5.冒険者ギルドとエンジェルクエストと竜の巣
俺達はトリニティの縄をほどき彼女を自由にする。
トリニティは暫く俺を見つめながらおもむろに立ち上がる。
「・・・あたしがこのまま逃げるとは思わないのかよ?」
「ん? 逃げてもいいけど、その場合お前は王都には戻れなくなるぞ?」
「あんた等には実質的な被害は無いじゃないか。さっきとは状況が違い、あたしがすっとぼければお咎めなしだろ?」
まぁ確かにトリニティの強盗は未然に防いだ訳だから、盗賊ギルドや案内人ギルドに報告しても彼女が身に覚えが無いと言ってしまえばそれまでだが。
「どうせ魔法ありのこの世界の事だ。嘘を見破る魔法とかアイテムがあるんだろ?
そう言うのを使って物事の真偽を諮っていると思うがどうだ?」
「ぐっ・・・異世界人のお前が何でそのことを・・・」
おお、適当に言ってみたら当たってたよ。
もっともその場合は高レベルの魔法使いとか高価なマジックアイテムだからおいそれと使う事は出来ないだろうがな。
「まぁ、そう邪険にするなよ。お前はこれから俺達専属の案内人兼盗賊なんだからさ。
何だったら盗賊ギルドに収める今月のノルマ分立て替えておいてもいいんだぜ」
「マジ!?」
この提案には流石に食いついてきた。
まぁ強盗をするくらい切羽詰っていたんだから当たり前と言えば当たり前か。
しかし強盗しようとした人物から施しを受けるなんてプライドは無いんだろうか。
俺はトリニティから今月のノルマの足りない分を聞いて硬貨を差し出そうとすると、アイさんが自分が代わりにと硬貨を差し出して来た。
「私の所持金はかなりの額だからね。これくらいじゃどうってことないわよ」
確かにアイさんの所持金はさっき盗もうとしたトリニティの言葉が正しければゴルド金貨がかなり入っている事になる。
トリニティに聞いたこの世界の硬貨と俺達の世界の通貨を比較するとこうなる。
小銅貨= 1ゴルド= 100円
銅貨 = 10ゴルド= 1,000円
小銀貨= 100ゴルド= 10,000円
銀貨 = 1,000ゴルド= 100,000円
金貨 =10,000ゴルド=1,000,000円
金貨の上にも更なる硬貨があるらしいが、普通に生活していれば滅多に手に入れることは無いとの事。
上記の比較を見れば、アイさんは日本円にして数百万円持っていることになる。
「何かさっきの魔法と言い、所持金と言い、アイさんが初心者か疑わしくなってきた・・・」
「それはあたしも同意。いくら祝福でもあり得ない程優遇されているじゃない」
「あら、酷い言われようね。
でも鈴鹿くんにとってはプラスになれどマイナスにはならないでしょ?」
言われてみればそうだ。
唯姫を探すのにアイさんの力は有効に働くはずだ。
「ああ、そう言えば鈴鹿は幼馴染を探しに天と地を支える世界に来たんだっけ。
で、そいつの名前はユキだっけ? 姿かたちはどんなんだ?
不本意だけど盗賊ギルドの情報網で探してやるよ」
「ああ、唯姫は俺達の世界の名前であってこの世界じゃ・・・」
と、そこで俺は重大な事実に気が付いた。
唯姫のAIWOnでの名前や姿かたちを何一つ知らないと言う事に。
普通のVRMMOであれば名前は固定されているが、このAIWOnでは名前は自由に決められるし複数持つことも可能だ。
姿かたちに至っては一緒にログインしたことのない俺にはさっぱり分からない。
「はぁぁっ!? 名前も姿も分からないでどうやって探すつもりでいたんだよ!? お前バカじゃねぇのか?」
トリニティには呆れられる始末だ。
これには流石にぐうの音も出ない。
「いや、待て待て。何か手がかりがあるはずだ。・・・あるはず」
よく思い出してみろ。
唯姫は俺が興味が無いと言いつつもしつこくAIWOnのことを語ってたじゃないか。
「・・・! そうだ! この前、美刃さんって言う異世界人とクエストを一緒に攻略したって言ってた!
彼女に聞けば唯姫の名前や姿が分かるはずだ!」
俺の言葉にトリニティだけではなくアイさんも驚愕の表情でこちらを凝視した。
「・・・マジ? 美刃さんって・・・あのS級冒険者の『絶剣』の美刃さん?
クラン『月下』のクランマスターの美刃さん?
・・・うわーマジありえないわー」
え・・・? 美刃さんってそんなに有名なのか?
って異世界人でS級冒険者ってどんだけ廃人なんだよ。
つーか、それに付いて行ける唯姫もどれだけ廃人なんだよ。
後で聞いた話だが、クランと言うのは他のMMOであるようなプレイヤーが集まったグループ――ギルドみたいなものらしい。
美刃さんのクラン『月下』はかなり有名でそれなりに大規模なクランとの事。
「あー、取り敢えずその美刃さんに取り次ぐことは出来ないのか?」
「出来ないことは無いけど・・・はぁ、取り敢えず王都に戻ろうか。話はそれからだね」
そういやさっきから俺達はウェアウルフの死体の傍で話し込んでいたな。
トリニティに毛皮の剥ぎ取りを任せ俺達は王都へ戻る準備をする。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
王都に着いた俺達は取り敢えず冒険者ギルドを訪ねることにした。
「世界でも5人しかいないS級冒険者だからな。冒険者ギルドでもそれなりに行動は把握しているだろう」
盗賊ギルドへ行って美刃さんの情報を集めてもいいが、盗賊ギルドの場所は隠されていて符丁を知るギルド員でなければ見つけれない。
それ故、何処に居るかくらいは冒険者ギルドか美刃さん所属のクラン『月下』へ行けば事足りるのでわざわざ危ない橋を渡る必要は無いと言う事だ。
王都エレミアの冒険者ギルドは王城の近くに位置し、大勢の冒険者が集うためそれなりに大きい建物だった。
感じとしては市役所とかに近いな。
ただ、1階の受付カウンターの他に、素材の買取カウンターや冒険者ツールを売っている雑貨カウンター、情報交換の場として飲食が出来る食堂――いや酒場か?が広がっていた。
「そう言えば、普通は身分証明書発行の為に最初は冒険者ギルドで登録するのが普通だと思ったけど」
「・・・言われてみればそうだな。何故かここはスルーされてたけどな」
アイさんがふと思い出したような呟きに、俺は敢えてトリニティに厭味ったらしく言葉を差し向ける。
身分証明書の発行はファンタジー物のテンプレとしては冒険者ギルドは欠かせない要素だ。
だがトリニティは俺達を罠にはめるためにわざと冒険者ギルドをスルーしたわけだ。
来たばかりの初心者に身分証明書発行なんてことをせずそのまま連れ出してしまえば、何の痕跡も残さず消し去り所持金を丸ごと手に入れることが出来るわけだ。
「うぐっ、その話はもういいだろっ」
痛いところを突かれたトリニティは恨みがましく俺を睨みつける。
もっとも俺を恨むのは筋違いだろうよ。全部自分の自業自得じゃないか。
「折角だから私たちも冒険者登録しましょう。身分証明書はあって損する物じゃないからね」
アイさんの言う通り身分証明書はあって損する物じゃない。むしろこれからあちこちに動き回るのに必要になるものだ。
「そうだな。唯姫を探すのにこれから必要になるかもしれないからな。
トリニティもついでだからしておくか?」
「あたしは元々冒険者として活動していたからギルドカードは持っているんだよ」
「なんだ、案内人ギルドに盗賊ギルド、冒険者ギルドと随分と掛け持ちしてるんだな」
「・・・盗賊ギルドに所属してるのは周りには隠してるんだよ。大っぴらに言うなよ。
あたしは元々孤児でな。手っ取り早く稼ぐために冒険者になったんだ。
だけど冒険者ってのはそんなに甘くねぇ。その日暮らしするのに精一杯でそれを助けてくれたのが熊――冒険者をしている盗賊なんだ。
後はその縁で盗賊ギルドにやっかいになって今に至るってわけだ」
あー、ありがちなパターンだな、これ。
孤児から冒険者又は盗賊ってよくある話だし。しかもトリニティに至っては両方コンボを決めていると言う。
しかし――
「貧乏暮しを抜け出すために盗賊ギルドに助けてもらったのに、結果的には余計にお金に苦労していないか?」
そうなんだよなぁ。トリニティは結果的に苦労してることになるし。
「余計なお世話だよ!!」
ふと思ったが、もしかしたらトリニティの貧乏生活って盗賊ギルドが関係したりしてないか?
言葉巧みに盗賊ギルドに所属させ、金で縛って最終的には娼館とかで働かせるとか。
・・・無いな。
こんなちんちくりんを娼館で働かせるってありえないな。
確かに見た目は可愛いが、まだ14歳くらいの子供だ。
出るところも引っ込むところもイマイチすぎる。あぁ、そう言う需要もあることはあるのか・・・?
「おい、急に黙り込んでどうしたんだ? 頭大丈夫か?」
「あ、ああ。何でもない」
突然黙り込んでしまった俺にトリニティは胡散臭げに俺を見ていた。
ここで俺が悩んでもしょうがない。俺の目的は唯姫を探すことだ。余計な世話を焼いている暇はないんだ。
「ねぇ、トリニティ。あのボードに張ってあるのは依頼書だと思うけど、その中で一際多き張り紙があるけどあれも依頼書?」
受付カウンターに向かう途中にある壁にかかったボードには所狭しと依頼書とおぼしき張り紙がされている。
その中でアイさんの言う通り1つだけ明らかに他の依頼書とは違う上質の紙に額に入ったようなガラスで覆われている大きな依頼書があった。
「ああ、あれ。あれも依頼書だよ。それも特別なね。
あの依頼書はエンジェルクエスト。依頼人はなんと女神アリス様」
「はぁ!?」
俺は思わず声を上げてしまう。
アイさんも声は上げ無いものの驚いた表情をしていた。
「何年も前にAlice神教に神託が下った特別なクエスト。
依頼内容はアリス神様より使命を与えられた26の使徒から証をもらう事。
依頼期限は無期限だから何時でも誰でも受けられるクエストだね。
もっともそれ相応の実力が無ければ完遂は難しいみたいだけど」
つまりこれって所謂VRMMOのグランドクエストみたいなものか・・・?
だが依頼書として張り出されている以上、個人又はPT向けのクエストって事のはず。
俺はその依頼書に近づいて内容を確認してみる。
依頼対象者は個人(PTの場合は7人まで)明記されていた。
そして報酬の欄には――
「アルカディア・・・?」
これだけだ。
「アルカディアは神の住む世界の事だね。
争いのない楽園、神の力を授かる場所、永遠の命を与えられる世界。
まぁいろいろ言われているけどそんな所へ行くことが出来るのが報酬だな」
ますます持ってグランドクエストっぽいな。
あぁでもグランドクエストって大勢で攻略していくものだっけ。
この場合は個人(又はPT)で攻略していくから違うか。
「何だったら鈴鹿も挑戦してみる?」
「生憎と俺は唯姫を探すためにここに来たんだ。そんな暇はねぇよ」
「言うと思った」
俺とトリニティはそのまま受付カウンターに向かうが、アイさんだけは難しい顔をしてエンジェルクエストの依頼書を眺めていた。
「アイさん・・・?」
「ああ、ごめんなさい」
・・・なんだろ? 何か腑に落ちないな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺とアイさんは受付カウンターで滞りなく冒険者登録を完了させた。
渡されたギルドカードには名前とランク、所属都市が記載されている。
カードの裏には依頼を受けた時に討伐したモンスターが記入されると言う魔法技術が使われているそうだ。
こういうところは魔法技術と言うよりVRMMOっぽいな。
後は受付嬢から冒険者ギルドの説明を聞いたところによると、まぁお約束と言うか冒険者のランクにはE級からS級までが存在しているそうだ。
E級で初心者
D級で一人前
C級で中堅
B級で上級者
A級で一流
S級で超一流
これはモンスターにも同じようにランクが付けられているので依頼を受ける目安にもなっていると言う。
俺達はまだ登録をしたばかりなのでE級の表示がされている。
既に登録をしているトリニティはというと、俺達とさほど変わらないD級だ。
まぁランクが高かったらそんなにお金には苦労はしていないか。
「それでトリスさんにちょっと聞きたいことがあって来たんですよ。冒険者登録はついでですね」
トリニティはさっきまでのガラの悪い口調を止め、最初に会った時の様に丁寧な口調で受付嬢に話しかけていた。
そりゃあ普通は猫被るか。
「あら、何かしらトリィちゃん」
冒険者ギルドの受付嬢トリスティナはトリニティとは仲が良いみたいで、お互い相性で呼び合っている。
仲良くなった切っ掛けが名前が似ているらしいからだとか。
「大した事じゃないですよ。
美刃さんって今何処に居るか分かります? クランホームだったら有りがたいんですけど」
「美刃さん? 何の用かしら?」
「大したことじゃないですよ。この人たちが美刃さんにちょっと聞きたいことがあって」
「うーん、タイミングが悪かったわね。
美刃さんなら1時間ほど前にクランの人たちと竜の巣へ火竜を倒しに向かったみたいよ」
「はぁ!? 竜の巣!?」
ああ、名前からして如何にもヤバそうなところだな。
「それもギルドの依頼で向かったんじゃなく、ちょっと個人的な・・・クランのトラブルで向かったのよ」
「・・・トラブルってもしかして例の・・・?」
「そう、例のよ」
トリニティは乾いた笑いをしながらトリスティナに礼を言って受付カウンターから離れ、俺達は酒場の方へ移動する。
「で、どうするんだ? 美刃さんは竜の巣へ向かったみたいだけど」
「なぁ、竜の巣って・・・」
「文字通りの殆んどドラゴンしか住んでいない危険度A級のエリアだよ」
だよなー。
まさかいきなりドラゴンの巣とは。
「因みにここからどれぐらいの距離なんだ?」
「王都から東へ馬で約6日くらいの距離だな。
ただ普通は水の都市ウエストヨルパに転移魔法陣で移動してから行くから、そこからだったら馬で丸1日ってとこか」
最初6日と聞いた時は流石に焦ったが、そこは流石ファンタジー世界。
ってことは当然美刃さん達も当然転移魔法陣で移動した訳だから、往復で約2日くらいかかるわけか。
「よし、俺達も竜の巣へ向かおう」
「なんでっ!? 竜の巣だぞ!? ここは素直に美刃さん達が帰ってくるのを待ってろよ!」
当然の様にトリニティから反対の意見が出てきた。
そりゃあドラゴンが住んでいるところなんか行きたくないよなぁ。
「今は1日でも時間が惜しいんでな。それに火竜を倒した美刃さん達が素直に王都へ戻ってくるとは限らないじゃないか」
「いや、でも竜の巣だぞ!? 危険度A級だぞ!?」
「何も俺達も火竜と戦うわけじゃないんだ。アイさんの気配探知を使えば上手くいくはず。
それに今から1時間前に出て行ったんなら上手くすれば追いつくかもしれないじゃないか」
アイさんを見ると「気配を探るのなら問題ないわね」と言ってくれる。
「・・・そんなに都合よくいくわけないだろ」
「悪いがトリニティの意見は却下だ。それにお前は俺達には逆らえないはずだが?」
「・・・なんか素直にギルドに申告してペナルティを受けた方がいい気がしてきた」
まぁここでトリニティが抜けると言うのならそれはそれで構わない。ただ竜の巣までの案内としてトリニティを強引に雇うけどな!
盗賊ギルドや案内人ギルドにトリニティのペナルティを交渉すれば問題ないだろう。
そのことを言うとトリニティは苦みを潰したような顔をした。
「・・・お前絶対早死にするよ」
「お褒めに預かりどうも」
「褒めてねぇよ!!」
「それじゃあ竜の巣へ行くんだったらそれなりに準備をしないとね」
俺は今すぐにでも向かおうかと思っていたが、確かにアイさんの言う通り今の初期装備のままで向かうのは流石に自殺行為になるな。
俺達は装備や道具を揃える為に王都の各店舗をトリニティの案内で見て回る。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺とアイさんは今転移魔法陣の傍でトリニティが来るのを待っている。
転移魔法陣は王城の付近のそれなりの大きさの建物の中にあり、衛兵が出入りを管理していた。
「アイさん悪いね。お金大量に使わせてしまって」
「構わないわよ。命がお金で買えるのなら安いものだしね。
なんだったら私たちもドラゴン退治してお金を稼ぐ?」
「そりゃあいいや。トリニティは猛反対するだろうけどな」
そう、俺の今の装備はアイさんからお金を出してもらっていた。
ルナメタル鋼製の片手剣にミスリルウッド製の円盾、鎧は全身ドラゴンレザー製とかなりのハイスペック装備となっている。
後は必要アイテムとして冒険者ツール(ロープ、松明、火口箱、小型ナイフ、毛布、水袋)等や、それらを入れる革の袋を用意した。
当然かかった費用は俺の初期所持金で払えるわけもなく、アイさんが当たり前のように払ってくれたのだ。
金額は聞いていないが、軽く金貨数枚は吹っ飛んだだろう。
「おお! お主ら随分と勇ましいな!」
声のした方を見ると小さな男の子がこちらを輝いた目で見ていた。
俺のドラゴンレザー装備やアイさんの漆黒の鎧装備は確かに子供から見れば派手で格好いいだろう。
見たところどこかの貴族の子供か?
如何にも庶民風を装っているが、よく見れば派手ではないが上質な生地を用いているのがありありとしている。
護衛やお供が居ないところを見ると変装して町へ抜け出したってところだろうか。
「おい坊主1人か? 誰か大人の人は一緒じゃないのか?」
「何を言っておる。我は市井の子ぞ。1人で町を駆け回るのは普通ではないか」
ああ、うん、貴族様の子供決定。
と言うか言葉使いからして一般市民の子供じゃないし。
「あー、おにーさんたちはこれからドラゴン退治に出かけるんだ。悪いが坊主の相手をしている暇はないんでな」
「おお! ドラゴン退治とは! くぅう! 一度でいいから我もしてみたいものだのう」
まぁ男の子だったらドラゴン退治は憧れの1つだよな。
「そうか、なら邪魔をしちゃ悪いな。うむ、お主らが無事にドラゴン退治する事を祈っているぞ。もしよければ後で武勇伝を聞かせてもらえると嬉しいのう」
子供なりに気を利かせてこの場から離れようとするが、俺はその前にあるアイテムを渡す。
「おい、ちょっと待て。これを持っていきな」
「うむ、何じゃこれは?」
「煙玉ってアイテムだよ。地面に叩き付けてモンスターや悪者なんかから逃げる時に使うアイテムだ。
幾ら市井の子供と言えど護身用のアイテムを持たないのは危ないからな」
俺は敢えて市井の部分を強く言って男の子に煙玉を持たせた。
「そうか、市井の子供は護身用のアイテムを持っているのか。うむ、すまないな。ありがたく頂戴するとしよう」
そう言いながら男の子は町中へと消えて行った。
「アイさん、すまないな。折角買ってもらったアイテムだけど渡しちゃって」
「うふふ、謝る事なんてないわ。鈴鹿くん良いことしたじゃない」
そんなんじゃないけどな。
多分あの男の子には影ながら護衛が付いていると思うが念のためと思って煙玉を渡しただけだ。
「あれ? どうしたんだ? 何かあったのか?」
男の子と入れ違いにトリニティがやってきた。
「いや、なんでもないよ。それよりどうだった?」
トリニティは不思議そうにしていたが直ぐに意識を切り替えて盗賊ギルドで調べてきたことを話す。
一応、美刃さんが竜の巣へ向かったかを調べてもらったのだ。ついでに足りないノルマの分も支払ってすっきりしてもらっている。
「ああ、間違いなく竜の巣へ向かっているな。ウエストヨルパから南へ向かう目撃情報があるみたいだ」
「そうか。だったらさっさと向かった方が良さそうだな」
俺達はすぐさま転移魔法陣の施設に向かい、トリニティは施設員と手続きの準備を始める。
結果的に強引にPTに組み込んだとは言え、トリニティも竜の巣へ連れて行くために彼女の装備も一新している。
ダマスカス鋼のショートソードに、防御力より機動力を重視したメタルタランチュラから取れるメタルクロースで作った胸当て、籠手、脛当てを装備している。
転移魔法陣の施設員とも知りあいなのか、トリニティの装備を見て少し驚いたような顔をしていた。
「転移魔法陣の使用許可が下りたよ」
「了解」
俺達は施設の奥に向かっていき、ある部屋にある転移魔法陣の上に乗る。
軽い浮遊感と共に周りの景色が一転して水の都市の転移魔法陣の施設へと転移した。
「ここがかつてセントラル王国の魔法都市と言われたウエストヨルパだ。
今ではエレガント王国の水の都市ウエストヨルパだけどな」
何でも約100年前の大災害の時にセントラル王国は滅んだが、辛うじて魔法に長けたウエストヨルパは生き残ったそうだ。
生き残ったウエストヨルパはエレガント王国に庇護を求めて、見返りとして魔法技術を用いて砂漠で暮らすために必要な水を生み出す魔道具を提供したのが水の都市の始まりという訳だ。
もっとも砂漠も直ぐに女神アリスによって草原へと変えられたが。
「ゆっくり観光でもしたいところだがそうも言ってられないからな。早く竜の巣へ向かおうぜ」
今の時間は丁度昼頃。
美刃さん達が2時間くらい前に出ているから直ぐにでも追いかけないと竜の巣の到着は夜になってしまうからな。
「はぁ、マジで行くのかよ・・・取り敢えず騎獣ギルドで馬を借りてこないと移動もままならないぞ」
「馬よりも走竜の方がいいわよ」
走竜とは移動に特化したトカゲらしい。
カンガルーのように後ろ足が発達して二足歩行で駆け抜け、馬よりも早くて耐久力もあるとか。
ただ竜と言う事で気性が荒く扱いづらい部分もあるらしい。
当然レンタル料は馬よりも高いのでそう簡単に借りられるものではないみたいだが、うちには財務大臣が居るから問題は無い。
俺達は問題なく走竜を借りて南――竜の巣へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
AIWOn冒険者ギルドスレ453
625:アミシュ:2059/05/02(火)11:01:11 ID:Am3Sh6sh
やっと冒険者ギルドのランクがD級になったーヾ(*゜∀゜*)ノキャッキャッ♪
626:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:04:32 ID:lip9S616rm
おー! おめでとー!
627:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:07:50 ID:HkOj33sSn
おめでとう
これで君も一人前の冒険者の仲間入りだ
628:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:10:22 ID:MdrSoks69
おめっとさん
629:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:15:35 ID:Ia13nig10T
D級になってからが本番だよ
630:アミシュ:2059/05/02(火)11:16:16 ID:Am3Sh6sh
ありがとー♪(〃▽〃)ゞ
目指すはS級! 千里の道も一歩から!
631:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:19:11 ID:AkjAlssft1
S級ときたかw
632:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:22:50 ID:HkOj33sSn
うわぁw
随分と無謀な挑戦だなw
633:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:24:31 ID:Ng88mM31
はっきり言ってS級冒険者なんて夢物語ですよ
634:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:28:09 ID:sUo5tONan0t
ですよねー;; S級は人間のなせる業じゃない><ノ
635:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:30:50 ID:HkOj33sSn
いや、そうとも限らないぞ
なんせ現S級の美刃さんは俺達と同じプレイヤーなんだから
636:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:31:49 ID:P6so7GdaN
mjd!?
637:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:32:35 ID:Ia13nig10T
mjd!?
638:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:33:31 ID:Ng88mM31
本当ですか!?
639:アミシュ:2059/05/02(火)11:34:11 ID:Am3Sh6sh
うわぁw やる気が出てきました(p゜∀゜q)おぉ♪
640:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:34:22 ID:MdrSoks69
信じられないことに事実なんだな、これが
641:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:34:32 ID:lip9S616rm
いやいやいやw あり得ないだろw
ただでさえAIWOnじゃモンスター相手に戦うのって神経すり減らすのにw
642:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:35:31 ID:Ng88mM31
僕はてっきりAIWOnの住人じゃなきゃS級になれないと思ってました
643:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:38:09 ID:sUo5tONan0t
美刃さんって確か『絶剣』の二つ名を持つほどの人ですよね
644:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:39:16 ID:AkjAlssft1
まぁ確かに彼女はAIWOnに降り立った瞬間から規格外だったらしいからなぁ
何でも祝福持ちだとか
645:アミシュ:2059/05/02(火)11:40:11 ID:Am3Sh6sh
おお♪ 二つ名羨ましいです(*゜∀゜)=3ハァハァ
646:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:40:50 ID:HkOj33sSn
ああ、噂じゃただの祝福持ちじゃなく完全武装なんて言う
S級の祝福持ちだって話だよ
647:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:41:49 ID:P6so7GdaN
祝福までS級かよ!?
648:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:42:35 ID:Ia13nig10T
チートじゃねぇか!
649:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:43:32 ID:lip9S616rm
チートじゃねぇか!
650:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:43:35 ID:Ia13nig10T
チートじゃないか!
651:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:44:09 ID:sUo5tONan0t
祝福持ちなんて羨ましいです
652:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:45:50 ID:HkOj33sSn
因みに完全武装の祝福は武器防具の装備は最上級で戦技・魔法は網羅していて
アバターの身体能力はハイスペックって噂だね
653:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:46:35 ID:Ia13nig10T
チートじゃねぇか!
654:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:47:32 ID:lip9S616rm
チートじゃねぇか!
655:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:47:35 ID:Ia13nig10T
チートじゃないか!
656:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:48:09 ID:sUo5tONan0t
祝福持ちなんて羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです
657:アミシュ:2059/05/02(火)11:50:11 ID:Am3Sh6sh
あ、そう言えばあたしもA級の無限魔力の祝福持ちだった(*ノωノ)キャッ
658:名無しの冒険者:2059/05/02(火)11:51:50 ID:HkOj33sSn
ちょwww ここにきてなんというカミングアウトwww
次回更新は12/31になります。