影が走った。
黒い影は敵兵から次々と武器を奪って行った。
「…伊集院さん!」
子安どんが叫んだ。
黒い影は俺たちの前にも現れ、子安どんにぱちりと片目をつぶって挨拶すると、
また敵中へと戻っていった。
だいぶ若い男だったな、しかも隼人の国の男らしく顔の濃い今様の「いけめん」だ。
…あれが窃盗団をやっているお隣の伊集院どんか、初めて見る。
伊集院どんが敵の武器を盗んでくれたおかげで、だいぶ楽になった。
俺と子安どんは丸腰の敵兵をただ殺すだけでよかった。
揚弘も先で島津の大きいのと戦っている、あっちは心配ない。
揚弘は素人じゃないし、戦国経験者だ。
「…ついでに、もういっちょいただき!」
伊集院どんが新納どんを襲う敵の首筋を短刀で掻いた。
「ありがとよ、伊集院くん」
「これだからじじいは、ぼさっとするなデニーロのじじい」
「島津マンション」の住民らだって、少しも負けていない。
戦国の軍を相手に少しも退いていない。
一体どういう事なのだろう、敵は戦闘の達人ばかりなのに。
彼らはなぜこれほど戦う事ができるのだろう。
「我ら『島津マンション』…電脳の国、日本黒社会の子。
お前らひとりも敵を討てなかったやつは、指を…いや、
自分で首詰めて落とし前つけろ!」
敵のど真ん中で島津の大きいのが叫んだ。
住民たちはそれに応えて雄叫びをあげた。
「『島津マンション』の住民はみんな訳あり…特に犯罪者がほとんどだ。
戦国の武士と同じく、彼らもまた戦闘の達人だ」
子安どんが俺の背中で教えてくれた。
なるほど、それは戦えるはずだ。
彼らは「ねお薩摩」で電脳な社会を戦って来た猛者なのだ。
「しかもみんな犯罪者だ、礼儀もくそもない。
勝つために、生きるために、どんな汚い事だって厭わないやつらだ。
それは私も同じ…!」
子安どんは狙撃銃で敵陣の向こうを狙った。
そこには島津の将が馬上で東軍の将らとまだ揉めていた。
子安どんは東軍の将らの頭を連続で打ち抜いた。
銃の性能も凄まじいが、子安どんの腕はそれ以上だ。
「何じゃそら! あんな遠距離を超精密狙撃…?」
「くそ、弾切れか…」
子安どんは弾の補填を始めた。
「おいが行っちゃる!」
俺は敵陣の中に飛び込んだ。
立ちどころに囲まれる。
それでも俺は斬って進んだ。
敵中は斬って道が開けるからいい、晴れない悩みよかずっとましだ。
「何だ貴様は」
前に出た俺を、生き残った東軍の将が馬上から見下ろした。
「貴様は…井伊どん? じゃったっけ、あれ違たとかな…」
「変な格好をしているくせに、馴れ馴れしいわ! 無礼者!」
「あ、やっぱ井伊どんじゃ、まあそげんカッカ怒らんでも。
そげんカッカしちょったら、今様の『いけめん』になれんで?
子安どんが今様の『いけめん』は、隼人のもんごた濃か顔言うちょったど」
俺は井伊どんの顔を見て笑った。
こうして見ると、戦国の武将の戦化粧は確かに「まろ」だ。
よかった、俺の化粧じゃ井伊どんにも笑われるところだった。
俺は井伊どんを馬から引きずり下ろして、彼を抱きすくめた。
「わあい、戦国ん「いけめん」いただきじゃっど! 旨そうじゃあ!」
俺は嫌がる井伊どんの帯を解いて、彼の体に顔を埋めた。
戦は別に刀と槍と鉄砲だけじゃなくてもいいよね、敵をたらしこんでも。
男に体を売って、それで味方を増やして生き延びる。
俺はそうやって戦国を生きて来たから…!
「井伊直政許すまじ!」
その時、井伊どんの頭を1発の銃弾がぱっと貫いた。
子安どんの狙撃だ。
「井伊どん!」
「リロード完了。うちのフライド丸に何しやがる! 許せぬ! 許せぬ!」
子安どんが銃を構えながらどんどん近づいて来て、
井伊どんの死体に何発も何発も執拗に撃ち込んだ。
「子安どん、あかん! 井伊どんもう死んじょっと!」
「いいや、死んでもなお許せぬ!」
子安どんがなおも死体撃ちを続けていると、
その前方から敵の刀が2本、すっと伸びて来た。
「邪魔だ!」
子安どんは襲いかかる敵二人をそのまま続けざまに射殺した。
早い、というより強い。
「松平どん! 本多どん!」
「私の行いを邪魔するやつは誰であろうと許さぬ!」
その時子安どんの腰を誰かがひょいと取り、子安どんはさらわれてしまった。
「子安どん!」
「これはなんと勇猛かつ美しい女人…気に入った、薩摩へ連れて帰る。
この義弘の側室となるが良い!」
子安どんのさらわれた方を向くと、そこには太ったじいさんがおり、
暴れる子安どんを脇に抱えていた。
島津のデブか…!
「貴様…!」
「何だ、変な格好をしておる。 どこの軍の者じゃ…あ! お前!」




