50.伝説の鍛冶師と灰色鼠と白銀鼠
「初めましてじゃの。儂はこの里の長老をしている者じゃ。
孫のロゼッタが世話になったそうじゃの。礼を言わせてもらう」
俺達の目の前には如何にも長老と言った老ドワーフが座っていた。
顔に刻まれた皺に真っ白な髪と髭、100年以上生きていると言われて頷けるものがあった。
俺達はドワーフの隠れ里に連れられ、そのまま長老の居る屋敷に案内された。
今この場に居るのは俺達4人と長老、警備団団長のロゼッタの親父さんとロゼッタの全部で7人だ。
結構重要な話のようなので当事者以外はご遠慮させてもらっているみたいだ。
尤もほぼ伝説になっている長老と面会をするのは滅多にないらしい。
大体は長老の息子で警備団の団長であるロゼッタの親父さんが今里を統括しているとか。
「いえ、我々が朽ちた宮殿に居たのは偶然でしたので」
珍しく敬語を使う俺にトリニティが驚きの表情でこちらを見る。
と言うか、え? そんなに驚くような事か?
「それで、俺に会いたいと言う話でしたが・・・」
「うむ、お主のその一刃刀ユニコハルコンを犬人のニコから授かったものだと聞いたのだが」
俺はロゼッタの親父さんには師匠が犬人だとは言っていない。
だとすれば・・・
「もしかして長老様は師匠の知り合い、ですか?」
「・・・奴は儂が若い時に武器を打って欲しいと里を訪れてきたのじゃ。
その当時は火山都市が没し里に隠れ住んでようやく落ち着いた頃で、とてもじゃないが外様の者に武具を打つ余裕も無かった。
だが気が付けば儂は奴を友と呼ぶ仲になっておった。その友情の証として奴の持っていたユニコーンの角と、儂の持っておったオリハルコンで1本の刀を打った。
それが一刃刀ユニコハルコンじゃ」
なんと! ユニコハルコンを打ったのが目の前の長老なのか!
目の前の老ドワーフって伝説と呼ばれる鍛冶師なんだよな?
・・・え? もしかしてユニコハルコンって目茶苦茶価値ある刀なのか?
「呆れた。ユニコーンの角ってだけでもレア中のレアなのに、それを素材としてオリハルコンで作られた特殊効果のある武器ってだけでも物凄い代物なのよ?」
俺の心を読んだかのようにトリニティはユニコハルコンの価値を語る。
伝説の鍛冶師が打っただけでなく、ユニコハルコンそのものにも価値があると。
「えええっ!? その刀、爺さんが打ったのか!? ・・・通りで目を引くわけだ」
ロゼッタもユニコハルコンの製作者の正体に驚愕していた。
どうやらロゼッタの親父さんは知っていたっぽいな。それほど驚いてもいないし。
それにユニコハルコンの事を長老に伝えたのも親父さんだ。
「それで、奴は息災か?」
「・・・師匠は俺に剣姫一刀流を伝授してお亡くなりになりました」
「・・・・・・そうか。奴は満足しておったか?」
「はい。自分の編み出した剣姫流を俺が継いだことで心置きなく天国へ旅立ちました」
長老は師匠への黙祷を捧げるように目を瞑る。
俺も同じように師匠が引き合わせてくれたこの縁に感謝しながら黙祷を捧げる。
暫しの間沈黙が部屋を支配し、その後、長老が改めてユニコハルコンへと目を向けた。
「ユニコハルコンを見せてはもらえぬか?」
「はい」
俺は素直にユニコハルコンを長老へと渡した。
長老はつぶさにユニコハルコンを観察し、一通り確認したところで俺に問いかける。
「随分と手荒い扱いをしておるみたいじゃのう。まるで十数年も激戦を潜り抜けたような使い込み具合じゃ。
かなりあちこちにガタが来ておる。ユニコハルコンも自身を癒しながらもお主に応えようと無茶をしているのが見て取れる」
そりゃあエンジェルクエストを約2か月で殆どこなすほどの戦いともなればガタがくるのは当然だ。それなりに手入れをしたとしてもな。
けどユニコハルコンも自分を癒しながら戦っていたのは初めて聞いたぞ。
つまり俺はまだそこまでユニコハルコンと心を通い合わせてはいないと言う事か。
「ふむ、これも何かの縁じゃ。友の流派を受け継いだお主に協力をしよう。お主らに協力するように里の者に伝えておこう。
好きな武具を里で揃えておくが良い。勿論対価は頂くがのう」
おお! まさか半ば諦めかけていたドワーフの技術の粋を集めた武具が揃えられるとは。
しかも長老自らの協力を申し出る発言! 師匠、ありがとう!
「そしてこのユニコハルコンも久々に儂自ら打ち直しをしてしんぜよう」
その発言にロゼッタの親父さんとロゼッタが驚いていた。
ロゼッタの話だと、長老は武具を打たなくなって久しいと言っていた。
その長老――伝説の鍛冶師が自ら武具を打つと言うのだ。そりゃあ驚くか。
「じゃが、少々問題があってのう―――」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ガンッ! ガンッ!
「へぇ、流石ドワーフ。いい武器作ってんじゃん」
両の手に嵌めた黒のガントレットを胸の前で拳同士を打ち付け音を鳴らす。
かなり強く打ち付けたが、拳にそれ程衝撃を感じず全力で力を奮っても拳を痛めることはなさそうだ。
「はは、そう言ってもらえると鍛冶屋冥利に尽きるよ。
長老からのお達しだ。満足いくまで品物を見て行ってくれ」
俺は打撃兼防御としてオリハルコンのガントレットを見繕う。
このガントレットの最大の特徴はオリハルコン製よりも、中に敷き詰めたスライムの革だ。
スライムの革は外側からのあらゆる衝撃を吸収し、逆に内側からの力を増幅し外へ放つ性質を持っている。
基本的に防御用に鎧の内側などに張り付けるのだが、ガントレットのような打撃武器に使えば力の増幅にも役立つ代物だ。
スライムに革があるのか?と疑問に思うだろうが、何とドワーフは独自の技術を用いてスライムから革を取り出すことに成功していた。
何でも一定の温度でスライムを数時間焼くのと癒すのを繰り返し、それを1ヶ月ほど続ければスライムに皮が出来上がるのだと言う。
そしてそれを上手く剥ぎ取りなめせばスライムの革が出来上がると言う訳だ。
防御の面でもハーティーとの戦いでミスリルの胸当てを壊されて以降、リュデオから貰っていた黒のコートのみだったのを新たに鎧を新調した。
とは言っても俺の戦闘方法は剣姫流の機動力を生かす戦い方なので、動きを阻害しない程度の鎧と言う事になる。
オリハルコンにアダマンタイトを混ぜて作った混合金属を主とし、所々を成竜のドラゴンレザーで補強しているグレブラストの鎧だ。
因みにグレブラストとは素材となっている成竜の名前から来ている。
勿論内側にはスライムの革を敷いている。
黒のコートの上から着こんでも黒を基調とした色合いをしているので上手い具合にマッチしていた。
脛当てには同じくグレブラストのドラゴンレザーと雷亀の甲羅を使った竜亀レッグだ。
これも勿論色を合わせて黒色を選ぶ。
全てを装備したら髪の色も相まって全身黒一色だ。
そして一番ドワーフの里に興味を示していたトリニティも装備を整え直していた。
オリハルコンから作られるオリハルコン神糸と不死鳥フェニックスのフェニックス炎糸使って編まれた布をベースに、水耐性のある水竜の革と異常耐性のあるキングバジリスクの革を重ねて作ったヴァリアブルブレストアーマーで防御を強化する。
火耐性・水耐性・異常耐性がある上に、フェニックス炎糸の効果により、傷は癒せないが常に体力を少量回復するリジェネートヒール効果が付いているので、そう言った耐性・付与面ではこの中でトリニティが一番飛び抜けた感じになった。
因みにトリニティの武器はこれまで通りソードテイルスネーク亜種より作られた蛇腹剣だ。
これには3つのギミックが盛り込まれており、ドワーフの面々も興味津々で蛇腹剣に魅入っていた。
「ほう、これは面白いな。上手く素材の魔力を生かしている」
「注ぎ込む魔力の種類によって発動するギミックが違う訳か」
「特に3つ目のギミックは素晴らしいものがあるのう。ここまで繊細かつ大胆な作りは見事としか言いようがないのじゃ」
「あ、あの・・・壊さないで下さいよ?」
今にもバラして分解しそうな勢いのドワーフの鍛冶師の面々にトリニティはおろおろしていた。
アイさんの装備はというと、ここでは特にそろえる必要も無かった。
AIWOnにログインした当初からの水色の剣と青色のインフィニティアイスブレード、黒衣の服とプリーツスカートに金のラインの入った黒鎧、鎧の前ダレもスカートの様に前後左右と覆うようになっていた。
籠手と脛当ても黒となっており、俺と同様に全身黒黒一色の防御だ。
ドワーフの鍛冶師たちによると、彼らにも劣らぬ珠玉の一品らしい。
特にインフィニティアイスブレードはおそらく長老でも造ることのできない伝説級ではないかとの事。
因みに戦闘要員ではないアーシェも防御面を強化すると言う事で、オリハルコン神糸で作られた服を買い込んでいた。
代金は俺達が払う事になっていたが。(正確にはアイさんの隠し?財産からだ)
さて、何故装備を整えているかというと、何も今後の『天界の使徒』に備えて・・・と言う事ではない。
この後錬成火山にモンスター退治に出掛けるからだ。
長老がユニコハルコンを打ち直すのに少々問題があると言うのは、打ち直しにはオリハルコンが必要とされるのだが、里に備蓄されているオリハルコンの在庫がほぼゼロだと言う。
その為、錬成火山に赴いてオリハルコン鉱石を採掘してこなければならないのだが、その錬成火山には灰色鼠が生息していた。
これまでは灰色鼠に対し対策を立てて錬成火山にオリハルコン鉱石等の多種の鉱石を採掘していたのだが、現在錬成火山は万を超えると思われる灰色鼠の支配下に置かれているのだ。
そうとは知らず、ロゼッタ達は錬成火山に採掘に赴き襲われたと言う訳だ。
しかも今回のその採掘でとんでもないモンスターが目撃されたのだと言う。
灰色鼠の進化上位種・白銀鼠だ。
灰色鼠は単体でD級程度の強さでしかないのに対し、白銀鼠はA級の強さを誇るモンスターだ。
大きさも一気に熊くらいの大きさに進化し、何よりも特徴なのがオリハルコンを食べるらしい。しかもその体質もオリハルコンそのものへ変化するのだとか。
はっきり言ってこのままだとオリハルコンが枯渇してしまう為、早急に排除する必要があるのだ。
そして丁度そこへ現れたのが俺達と言う訳だ。
俺にはユニコハルコンを打ち直すためにオリハルコンが必要なので、錬成火山の灰色鼠を率いる白銀鼠の討伐は必須になる。
「オリハルコンの体質を持つモンスターねぇ・・・それって生半可な攻撃は通じないって事だろ?」
「そうだね。通用する武器はオリハルコンかそれ以上の武器、もしくはオリハルコンを上回る攻撃力でしかダメージは与えられないはずだよ。
里にはこれまで作っていたオリハルコン製の武具があるから、討伐は不可能じゃないから幸いと言えば幸いだね」
ロゼッタ自ら里の鍛冶屋を案内し、俺達の装備を見繕ってくれている。
白銀鼠の性質上、オリハルコンを取り扱っている鍛冶屋を案内しているのだ。
「ねぇ、材料のオリハルコンが無いならこのオリハルコンを溶かして使うとか出来ないの?」
「あーダメダメ。オリハルコンは一度作り上げてしまえば他のオリハルコンとは混ざらなくなるんだよ。
一応オリハルコン用の再錬成と言う生産スキルがあるんだけど、これは爺さんでも持っていない神スキルと呼ばれるスキルだからね」
トリニティの言う通り再利用できれば何の問題も無いのだが、まぁ、オリハルコンは神の金属と言われているからそう簡単にはいかないのだろうな。
「さて、装備はこれでオーケーだな。後は白銀鼠を討伐するだけか」
「簡単に言うけど、相手はA級モンスターだよ? 出来るのかい?」
装備を揃え準備は整ったと息巻く俺にロゼッタは少々不安そうにしていた。
まぁA級ともなれば一筋縄じゃいかないモンスターだからな。不安にもなるか。
と、そこへトリニティがフォローを入れる。
「そこはまぁ、心配しなくても大丈夫かな? こと戦闘に関してはそこら辺の冒険者よりは頼りになると思うよ。何せエンジェルクエストを約2か月でほぼクリアするほどの腕だから」
「そこが一番信じられないところなんだけど?」
一層胡散臭そうにロゼッタは俺達を見てくる。
だよなぁ、俺が逆の立場だと素直に信じられないと思うぞ。
「うん、信じられないだろうけど本当なんだよね。そこは26の使徒であるボクが保証して上げるよ」
「まぁエンジェルクエスト云々は兎も角、白銀鼠を倒せば問題は無いでしょう?」
「まぁ、2人がそう言うのであれば」
26の使徒のアーシェとアイさんのフォローでロゼッタは渋々ながらも納得する。
準備は整ったが、時間も既に夕方に差し掛かっており白銀鼠の討伐は明日になる。
今日はそのまま長老の家に泊まり、朝一で錬成火山に向かう事になった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――AL103年5月9日――
翌朝、スノウの背に乗って俺達は錬成火山へと向かう。
向かうメンバーは俺、トリニティ、アイさん、3人に加え、警備団団長のロゼッタの親父さん――グリュー(親父さん親父さんと言っていたら貴様に親父と呼ばれる筋合いはないと言われたので名前で呼べと言われた)、団員のカルーアとフィズの計6名だ。
流石にアーシェは里で留守番をしている。
自分も使徒の能力が役に立つからと連れて行けと喚いていたが、彼女の目的は母親の『天界の使徒』に会う事だ。
こんなところで万が一のことがあったらまずからな。
グリューとカルーア、フィズの警備団は俺達の白銀鼠を討伐する為の露払いだ。
白銀鼠は灰色鼠を支配下に置く事でその数を大量に増やし、白銀鼠の居る拠点を中心に防御エリアを築くのだと言う。
たった3人だけでと思うだろうが、元々アイさん1人で灰色鼠を引き受けるつもりだったのをグリューが自分たちの問題なのにただ指をくわえてみているだけなのは警備団の埃が許さないと言う事で急遽付いてくることになったのだ。
「本当に貴様ら2人だけで大丈夫なのだろうな? 特に貴様は武器を持っていないんだぞ」
正確にはスノウも居るから2人と1匹だけどな。
「ああ、任せてくれ。武器ならあるさ。この拳だよ。俺は元々素手の武術で戦うのが本来のスタイルなんだぜ。
それにこの里の逸品であるガントレットがあれば武器なんて必要ないさ。
まぁ、素手なのも一応理由があるけどな」
ユニコハルコンは打ち直しの為、使用不可だ。
よって別の武器を選べば・・・と普通ならそうだが、現実世界での疾風迅雷流を使う俺にとっては素手でも何の問題も無い。
が、他の人から見れば不安しかないのはしょうがない。
グリューも俺を胡散臭そうに見ている。残りの2人のカルーアとフィズは比較的若そうだから柔軟な思考を持ち、俺の戦い方に興味があるようだ。
小一時間も飛べば目的地の錬成火山が見える。
火山と言うが、現在は休火山となっており豊富な鉱物の温床としての山となっている。
流石にスノウもこの人数を運ぶのは無理なので、3・3に分けて往復してもらう。
最初は俺・アイさん・グリューの3人だ。
「あそこの鉱床地帯に下りてくれ」
グリューが指差す一角、そこは坑道がちらほら見える採掘現場だ。
ここを拠点として、いざとなったらこの坑道内に避難して灰色鼠を迎撃する手はずだ。
スノウが採掘現場に降り立ち、俺たちを降し再びドワーフの里へ向かって飛ぶ。
残りのトリニティたちを待っている間、俺たちは坑道内を避難所にできるようバリケードなどを設置していく。
2時間ほどするとトリニティたちを乗せたスノウが到着し全員が揃った。
「白銀鼠が居を構えているのは確かこっちの方だ」
グリューの案内の元、採掘現場から回り込むように迂回しながら上へと登っていく。
隊列はグリューを先頭に、俺、トリニティ(騎獣縮小の首輪で小さくなったスノウはトリニティの頭の上)が並んで歩き、カルーアとフィズが続き、最後尾はアイさんが務める。
その道中、ちらほら・・・いや、バンバン襲い掛かる灰色鼠を押しのけての行進だ。
まぁ、採掘現場に降り立った時点で大量の灰色鼠に襲われているので、白銀鼠に辿り着くまで大量の灰色鼠に襲われるのは分かり切っていた事だが。
いい加減灰色鼠の相手をするのにうんざりしてきたところでようやく白銀鼠の元へ辿り着いた。
既に全身傷だらけだが、まぁ致命傷は無いので白銀鼠を相手するのには問題は無い。
予定通りアイさん、グリュー、カルーア、フィズが俺達の戦いの邪魔にならないように灰色鼠の相手をしていく。
尤もアイさんのインフィニティアイスブレードから生み出された無数の氷の剣の乱射により殆んど1人で対応していたのをグリュー達が呆然としながら戦っていたりしたが。
「さて、お前に恨みは無いがここで倒させてもらうぜ」
「いや、恨みはあるでしょ? 少なくともオリハルコンが無ければユニコハルコンが打ち直せないんだから」
「グルゥ!!」
トリニティが俺のセリフに突っ込みを入れ、スノウが珍しく猛っていた。
流石にこの場でスノウが元の大きさで戦えば山崩れの恐れも出て来るので小さいままだが、それでもスノウは随分やる気を見せている。
もしかして同じ白銀の名前を持つ者として気に入らないのか?
「ヂュアッ!!!」
全身が銀色の白銀鼠はその体躯を生かし体当たりを掛けてくる。
熊ほどの大きさ、しかもオリハルコンの体質から繰り出されるその突進は、ただそれだけでも十分な凶器だ。
しかも野生のモンスターらしからぬ柔軟さを発揮し、突進の途中で躱した俺達目がけて方向転換する技まで見せてくる。
「ちぃ! 器用な真似しやがって!」
俺は白銀鼠の突進を片手をついて宙返りし躱す。
その時に白銀鼠の感触を確かめ、倒す手段に問題が無い事を確信する。
「グルァ!!」
「ルフ=グランド縄剣流・蛇絞牙剣!」
スノウが光属性魔法のレイブラストを白銀鼠にお見舞いし、トリニティが蛇腹剣を鞭モードにしてルフ=グランド縄剣流の技を放つ。
だがスノウが放った光球の散弾はそのオリハルコンの体にダメージを与えることが出来ず、トリニティの蛇腹剣も傷つけることなく弾かれる。
ここまでは予定通り。
トリニティ達の攻撃で白銀鼠の意識はそちらの方へと向く。
その隙をついて俺は疾風迅雷流の奥義・瞬(別名剣姫流の瞬動)で一気に間合い入り、拳のコンビネーションを放つ。
「疾風迅雷流・楔!」
沈み込むような姿勢から繰り出される右のフックに、左のショートアッパー。
これにより白銀鼠の体は宙に浮き、避けられない体勢からゼロ距離からの寸打。
「ヂュウゥゥッ!?」
悲鳴を上げながらバウンドしていく白銀鼠。
おそらく思いもよらない体内へのダメージに戸惑っているのだろう。
白銀鼠の体はオリハルコン製だが、生物である以上内臓器官が存在する。
つまり体表への攻撃ではなく、内臓への攻撃ならダメージは通るのだ。
これが俺が素手でも白銀鼠を倒せる理由だ。
宙に浮かせる2連撃はダメージは無いだろうが、最後の寸打。これは発勁と呼ばれる気功を用いた技術だ。
無論、現実世界だとそれほどダメージは与えられないが、AIWOnでは拳戦技と言うものがある。
拳戦技の寸勁と相まって水を伝達するように強烈な一撃を内蔵へ与えるのだ。
「ヂュイィィィィィッ!!!」
白銀鼠は怒りに満ちた表情で俺へ襲い掛かる。
これまでダメージらしいダメージを受けたことは無いのだろう。自分を傷つけることの出来る俺を排除すべく今度は左右の爪を振りかぶってくる。
オリハルコンの爪による攻撃。同じオリハルコンのガントレットで受けても問題は無いが、何も俺1人で相手をしているわけでは無い。
スノウの光属性魔法のシャイニングジャベリンが、トリニティの蛇腹剣がそれぞれの腕を弾き、再び俺に攻撃の隙を与えてくれる。
「疾風迅雷流・旋!!」
掌を添えて、捻じるように掌打を放つ。
勿論内部へ衝撃が浸透するよう拳戦技の寸勁を乗せてだ。
「ガホッ・・・ガボ・・・ヂュ・ヂュゥ・・・」
おお、結構ダメージがいったな。
よし、後は油断しないで同じように内部へのダメージを与え続けるだけだ。
窮鼠猫を噛むと言うからな。
トリニティとスノウのサポートを受け、動かなくなるまで白銀鼠をボコり回す。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
何度か内部にダメージを与え、白銀鼠は息も絶え絶えとなっていた。
「鈴鹿、後一撃で落ちるよ!」
「待て、どうも様子がおかしい」
そんな白銀鼠の状態を見てトリニティは止めを刺せと言ってくるが、白銀鼠は外部からの攻撃から身を守るように体を縮こませる。
と、同時に体毛がハリネズミのように細い針となって隆起する。
ドンッ!!
丸まった状態のままで弾丸のように転がってくる白銀鼠。
流石にハリネズミ状態のこれには素手では対応できない。
俺は白銀鼠の突進を避けようとするが思ったよりも素早く、避けた先を予想してか急転換して俺に突っ込んできた。
咄嗟に腕をクロスして防御に回るが、白銀鼠の突撃で跳ね飛ばされ地面へと転がる。
思ったよりもダメージが入り、立ち上がる前に白銀鼠からの追撃の突進が迫る。
「クルゥ!」
白銀鼠の突撃の瞬間にスノウが俺を押しのけ割って入り、身代わりになった。
「スノウ!」
スノウは俺達と違ってオリハルコンの装備に身を守られていない。
今は小さくなっているとは言え竜の鱗に身を守られているが、流石に白銀鼠のオリハルコン針に身を晒されて無事とは言い難い。
パキン
ん? なんか割れるような音がしたな。
スノウの身を案じ駆けつけようとするが、白銀鼠は丸まったハリネズミ状態でギュルギュルとその場で回転し遠心力を付けて再び俺に向かって急突進してくる。
「ちっ! トリニティ、スノウを見てくれ!」
今はユニコハルコンが無いから今の俺達には怪我を治す手段が無い。
アイさんがシャドウゲージにポーション類を持っているが、あれは体力を回復するだけで怪我には効果が無いからな。
俺は白銀鼠の突進を躱しながらそのままこちらに引き付けておく。
その間にトリニティがスノウへ向かうのだが・・・
パキン
再びその音がしたかと思うと、スノウの体が急に大きくなり始めた。
「グルゥァァァァァァァァァッッッ!!!」
あ、あれ騎乗縮小の首輪の割れる音だったんだ。
首輪の効果が無くなったスノウは本来の元の大きさに戻ったと言う訳だ。
って、おい、スノウ! 何をするつもりだ!?
本来の大きさに戻っただけでもこの戦場を圧迫しているのに、スノウはそんなこともお構いなしに口を大きく開けてエネルギーを溜めはじめる。
ドラゴンブレスだ。
山中でそんなものを放てば勿論周囲の被害は免れない。
元々白銀の名を持つプライドなのか、攻撃を受けた怒りなのか、スノウは容赦なくブレスを放つ。
ついでと言わんばかりに光属性魔法の乱射もおまけでぶっ放す。
「退避だ! 退避――――――――――――!!!」
俺の叫び声に状況を把握したグリュー達は灰色鼠をも放って即座にその場から離れた。
勿論俺もトリニティも急いでその場から離脱する。
カッ!
ドドドドドドドドドドドドッンッッッ!!!
眩しい閃光と共に大爆音が錬成火山に鳴り響いた。
爆音が静まり、巻き起こった土煙が晴れるころには山の一角が変形するほど抉れていた。
錬成火山って聖Alice神山ほどじゃないが、結構標高があったよな?
その山の一部とはいえ削り取るって・・・ああ、後始末に頭が痛い。
オリハルコンの採掘に影響が無ければいいが。
「グルゥゥゥ」
見ればスノウはその巨体で怪我をするのを厭わず、前足でハリネズミ状の白銀鼠を踏み潰していた。
どうやらスノウのブレスや光属性魔法も決定打にはならず、最終的には踏み潰して圧殺したみたいだ。
「スノウに止めを持っていかれたことに悔しがればいいのか、最初からスノウを出せば解決したと嘆けばいいのか・・・」
「勿論叱ればいいと思うよ?」
無事に逃げ出せていたトリニティは俺の隣に来てそんなことを言う。
だよなぁ~
得意げに勝ち誇っているスノウを見て俺はため息しか出なかった。
どうやらグリュー達も無事に避難で来ていたらしく、姿を現す。
「錬成火山に蔓延るモンスターを退けた事には感謝をするが、この落とし前はどうつけるつもりだ?」
「あー、やっぱ採掘現場はメチャクチャか?」
「それはこの後の状況を確認しなければ分からん」
「完全に潰れていない事を願うが、最悪ダメだった場合は現場復帰を手伝うしかないだろうなぁ・・・」
こんなところで余計な時間を取られるわけにはいかないんだがなぁ・・・
一応、土属性魔法を使えば現場復帰に時間を短縮できるのが幸いと言えば幸いか。
その後、状況が落ち着いて採掘現場を調べると辛うじて採掘が出来る状態だった。
後は鍛冶師たちを呼び、早速オリハルコン鉱石を採掘してもらう事になる。
因みに、スノウにはキッチリしっかりお説教をしておいた。
珍しく、アイさんも口を辛くしてスノウを叱り飛ばしていた。
心なしか帰りはしょぼくれた飛行のように感じたのだが同情はしない。自業自得だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そうか。山の一部に被害が出たものの、白銀鼠を退治してくれたか。済まぬ。助かったのじゃ。
これでユニコハルコンの打ち直しが出来るのう」
報告に戻った俺達に長老は感謝の意を述べ、改めてユニコハルコンの打ち直しをしてくるれることを示した。
尤も、これからオリハルコン鉱石の採掘に赴いて錬成しインゴットにするのに2・3日の時間は掛かるし、ユニコハルコンの打ち直しにも3日は掛かるらしい。
「打ち直しが終わるまでに里でゆっくり過ごすといいじゃろう。
少なくとも里の者はお主たちが長く滞在するのを喜んでおる。娯楽の少ない里であるが故、お主たちのような者が来れば賑わいも見せるからのう」
あー、特に子供たちとかは冒険譚とか好きそうだな。
まぁ、ユニコハルコンの打ち直しが終わるまでに里でのんびり過ごすのも悪くは無いか。
打ち直しが終わるまでに一度里を出て他の町で過ごすのもありだが、移動手段が無いからおいそれと離れられない。
え? スノウはどうしたかって?
スノウは反省の意も込め、オリハルコン採掘の為の鍛冶師を里と錬成火山の往復させることになった。
よって移動手段が馬とか走竜しかないわけだ。
そんな風に考えていたところへ、アイさんが一言忠告をしてくる。
「それより、鈴鹿くんは一度離魂睡眠して異世界に戻った方がいいわよ。
多分・・・これが最後の離魂睡眠になると思うから」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
AIWOn 都市巡り漫遊記スレ20
542:名無しの冒険者:2059/2/3(月)12:30:25 ID:Man9U9
やっぱ最高の都市は聖都アリアだよな!
543:名無しの冒険者:2059/2/3(月)12:36:26 ID:Jo2DEjoz6
何言ってんの? このゲームの始まりの都市である王都エレミアに決まっているだろ
544:名無しの冒険者:2059/2/3(月)12:42:27 ID:Sa4oh5shO
だよな! 聖都アリアはいい! 流石は聖なる都市!
544:名無しの冒険者:2059/2/3(月)12:49:28 ID:Ca9seR69
プレミアム共和国の王都ミレニアムを忘れてもらっちゃ困る
545:ピンクパンダー:2059/2/3(月)13:00:29 ID:pin9panD10
炎聖国の首都ブレイニングも熱くて萌えたぜ!
546:名無しの冒険者:2059/2/3(月)13:04:30 ID:wi310Kme2R
って、炎聖国まで行ったのか!? 強者だな!
547:名無しの冒険者:2059/2/3(月)13:12:25 ID:Man9U9
と言うか、熱くて萌えるって何なんだwww
548:怒り新人:2059/2/3(月)13:13:31 ID:EVA2014Srd
僕は・・・エルフもいいと思う
549:名無しの冒険者:2059/2/3(月)13:19:32 ID:S6rI6iRLrAlBut
>>543 聖なる都市って・・・もしかしてシスター目当て、ですか?
550:名無しの冒険者:2059/2/3(月)13:21:26 ID:Jo2DEjoz6
エルフって言うと・・・ジパン帝国の首都ジパネスか
確かにあれもいいな
551:ピンクパンダー:2059/2/3(月)13:22:29 ID:pin9panD10
あー、聖都アリアは聖Alice神教の巡礼都市でもあるからなぁ
多くの聖Alice神教神官が集まる都市でもあるし
552:名無しの冒険者:2059/2/3(月)13:24:26 ID:B920Zfutya
何で獣人王国の獣王都市ビーストロアや羊王国の王都ウルバリンが出てこない
特に王都ウルバリンの羊モフモフは癒される
553:名無しの冒険者:2059/2/3(月)13:29:30 ID:wi310Kme2R
隠れた名都市と言うのなら夜の王国ミッドナイトがあるぜ
次回更新は6/25になります。




