59.自動技師と唯姫と木曜都市
大神鈴鹿、神秘界に降り立つ。
大神鈴鹿、『AliveOut』のメンバーと出会う。
大神鈴鹿、唯姫を助けるため土曜都市へ向かう。
大神鈴鹿、唯姫の惨状を見てキレる。
大神鈴鹿、唯姫の手足を補うためThe Foolと戦う。
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魔動機。
マジックアイテムと勘違いしやすいが、厳密にはマジックアイテムと魔動機は違うアイテムだ。
マジックアイテムは誰でも使えるのに対し、魔動機は魔動機術師が扱う専用器具で、他の者には扱えないアイテムとなっている。
より詳細を述べるなら、マジックアイテムはそのアイテムに込められた魔力を使うので誰でも使える。
魔動機は術者である魔動機術師がその魔動機の仕組みを理解して魔力を込める為、他者には使用不可能なのだ。
いわばマジックアイテムは大衆向けの電化製品で、魔動機はプロ向け用の専門器具と思ってもらえればいい。
但し例外も存在する。
魔動機術師ではないが、自分の魔法(魔力)を込めると言う点で、本当ならチャージアイテムも厳密に言えばマジックアイテムではなく魔動機と言う扱いになるのだ。
まぁ、誰でも使えると言う点から世間一般ではマジックアイテム扱いになってしまっている。
そして今回俺の目的の自動義肢も使用者のみの魔力を使用する事から魔動機なのだが、魔動機術師でなくても使用できることからマジックアイテム扱いされているアイテムでもある。
俺達は白土城の宝物庫から自動義肢を見つけ、早速唯姫の元へと駆けつけた。
大勢で行く事も無いので、向かうのは俺とトリニティとレイダとユリアだ。
何よりあの姿の唯姫を他の者に見せるのは忍びないと言うのもある。
トーキとザウザーは他の『AliveOut』メンバーと後片付け兼宝物庫の探索に当たってもらう。
「自動義肢を手に入れて来たぞ。そっちの方はどうなった?」
「こっちも治療はほぼ終了よ。普通に会話できるくらいに大分マシになったはずよ。
ただ・・・流石に完全にとは言い難いわね。あれだけの事をされたのだから心的外傷は残るわ。確実に」
神秘界の騎士・The Loversことラヴィは、心が壊れかかっている唯姫の心的治療に当たってくれていた。
何でもラヴィは人の恋バナを聞くのが生きがい?だと言う。
俺と唯姫のそれにまつわる話を聞きたいが為に俺達に協力をしてくれている。
その神秘界の騎士の力を持ってしても唯姫の心に刻み込まれた傷は完全には癒せないと。
・・・いや、それでも会話が出来るようになっただけでもマシか。
一度目覚めた時の荒れ具合を見た後ではそう思ってしまう。
「じゃ、幼馴染ちゃんに自動義肢を付けて頂戴」
俺はラヴィに促され被されたシーツを取り、唯姫の手足を見る。
改めて唯姫の失った手足を見るとその凄惨さを見せつけられた。
腕は付け根――肩より少し下の部分から失い、脚は太腿――股関節付近から消失している。まるで生きた達磨にするかのように。
クソッたれ。
唯姫のこの姿を見ては俺は胸を抉られる気持になる。
もう少し早く来ていれば、もう少し強ければ、いや、何よりも唯姫の居るアルカディアを最優先していれば。
後悔してもしきれない。
取り敢えず気持ちを落ち着け、唯姫の手足に自動義肢付ける。
義肢と聞くと人の手足を模した医療器具を想像すると思うが、AIWOnの自動義肢は見た目がただの腕輪みたいなリングとなっている。
切断された部分に被せるように腕、脚、それぞれに自動義肢を付けると、そこから生えるように手足が構成される。
骨・筋肉・血管・皮膚と言った具合に気が付けば生来の物と遜色ない具合に再生されていた。
勿論触感も模造品なんかとは違い、正に生の感触で人の手足そのものだ。
すげえな、これ。これなら付け根のリング以外は違和感が無いはずだ。
「後は目を覚めさせるだけね。心の準備は良い?」
「ああ」
平静を装って言うものの、一度目覚めた時の姿を思い出しては気持ちが不安になる。
そんな俺の心情を読んでか、トリニティが俺の肩に手を置いて大丈夫だよと言う。
「ラヴィが言ってたでしょ。ユキが思う鈴鹿への気持ちを心の薬にするって。
何? それとも鈴鹿は唯姫のその気持ちが足りないって思っているの?」
「いや、そんなことは無いよ」
気づかないふり・・・と言う訳ではないが、俺だって唯姫の気持ちが誰に向いているか分かっている。
だからこそ心配にもなる。助けに来なかった俺を唯姫は裏切られたと思っていないか。
だが、ラヴィは会話できるくらい心を治療したと言っている。だから大丈夫だろう。
唯姫はちゃんと心を取り戻せたはずだ。
「うふふ、いいわねぇ~、これぞ青春! これぞ恋バナ!
ねぇ、いい? いい? 幼馴染ちゃんを目覚めさせてもいい?」
ラヴィはニヤニヤしながら俺達を見ていた。
そしてラヴィだけじゃなく、レイダとユリアもニヤニヤこっちを見ていた。
「あ・・・か、からかわないでよ。いいからやっちゃって。鈴鹿ももう大丈夫でしょ」
その視線に気が付いたトリニティはラヴィに突っ込まれ顔を赤くしながら早く唯姫を目覚めさせるように促した。
「ああ。ラヴィ、頼む」
「あいあいさー」
ラヴィは唯姫に手を翳し、淡い光を放つ。
数秒もしないうちに唯姫が目を覚ました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あ・・・」
唯姫はゆっくりとその身を起こして周囲を伺う。
「唯姫・・・俺が、分かるか・・・?」
「鈴くん・・・」
その言葉に俺はホッとする。
少なくとも前回の時と違い、俺を認識し乱れた様子も見えない。
「あたし・・・そっか、鈴くんが助けてくれたんだね」
唯姫は腕をさすりながらそのまま付け根まで持っていき、一見腕輪のアクセサリーに見える自動義肢を触る。
同じように太腿の自動義肢も感触を確かめるようにしていた。
俺はその様子を見て唯姫が自分の身に起きた出来事を理解しているのが分かった。
「唯姫、お前・・・覚えて、いるのか?」
「・・・・・・うん。思い出したくもない事だけど、ハッキリと自分の身に何が起きたか理解している」
「いや、無理して思い出さなくてもいい。あんなこと思い出さない方がいい」
「ううん、大丈夫。鈴くんが、助けに来てくれたからもう大丈夫よ。鈴くんが傍に居てくれるだけであたしは強くなれる」
赤面するようなことを平気で口にする唯姫。
俺の後ろではトリニティ達がニヤニヤしているのが見えそうだ。
だが、俺の心は寧ろ深く沈む。唯姫が大丈夫だと気丈に振る舞えば振る舞うほど。
「すまん、唯姫。俺がもう少し早く来ていれば・・・」
「鈴くんは助けに来てくれた。あたしのピンチに颯爽とカッコよくとまではいかなかったけど、ちゃんと助けに来てくれた。だからそんなに自分を責めないで。ね?」
そう言って唯姫は俺の手を取って両手で優しく包む。
そう、だな。これ以上自分を責めてもその姿を見せただけでも唯姫が申し訳なく思ってしまうな。
だったら表面上だけでも助けた事を喜んでいよう。
「ディープブルー、済まなかったな。俺が土曜都市への救出を頼んだばかりに」
「っ!」
俺とのやり取りが落ち着いたのを見計らって、レイダが唯姫に謝罪を申し出ようと1歩踏み出すと、その途端、唯姫はビクリと肩を震わせ縮こまってしまった。
「あー、そこの男の人は幼馴染ちゃんには近づかない方がいいわね。やっぱり心的外傷が残っちゃったわね。見たところ極度の男性恐怖症が発生しているっぽいわ」
ラヴィがレイダにそれ以上近づくなと警告する。
そりゃそうだ。あんだけ男の欲望に身を晒されたんだ。男に対し恐怖を覚えるのは当然と言えよう。
その心的外傷は深く、ラヴィの力でもそう簡単には取り除けない、か。
「っと、そうか。あまりにも普通にしてたから気が付かなかったが、そうだな。配慮が足りなかった。済まない」
「う、ううん。ごめんなさい、レイダさん。あたしそんなつもりじゃ・・・」
「こればかりは仕方がないわ、幼馴染ちゃん。これは少しずつゆっくり治していかないと」
まぁ、唯姫も体が反応してしまったのだから仕方がないのだが、レイダに対し申し訳なさそうに身をすくませていた。
そんな唯姫を見てラヴィはこれは仕方のない事、だから唯姫の所為じゃないと慰める。
「その治療、お前が手を掛けることによって早く治療することが出来ないのか?」
「まぁ、私が付きっきりで治療を施していけば早く治るけど、こういうのってあまり急いでもいいことは無いわよ?」
「いや、頼む。お前の言う報酬が恋バナとかなら好きなだけ話してやる。だから唯姫の治療を最優先でお願いしたい」
「あら、まぁ。随分と切符がいいわね。それも全部幼馴染ちゃんの為、かな?」
ラヴィは治療は焦らないでゆっくりと、と言うが、俺は焦る必要があった。
このままじゃ唯姫は現実世界に戻った時に生活に不具合が生じるからだ。
極力男に関わらず生活出来ればそれに越したことは無いが、完全にとはいかないはずだ。
それに現実世界の人たちにとっては、急に唯姫が極度の男性恐怖症に掛かったことになり、不審な目で見られることになる。
それも原因がゲームだとなれば尚更だ。
だから神秘界に居るうちに一刻でも早く心的外傷を取り除く必要があるのだ。
「ま、主人公君のその男気に免じて幼馴染ちゃんの専任治療師をしてあげるわ。私がここまでしてあげるのは滅多にない事だからありがたく思いなさいよ?
あ、そうそう、ついでだからこれも上げるわ。私が主人公君を認めた証でもあるから有りがたく受け取りなさい」
そう言って、ラヴィは胸の谷間から銀のプレートを取り出した。
緊急避難口のカードキーだ。
「お、おう。そっちこそ随分と気前がよくなったな」
俺が戸惑いながらもラヴィからカードキーを受け取ると、唯姫が「エッチな目で見ない!」と言いながら腹をつねってくる。
いや、別に胸に目がいって戸惑ったわけじゃないぞ、唯姫。
「うふふ、そうねぇ。私も主人公君の事気に入っちゃったのかも」
おまけにラヴィはラヴィで唯姫を挑発するような発言をかましてくる。
その発言を受けて、何故か唯姫が俺に向かって「鈴くん、ああいうのが好みなの!?」と詰め寄ったりしてきたりもした。勘弁してくれ。
「そう言えば・・・The Foolもカードキーを持ってたんだよな」
The Loversのカードキーで思い出したが、The Foolのカードキーはどうなったんだ?
確かThe Foolは俺が鬼獣化して噛み千切った、んだよな・・・
やべぇ・・・カードキーまで噛み千切ってないよな・・・?
「ああ、それはトーキ達に片付けついでに探してもらっている。いや、カードキーを探すのついでに後片付け、か」
「トーキ達かなりげんなりしていたわね。まぁ、あれだけの惨状じゃ仕方ないけど」
ユリアはThe Foolの状態を思い出したのか、苦虫を噛み潰した様な表情をする。
そしてカードキーで思い出したのか、レイダは俺達に次のような提案をしてきた。
「鈴鹿、お前たちはこの後どうするんだ?
ディープブルーの救出はこうして目途が立った。後は神秘界からの脱出だと思うが、もしよければ俺達『AliveOut』に協力しないか?」
ああ、うん。レイダがそう言うだろうと予想は付いたよ。
神秘界の騎士を倒すだけの実力がある奴を野放しにするわけないよなぁ。
まぁ、確かに唯姫を助けた以上、俺達の次の目的は神秘界の脱出になる。
それには神秘界の騎士を倒し、緊急脱出口のカードキーを集めなければならない。
同じ目的の『AliveOut』に協力するのは最善なのだが・・・
問題は組織立って動くとなると、個人の主張が通らなくなることなんだよなぁ。
ギャンザのような例外はあるものの、レイダやユリアの様子を見るからにそれ程窮屈なクランではなさそうだ。が、組織と言うのは色んな者の思惑が絡みついて成り立っている。
余計な思惑に捉われて身動きが取れなくなるのは避けたい。
それに、神秘界脱出の他に、俺個人として八天創造神――Arcadia社の幹部を殺すと言う目的がある。
この目的が何処まで『AliveOut』で達成できるかと言えば微妙なところだ。
俺じゃなく、別の誰かに八天創造神を討つように命じるかもしれない。
俺としては出来るだけ俺の手で残りの八天創造神を殺したい。
まぁ、それには『AliveOut』の組織力を利用するのが一番早いのだろうが・・・
うーん、二律背反で悩む。
そんな俺に手を差し伸べたのは唯姫だった。
「ねぇ、鈴くん。『AliveOut』に入らないの? 『AliveOut』は神秘界からの脱出を目的としたクランだから入った方が早いよ」
「いや、それは分かるが・・・」
「あたしとしては鈴くんに『AliveOut』に入ってほしいかな。鈴くんが居ると心強いし。
それに、あたし『AliveOut』で活動していたから助けに来たからクラン抜けるって何か後味悪いし」
「そういやそうだったな。唯姫は『AliveOut』に入ってたんだっけ・・・って、待て。お前あんな目に遭ったにも拘らずまだ戦うつもりでいるのか!?」
ラヴィに心療治療をしてもらったからと言っても心的外傷が出来るほど酷い目にあったんだ。
普通なら前線から身を引いて後方支援とかに就くだろう。
実際、俺も『AliveOut』に入ったとしたら、唯姫の心を荒立たせないためにも裏方に徹してもらうつもりでいた。
それなのに唯姫はまだ戦うと言う。
「うん、あたしは戦うよ。あたしには戦う力があるの。あたしのような目に遭っている人を1人でも助けたいし、あたしのような酷い目に遭わせたくない。
だからあたしは戦うよ。
そりゃあ、あんな目に遭ったんだから怖いよ。怖いけど、ここで逃げたらあたし、一生立ち直れないと思うの。
1人じゃ無理かもしれないけど、鈴くんも一緒だもの。ね?」
そう言って唯姫は真っ直ぐに俺の目を見る。
ああ、こうなった時の唯姫はそう簡単に意思を変えない時の唯姫だ。
特に最後に俺を頼りにしているとおだてて自分の意見を通りやすくする所なんかそうだ。
だが、俺も素直に唯姫の意見を認める訳にはいかない。
俺は援護を求め、トリニティに視線を送る。
「本人がこう言っているんだからいいんじゃないの? ラヴィが治療を続けてくれると言っても、実際立ち直るのに必要なのは自分の強い心でしょ。少なくともユキの言う事に一理あると思うわよ」
まさかの唯姫への援護だった。
味方は居ないのか!?
そう思ってラヴィやレイダ、ユリアの方を見れば、3人が3人とも首を振って関わらない様にしていた。
解決するのは2人の問題だろとばかりに。
「あー、くそ。分かった。分かったよ!
『AliveOut』に入る。そして唯姫を守って神秘界の騎士をぶっ倒して現実世界に帰る! それでいいな!」
「べ・別に守ってもらう必要は・・・あたしだって戦うんだし・・・」
唯姫は顔を赤くしながらもごもごと呟いていた。
そんな余裕があるなと思うと同時に、それだけ心に平常を取り戻したことを喜ばしく思う。
「よし、そうと決まればまずは『AliveOut』の本拠地のある木曜都市に向かおう。
鈴鹿には是非クランマスターに会ってほしい」
レイダの決定で俺達は木曜都市ローズブロッサムに向かう事になった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
木曜都市ローズブロッサムに向かうのは8人。
俺と唯姫とトリニティ。それに唯姫の治療役のラヴィ。案内役のレイダとユリア、それと『AliveOut』から他2名。
トーキとザウザーは引き続き白土城及び土曜都市での後始末で残留だ。
何のトラブルも無く土曜都市を出発し、徒歩6日の行程を2日ほどで到着する。
移動に使ったのは土曜都市を手中に収めた事により鹵獲した走竜だ。
本来ならこの走竜は攻略部隊に配備されるのだろうが、『AliveOut』のクランマスターの命令で最優先で俺達に回された。
それだけ俺達の事を重要視しているのだろうか。
因みに、土曜都市は土曜創造神が死んだことにより強制支配から解放され、都市に住まうアルカディア人は『AliveOut』に協力するようになっており今後の活動拠点都市となる予定だ。
そしてそれはこの木曜都市でも同じような事が起こっていた。
他の都市のようにこそこそ隠れて活動するのではなく、俺達は堂々とその姿を表に晒している。
「どういう事だ? この都市は八天創造神の支配を受けていないのか?」
「いや、間違いなく木曜創造神の支配を受けているよ。ただ・・・木曜創造神は他の八天創造神と違うと言う事だな」
「・・・まさか、信じられん」
レイダは平然とそう言うがとてもじゃないが信じられない。
AIWOnで起こっている昏睡事件や神秘界に来てから目の当たりにした暴力による強制支配、そして唯姫に行ったような凌辱行為などを考えれば信じる方がどうかしている。
当然何か裏があるのではないかと疑ってしまうのは当然と言えよう。
「鈴くん、少なくとも木曜都市は安全よ。だからそんなに警戒しなくても大丈夫よ」
「む」
その一番の被害者である唯姫がそう言えば俺はこれ以上は何も言えない。
だが唯姫は警戒しなくてもいいと言うが、最低限の警戒は必要だ。
俺はトリニティに目配せをして周囲を警戒するように促す。
トリニティの祝福・危険察知に掛かれば奇襲等の危険は回避可能だからな。
「こっちだ」
レイダに連れられ俺達は都市の中心部よりやや離れた屋敷へと向かう。
この周辺は貴族などが住むような整備された区画っぽく、俺達が向かう屋敷もここから見る限りじゃ豪邸とも言える建物だった。
「てっきり中心部の城に向かうのだと思っていたけど・・・」
トリニティは都市の中心に居を構える城――つまり木曜創造神の城に向かうものだと思っていたらしい。
実は俺もそう思っていた。
この木曜都市の状況を見る限り木曜創造神は既に倒されていると思っていたのだがどうもそんな感じではなさそうだ。
木曜創造神の城――木原城には間違いなく木曜創造神が居るとの事だ。
「その辺りの事、説明してもらえるんだろうな?」
「さぁ、どうだろうな? 少なくとも今の鈴鹿には話せることは無いと思うぞ」
――っ! こいつ・・・
どうやらレイダの奴は俺が八天創造神に殺意を抱いている事を薄々感づいているっポイな。俺の暴走を抑える為にも今は情報を制限している、と。
流石に部隊の長を任されるだけあって一筋縄じゃ行かないな。
「唯姫は知っているのか?」
「うん、知っているよ。ただ、あたしの口から言うよりは実際に見た方が信じられると思うの。だから今は言わないでおくわ」
「うーん、そうだね。こればかりは実際に見てもらった方が早いかも?」
唯姫も知っていてユリアも知っている、となればこの都市に拠点を置く『AliveOut』じゃ周知されていると言うとか?
「ふーん、だけどこれから会うのはクランマスターでしょ? それとも木曜創造神も関係ある話なのかしら?」
恋バナ以外に興味が無いはずのラヴィもどうやら八天創造神の事は気にかかるらしい。
神秘界の騎士に対抗できる輩はそう居ない。どれだけ力があるか分からないが、少なくとも八天創造神はその内の少数の中に入るだろう。
ラヴィにも警戒されるのは当然か。
「・・・いや、今回は木曜創造神は関係ない。
クランマスターに会わせるのはクランマスター直々の要望だ。おそらくだが直に対面してのクランへのスカウトをしたいのだろう。
あの人の見る目は確かだからひと目鈴鹿を見て見極めたいのかもしれない。
そんな訳でこの都市の事や、木曜創造神の事はこの次と言う事になると思う。まぁ鈴鹿の見極め次第ではいつになるか分からないかもしれないが」
言ってくれるね。つまり俺の態度次第じゃ木曜創造神には関わらせないと言う事か。
それだけ木曜創造神には秘密があるって事か。
まさかとは思うが、敵対しているにも拘らず対応がおざなりと言う事は互いに慣れ合うような関係じゃないだろうな。
裏で繋がっているとかそんなふざけた事は無いと思いたいが。
「分かった。取り敢えず木曜創造神の事は置いておく。まずはクランマスターに会おう。話はそれからだ」
一際立派な屋敷――クラン『AliveOut』の本拠点らしい――に着いた俺達は屋敷のメイドに案内され執務室らしい部屋へ通される。
執務室の中には2人の人物が居た。
1人は幼女だ。
身長は140cmもなさそうだ。金髪碧眼の魔導師風の格好をしている。
もう1人は黒目黒髪の女性だ。
但しその姿はこの世界観には相応しくなく、スーツ姿だったりする。身長も高めで170cmを越えているだろう。如何にもキャリアウーマンを髣髴させる姿だ。
どちらかがクランマスターかと問えば普通ならキャリアウーマンだと答えるだろう。
だが正解は逆だ。
何故か幼女が立派な執務机の席に着き、キャリアウーマンが秘書のように傍らに立っているからだ。
「初めましてじゃな。わしがクラン『AliveOut』のクランマスター・ルーベットじゃ。
歓迎するぞ。最強の血を受け継ぎし者・鈴鹿よ」
次回更新は10/23になります。




