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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖剣シリーズ

聖剣になったようなんですが!!2

作者: RIN

 こんにちは!異世界で『剣』になっちゃった元『日本人』の『女』です!


 え?意味が分からないって?まぁ、正直私も分かってないので、分からなくっても大丈夫です!とにかく、訳がわからないままに『剣』に生まれた私は、かわいがってくれる製作者のおじさんに蝶よ花よと大事に育てられていた箱入り娘…箱入り剣?でした!そんな私が、ある日運命の出会いをはたしたのです!


 のちに『勇者』と呼ばれる少年と出会った私は、かわいがってくれたおじさんとお別れして、少年と2人で!2人っきりで!旅に出ることになりました!きゃ!なんだか、照れちゃう!


 意気揚々と旅に出た私は、『冒険者』の敵である『魔族』の正体のほとんどが、『魔王』という悪意でできた化け物に触れた元『人間』であることを知ったのでした。


 …平和に武器も魔力も何もない日本で生まれ育った私が人間を殺傷できるわけがありません。全力で拒否します!お断りです!無理です!


 覚悟ができないままに、初めて出た外の世界で、どんな運を引き寄せたのか、遭遇したのはばっちり元人間の『魔族』!きっと悪運です…。私の!間違いないです!


 そんな絶体絶命の中、ついに私のチートが発動するのです!!お!なんだか、かっこよくないですか?!目覚めたほにゃららみたいじゃないですか?!


 私は殺さずには救えない『魔族』を殺さずに『悪意』だけを切り捨て救う能力に目覚めたのです。


 それからは、いつのまにか『勇者』と呼ばれるようになった少年は、最初に救った元『魔族』の魔法使い、教会に虐げられていた元奴隷の聖女、平民なのにあまりにも強すぎるために辺境に送られてしまった騎士を仲間にして『魔王』を打倒するための旅を続けました。もはや、濃すぎる仲間に私の!私の!!印象が薄くなっていましたよ…。一応『聖剣』って呼ばれていたんですが…。


 でも、美少年な勇者、美青年な魔法使い、美少女な聖女、美中年な騎士!…うん!おいしい!かなりおいしかったです!!なんてこった!眼福過ぎる!!鼻血吹きそうでしたよ!…鼻はないんですけどね。


 そして、長い旅の末に『魔王』を倒したのです!あの時の感動と言ったら…!


 それで終わればよかったのですが…



 私はなぜか、勇者に封印されてしまい…その時の話はあまりしたくありません。


 とにかく私は封印のなか眠りにつき、目覚めたら、何年経ってしまたのか私の勇者は死んでいたのです。


『勇者…』


 落ち込んだ私は、現在、混乱真っ只中です!思わず人生を振り返ってしまうくらい混乱しています。


 目の前に右手・・を持ってきて、をつねってみます。


『いひゃい…』


 あんなに『魔族』の剣を受けても傷一つつかず、痛いなんて思ったこともない私が!


 いったい自分に何が起こったのでしょう?前回、『剣』になって眼が覚めた時よりも混乱しています!『剣』の私に透けて向うが見える腕や手のひらや足やお腹があるのはなぜでしょう?!まぁ、なぜワンピースを着ているのかも謎ではあります。真っ裸ではなくて、心底よかったです。なぜ下着まで着けているのかも謎です。確認したんです。どこを、とは聞かないでください!やはり、人型は元人間としては落ち着きます。


 は!これはもしや…新たなチート能力?!


 そういうことなんですね?!もしくは、生まれてから年数が経って付喪神的な何かになったのでしょうか?!どっちにしても、喋れるようになるならもっと早くがよかったです…。勇者と話がしたかったです。



 落ち込んでいたのですが、ふと気が付きました!私の人化は上手くいっていない!だって透けている!しかし、昔は上手くいっていた呪い(?)は上手くいきません。自己暗示しても、透けた状態から実体にならないし、昔使えた属性を纏う魔法剣とかができません。


 やはり、まだ鎖が身体に絡まっているからでしょうか?この鎖は年月の経過で少しもその力は衰えることがありません。つまり、私の本体・・は鎖にがんじがらめにされているのです。


 ちらっと隣りを見ると、『剣』の私の本体がいます。そう!そうなんです!イエス!幽霊化!!違うか!?現在、私は本体の『聖剣』…『せ・い・け・ん』の横に浮かんでいる状態です。さっきから、何度か試して、『剣』に戻れることも確認しました。


 うん!やっぱりかっこいい!『聖剣』!!


 しかし、これは鏡を見たいです!どんな姿になっているのか猛烈に見たいです!いや、鏡に映るのかは、また大きな謎ではあるのですが…。そもそもこの部屋には鏡なんてないんです。あるのは鎖で雁字搦めにされた『剣』一本。ドアもない窓もない!ただ暗い部屋にぼっち…。


 あれ、なんだろう?引きこもってた時代よりも寂しい!寂しいんです!!あの時は、おじさんがいましたし、お手入れだってしてくれたし、頬ずりは嫌だったけど(一方的に)おしゃべりできたし…。


『ゆうしゃ…。私、寂しい…』


 あぁ、こんな姿をとれるようになったのに、まだ泣くことはできないのですね。悲しいのに、寂しいのに、胸がこんなにも苦しいのに、眼から零れ落ちる水滴は最初から私の中には存在しなかったかのようにでてこないのです。


 落ち込んでいてもしかたがないです!さぁ!どこが出口かは分かりませんが!でも、勇気を出して、今度は一人で、外に出てみようと思います。勇者はいっしょじゃないけれど、きっと大丈夫です!



 いざ!!





 …私の覚悟なんて、ゴミクズですよ。どうせ、私なんて…。せっかく決めた覚悟は、本体に背中を向けて、壁に向かった瞬間に崩れ去りました。後ろにゴムひもが付いているかの如く、引き戻されたのです!びよ~ん、と。


『離れられないとか…。ひどい…!』orz


 これは、あれですね。ニートを卒業して部屋を出ようとしたら、豪雨が降っていて、心が挫ける感じですよね?うぅ!寝ます!寝ますよ!私、寝ちゃいますから!知りませんよ!?いいんですか?!だって、することないじゃないですか?!もういいです!ふん、だ!おやすみなさい!!








 カツンカツン。


 ん~?あれ?靴の音ですかね~?これ。おはようございます!結構寝ていたと思うのですが…。


 カツン。


 お?だれか来たのでしょうか?


 ガコン!


 おおおおおぉ!壁が動いていきます!そこが出口だったのですか?!外の光!!私の呪い(?)の効果が今頃きたのでしょうか?!とにかく!誰かが来てくれました!


 扉が開ききると、立っていたのは某魔法学園の校長のような白髪に真っ白い髭のお爺さん。


『…』


 え?がっかりなんてしてませんよ?…美少年や美青年や美中年じゃなかったからって、がっかりなんて…。目覚めを促すのは王子さまがよかったなんてこれっぽっちも…思ってませんよ?


「…お久しぶりです。『聖剣』」


 え?だれ?私の知り合いですか?お爺さん。


「長きに渡る眠りを妨げて申し訳ありません」


 頭を下げるお爺さん。いえ、眼は覚めていましたよ?大丈夫です。と言うか…あれ?


 幽霊化している身体をお爺さんの目の前に移動させます。


『!!?』


 大変です!眼が合いません!!つまり…見えていません!!なんてこった!何のための幽霊化なんですか?!無意味!!無意味です!!


 え?これ、声も聞こえないってことですよね??


『えええええええええええぇ!!意味ない!やっぱり誰とも喋れないの?!私!!』


 泣きそうです!!あまりの意味のなさに泣きそうです!人型になった時、これで意思の疎通ができると嬉しかったのに、たった今、絶望に叩き落とされましたよ!?上げて落とされましたよ!!


『何のための人型なの――――――??!ひどいいぃぃぃぃ!!』


 私の大絶叫はやっぱりお爺さんには聞こえていなかったようです。お爺さんはじゃらりと鎖を外していきます。あれ?外していいんですか?完全に外れた鎖に嬉しくなります。


『これで、外に出れる?!』


 開いたままの扉にるんるんと向かおうとしたら…。びよ~ん!




 …ですよね?わかっていましたよ?やっぱり本体からは離れられないのですね。


 しょんぼり落ち込んだ私をよそに、お爺さんは大事に私を持って扉に歩いていきます。


 あぁ!待ってください!!私も…………。?


『あれ?』


 どうして、お爺さんが私を持てるのでしょう?このお爺さん、見た目は普通のお爺さんですが、もしかしたらむきむき筋肉なのでしょうか?でも、さっき、鎖を外す時、片手で持ってましたよね?


 お忘れの方もいるかと思うのですが、私を持てるのは勇者と魔法使い、聖女、騎士しかいないのですよ?他の人間は持てないはずです。重さを100倍にしているから…。最初10倍にしていた重さは10倍だと持てる人がいたので増やしました。それでも、持ち去ろうって頑張る方には、おまけで電流をプレゼントするようにしました。今は電流はしてませんよ?!さすがに心臓が今にも止まりそうなお年寄りに電流をあげるほど鬼ではないですよ、私は。ふよふよとお爺さんの周りを飛び回ります。が、こんなに目の前で逆さになったりアクロバティックな技に挑戦しているのに…見えないって、切ない…!


 ですが、このお爺さん…。…ん?


 


『…ああああああああああぁ!!』


 思わず叫んじゃいました!…誰にも聞こえないんですけど…。


『魔法使い?!』


 うそ!魔法使い!魔法使いです!お爺さんでがっかりなんて言ってごめんなさい!!はっ!!言ってません!そんなこと言ってないです!!がっかりなんて言ってませんとも!


『魔法使い!魔法使いだ♪』


 嬉しい!嬉しいです!かなり嬉しいんです!!私に尻尾があったら、はち切れんばかりでしょうね!眼が覚めたら、勇者はいなくなってるし、魔法使いも聖女も騎士も死んでしまったと思ってました!世界に一人ぼっちにされたのかと思っていました!この嬉しさを、魔法使いにぜひとも伝えなくては!!


「…暖かい」


 昔と同じ方法でしかこの喜びを伝えられないとは…!魔法使いが足を止め、じっと私を見つめます。…昔ほどの嬉しさがないのはダンブル○アになってしまった魔法使いにがっかりしているわけではないです…。昔は美青年の魔法使いに見つめられると恥ずかしかったんですが…。私も大人になったってことですね。うん!


「あぁ、私が誰かを…覚えていてくださったのですね」


『もちろん!会えてうれしい!!』


 あれ?魔法使いが泣いてしまいました!えぇ?!ちょ…!あなた、そんなキャラじゃなかったじゃないですか?!私はあなたに、「冒険者の初期装備の剣よりもしょぼい剣」「後に鉄くずにしかならない剣」と言われたことを忘れてませんよ!!毒舌キャラはどこに行ったの?!


「勇者…でなく…。あなたを起こすのが…あなたの最愛の勇者でなく…申し訳ありません」


 いいえ、今の私には、あなたがいてくれたことが何より嬉しいんですよ。伝わっているといいんですが。涙をぬぐう魔法使いは私をぎゅっと抱きしめて、階段を昇り始めます。


「本来であれば、あなたを起こしに来るのは勇者であるべきだったのですが…。勇者はあなたを戦争や王宮の権力争いの中に置くことを良しとしなかったのです」


『勇者。…だから私を封印したの?』


「結局、勇者は亡くなるまで、あなたのことを思い、もう一度会いたかったと懐かしそうに話していました」


 ゆうしゃ…!私も!もう一度会いたかったんです!眼が覚めてから、ずっとずっと勇者に会いたかった!死んでしまったと分かっているのに、ただたった1人、勇者に会いたかったんです。


『勇者、ゆうしゃ…』


 私はあなたのことずっと大好きでした。私の唯一の勇者、今でも、大好きで大好きで…。あなたが私を封印したことを勝手に勘違いして、私のことを考えてくれたのに、あなたを疑ってしまいました。あんなにも優しいあなたを「彼女(婚約者)ができたら昔の女はいらないの?!」とか少しでも疑って、ごめんなさい。


『魔法使い!私、勇者に会いたい!』


 涙は出ないのに、胸が苦しくて苦しくて仕方がないです。勇者。勇者のお墓はどこにあるのでしょう?今すぐに会いに行きたいです!


「今回、『聖剣』の封印を有事の時を除き解くことを禁止した勇者の遺言に背き、あなたの封印を解くことになったのは…まさに一大事が起こりつつあるからです」


『?なに?』




「先日…とある地方で一匹の猫が『魔族』化し、冒険者に討伐される事件がおこりました」




 魔法使いは痛ましい顔です。『魔族』化…それは、つまり…。


「…たった150年で…『魔王』の復活を許してしまうとは…。私も含め、人間と言うのは本当に…」


 魔法使いが頭を抱えてしまいました。そうですよね。『魔王』というのは言うなれば、世界中の悪意や憎悪、悲劇やマイナスのモノすべてが集まって、限界点に達した時に、発現するモノのことなのです。つまり、人間が平和で幸福に暮らしていれば、現れることのないモノなのです。それが…。


『討伐からたった150年で現れたの?!』


 びっくりです!歴史は繰り返す!『魔王』を倒す→敵いなくなり人間同士で争う→悪意が早く限界点に→『魔王』誕生→悲劇→『魔王』討伐→敵がいなくなり……。とんでもなくイタチごっこではありませんか?!あの旅は何だったのですか?!人間は学習というモノをしない生き物なのですか?!私も元人間ですけど…。




 ん?あれ?それよりも、気になることを聞いてしまいましたよ。150年…?



 魔法使い…何歳??


 





 私の疑問は解決されないままに、魔法使いは階段を昇り切ったようです。お――!ここはどこでしょう?!なんだか綺麗な廊下のようです!あれ?これは勇者の国のお城ですかね?柱の感じが記憶と同じです。


 きょろきょろと辺りを見回している間に、昇って来た階段は跡形もなく消えていました。すごい…。魔法みたいです。…ん?魔法か!魔法ですよ!!何を寝ぼけているんでしょう、私!!魔法の世界で魔法みたいって…。



 あれ?誰かが走ってこっちに来ますよ、魔法使…ぃ。



『ゆうしゃ…?』



 走ってきたのは、金髪に青い眼の、別れたころの勇者にそっくりな青年です。あぁ!勇者!勇者です!!この青年は似ています。まるで、時が戻ったようです!ふわふわと青年の周りを飛び回ります。でも、見えないようですね。


『勇者みたい!』


「何をしている?!魔法使い!遅いぞ!!」


 うわ!声もいっしょです!あぁ!懐かしい声に泣きそうです!


「申し訳ありません。王太子殿下」


 はっ!王子さま?王子さまなのですか?ということは…勇者の子孫なのですか?確かに気配がします!


「この剣か…?」


 王子さまが私をじっと見つめます。はう!勇者と同じ顔です。初めて会った時のようです。同じ顔で見つめられるとどきどきします。思わず、ない心臓を手で押さえてしまいます。




「なんだ、思っていたよりもクズ剣だな」




 ……ん?



「この俺が持つのに、こんなクズ剣だとは…。話には聞いていたが、本当にただの鉄剣か…。がっかりだな」




 ……んん?




「そうか、一度職人に造り替えさせればいいな。柄も鞘ももっと俺に相応しいものにすればいい。先代の勇者は平民出だったようだからこれでもいいだろうが、王族の俺にはあまりにも見た目がな…」




 ………。




「……王太子殿下。お言葉がすぎますよ。『聖剣』には意思がございます。あなたの言うこともちゃんと理解しておりますよ」


『……』


「ふん。ばかばかしい。そんなただのクズ剣に意思があるなどと信じられるか。いいから、それを持ってこい。父上がお待ちだ」


 


 呆れたような魔法使いを置いて王子はさっさと行ってしまいました。


「申し訳ありません。『聖剣』」


 歩き出した魔法使いは困ったように私に謝罪します。いやいや、どう考えてもあれはあなたのせいではありませんよ?


「勇者はすばらしい方でした。その息子も…その孫も…。勇者の想いを継ぎ、平和な世界を目指していました。ですが…」



 



 目の前には玉座があります。わぁ!すごい!アニメや映画の世界みたい!!とか思っていたら、その椅子に金髪に青い眼の豚が座っています。あ!失礼!…多分王さまが座っています。しかし、入った瞬間のこいつの第一声に私は豚で十分だと判断しました!大人げなくて結構です!!



「なんだ、王太子から聞いていたが、本当にクズ剣だな。本当に勇者の剣か?勇者と言っても、少しばかり強い冒険者なのだろう。それがたまたま運が良かっただけで王女と結婚できただけだ」



 あの豚は本当に勇者の子孫なのでしょうか?…遺伝子の不思議をここに見ました!あれ?昔同じことを思った記憶がありますよ。あれはいつでしたかね?しかし、あの勇者の子孫がこの豚で…その豚の子どもが勇者似の王太子…本当に不思議ですね。



「魔法使い、その剣を王太子の希望通り、造り替えるよう手配しろ。王族に相応しい剣にな」



 ねぇ、魔法使い。そう思いませんか?しかも、外見はともかくこの2人そっくりですね。そう言えば、勇者もおじさんにそっくりでした。外見は似てないのに、ふとした瞬間にすっごく似ていました。特に私を見る優しい眼は同じでした。



「王太子、持ってみたらどうだ?」


「こんな汚らしい剣、持つのも嫌です」


「そうですわ!陛下。こんな薄汚い剣をこの子に持たせようとなさらないでくださいませ」



 あれ。よく見たら豚の横にもやや豚の雌がいました。薄汚い扱いされて、ぽっちゃりと言い直すことは不可能ですね。もう子どもと言うには大きい王太子の頭を撫でていますよ。それを嬉しそうにしている王太子。マザコンと言うヤツですか?なんの感慨もわきませんね。おかしいですね。勇者が母親であるおばさんに頭を撫でられていた時にはあんなに微笑ましさを感じていたのに、今は鳥肌が立ちそうです!…幽霊には立つ毛穴もないみたいですけど…。


 それより、魔法使いがかなり怒っていますね。私を握る手が震えています。勇者に傾倒していた魔法使いにはとてつもない侮辱なのでしょうね。私以上に勇者の側にいた魔法使いですもの。それでも、この国にいるのは、勇者の子孫を放っておけないのでしょうね。まわりでくすくすと笑う貴族っぽい人にも騎士たちにも腹を立てているようですね。分かります。



「魔法使い、早くその薄汚い剣を持って行け」



 …さて、そろそろ私も我慢の限界ですよ?もう怒ってもいいですか?




 ねぇ?…勇者?







 よし、私怒っちゃうんだから!と思っていたら、私の想いを知ってか知らずか、魔法使いはさっさとバカ親子に退室の旨を伝えて出て行ってしまいました。


『ちょ…!魔法使い!止めてくれないで!私、これから怒りの雷をあの豚にお見舞いして、こんがり焼き豚にしてやるんだから!』


 聞こえないのは分かっているんですが、納得がいかないのです!


 だって、魔法使いだって、手が色を失うくらい強く私を握りしめているのに…。


 廊下を黙々と歩く魔法使いに私は付いていくことしかできません。…だって、本体から離れられないんです。早足で歩いていた魔法使いは、外に出て、大きな塔に入っていきます。


『おお!魔法使いの塔?!』


 中に入ると、魔法使いと同じようなローブを纏った人が、魔法使いに気付き、頭を下げていきます。


「師匠!」


 あ!正面から黒い髪の青年が走ってきます!美青年!!わあ!少したれ目な優しそうな美青年です。せっかくの美青年なのに、あの豚どものせいで私のテンションは底辺です。私を連れた魔法使いと青年はいっしょに1つの部屋に入っていきます。



「この剣が『聖剣』ですか?」


 目の前の青年が私を見ます。眼が合っちゃった!きゃ!


「『聖剣』さま。初めまして。私、師匠の弟子の1人です」


『ご丁寧にどうも。初めまして!『聖剣』です』


 聞こえないのは承知なんですけど。頭を下げて挨拶してくれた彼は、あの豚よりもよっぽどできた人間に見えます!


「暖かい…。どうやら、『聖剣』は君のことを気に入ってくれたようだ」


 魔法使いが気が付いてくれました!さすが!伊達に「勇者の嫁」とか言われてないですね!長年の付き合いが実を結んだ瞬間です!!…ん?なんか違うか?!


「さきほど…玉座の間では…陛下たちの言葉にどんどん『聖剣』が冷たくなっていたので…これは、私ともども呆れられたのかと思っていた」


『きゃああああああああ!!』


 なんと?!魔法使いの指先が冷たくなっていたのは、強く握っているからではなく、私のせいでした!!ひいいいい!ごめんなさい!!思わず、ソファに座る魔法使いの前にスライディング土下座をしてしまいました。無意識とはいえ、なんということでしょう!!


「なにか…あったのですか?魔法使いは師匠だけで良いと言われてしまい、私たちは塔にいるしかなかったのですが…」


 魔法使いが疲れた様にため息を吐きます。


「陛下たちは、『聖剣』の力を信じてはいないようだった。それどころか、汚らしい剣を造り替えろとまで…」


 ああ!魔法使い、あなたがそんな顔をする必要なんてないのに…!!ふわりと項垂れている魔法使いの頭に手を置こうとしますが、当然空ぶりますよね!わかっていましたよ!


「なんということを…!」


 弟子も怒っています。


「…師匠。どうなさるおつもりですか?」


「そうですね…」





 魔法使いはその後、私にお願いしてきました。王太子を見極めてほしいと…。


 私は嫌でした。…あんなに汚らしい剣扱いされて、なんであのバカ王太子に私を持たせてやらなきゃならないのですか?拒否したいです!


 でも、長い付き合いで私の最後の仲間でもある魔法使いに民を助けるためと説得されて、しぶしぶですが、了解をだしました。嫌な予感はしていました。私の人間を見る目は、けっこう第一印象で的中するのですよ。だから、この王太子がどうしようもないバカだと!考えられないくらい馬鹿だと!クズ中のクズな馬鹿だと!気が付いていたのに…。





「なんだ、本当になまくらだな。まったく切れないじゃないか」


 王太子は私を持って、近くに居た犬を私で試し斬りしようとします。当然、私は『魔族』の悪意のみを切り捨てる剣なので、犬の身体を幽霊みたいに素通りします。犬は驚いて、逃げていきます。…本当に止めてほしいです。嫌悪感が増すばかりです。


「おい、魔法使い。こいつは本当に斬れるのか?いざ『魔族』を前にして、やっぱり斬れませんじゃ困るぞ」


「斬れます。『魔族』化した人間はこの剣でなければ、救うことはできません」


 今、初めて『魔族』が出た町の近くに居ます。人間の『魔族』が出てしまった。そんな報告を受けて、王太子は試し斬りをしようと、止める魔法使いと囃し立てる護衛たちを引き連れて町にやって来たのです。


「今回は時間がなく仕方がないが、ちゃんと造り替えておけよ」


『…』




 ねえ、魔法使い。私はいつまで我慢すればいいのですか?









 目の前に差し出された首に私は固まってしまいました。


『……………ぇ?』


 驚きのあまり、私は差し出されたそれから眼を逸らせません。


「な…!なんということを!!!王太子殿下!!」


 魔法使いが怒っています。あぁ、身体が震えます。がたがたと音がしそうなくらい私の透明な身体は震えています。


 どうして?!!


 目の前に置かれた首だけになってしまった人間は…




 さっき『魔族』化から救えた…人間。




「ふん。一度『魔族』化した人間が安全とは言い切れないだろう?人間に戻せることが分かったから十分だ。だが…そうだな」




 王太子が下卑た笑みを浮かべます。これが王族?!これがあの勇者の子孫?!


「これから現れる『魔族』は家族が俺に『お布施』を差し出すなら…無傷で救ってやらんこともない」







 ぷっち――――――――――――――――ん。




 




 どごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!



「なっ!!なに?!」


「『聖剣』さま!!」



 あぁ。魔法使い、ごめんなさい。私は自分で思っていたよりも短気だったようです。キレました。怒りました。もう知りません!


 目の前には驚愕の表情の魔法使いと足の横に雷を落とされちびっている馬鹿、それに腰を抜かしている護衛。


 私の身体は宙に浮いているようです。怒りのあまり、新たな能力に目覚めたようですね。前は自分で浮くとかできませんでした。



「あなた…は?『聖剣』さま…なのですか?」



 魔法使いが変なことを聞いてきます。どこからどう見ても私は勇者の愛剣でしょうに。


『…そいつは…私の勇者じゃない』


 驚きに眼を見開いた魔法使いを放置して、私は浮く身体を空に向けます。魔法使いや馬鹿が何か叫んでいますが、知ったことではありません。


 ゆうしゃ、ゆうしゃ、ゆうしゃ!!!


 私は鳥よりも早い速度で飛びながら、ただただ勇者を捜していました。


『ゆうしゃ、ゆうしゃぁ!!』


 必死で空を飛ぶ私は、彼の笑顔を捜していました。お人好しで、ちょっとバカで、単純で、泣き虫で、それでもみんなの前では笑顔を忘れない。泣き言も言うけど、決して歩く足を止めない。彼は自分を犠牲にして人を救う道を選んだ。例え裏切られても、人を恨まない道を選んだ。傷を付けられても、人を傷つけない道を選んだ。


 あんなのは違う!あんなのはただの勇者の皮を被っただけの…モノ。


『勇者…!』


 ふと王城の森に、強く勇者の気配を感じて、そこに降りていきます。柔らかい芝生の感覚。森の中の湖の近く。


 そこには、お墓がありました。


 あぁ!勇者!勇者です!こんなところにいた!私の頬に何かが流れ落ちていきます。私は涙を零していることに気が付きました。私の中にある感情は、すべて勇者に関することなのです。怒りも喜びも悲しみも…。


『勇者!勇者ぁ!』


 ぽろぽろと涙が止まりません。


 勇者!勇者!私の勇者はたった1人なんです!あなたしかいないんです。あなたがいない世界は私の中でもうどうでもいいんです。勇者。


 お墓の前で私は勇者を呼びながら、泣き続けていました。







 どれくらい時間が経ったのでしょう。気が付くと、もう夕方です。


「やはり…こちらでしたか」


 振り向くと魔法使いがいます。どうせ私の姿は見えない、そう思ったのですが。


「あなたは…『聖剣』さまなのですか?」


 またそれですか?今更、何の確認なのでしょう?どこからどう見たって、私は何の変哲もない剣でしょうに。


「まさか…女性だとは…」




 ………ん?




 どういうことだと首を傾げた時、がさりと近くの茂みが揺れます。


 茂みから出てきたのは茶色の髪に黒い眼の15歳くらいの少年でした。お顔は…さっぱりした感じです。普通です。それしか言えないくらい普通です。


「これは…!」


 魔法使いが少年に頭を下げます。私は座り込んだまま、ぼんやりと少年をを見つめます。少年は手に花束を持っていました。寂れてしまっているようにも見える勇者のお墓。でも、お花だけはキレイなものが置いてあるのに気が付きました。この子が変えているのでしょうか?


「こんなところでどうしたんだ?魔法使い」


「あなたさまこそ…」


「僕は墓参りだよ。日参しているんだ。お前こそ、最近来ていなかっただろう?勇者さまが寂しがるぞ」


 笑う少年。その笑顔を見た時、私はふわりと暖かさを感じました。あぁ!いっしょです!



『勇者…?』



「え…?」


 少年は驚いたように私を見つめます。眼が合った瞬間、私の中に嬉しさがこみ上げます。


『勇者!!!』


 私は立ち上がり、少年に抱き付きます。私よりも大きな少年を強く抱きしめて、胸に顔を擦り付けます。


 勇者です!この少年は、勇者なんです!理屈とかじゃないんです!生まれ変わりとかでもありません。かっこよくもない。イケメン好きな私ですが、そんなものは関係ないんです!魂の色が同じとでも言いますか…。とにかく、この少年は…二人目の私の勇者です!


『勇者!勇者!!』




 驚いて固まった少年に縋り付いて泣く私はその時、気が付いていませんでした。





 私を見慣れているはずの魔法使いが、私のことを何度も確認していたことにも。


 少年が聞こえないはずの私の言葉に反応したことにも。


 触れられなかった他人に抱き付けているということにも。




 何も気が付くことなく、勇者に出会えた喜びにただただ涙していました。



読んでいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] キレた主人公に盛大な拍手もとい声援を送りたい 「もっとやれ!」と大きな声で スカッとしました! [一言] 続きが気になって仕方ありません 支障がないのならば是非!書いてほしいです!! いつ…
[一言] 主人公相変わらずの規格外である。そして続きがきになる。あと聖剣と言うより神剣のほうが正確な存在になっていくのでは。
[良い点] ボンクラが雷に打たれるシーンはスカッとしました。 [一言] シリーズという機能が有るので使ってみると良いかも知れません。
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