63.火曜創造神と巫女神と明かされる真実
「フェンリルさん!」
雷球の嵐を防ぎきったローズマリーがフェルを見て歓喜の声を上げていた。
と言うか、フェンリル? あの七王神最強と謳われた巫女神フェンリルか!?
「や、久しぶりね、マリー。でもいきなり正体をバラさないでよ。もう少し引っ張る予定だったのに」
「そう言うところは相変わらずですわね。それよりもフェンリルさんもこちら――AIWOnに引っ張られたんですか?」
「まぁ、わたしの場合は引っ張られたと言うより、元々ダイブしていたと言うのが正しいんだけど・・・と言うか、引っ張られたって、マリーはAIWOnにダイブしていたわけじゃないのね?」
「ええ。VRをしていたわけでもないのに気が付いたらこの中ですわ」
「そっか、だとすると――」
そう言ってフェンリルは少し考える素振りを見せる。
マグガイアは新たに現れたフェンリルに警戒を顕わにして、俺達から離れた場所に降り立っていた。
俺はその間、ユニコハルコンで唯姫を庇って致命傷を負っていたリュナウディアの治療を行う。
「リュナウディア、大丈夫か?」
「ああ、問題ない。しかし、彼女が伝説の巫女神、なのか?」
「恐らく間違いないかと。リュナウディアは唯姫を連れて下がっててくれ。七王神が2人も居れば十分すぎる戦力だろう」
流石にリュナウディアも文句は無く、唯姫を連れて下がる。
「フェンリルさんよ。取り敢えず考えるのは後にして、目の前の敵を倒そうぜ」
「それもそうね。まだこの後に八天創造神が控えているしね。
あ、そうそう、取り敢えずこの相手はわたし1人で十分よ。鈴鹿は唯姫ちゃんと一緒に下がってなさい」
「は?」
いや待て。このマグガイア相手に1人でだと? 幾らなんでも自惚れすぎやしねぇか?
だがフェンリルの言葉を受けてローズマリーも武器を収め大人しく唯姫たちの居る後方へと下がっていく。
「ほら、鈴鹿さん。後は彼女に任せればいいですわ。わたくしたちは邪魔にならないように下がっていましょう。
尤も邪魔になるまでも無くあっさり片が付くのでしょうけど」
俺はローズマリーに促されフェンリルの方を気にしながらも唯姫の居る方へと下がっていく。
・・・あれ? 何でフェンリルは俺の名前を知っていたんだ?
「何者ですか? 私のケツァルコアトルを受けて無傷とは・・・その雷、雷纏装のようにも見えますが、中身は全くの別物ですね」
「んー、悪いけど詳しい説明はパスね。貴方のような雑魚に構っている暇は無いからさっさと終わらせてもらうわ」
挑発とも取れるフェンリルの物言いに流石にマグガイアも怒りを顕わにする。
「ほう・・・この私が雑魚ですか。いいでしょう。私の本当の力を見せてあげますよ」
マグガイアは珍しく呪文を唱え、目の前に4つの赤と青と緑と茶の魔法陣が浮かび上がる。
それらの魔法陣は互いに溶け合い1つの大きな魔法陣が出現した。
「属性融合魔法・天衣無縫!!」
なっ!? 属性融合魔法だと!? それはまるで剣姫一刀流の奥義・天衣無縫じゃねぇか!!
俺の驚きを余所に、魔法陣が一際輝き辺り一面を白く塗りつぶす。
唯姫の放った限界を超えたバーニングフレアとは違い、輝きは一瞬だった。
見ればマグガイアの背後にはフェンリルが両の手に刀を下げた状態で佇んでいた。
「神威六連・雷霆」
フェンリルは両手の刀を拳銃のようにくるりと回転させ逆手に持ち、そのまま右手の刀を右の鞘に、左手の刀を左の鞘に納める。
と同時にそれを待っていたかのようにマグガイアが地面に崩れ落ちた。自信満々に放った魔法陣も跡形も無く消え去っていた。
おそらく効果を発揮する前にフェンリルによって砕かれたのだろう。
「すっげ・・・本当に一瞬で決着がついてしまったよ」
と言うか、刀を仕舞う動作などは洗練されていて、悔しいがちょっとカッコいいと思ってしまった。
残心を思わせる佇まいも王者の雰囲気を醸し出していて、七王神最強と言うのも頷けるものだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「唯姫ちゃんは大丈夫?」
「ああ、限界以上の力を使って気を失っているだけだ」
マグガイアを倒したフェンリルは間違いなく倒れていることを確認してから纏っている雷――神降しとか言う戦技だろう――を解除し俺達の方へと近づいてくる。
「あ、フェンリルさん、彼から緊急避難口のカードキーを取らないと」
「カードキー?」
ローズマリーの指摘にフェンリルは首を傾げていた。
どうやらローズマリー同様に意図せずにAIWOnへ召喚された為、この辺の事情がまだ分からないのだろう。
「あ、それならあたしが捜しておくわ」
「おお、頼む・・・ってトリニティ!? 無事だったのか」
「酷いよ、鈴鹿。あたしの心配よりもユキの心配をしちゃってさ。寧ろあたしの方が一番身の危険が迫ってたんだけどー?」
確かに唯姫の放った天元突破バーニングフレアは甚大な被害を及ぼしており、その目標点であるマグガイアに一番近かったのもトリニティだ。
それ故に直撃とは言わずとも余波での影響がなかったか一番心配しなければならなかったのだが・・・すまん、完全に忘れていた。
「あ、いや、トリニティなら大丈夫だろうなーとか思ってたんで・・・」
「はぁ・・・それはあたしの事を信頼していたと好意的解釈で受け止めておくわ。鈴鹿がユキの事が一番だっていうのは今更だからね」
どうやら下手な言い訳をトリニティは素直に受け止めてくれた。
「貴女がトリニティね。鈴鹿がいつもお世話になっているわね。こんなんだけど見捨てずに傍で支えてあげてね」
「あ、はい。と言うか、あたしの方がいつも助けてもらってますので・・・って鈴鹿、この人誰?」
トリニティは初対面のフェンリルに戸惑いながらも返事をし、最後の方は小声で俺に聞いてきた。
「七王神最強の巫女神フェンリル。ローズマリーと同じく異世界人だよ」
「ちょ・・・っ!? 何でそんな大物が鈴鹿をよろしくって言うのよ!? と言うか何時の間に知り合いになったのよ!」
「いや、それは俺も聞きたい」
なんでフェンリルがトリニティに俺の事をよろしく言うんだ? と言うか、その態度も嫌には感じないんだよな。逆に何処か気恥ずかしさを感じると言うか・・・
トリニティはフェンリルにビビりながらもカードキーを捜すためにマグガイアの元へ向かおうとした。
だがそれにフェンリルとローズマリーが待ったを掛ける。
「トリニティ、待って。戻ってきて」
「唯姫さんの攻撃は思わぬ効果を生んでいたみたいですわね」
2人の視線の先には瓦礫から這い出る者が居た。
「くくく・・・まさかこうも壊滅的にやってくれるとはな。
貴様らよくも俺様の大事な実験室と貴重な実験材料を駄目にしてくれたな! 貴様らのその魂で償いきれるとは思わない事だ。楽に死ねるとは思うなよ?」
這い出てきたのは火曜創造神だった。
ああ、唯姫の放った天元突破バーニングフレアは奴の実験室をも巻き込んだわけか。ざまぁねぇな。
「貴方が八天創造神ね。そしてArcadia社幹部の赤坂烈火ね。初めましてだけど会いたかったわ。ずっとね」
「貴様も異世界人か。しかもこちらの事情に詳しいだと? 何処の手のものだ、貴様」
いや、それは俺もビックリなんだけど。
何でフェンリルが八天創造神がArcadia社の幹部だって知ってんだ?
八天創造神が異世界人なのは分かっても、このAIWOnの黒幕のArcadia社の幹部だって知っている人は一部の者だけなはず。
あ、いやでも、火曜創造神――赤坂烈火が言うようにAIWOnの秘密を探ろうとしていた他社の調査員か?
AIWOnの意識不明者事件を考えれば疑問に思って調べる者が居て当然か。
あるいは更に突っ込んでこいつらの真の目的の不老不死の秘密を知った者かもしれないな。七王神がAngel Inプレイヤーならその秘密に辿り着く可能性もあるか?
「そうね、こう言えば貴方にも分かるかしら。わたしの名はフェンリル。23年前の事件に楔を打ち、真実に近づいた者よ」
「なっ!? 貴様があのフェンリルだと言うのか。ちっ・・・やっかいな。
・・・いや、逆にこれは好都合か。Angel In Onlineを生き抜いた最強のプレイヤー。その者の魂を調べられるとはまたとない機会だ」
フェンリルの正体に驚いたものの、赤坂烈火は逆にやる気を出し始めた。
それに対してフェンリルも前へ出て赤坂烈火と相対する。
「鈴鹿達は下がってて。こいつもわたし1人で相手するわ」
そう言って俺達を下がらせようとするフェンリル。
だが俺はそれに待ったをかける。
「待ってくれ、フェンリル。こいつの相手は俺にさせてくれ」
そう、こいつは俺の獲物だ。他の誰にも渡さねぇ・・・!
「何を言っているのよ。相手はArcadia社の幹部よ。1人で相手するのは危険よ。大人しく下がってわたしに任せなさい」
「いや、そいつは聞けないな。唯姫は1人・・・いやトリニティのサポート付きでだがマグガイアを相手したんだ。俺の力になるために。だったら俺も唯姫にそう思わせるように八天創造神を1人で倒せるくらいの力を見せないとな。
それに・・・こいつは是非とも俺の手で倒したいんだ」
唯姫をあんな目に遭わせた奴らを他者の手だけで倒してそれで納得出来るわけないだろう?
鳴りを潜めていた俺の中の燻りが再び燃え広がり殺気となって周囲に撒き散らす。
その様子を見ていたフェンリルは少し考え、最終的には了承してくれた。
「但し、鈴鹿に身の危険が迫ったら介入するからね」
「ああ、それは俺の力が不足していたと言う事だ。文句はねぇよ」
それは俺が唯姫に言ったセリフでもある。逆に言われれば納得するしかないだろうな。
「後、一言アドバイスを。
神秘界に来てから鈴鹿に何があったのかは今は聞かないわ。貴方のその様子を見るからに喜んで話すような事でもないでしょう。
でも怒りには飲まれないで。怒りに飲まれるんじゃなく、怒りを使うのよ。鈴鹿の怒りは鈴鹿の物。他の誰でもない、鈴鹿が一番知っている物よ。その怒りを武器としなさい」
「・・・分かった」
俺はフェンリルからアドバイスを貰い、そのまま赤坂烈火の前に進み出る。
ローズマリーが盾を構え唯姫たちを庇うように前に出て、フェンリルがそれをサポートするように横に並び立つ。
七王神2人が居ることによって少なくとも後ろを気にする必要は無くなった。
これで思う存分やれる。
そう思うと俺の中の何かが鼓動する。
早く暴れさせろと。
「何だ貴様は。雑魚には用は無い。あの女を出せ」
「残念だが、お前がフェンリルとやることはねぇよ。ここで俺がお前を殺すからな!」
「はっ、面白い事を言う。雑魚は後で相手してやる。さっさとそこの女を出せ」
俺は返事の代わりに小手調べとしてオリジナルアイスブリットを放つ。
だが放ったアイスブリットは途中で威力が削がれ、赤坂烈火に届く前に地面へと落ちた。
「・・・そうか、余ほど先に死にたいらしいな」
そう言って赤坂烈火は何処からともなく剣を取出し俺へ差し向けた。
八天創造神がArcadia社の幹部なら、剣道の経験でもない限り現代人としてそれ程脅威にはなりえない。
気を付けるべき点は、愚者The Foolのレベルダウンフィールドみたいなさっきの現象だ。
攻撃が赤坂烈火には届かない。いや、遠距離攻撃が効かないのか?
まずはその秘密を解き明かす!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
予想通りと言うかなんというか、赤坂烈火は剣を持ってはいるが剣術のけの字も知らない素人同然だった。
剣速はそれなりにあるのだが素直すぎるのだ。
それなりに場数をこなした俺にしてみればそこを攻撃しますよと言うテレフォン攻撃のようなものだった。
当然剣戟では俺に軍配が上がるが、奴の謎フィールドの所為で俺の攻撃は殆んどが封じられていた。
謎フィールドは遠距離攻撃だけじゃなく近医距離攻撃にも影響があり、俺の振るうユニコハルコンは奴に届く前に威力を無くしほぼ停止状態に陥るのだ。
【威力・速度は十分。だが奴に近づくとそれらが失われるな】
「レベルダウンフィールドとは違い、力が入らないと言う訳じゃない。別の要因で攻撃が止められていると言う訳か」
【主よ、その秘密も大よその予測がついたぞ。これまでの攻撃で判明したのは速度が奪われるようだ】
「速度が乗らなければ威力は失われ攻撃が届かない、か」
【うむ。我の攻撃だけじゃなく、主の瞬や足捌きの動きが鈍くなることからその要因と考えられよう】
「瞬刃をかまそうと思って突っ込んだら水の中に入ったみたく空気が重くなったのはそう言う事か」
「何をっ! ブツブツ言っているっ! ええい、クソッ! 何故当たらんっ!!」
俺は赤坂烈火を攻撃しながらもユニコハルコンとこの謎フィールドを検証していた。
そして攻撃が当たらない赤坂烈火はムキになり、意地でも剣で攻撃を当てようとしていた。しかも謎フィールドに頼り切りらしく、どうやら攻撃手段は素人剣だけで魔法は使えないみたいだ。
こっちとしてはありがたい事だ。
「お前のその謎フィールド、何となくだが分かったぜ。速度を奪うフィールドだな」
俺は一度距離を取って赤坂烈火に指摘する。
赤坂烈火はその指摘に少しばかり驚いた表情を見せた。
「ふん、避けるだけが上手い奴がよく分かったな。
そうだ、俺様は【流れ】を司る火曜創造神・赤坂烈火。AIWOnに於いてこの俺様にいかなる攻撃も届かない」
【流れ】って・・・それってどちらかと言うと水曜創造神向けじゃね?
「このAIWOnは俺様達八天創造神が創り上げた世界だ。それぞれの創造神はこの世界の構成に何かしら携わっている。
俺様が携わったのはこの世界に物理的に構成された物を動かす流れを作る事。大気然り、水流然り、エネルギーの流れ然り。故に俺様は【流れ】を支配し、貴様らの攻撃の【流れ】を止めることが出来るのだ」
なるほどね。腐ってもこのAIWOnを創りあげた創造神って訳か。
謎フィールドの秘密が分かったとは言え、厄介だな。
・・・ふむ。だが手が無いわけじゃないが、問題はそれを実現できるかだな。
そんな俺の考えを余所に、赤坂烈火は攻撃の当たらないイラつきが限界に達したのか、次の手を打ってきた。
「とは言え、こっちの攻撃が当たらないのも事実か。
くそ、これをやると筋肉痛になるからやりたくはなかったんだが・・・」
次の瞬間には俺の懐に入り込んでいた。
しかも剣速はこれまでと比べ物にならない程速度が上がっていた。
「くっ!」
俺は慌てて剣姫流の足捌きで辛うじて躱す。
赤坂烈火はそのまま攻撃の手を緩めずに立て続けに間合いを詰めて剣を繰り出す。
ちっ、急に速度が上がりやがった、こいつ!
【なるほど。【流れ】を操るのであれば自分の【流れ】も操れるわけか】
そう言う事か。だが何故これまでそれを使わなかったのか。
【おそらくだが、先のセリフから自分の体にも負担が掛かるから使いたくても使えなかったと言う事だろう】
ユニコハルコンの言葉に納得する。
幾ら速度が速くなったところで使っているのは碌に鍛えていない自分の体だ。当然反動があるわけだ。
急に速度が上がった赤坂烈火の攻撃の前に俺は体に傷を作り上げていく。
だが致命傷は避けていた。
幾ら攻撃速度が上がったと言ってもやはりそこは素人剣。攻撃が読みやすい。
つけられる傷もユニコハルコンで治すからそれほど脅威でも無い。
が、こっちの攻撃も当たらないんだよなぁ。
どうするか悩んでいると、赤坂烈火は攻撃の手を止めこちらを睨む。
「ちっ、雑魚のくせして治癒能力持ちだと? 生意気な」
流石に目の前で傷を癒されれば気が付くか。
だが赤坂烈火はこの後言ってはならない事を言った。
「ふん、だが良い実験材料にはなりそうだな。
Angel Inプレイヤーが2人に治癒能力持ちが1人。残りの3人ももしかしたら掘り出し物か?
だが竜人は兎も角、残りの女2人は大したことがなさそうだな。
いや、バラして隅々まで見れば案外いけるか?」
「あ゛? 誰をバラすって?」
唯姫をまたあんな目に遭わすと言うのか!!!
「ん? 貴様の女か? くははははっ、それは好都合だ。貴様の目の前でバラしてやろう。
治癒能力持ちの感情が何処まで魂に影響あるか興味深いな!」
ふざけるな!!!
「ほう、これは面白い。まさか貴様もユニーク職持ちだったとはな」
怒りが俺を支配する。
それに呼応して俺の体も変化する。
暴虐の嵐を生む鬼獣へと。
「GU・・・GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――!!!!」
獣と化したオレは無造作に赤坂烈火に襲い掛かる。
【流れ】停止フィールドもお構いなしにだ。
「くくく、いいぞ。もっと見せろ! 貴様の怒りの姿を! 魂の根底を曝け出せ!」
「GURAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!」
【主! 目を覚ませ! フェンリルが言っていた怒りに呑まれるな! 怒りを使いこなすんだ!】
ユニコハルコンが何か言っているが、今のオレには聞こえない。
唯姫たちの方を見れば、フェンリル達がオレを止めようと動き出そうとしていた。
「ちっ、あの馬鹿、あれ程飲まれるなと言ったのに。マリー、あの馬鹿を止めるわよ」
「あの力は・・・ヴァイオレットさんの鬼神の力じゃないですか。後で詳細を話していただけるのでしょうね?」
フェンリルは刀を抜き、ローズマリーは驚きつつも盾を構える。
「待って、ここはあたしに任せてもらえないかな?」
それに待ったをかけたのはトリニティだった。
「トリニティ・・・貴女、あれを止められるのかしら?」
「うん、前にも1度止めたことがあるから大丈夫だと思う」
「・・・そう、なら任せるわ。もしダメならわたし達が出るからね」
その間にも俺は我武者羅に赤坂烈火に襲い掛かっている。
鬼獣の怒り任せに繰り出すユニコハルコンすらも【流れ】停止フィールドに阻まれ動きを鈍らせる。
だが今のオレにはそんなのは関係ない。
赤坂烈火の攻撃も殆んど躱すことなくその身を晒しながら無駄な攻撃を繰り返す。
トリニティはそんなオレ達の元へ肩を怒らせゆっくりと歩いてくる。
赤坂烈火はその近づいてくるトリニティに気が付き、あまりにもあからさまな態度に眉を潜めて警戒してオレから距離を取った。
オレは赤坂烈火の様子にその時になってトリニティが近づいてきていることに気が付く。
トリニティがオレの前に立ち、オレはトリニティを見て暫く考え込み、次の瞬間には敵として認識して攻撃しようとする。
「GA・・・!」
「目を覚ませっ! このバカ鈴鹿!!」
が、その前にトリニティの拳の一撃が見事オレの顎にヒットし、目に星が飛ぶ。
「ってーー!! 前は平手打ちだったのに今度はグーかよ!!」
「前は平手打ちでも目を覚まさなかったからグーになたに決まっているでしょ! それよりいい加減目が覚めた?」
「あ・・・」
トリニティの言葉でようやく俺は自分が何をしていたのかを理解する。
「あー、くそ。またやっちまったのか」
「ほら、反省は後よ。まだ鬼獣化しているからとっととあいつを倒してきなさい」
そう言えば・・・トリニティに殴られて理性を取り戻したが、俺の体はまだ鬼獣と化したままだった。
そう、今のこの体なら赤坂烈火の【流れ】停止フィールドを突破することが可能だ。・・・と思う。
「ああ、直ぐ片付けてくる。トリニティは下がってろ」
俺はトリニティを下がらせ鬼獣形態のままユニコハルコンを握りしめる。
【ようやくお目覚めか、主よ。我を手にしておきながら2度も暴走するなど嘆かわしい】
「あ~~、すまん。つーか、こればかりはなぁ・・・怒りがトリガーになっているのは分かってはいるんだが、俺に唯姫の事で怒るなと言う方が無理だと思うぞ」
【では怒るたびに暴走するのか? まぁそれは後で反省するとしてさっさと決着を付けようぞ。主には策があるのだろう?】
「ああ。奴は【流れ】を操ると言っても、急に100から0に出来る訳じゃない。そこに時間差が生じる。要はそれを上回るスピードを出せばいいってわけだ」
【なるほど。その答えは瞬を越えた瞬か】
「ご名答」
疾風迅雷流奥義・瞬、それをそれ以上の速度で撃ち出す。即ち瞬動を高速ではなく、光速で。
そうすればあんなちんけなフィールドは簡単に突破できる。
通常の肉体だと限界を超えなければ不可能だが、好都合にこの鬼獣の体ならかなり容易になる。
「くそ、上手い具合に魂の暴走が起こったのに、落ち着きを取り戻しやがった。あの女余計な真似をしやがって・・・!」
赤坂烈火は俺が理性を取り戻したことで実験材料にならなくなったのを悔しがりブツブツ文句を言っていた。
俺が構えを取ったことでこちらに気が付き、怒り収まらぬまま剣を構える。
「まぁいい、先ほどまでの怒りが寝食した分だけでも十分実験材料になる。さっさと片付けて今日のメインディッシュと行こう」
残念だが、今日のメインディッシュはお預けだよ。
俺は大地を踏みしめ最大速度で瞬を放つ。
瞬間、真っ白な世界が目に映る。ただそこにある赤坂烈火のみを残して。
「剣姫一刀流超技・閃刃」
光速で放つ瞬で体ごとぶつかるようにユニコハルコンを放つ瞬刃。それが閃刃。
閃刃を放った直後、俺は着地を失敗してもろに頭から城の瓦礫の山へと突っ込んでしまった。
「あたたたた・・・くそ、思いっきり着地を失敗してしまった。思ったよりも体が着いてこなかったなぁ」
【主よ。これでは光速にすらもなっていないぞ。精々音速越えがいいとこではないか?
それと、この技を使う時は周囲の状況も確認した方がいいぞ。音速を超えた衝撃波で周囲の瓦礫も飛び散ってしまっているではないか】
ユニコハルコンに言われて周囲を見れば瓦礫の山は周囲に飛び散り更なる被害を生んでいた。
おおう・・・これはちょっと予想外。
そして肝心の赤坂烈火だが、これは結果を見るまでも無い。
当の本人は何が起こったか分からずに死んでいっただろう。
俺の一撃は赤坂烈火を左肩から右脇腹にかけて上下に真っ二つに斬られてそのまま崩れ落ちていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
決着が着いた事で、トリニティ達が俺に駆け寄ってきた。
だが俺は鬼獣の姿は解除されており、閃刃を使った反動か俺は力が入らない状態で瓦礫の中に埋もれている。
「ちょっと! 凄い攻撃だったのは見れば分かるけど、余波が凄すぎて緊急脱出口のカードキーまで吹き飛んでしまったわよ。探すのに一苦労よ、これ」
トリニティが「どうするのよ」と言いながら呆れていた。
まぁ、そこは『AliveOut』から人を出してもらうと言う事で。
「はは、凄まじい戦果だな、鈴鹿。クランマスターがお主を『最強の血を受け継ぎし者』だと言ったのがよく分かった」
リュナウディアは未だ気を失った唯姫を背負いながらも俺の戦いに感銘を受けたみたいだ。
と言うか、その『最強の血を受け継ぎし者』っての止めて欲しいんだが。
「なんでしょうかしら、これ。既視感? この無茶っぷりはどこか懐かしいですわね」
ローズマリーは首を傾げながら何故かどこか遠くを見つめていた。
何か過去に酷い目にでもあった事があるのだろうか。
「はぁぁ・・・無茶苦茶すぎるわよ。わたしの若い時でもここまで酷くなかったと思うけど・・・
報告に聞いていた以上に酷いわね。それともアイが居ないからこうなのかしら」
フェンリルは俺のあまりの酷さに頭を抱えていた。
って言うか、待て。報告って何だ。俺の事を誰から聞いているんだ。と言うか、アイさんを知っているのか!?
「俺の事を知っているのか・・・? アイさんも・・・?」
俺の呟きを聞いたフェンリルはにんまりと微笑む。
「あら、まだ分からない? ショックだわぁ~鈴鹿なら分かってくれると思ったのに。所詮わたしと鈴鹿はそれまでの関係だったのね」
「おい、誤解されるようなことを言うな。初対面だろ、俺とフェンリルは」
「くくく・・・初対面じゃないんだな、これが。まだ分からないか? 俺だよ、俺。お前の親父だよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!?」
ストックが切れました。
暫く充電期間に入ります。
・・・now saving




