46.正体不明と魔人と亡者
「あれ? お姉ちゃんどうしたの?」
俺達はクラン『月下』の臨時クランホームにて、明日からの行動を打ち合わせしている所へデュオが部屋へ入って来た。
その顔は青褪めており、今にも倒れそうな表情をしていた。
「トリニティ、ちょっといいかしら。あなたに話しておかなければいけないことがあるわ」
「えっと、それって鈴鹿達も一緒じゃだめなの?」
デュオの表情からただならぬ雰囲気を感じ取ったトリニティは、俺達に一緒に居て欲しいのか同席を求めた。
その言葉にデュオは少し考え納得したように頷く。
「そうね、鈴鹿達も一緒に聞いて頂戴。まるっきり関係ないとは言えないから」
そう言ってデュオは俺とアイさんに向かい合うようにトリニティの隣に座る。
最初はトリニティの顔を見て次に自分の手元を見て、何やらどう言葉を掛けるべきか迷っている風にも見えた。
「トリニティはあたし達が村を出る切っ掛けになった事件を覚えている?」
「えっと、ハンドレ村の事だよね? あたしはあまり小さかったからよく覚えてないんだけど、村に沢山のモンスターが現れそれをお爺ちゃんが助けてくれたって話だよね」
お爺ちゃんってあの謎のジジイの事か。
詳しくは聞いてなかったが、トリニティの村をモンスターに襲われたのを助けたって話しなのか。
デュオの様子からそのハンドレ村はあまりいい結果じゃなかったようだな。
「それじゃあ・・・お兄ちゃんの事は?」
「お兄ちゃんって、ソロお兄ちゃんの事? 小さかった時3人一緒に遊んでいたのは覚えているけど・・・そう言えばあたし、お兄ちゃんが死んじゃった時のことはよく覚えてない」
「多分トリニティは幼かったからショックが強すぎてその時のことは記憶から抜け落ちているのね。
ソロお兄ちゃんはハンドレ村が襲われた時にモンスターに食い殺されたのよ。あたし達を助けるために」
「食い殺されたって・・・」
「あたしは今でもその時のことを鮮明に覚えているわ。時々夢に見るくらいにね」
えっと、トリニティがうろ覚えなるくらいの小さい時だよな。
それって10年以上も前の事になるはず。そりゃあ、夢に見るくらいトラウマになるわ。
「そう、確かに死んだはずなのよ。ソロお兄ちゃんは・・・
そのソロお兄ちゃんが今日、あたしの目の前に現れた。それも死んだ時の幼い姿じゃなく、成長した姿で」
「え!? それって実は死んでなかったって事じゃないの?」
漫画やアニメとかじゃよくあることだよな。トリニティの言う通り死んだように見せかけ実は生きてましたーって。
そのパターンか?
だけどデュオの様子を見ればそんな感じのようには見えない。
「そんなはずはないの! ソロお兄ちゃんはあの時間違いなく死んだ! あたしの目の前で! 一本角のオーガに!!
けど・・・けど、ソロお兄ちゃんは現れた。『正体不明の使徒・Unknown』の魔人として」
デュオはまるで悲鳴のように叫び心に溜まっていたものをぶち撒ける。
部屋の外で様子を伺っていた『月下』のクランメンバーたちが何事かと騒ぎ立てているのが聞こえてきた。
どうやらデュオの様子がいつもと違う事に心配していたみたいだ。
特にウィルが一番心配していそうだな。
しかし・・・なるほどな。だから俺達にも関係があるってことか。
だけど、今のセリフの中に聞き捨てならない単語があるな。
「デュオ、確認するぞ。
今日、デュオの前に『正体不明の使徒』が現れた。その正体は死んだはずのデュオたちの兄貴・ソロで、魔人として蘇ったって事か?」
「・・・うん、ソロお兄ちゃんは今の自分は魔人として生き、『正体不明の使徒』の任を背負っているって」
魔人と聞けば思い出すのが『災厄の使徒』だ。
モンスターより生まれいずる人の姿をしたモンスター。それが魔人だ。
だが今回現れた『小隊不明の使徒』はデュオたちの兄であり、元々人間でもある。
それが魔人とはどういう事なんだ?
「考えられるのは逆のパターンね。
モンスターの中から人が生まれるのが魔人。人の中からモンスターの力を持つ者が生まれるのもまた魔人。ってことかしら」
「それは、そのソロってデュオたちの兄貴が一度死んで、蘇ってモンスターの力を得たってことか?」
「どちらかと言うとモンスターの力を得たから蘇れたんじゃないのかな?」
うむむ。アイさんの言う通り何らかしらの理由でモンスターの力を得て魔人として蘇ったってことか。
その魔人の影響で『正体不明の使徒』として女神アリスから任命されたってところか。
「それで、お姉ちゃんはどうするの? ソロお兄ちゃんが生きていたのは嬉しいけど、人間じゃなくなってたって・・・その、やっぱり魔人は放ってはおけないよね・・・?」
「それとデュオにはわざわざ『正体不明の使徒』と名乗ったってのが気になるな。『正体不明の使徒』のクエストについてデュオは何か知って・・・」
「分からないわ!!」
トリニティと俺の質問にデュオはこれまで溜まっていたものを吐き出すかのように叫ぶ。
「ソロお兄ちゃんはもう死んでいるのよ! それが今さら生きていましたって言われても! ・・・それも魔人として!
『災厄の使徒』の件があるから国は、世界は魔人を野放しには出来ないの。このことが他に知られれば全力を以て魔人の討伐に当たるわよ。
けど、ソロお兄ちゃんは言ったわ。近いうちに魔人達が王都で事を起こすって。今日はあたしに王都から逃げろって警告をしに来たって」
デュオは本当にどうしていいか分からないんだろう。
デュオの中ではソロは死んだことになっている。それが生きて目の前に現れただけでも動揺するのに、それが災いをもたらす魔人として現れたのならその心中は計り知れない。
『災厄の使徒』とは違うとは言え、魔人は魔人か。
やっぱり災いをもたらす者として扱われる存在なわけだ。
その魔人となった兄貴を討つ。それだけでもデュオは穏やかではいれないだろう。
と言うか、デュオはまた聞き捨てならない事を言ったな。
なんだよ魔人達って。達ってことは複数形か? 魔人は複数いるって事なのかよ。
もう少し詳しい話を聞こうにも思ったよりも心労が祟ったのか、その場でふらついて倒れてしまった。
慌てた俺達はウィルたちを呼んでデュオをベッドへと休ませる。
そこでウィル達にも何が起こったのか詳細を話しておく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「魔人ね・・・いったい最近の王都はどうなっているんだ? アレスト=グロリワールのモンスター召喚事件に、『災厄の使徒』の騒動、九尾の狐の王都襲来に今回の魔人。
まぁ、魔人云々はこの際置いといて、問題はその魔人の1人がデュオの兄だと言う事だな」
おい、王都住人のお前が魔人を置いといていいのかよ。
まぁ、ウィルにとっては王都云々よりデュオを優先させるんだろうけど。
取り敢えずデュオを除いた『月下』の主だったメンバーのウィル、ピノ、ハルト、シフィル、ティラミスと俺達で今後の対応を話し合っていた。
因みに美刃さんはどうやら現実での都合が付かず、最近はあまり顔を出せていないのだとか。
「折角生きていたお兄さんを倒しちゃってもいいかって事?」
そう言うのは俺達と同じ異世界人のティラミスだ。
彼女は回復専門の僧侶としてA級冒険者の実力者でもある。
「魔人が王都で騒動を起こすって言うのならそれは止むを得ない。私達の住む王都が蹂躙されたくなければ、ね」
「いや、まだそうなるとは決まった訳じゃないんだろ? 今のところ目撃情報はデュオの証言だけだし、魔人とやらが存在するのかすら怪しいじゃねぇか」
『月下』No3であるピノの厳しい物言いにハルトがまだそうなるとは決まっていないと反論する。
但しハルト的にはデュオの情報だけでは断定できない――デュオの妄想の可能性もあると言っているのだ。
「ハルトさん、デュオが嘘をついているとでも?」
「そうじゃねぇよ。普通に考えれば兄を語る何者かがデュオを唆している可能性があるって事だよ。
死んでいた肉親が現れれば誰だって動揺する。実際デュオはごらんの有様だろ?」
そう言われればウィルは黙るしかなかった。
「もう少し詳しい情報が欲しいところだけど、肝心のデュオはまだ目が覚める様子が無い。私達で情報を集めるしかないね。
シフィル、デュオが兄と思しき人物の情報を至急集めて。残ったメンバーは何か異変があったら報告を。どんな些細な事でも見逃さないように」
「了解。盗賊のあちしとしてはこれ以上王都で騒ぎを起こしたくないんだけどね。最近の事件の連続で王都も混乱中だし」
「それは魔人とやらに言ってやりな。俺達は魔人が居ると仮定して動いた方がいいか」
「だからそれは早計だって言ったろ。魔人とは別の存在が絡んでいる可能性もあるからそっちも考慮して情報を集めないと」
「デュオには折角お兄さんが生きていたんだから上手くいってほしいんですけどね」
ピノの指示の元、シフィルは盗賊ギルドを中心にソロの情報を集め、ウィル、ハルト、ティラミスはそれぞれ魔人又は別組織の情報を集めに動く。
王宮や冒険者ギルドへも魔人の情報を伝えるべきなのだが、まずは魔人の情報が確定してからだとピノは『月下』内での意思を定める。
「『正体不明の使徒』の情報も欲しいだろうが、鈴鹿達にも王都に異変が起きないか情報を集めるのを手伝ってもらう」
「ああ、構わないよ。少なくとも魔人であるデュオの兄貴の情報を集めて行けば『正体不明の使徒』の情報に辿り着くんだろうし」
情報を確定する為にも人手は多い方がいいのだろうが、もし魔人の存在が確定なら生半可な実力では手出しできない。
そう判断して、ピノは俺達へも協力を要請した。
冒険者ランク的に言えば俺達はさっき『模倣の使徒』をクリアしたことによりエンジェルクエスト攻略数20に達したのでB級冒険者となった。
しかもエンジェルクエストを攻略し始めてまだ2か月も経っていない。それらの経緯を考慮すれば実力的にもA級に引けを取らないと判断したのだ。
因みにスノウは前回から引き続き『月下』の仮クランホームで留守番だ。
どうやら小動物並に小さくなったスノウは『月下』のクランメンバーに大層気に入られたらしい。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
魔人の情報を集めると言ってもまだ確定したわけでも無く、騒動すら起きていない。起きていたら起きていたでそれも問題だが。
この状態で俺に出来ることは殆んど無いと言ってもいい。
仕方ないから俺は取り敢えず冒険者ギルドへ行ってそれなりに異変が無いか屯している冒険者たちの話を聞きに行くことにした。
トリニティはシフィルと組んでソロの情報を集めに一緒に盗賊ギルドへ行った。
俺は兄貴のことについて何か思うところは無いのかトリニティに聞いたところ、帰ってきた答えはやけにドライなものだった。
曰く、「小さい時の思い出でしかソロお兄ちゃんを覚えていないので、多分目の前に現れたとしても魔人としてしか対処しないかもね」との事だった。
アイさんはアイさんで独自のルートで情報を探るらしい。
まぁ、アイさんの事だから例の俺達の知らない秘密が関係しているのだろうけど。
そんな訳で、今俺は冒険者ギルドに来ているのだが。
時間も夕方とそれなりに賑わいを見せていても間違いではないのだが、それにしては少しざわついている感がするな。
「何かあったのか?」
「刀狩りのスケルトンが刀以外で人を襲ったって話だよ」
俺の何気ない呟きに答えたのは女麒麟の獣人だった。
見た目はまるっきりの美少女だが、耳の付け根の裏側から生えた角が彼女を麒麟と証明している。
女竜人だと角の他に頬や手の甲などに竜鱗が生えているので人間の女と区別しやすいが、女麒麟は角以外に判断する事が難しいのだ。
「やぁ、久しぶりだね。君もエレガント王国に戻ってきていたんだ」
他の獣人に比べ麒麟は殊更珍しい種族だ。
獣人王国でも見かけることは稀と言ってもいい。
その麒麟が俺と知って声を掛けてきたのだが・・・あ、そう言えば居たな。女の麒麟が。珍しいので記憶の片隅に覚えていたのを。
「久しぶりだな。ジパン帝国以来だから1ヶ月前くらいか?」
「そうだね。あの戦争からまだ1ヶ月しか経っていないけど何かそれ以上に久しぶりに感じるね」
この麒麟はジパン帝国でロンリー公国のロリコン王が戦争を起こしたときに参戦していた冒険者だ。
確か俺達第7臨時部隊と第8臨時部隊は異世界人で固められた部隊だったのに対し、第9臨時部隊は異世界人と天地人の混合部隊だったはずだ。
彼女はその第9臨時部隊のメンバーだったはず。麒麟の獣人が珍しかったので覚えていたのだ。
とは言え、お互いに面識があるだけで会話はしたことが無かったはずなんだが。
「ところで何で俺の名前を知っているんだ?」
「あはは、あの時の戦争でジパン帝国では鈴鹿は一躍有名になったからね。
銀色の騎竜を駆るだけでも驚きなのに、ジパン帝国女帝から直々にお褒めを頂いた面白い冒険者だからね」
「おい、嫌な事を思い出させるなよ」
そうなのだ。あの時の『覚醒の使徒』ことロンリー公王を倒したことでロリの王の証と言うとんでもアイテムを手に入れてしまったせいで女帝からジパン帝国追放を受けてしまったのだ。
ロリの王の証の所為でその後も色々トラブルを舞い込んでしまい当の本人としては笑い事じゃないんだよ。
「そう言えば僕は名乗ってなかったね。僕はジェニファー。見ての通り武闘士だよ」
ジェニファーは神獣と言われる麒麟の獣人だけあって、麒麟の身体能力を生かし素手で戦う武闘士だ。
その身体能力は獣人の中でも竜人とタメを張るほど凄まじいものがある。
装備も武闘士の素早さを生かす為、革鎧に籠手と言った軽装だ。
だが何故か腰には剣が下げられてはいるが。
「ところで、この騒ぎは刀狩りのスケルトンだって言うがどういうことだ?」
「ああ、うん。鈴鹿は刀狩りのスケルトンの噂は知っているかな?」
「噂だけならな」
確かハルトも刀狩りのスケルトンに襲われ神木刀ユグドラシルと言う刀を奪われたって聞いた。
そして俺はその刀狩りのスケルトンに覚えがあった。
刀狩りのスケルトンは巫女の姿をしており、二刀流の使い手だと言う。
しかもその二刀流は剣姫二天流の使い手で魔法剣すらまで使いこなすと言うとんでもスケルトンだ。
その正体はジパン帝国の港町ロングネスで騒動を起こした異世界人の召喚によって呼び出された英雄の遺体を元にした最強と言われるスケルトンロードだ。
最強のアンデット故か、このスケルトンロードは召喚者の意向を外れた常識外のスケルトンでもある。
おまけにその時戦った俺を好敵手(?)っぽく感じ、いつかは付け狙われるものと思っていたのだが・・・・まさかこんなところまで来ていたとは。
おそらく刀狩りも俺に対抗するために集めているんだろうな。
あの時は刀を2本ともへし折ったから。
「その刀狩りのスケルトンが刀を狩る以外に人を襲ったんだって」
「いや、刀狩りで人を襲うのも十分大ごとだと思うけどな・・・」
まぁ、大体の事は分かった。
刀狩りも人を傷つける事より刀を優先するような噂だったのが、人を傷つけ始めたとなっては放ってはおけなくなったんだろう。
その関係で冒険者ギルドに依頼が舞い込んできたってところか?
俺は掲示板を見てそのスケルトンの依頼書を捜す。
見つけた依頼書にはA級上位モンスターとして扱われ、報酬も300,000Gと朱金貨クラスの莫大な額となっていた。
「最初はたかがスケルトンとして討伐依頼が出されていたんだけど、返り討ちにしているうちに危険度も報酬も上がっちゃって。
この額になったのもA級クランの1人がやられちゃったかららしいよ」
「あー、確かにただのスケルトンにしてはスケールがデカすぎるからな。そりゃあ騒ぎにもなるか」
けど、これってもしかして魔人も何か関係したりしていないか?
元々は俺達関係のスケルトンだったが、ここエレガント王国に来て何かしら魔人との繋がりが出来ていたとか。
ただの刀狩りから人を傷つけるようになったのも魔人が関係しているのかもしれない。
ふむ。少し探ってみる価値はあるか。
俺はその刀狩りのスケルトンの情報を冒険者ギルドで集め、目撃情報の多い地区を探し回ってみることにした。
で、何故か俺の後ろを付いてくるジェニファー。
「何で付いてくるんだ?」
「ん? なんか鈴鹿と一緒に居た方が面白そうだから」
「あのなぁ・・・ジパン帝国みたいなのはないからな。
それはそうと、お前仲間はどうしたんだよ」
見たところジェニファーは仲間を連れておらず1人で行動をしている。
「んー、ジパン帝国の時の仲間はもう別れちゃった。何かふつー過ぎて詰まんないから」
「ジェニファーは面白いかで仲間を決めるのかよ」
「え? だって折角冒険者になったんだもの。『冒険』をしなくちゃ面白くないじゃない」
呆れる俺にジェニファーは冒険こそ冒険者の仕事だと目を爛々と輝かせていた。
確かに冒険者の仕事は『冒険』と言ってもいいかもしれないが、冒険者は『冒険』をしてはいけないと言う言葉もあるんだぜ?
無駄に命を失う行為より、生きる為の行動を大切にしろと言うありがたい言葉だ。
無駄に身体能力が高いせいか、ジェニファーは無駄に命を散らす行為が好きなようだな。
それが命取りにならなければいいが。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺は刀狩りのスケルトンが多く目撃されている人気のいない地区を見て回るがそれらしき影の形も見えやしない。
まぁ、素人の俺が人物捜索して見つかるほど簡単じゃないのは分かってはいたが。
「さて、どうしたものか・・・一旦『月下』に戻って情報を持ち帰ってみるか。もしかしたらデュオも目が覚めているかもしれないしな」
俺の呟きを聞いたジェニファーは何か面白い事を見つけたように話しかけてきた。
「へぇ、鈴鹿はクラン『月下』のメンバーなんだ」
「いや、メンバーじゃなく知り合いだな。俺の仲間の1人がメンバーの1人と姉妹でな」
「それでも凄い事だよ。クラン『月下』と仲良くなろうとしてもそう簡単にいかないからね。
そっかー、これは鈴鹿に付いて来て正解かな?」
おい、俺を面白爆弾かなんかと勘違いしていないか?
「あれ? おにーさん、無事だったんだ。ボクの忠告を聞いてハレミアに行かなかったんだね」
この場を離れようとしたところへ1人の少女が声を掛けてきた。
見れば第四衛星都市ハレミアに向かう途中で行かない方がいいと忠告をしてくれた幼女体型の15歳、つるぺたすとーんの立派なレディの少女だ。
「あ、あの時の。
あー、折角の忠告だったけど、行ったぜ、ハレミアに。俺達はあの都市の26の使徒に用があったからな」
俺の26の使徒の言葉に少女はピクリと少し反応した。
それは少女だけではなく、ジェニファーもだった。
「そっか。おにーさんはエンジェルクエストの挑戦者だったんだね。じゃあボクの忠告は余計なお節介だっかな?
それじゃあ、お節介ついでにもう一つ。おにーさん、その麒麟から離れた方がいいよ。その人、凄くヤバい」
俺は何を、と言おうとしたが、次の瞬間、隣に居たジェニファーから途轍もない殺気が溢れ出した。
俺は慌ててジェニファーから距離を取る。
それと同時に俺の居た場所をジェニファーの拳が唸りを上げて通り過ぎた。
「おい、ジェニファー。いったい何のつもりだ?」
「うーん、何であっさりばれちゃったんだろうなぁ~? 一番面白くなるタイミングでばらそうと思ったんだけど。
まぁ、ばれちゃったから仕方がない。ここは思いっきり暴れて有耶無耶にしてしまおう!」
「答えになってねぇよ!?」
ジェニファーは拳を握りしめ向かってくる。
俺はステップを駆使し、ジェニファーから繰り出される攻撃を全て躱す。
その上で距離を取り、ユニコハルコンを抜いてジェニファーを牽制する。
そのころには俺に忠告をくれた少女はもう既にこの場には居なかった。
前に言っていた危機には敏感で危ない目にあった事はないと言うのはそのようで、ジェニファーが殺気を溢れ出すと同時にこの場から逃げ去っていた。
少女の危機管理能力を考慮すればわざわざこの場へは来ないはず。俺に忠告する為だけにここへ来たのか?
後で話しを聞きたいところだが、今は目の前のジェニファーをどうにかしないとな。
「あは、流石は鈴鹿。このボクの攻撃をこうも簡単に躱すとはね。
それにしてもさっきのお嬢ちゃんは何者かな? このボクに気が付かれることなく消え去るなんて」
「そう言うお前も何者だ? この期に及んでただの戦闘狂とは言わないだろう」
まだ会って間もないが、このジェニファーの性格はどことなく炎聖国国王ゴーグロットの戦闘狂に似ている。
似てはいるが、中身はまるっきり違うように感じるんだよな。
「そうだね。鈴鹿にはこう名乗った方がいいかな。
ボクは『正体不明の使徒・Unknown』。麒麟として生を受け、魔人として生まれ変わった魔人専用の26の使徒だよ」
そう言ってジェニファーの姿が黒い霧のようなものに覆われたかと思うと、そこには全身黒ずくめのジェニファーが立っていた。
その姿だけを見ると黒ずくめの中身が誰なのかが分からない。
辛うじて頭から角が出ているので獣人であることは分かるのだが。
・・・マジか。魔人が複数いるのは聞いていたが、『正体不明の使徒』が複数いるなんて聞いてねぇぞ。
しかも『正体不明の使徒』が魔人専用の使徒だと。
一体全体何がどうなっているんだよ。
ジェニファーは再び闇の霧を纏い、黒ずくめの姿から冒険者への姿へと戻る。
「おい、『正体不明の使徒』が正体を現していいのかよ」
「だってもう既に正体ばれちゃったじゃないの。それに今回はいいんだよ。そう言う指示だし」
そう言う指示・・・・? もしかして他にも『正体不明の使徒』が居るって事なのか・・・?
「刀狩りのスケルトンもお前らの魔人の差し金か?」
「あれはボクとは関係ないよ。他の魔人は知らないけどね。
・・・あれ? 鈴鹿は他に魔人が居るのを知っているの?」
「ああ、どっかの魔人が情報をリークしてくれたんでな」
「へぇ、もしかしてナイトハート? それともアムルスズかな? あ、まさかアレストってことは無いよね? あいつがそんな敵に塩を送るような真似はしないだろうし」
ナイトハートにアムルスズ、それにアレストか。少なくともデュオの兄貴を含めれば魔人は5人は存在することになるな。
そう言えばアレストってどこかで聞いたような・・・?
「あ、そっか! ソロさんが教えたんだね! そう言えばソロさんの妹さんが『月下』に居るって言ってたし!」
「妹想いの良い兄貴でな。わざわざ忠告してくれたみたいだぜ」
「もう、ソロさんったら。折角皆で一斉に王都で暴れて大騒ぎしようとしてたのに警戒させてどうすんの」
「・・・なぁ、何で王都で暴れようとしているんだ? 今まで魔人――『正体不明の使徒』はそんなことしてなかったじゃないか。
それが今回に限って、何故?」
少なくともこれまで他の冒険者が『正体不明の使徒』のクエストをクリアしてきた時はこのような騒動は起こっていないはず。
数々の『正体不明の使徒』の噂が飛び交い、どれが本当の『正体不明の使徒』が分からなかった。と言う事は、これまではバラバラに別々に攻略されたと言う事だ。
それが今回に限って魔人同士が結託し、集団で王都を襲うのは――?
「うーん、これまでは各自で判断して行動しろって言われてて、ボクも好き勝手動いていたんだ。
ボクの場合は面白いかそうでないかで動いていたけど、他の人はどうかなぁー? 何しろ他の魔人たちは魔王信者だからねー
魔王信者は世界の破滅を望んでいるからね。魔王を蘇らせ世界を滅ぼし最後には自身も滅ぶと言う狂った教えだよ。
一応ボクも魔王信者だけど、他の人ほどじゃないから世界を破滅に導こうとは思わないけど」
うわぁ・・・魔人で魔王信者って最悪な組み合わせじゃないか。
そんな魔人が複数王都に居る、だと?
「で、今までは各々で好き勝手やってたのに、今回に限って招集が掛かって一斉に王都で暴れろって。どういう事なんだろうね? ボクにもそこん所はよく分かんないや」
「招集が掛かったって・・・その招集者はソロ、か?」
「うん? 違うよ。ソロさんもあの人に呼ばれて来たんだ。ソロさんはあんまり魔人や『正体不明の使徒』として活動していないからねぇー」
ジェニファーの口振りからすると、さっき上げた名前の他に別の『正体不明の使徒』がいるっぽいな・・・
「ねぇ、折角色々お喋りしたんだからボクを楽しませてよね!」
そう言って再びジェニファーは拳で俺に向かって攻撃を仕掛ける。
先ほどとは違い、今度はユニコハルコンでの迎撃なので流石に素手のジェニファーには分が悪いだろう。
尤も熟練の武闘士だと上手く剣の腹に拳を当てて攻撃を躱す術を身に着けているだろうけど。
ジェニファーの攻撃をいなしながらお互いの攻撃で鳴り響く金属音の中で俺は反撃の隙を伺う。
・・・待て、金属音だと?
距離を取ってジェニファーを見てみると、彼女の手には剣が握られていた。
「おい、お前武闘士じゃなかったのかよ」
「あは、そうだね。普段は拳のみで戦うから武闘士で間違っては無いよ」
「普段は、だと? じゃあ今は剣で戦う剣戦士って事か?」
「半分正解。
さっきまでのボクはモード究極の使徒とモード拳撃の使徒を併せ持つ使徒・UltimateKnuckle。
そして今はモード剣技の使徒とモード達人の使徒を併せ持つ使徒・SwordMasterだよ」
いや待て。お前は『正体不明の使徒』じゃないのか? 何だその究極やら拳撃やら別の使徒の名前は。
「『正体不明の使徒』はそれぞれ別の使徒の力を扱う事の出来る方式を持つ形を持たない使徒なんだ。故に『正体不明』の使徒。
そしてボクはその方式を2つ同時に扱う事の出来る使徒、2方式を司る『合成の正体不明の使徒』なんだよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Alive In World Online雑談スレ941
375:名無しの冒険者:2059/05/31(土)15:10:09 ID:Re2p09N78
アルカディアマジヤバいって
376:名無しの冒険者:2059/05/31(土)15:16:32 ID:sUo5tONan0t
>>375 詳細をお願いします
377:名無しの冒険者:2059/05/31(土)15:18:56 ID:MyaA5neKo
あー、それって魂が取られるって言われているアルカディア?
378:ピンクパンダ―:2059/05/31(土)15:22:13 ID:pin9panD10
噂に振り回されているwww
ゲームに魂が捕らわれるって都市伝説だね
379:名無しの冒険者:2059/05/31(土)15:27:02 ID:HkOj33sSn
いや、実際アルカディアから戻ってきた人が居ないからあながち噂ですまされるレベルじゃなくなっているよ
380:名無しの冒険者:2059/05/31(土)15:35:41 ID:J02GnA474
>>379 それってリアルでも、って事だよね?
381:くるくる満ちる:2059/05/31(土)15:37:01 ID:kurU96Mic6
元々デスゲームも都市伝説の噂
だけど本当にデスゲームがあったことを考えればそのアルカディアの噂も・・・
382:名無しの冒険者:2059/05/31(土)15:40:02 ID:HkOj33sSn
>>380 そう、リアルでも意識不明者が居るらしい
383:名無しの冒険者:2059/05/31(土)15:45:21 ID:M369sekI69
デスゲームってあのAngel In事件?
あれこそ都市伝説でしょ?
384:ピンクパンダ―:2059/05/31(土)15:48:13 ID:pin9panD10
>>382 mjd?
385:名無しの冒険者:2059/05/31(土)15:51:09 ID:Re2p09N78
だからマジヤバいんだって!
次回更新は4/27になります。




