第21話 島津マンション軍事演習@戦国時代
第21話 島津マンション軍事演習@戦国時代
「島津どん! 島津どん!」
俺はとりあえず隣の島津家の戸を叩いた。
「なんやフライド丸か。そういや子安っさんの声するけど、戻て来たん?」
揚弘が出て俺に聞いた。
「戻て来たけんど…それがええらい目えに遭わされよったと!
もう我慢ならん、揚弘大っきいのんに頼んで、軍に招集ばかけてくれんね!
おい、戦国世界ば潰らかしに行っど!」
「『招集かけてえや』、フライド丸お前の大阪弁おかしいで?
兄さん今いてへんけど、もうすぐ戻うて来るし、まあ話しとくわ」
揚弘はそう言って扉を閉めようとした。
俺はそこに自分の体をねじ込んでごねた。
「いけん! 次いつまた扉開くかわからんね、誰が取り込まれっかわからんとね!
こん『島津マンション』が危機ぞ!」
「危機て…フライド丸、そんな大げさな」
そこへ島津の大きいのが買い物の袋を提げて現れた。
「ただいま…二人とも何してるんだ? 中で話せばいいのに」
「島津の大っきいのん! お願いや、軍に招集ばかけてくれんね!
もう誰も戦国ん世界に取り込まれたなか!」
俺は島津の大きいのにすがりついた。
島津の大きいのは苦い顔をしていたが、いきなりぱあと明るい顔をした。
「行こう! 戦国の世界にみんなで行こう!」
「え…良かかね?」
「戦国時代…戦国時代…これは見物だぞ、すっごい軍事演習になるぞ。
そして衆道も…俺と揚弘は世に許された夫婦に…くくく」
島津の大きいのは何かを企んでひとり笑った。
…本当はすごく危ない人だったのか。
「揚弘、回覧板を回すぞ! それから緊急連絡網に告知ポスターも掲示だ!
とりあえず一度集会を開いてだな、楽しくなるぞ」
「OKやで兄さん、兄さんは武器調達頼むよ」
こうして、大急ぎで回覧板を回し、正面の出入り口には張り紙も出された。
そのいずれにも「島津マンション軍事演習@戦国時代」と銘打ってあった。
「オーナー、軍事演習すか?」
「ほら、こないだの子安さんのおかんの事もあったしなあ…」
「俺ら警察呼べないから自分の身は自分で守らないと」
作戦会議はマンション内の集会所で行われた。
集会所はマンションの1階にあり、みんなが集まれる大きさの広間になっていた。
「我ら島津マンションの軍事演習を戦国時代で行いたいと思っています」
「はい! オーナー、軍事演習は結構ですが、戦国時代て正気なんですか?」
「すごく正気だ、この島津マンションには突発的に戦国時代に通じる扉が出現する。
信じられないとは思うが、うちの揚弘も取り込まれたし、子安さんも取り込まれている。
我々はこの扉を利用して戦国時代へ行こうと思っている」
マンションの住民らは島津の大きいのの説明にどよめいた。
「ご存知のように戦国時代には大勢の兵士がいる。
われわれ島津マンションの狙いは戦国の兵士たちと戦うことで、
われわれ自身の戦闘力を鍛え上げ、いかなる事態にも対応出来るようになる事である。
島津マンション住民の皆さん、ぜひともこの軍事演習にご参加願いたい」
島津の大きいのは説明の上に演説を重ねた。
「俺は行くぞ!」
「俺も行くぞ、俺らの安全は自分らで守る、そうだろオーナー」
「女ですが参戦してもいいですか、島津さん」
「武器は300万円までですか? バナナは武器に入りますか?」
住民たちから賛同の声が上がった。
島津の大きいのは続けた。
「武器は種類も予算も各自自由、バナナは武器に入るので有効に活用しましょう。
現地での先導は子安さん家のフライド丸にお願いしたいと思います」
「えっ、おい?」
「戦国武将だろが」
「でも通りがかりのとこじゃったし、おいもあんま土地勘なかけんど…」
「私がやろう!」
子安どんが手を上げて名乗り出た。
もう片方の手はほら貝を抱えている。
「幽閉されていたとは言え、私は戦国の世界で一生を暮らした。
通りすがりのフライド丸より土地勘はあると思う」
「ありがとう子安さん、頼むよ。
んじゃ、扉が開いたら誰も入らずに待って、みんなで一斉に飛び込もう」
「何会議にまでほら貝ね、ほら貝持ち歩くおなごなぞどこにもおらん」
会議の後、子安どんと家に帰る途中に聞いてみた。
「それはもちろんいつでもお前を呼び戻せるようにだ。
そういや私も戦国の世界で死んだ後、ほら貝の音に誘われて帰って来たぞ」
「あい子安どんにも有効なんか…」
「ときの声はわからんがな」
「…子安どんは戦国ん世界で殿ば愛しちょったとか?」
つらい思い出を掘り返すようで気が引けていたが、
俺は一番聞いてみたかった事を子安どんに聞いた。
「なんだ、嫉妬か?」
「犯られた言うてもやっぱ嫉妬くらいすっと、当然や」
子安どんはバカだなと笑った。
「あの殿を愛する事が出来れば救いになったとは思う。
でもだめだった…殿を見てるとどうしてもフライド丸、お前を思い出してしまって。
殿が何をしても『フライド丸はこうだった』、『フライド丸はあああだった』そんな事ばかりで。
殿はかわいそうな人だった、少しくらい愛情をかけてやってもよかったのに、
それでもだめだった、殿を愛する事はみじんも無かった…」
子安どんは外の、遠くに霞む薩摩の森を眺めて答えた。
「かわいそう…?」
「殿…帰農する時、私の苗字を取って子安清兵衛と改めたのだが、
一応田んぼや畑を見に行ったり、小作たちをまとめる事や、
帳簿をつけたりなどの仕事はしており、人当たりも良かった。
でも時々どこか別の世界にいるように、遠くをぼやんと見つめて、誰と会話してるのか、
ひとりで繰り言を言って、ひとりで笑って、ひとりで泣いていたのだ…」
戦場の兵士に常人はいない。
戦の後も狂気を引きずる者など珍しくはない。
…俺も、あのまま戦国の世界にいたら、子安どんの言う殿のようになっていただろうか。
俺も別の世界へ行ってしまったのだろうか。
俺、狂ってる…?
「なあ子安どん、俺も…俺も狂うとんのか?」




