42.アルカディアと奴隷商と貴族
エレガント王国の衛星都市は他の領地の都市とは違い、その役割は大いに変わっている。
普通であれば統率者として王宮があり、その下に領主が治める各領地があるのだが、エレガント王国では首都エレミアを中心に北東・北西・南東・南西の四つの方角に衛星都市を置き、さらにその下に領地が支配下に置く統治方法を取っている。
王宮は4つの衛星都市を管理し、衛星都市はそれぞれの4地方の領地を管理する、つまり各衛星都市には王宮並みの権限があるのだ。
そして衛星都市の最高権力者の都市長はエレガント王国の四大公爵家がそれぞれ治めており、その内の一つ、ベルトランデ公爵家の当主・イーグレッド=ベルトランデ公爵が今俺達の目の前に居た。
「これはこれは・・・思いがけずの権力者が来たものだ」
流石にこれには『知恵と直感と想像の使徒』のソフィアテレサも驚きを隠せないでいた。
「私は常々貴族らの違法獣人奴隷を何とかしたいと思っていたのだ。
そこへ『知恵と直感と想像の使徒』殿が違法獣人奴隷を解放したいと聞き及んでこれは渡り船ではないかと思い、バダック殿へ取り次ぎをお願いした」
どうやら都市長様は人族至上主義者じゃないようで、違法獣人奴隷は認めないらしい。
とは言え、衛星都市で一番偉い人物が違法を抑えれない時点で色々終わっているような気がするが・・・
とそこへ、似たようなことを思ったトリニティが突如現れた都市長様に疑問を投げかけた。
「あの・・・でしたら都市長様が違法獣人奴隷を解放すればいいのでは?」
「それが出来ないからこうして貴方方を頼ってきたのだ。
貴族らの所有する獣人奴隷は書類上何の違法性が見当たらない。正当な権利を以って獣人らを所有している。
勿論表だって虐待行為をしているわけでは無いので現行犯ではない限り奴隷法違反で捕まえる事も出来ない」
これはさっきもソフィアテレサが言っていたが、書類上は正式な手続きで獣人奴隷を手に入れているのだ。
下手に訴えればこちらが逆に訴えられかねない。
「私は見ての通り若くして都市長になった若輩者だ。公爵家の当主とは言え、ハレミアに住む貴族共に舐められているのもまた事実。
だが、ハレミアを治める者としてはこの現状を見過ごせない。
どうか私にも協力をさせてもらいたい」
うーん、実はこれが演技でイーグレッド都市長も人族至上主義でうまい汁を吸っているのを邪魔しようとしている俺達を嵌める罠だって可能性があるよな。
まぁ、獣人であるバダックが連れて来た時点でその可能性は限りなく低いのだが。
最終的な判断はこの作戦の指揮者であるソフィアテレサの判断になるから俺はその判断を待つ。
尤もソフィアテレサは長考するまでも無くあっさりと許可をした。
「それはこちらとしても有りがたい申し出だ。少なくともハレミアでの最高権力者の協力が得られるのは大きい」
「そう言ってもらえると助かる。
そして期待しているところ申し訳ないが、この会見は極秘且つ未公認でもある。人族至上主義の貴族に下手に目を付けられないためにも強権を振りかざすことも出来ない。
今の私に出来ることが限られているが出来る限り力になれるよう約束しよう」
あー、これはもしかしてハレミアの統治が上手くいっていないのか?
おそらくだが都市長と貴族が対立しているのだろう。
共存主義VS人族至上主義ってところだろうか?
確かにそうなるとイーグレッド都市長も大っぴらには動けないよな。
下手をすれば表面上問題ない人族至上主義者に強権を振りかざしたことで足元を掬われるかもしれないし、この若くして都市長になったイーグレッド都市長を侮っているのだろう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふと思ったんだが、違法獣人奴隷は書類上は問題ないんだよな? でもそれって書類作成の段階から貴族共の手が入っているんじゃないのか?」
結局書類を作るのも人間だ。その人間が貴族共の手の者なら偽造は容易いんじゃないかと思うのだが。
俺がそう聞いてみるとソフィアテレサやイーグレッド都市長は首を振る。
「確かに中には書類偽造で奴隷に仕立て上げられ不当な扱いを受けている者も居る。
だがその数は極僅かにすぎない。
大半のものが自ら進んで奴隷になっているんだ」
俺はソフィアテレサの答えに眉をひそめる。
「何で違法な扱いを受けるのに自ら進んで奴隷になるんだよ。
いや、そもそも奴隷ってどうやってなるものなんだ? 借金奴隷と犯罪奴隷の区別があるくらいしか知らないが」
「借金奴隷はその名の通り借金をこしらえてしまい返済するために奴隷になる事だな。もしくは家族の為に身売りする者とか。
その為、奴隷商にて手続きをすることによって借金を肩代わりしてもらい奴隷と言う身分になる。
因みに奴隷商は高利貸しも兼務している事がある。奴隷商にしてみれば借金奴隷にする為金を貸すようなものだがな」
「犯罪奴隷の方は行政が手続きを行う事になる。
罪の重さにより奴隷期間が設定され、行政で認定された奴隷商に卸されるか、もしくはオークションに掛けられることになる。
勿論この場合得た金銭はその行政の運営に充てられる」
「ああ、奴隷の首輪はAlice神教の管轄だな。神官のみが出来るように女神アリスが制限を掛けているらしいぜ。
その為、奴隷の首輪を扱える神官はかなりの力を持っているって話だ」
ソフィアテレサが借金奴隷について、イーグレッド都市長が犯罪奴隷についてそれぞれ説明する。
そして一番肝心な奴隷の首輪はAlice神教教会の神官のみが取外しが可能だとバダックが追加で教えてくれる。
「うーん、今の話だと行政で罪をでっち上げ偽書類を作り違法奴隷にするのはあり得そうだな。その行政を執り行っているのは貴族が殆んどなんだろ?
ああ、イーグレッド都市長にはちょっと失礼だったな」
「いや、いい。実際にそのような不正が行われているのは事実だ。だが、今回の件に関しては少々事情が違う」
「そうだな。私が獣人王国で手に入れた資料によると、殆んどが借金奴隷として登録されているんだ」
ソフィアテレサの調べた書類内容によると、不思議な事に不正が行いやすい犯罪奴隷ではなく、借金奴隷が大半を占めていたと言う。
「でもそれって奴隷商もグルだと結局は同じなんじゃないのか? 偽造書類で借金まみれにして奴隷にするとか」
やろうと思えばわざわざ犯罪である必要はない。偽の借金で借金奴隷にしてしまえば同じなのではないのか?
だが、ソフィアテレサは俺の言葉を否定する。
「それなら話は簡単だったんだけどな。さっきも言った通り不当に連れてこられたにも拘らず、獣人たちは自ら進んで借金奴隷になっているんだ。
彼らは決まってこう言うんだ。『私は借りたお金を返せないから借金奴隷になります』って」
「あ、そのことなんだけど、ソフィアテレサが手に入れた書類を調べていったら、勿論獣人たちは借金をしたという事実は無いわ。実際に獣人にお金が渡ったこともないし。
何故か書類上は借金をしたってサインが掛かれているけど。
しかも、普通こういうのって色んな奴隷商に分散するものなんだけど、全て一つの奴隷商で行われているの。で、その違法獣人奴隷を買い取っていくのもある一人の貴族のみ」
・・・・・・それって明らかにその貴族が怪しいじゃねぇか。
トリニティが調べた情報では誰がどう見ても怪しさ満点だ。
その奴隷商とその貴族はグルで獣人たちを借金奴隷に仕立て上げているんだろう。
「ん~、でもなんか露骨すぎないか? ここまでストレートだとかえって罠なような気もするな」
「そうなのよね。明らかに丸分かりの状態を晒してこちらを引っかけようとしているのか。なまじ情報戦に精通しているだけに深読みしちゃうのよね」
バダックとアイさんがあまりにも露骨すぎるので罠ではないかと言ってくる。
・・・言われてみればそうだな。
俺達の様な輩を捕まえる為の罠か、もしくは自分たちを探る者を見つけるための網か。
後者だとすれば、既に調べた時点で相手に筒抜けの可能性もある。
「その辺りは心配しないでも大丈夫よ。あたし達を嗅ぎまわっているような奴は今のところは居ないわ」
トリニティが盗賊ギルドを通じて自分たちが違法奴隷を調べている事を情報にしないようかなり高い口止め料を払っているらしい。
そして逆にそのことを調べに来た奴がいたら教えてもらうよう情報料も支払っているとか。
「怪しさ満点だが、その奴隷商と貴族を調べてみよう。トリニティ、すまないがその奴隷商と貴族の名を教えてもらえるか?」
「えっと、奴隷商の方はアルバ奴隷商。貴族の方はエチーガ=ヤーヴェイ伯爵」
ソフィアテレサは取り敢えずその怪しい奴隷商と貴族を調べることにしたのだが、トリニティの口から出てきた名前の片方に聞き覚えがあった。
「あいつか」
わざわざ獣人を引き連れて見せびらかしながらバダックを見下しに来ていた奴だ。
・・・あいつならこんなアホな丸分かりなことをやりそうな気がするが。
「あの野郎がねぇ・・・ありっちゃありなんだが、あまりにもお粗末すぎる気がするんだが」
「ヤーヴェイ伯爵か。あの者ならこれくらいは平気でするだろうが、隠蔽工作が無さすぎるな」
同じように思い当たるバダックとイーグレッド都市長はあのアホの行動に疑問に思っていた。
「もしかしたらその辺りに獣人たちが自分から奴隷になっている秘密があるのかもしれないな。
よし、トリニティとアイは申し訳ないが引き続きアルバ奴隷商とヤーヴェイ伯爵の事を調べてくれ」
「俺も奴隷仲間からあの野郎とその奴隷商について何か知っていないか聞いてみるぜ」
「私もヤーヴェイ伯爵について調べてみよう」
ソフィアテレサの指示の元、トリニティとアイさんは盗賊ギルドや町中で再び情報を探る。
バダックやイーグレッド都市長も独自の情報網を使い情報を集めに回った。
え? 俺はどうしたかって? 俺に出来ることはソフィアテレサを守る事だけだよ。
万一を考えて違法獣人奴隷を解放しようとしているソフィアテレサを亡き者にしようとする者が現れないとも限らないからな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――AL103年5月2日――
昨日は時間も既に夜を回っていたので、調査の結果は翌日の昼に報告を聞く事にした。
ソフィアテレサがブルブレイヴ神殿を拠点としているので、俺達も宿を引き払いソフィアテレサの護衛も兼ねて神殿で寝泊まりをしている。
因みにソフィアテレサがブルブレイヴ神殿を拠点にしているのは、違法奴隷獣人を解放する為行動を起こせば貴族たちの反発があるのを予測していた為、その干渉を防ぐのに神殿の威光を盾にしているらしい。
太陽神サンフレア・月神ルナムーン・勇猛神ブルブレイヴの三柱神を祭る神殿は王族や貴族の権力の届かない独立した組織でもある。
ソフィアテレサは軍師と言う事でブルブレイヴ神殿にかなり好評価されており、またブルブレイヴ神殿にコネを持っているらしく、その伝手を頼って神殿に身を寄せているのだ。
因みにAlice神教教会も本来であれば独立した組織なのだが、あまりにも信者が増えすぎて巨大な組織にありがちな宗教による腐敗が蔓延って、権力に溺れる神官も存在していたりする。
「さて、各々らが集めた情報を共有化しよう」
神殿の一室を借りて俺達はアルバ奴隷商とエチーガ=ヤーヴェイ伯爵の情報を出しあう。
今この場に居るのは俺、トリニティ、アイさん、バダック、ソフィアテレサ、イーグレッド都市長の6人だ。
実は都市長は護衛も付けずに1人でこの場に居たりする。
護衛やお供はいないのかと聞けば、王宮の人間の殆んどが人族至上主義者だからこの場には呼べないと。
そもそも護衛はバダックが居ればほぼ事足りるとして、送り迎えをさせている。
それでいいのか、都市長。
「まずあたしから。
アルバ奴隷商についてなんだけど、商会長はアルバ・バルディッシュ。
規模としては3年ほど前までは中堅どころだったけど、今では王都のブライト商会と並ぶくらいの大商会となっているわね。他の奴隷商と同じく高利貸しも兼務している。
奴隷の仕入れはもっぱら借金の返済の滞った者や身売りによるもので、買い付けによる奴隷の仕入れは殆んど無し。そして奴隷はほぼ獣人ばかり。
その仕入れにはヤーヴェイ伯爵が関わっているのは昨日も言ったけど、仕入れた奴隷を売りだし・・・と言うか献上しているのがヤーヴェイ伯爵のみね。
逆にヤーヴェイ伯爵から売りに出された――飽きられた奴隷たち――を引き取り、他の商会に売りさばいて富を築いたみたい」
聞けば聞くほどあの野郎とグルなのが分かるな。
仕入れは殆んど・・・と言うかタダで、お下がりの奴隷を周囲に売り出してぼろ儲けしていると。
そこからアルバ奴隷商を中心に獣人奴隷がハレミアに、又は回り回って獣人王国の奴隷市に出回っているみたいだな。
「そりゃあ、仕入れがタダなら大商会になるだろうよ」
どうやらバダックも俺と同じ感想を持ったようだ。呆れながら言う。
「ふむ、まずはアルバ奴隷商を潰して流通を止めるか。そうすれば市場に出回る獣人を防げるし、ヤーヴェイ伯爵に打撃も与えられよう」
「それならば少し注意した方がいい。
私の調べたヤーヴェイ伯爵はそれこそ3年前まではそこらの貴族と同じように分かりやすい獣人奴隷の入手の仕方をしていた。
だが、3年前のある日から今の様な入手の仕方に変わったらしい。より傲慢により強欲に獣人を虐げる術を見つけたのだろう。
これを妨害するとなるとそれなりにヤーヴェイ伯爵の反撃が出てこよう」
「あー、それならば俺もあの野郎の妙な噂を聞いたぜ。
奴隷仲間からあの野郎はヤバい、関わるなってな。なんでも気が付けばあの野郎の言う事を聞いてしまっているとか」
ソフィアテレサが今のハレミアの奴隷市場に楔を打つべく、アルバ奴隷商をどうにかしようとするが、それに関わるあの野郎の反撃に気を付けろとイーグレッド都市長とバダックが忠告してくる。
「なんだ、その言う事を聞いてしまっているって。それって獣人たちが自分から借金奴隷になりに来ている事と関係しているのか?」
「多分そうだろうな。何せその話を聞いた奴隷仲間は被害に遭った獣人の噂の噂の噂・・・を聞いたって話だ」
ソフィアテレサは少し考えた素振りを見せ、何やら閃いたような様子でその噂について見当をつけていた。
「今の情報で大まかな『予測』がはじき出された。
86%の確率でヤーヴェイ伯爵は他者に言う事を利かせる能力を手に入れていると思われる」
「それって、祝福なのかしら? でもそんな能力聞いた事が無いわ。もしあるとすればS級の祝福よ」
「いや、祝福とは違うだろう。おそらく3年前にヤーヴェイ伯爵はその能力を手にした。
祝福は生まれつきか、『探求の使徒』のクエストを失敗しない限り手にすることは無い。
『探求の使徒』のクエストはその失敗に比例して強力な祝福を授かるが、言っては何だがヤーヴェイ伯爵にはとても無理だろう」
ああ、そう言えばそうだったな。
『探求の使徒』の質問に答えて『正しい答えの使徒』なら神託を、『偽りの答えの使徒』ならペナルティと祝福を。
中にはワザと間違えて祝福を貰う輩も居るらしいからな。
「それを考えれば、ヤーヴェイ伯爵は祝福とはまた違った能力を手に入れたはずだ。
ふむ、少々厄介だな。その能力も然ることながら、能力を手にしたヤーヴェイ伯爵を相手取るのには少々情報が足りない。
・・・まずは予定通りアルバ奴隷商を潰して違法獣人奴隷の流通を止めつつ、アルバ・バルディッシュからヤーヴェイ伯爵の情報を引き出そう」
「ならば私の視察と言う事でアルバ奴隷商を訪れよう。貴方方等は私の護衛兼補佐官と言う事でアルバ奴隷商の内部を探ることが出来るはず」
ソフィアテレサはまずはアルバ奴隷商を潰すことを宣言し、その手段としてイーグレッド都市長の権力を使う事になった。
こういう時は権力者は便利だな。
「ああ、因みに私はまるっきり戦闘が出来ないから。生まれつき魔力操作が出来ないのでな。私は一切の魔法が使えない上、運動音痴だ。
よってアルバ奴隷商で荒事になった場合しっかり護衛を頼む。見たところ鈴鹿君たちはかなり優秀な冒険者だから期待しているぞ」
え゛? エルフなのに魔法が一切使えないって・・・
ソフィアテレサって実は結構お荷物扱いなんじゃ・・・
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「これはこれは都市長様。わざわざこのような場所へどういった御用で?」
「急な訪問で申し訳ないな。今日伺ったのはアルバ商会の視察だ。何やら不正な行いをしていると噂を聞いてな」
アルバ奴隷商の商会の一室に通された俺達は、商会長のアルバと対面していた。
俺達はイーグレッド都市長の脇と後ろに控え、都市長がアルバと会話を交わす。
と言うか、イーグレッド都市長ど直球だな。
のっけから「てめぇのところから違法奴隷が出ているから調べに来た」って相手に警戒を与えないか?
ああ、潰すつもりだから別にかまわないのか。
「そんな、滅相もございません。我々は法に乗っ取り商売をしているに過ぎません。
一体どこからそんな噂が出てきたのでしょうか」
「法に乗っ取って・・・か。ならばこの書類は何なんだろうな?」
そう言ってイーグレッド都市長は複数の書類をアルバの前へ突きつける。
その書類は幾つもの貴族がアルバ商会から金を借りた借用書だ。
トリニティとアイさんがアルバ奴隷商を調べでは、高利貸しとして貴族共に金を貸し、その借金をエチーガの野郎が連れて来た獣人たちに負わせて借金奴隷に仕立て上げていると言う事だった。
無論、証拠を残さないよう貴族共の借用書は破棄され、獣人たちが借金をしたことの偽造書類が作成されている。(獣人たちが自分から借金返済を出来ず借金奴隷になることのサインをしているから偽造とは言い難いが)
「馬鹿なっ!? 貴族の借用書は全て破棄したはずだ! 何故これがここにある!?」
手にした書類を見てアルバは驚愕の表情で叫ぶ。
実際はアルバの言う通り本当に破棄されておりもう既に存在しないはずなのだが、どういう訳かアイさんがその当時の書類を持ってきたのだ。
アイさんにアルバを嵌める為の偽書類か?と聞いたところ、正真正銘の貴族共の借用書らしい。
入手手段を聞けば「ちょっと、ね」と濁して答えてはくれなかった。
相変わらず秘密が多い女性だ。
「はっ!? い、いや、これは儂を嵌める偽の借用書だ! 儂が金を貸したのは獣人共だけだ!」
いや、おっさん、語るに落ちているよ?
最初に「貴族の借用書は破棄したはずだ」って言ってるじゃん。
「そもそも借金をした獣人の中にはそれ程お金を必要とする種族が居ない様に見受けられるが?」
そうなんだよな。羽鳥人・チキル種なんかはどうやったって都会に住んでいいような種族じゃないし、そもそも金の卵を産むから借金の必要すらないんだよ。
「そ、そんなことは知らん! 儂は金が必要だと言うから貸しているだけで、返してもらわなかったから奴隷にしたに過ぎん!
獣人共が自分から借金奴隷になるとサインをしたんだ! 儂は何も悪くは無いぞ!」
余程動揺したのか、都市長の前だと言うのにぞんざいな態度で言い訳を続けるアルバ。
そんなアルバに更なる追撃の書類を突きつける。
「それはおかしいですね。
この密約書にはヤーヴェイ伯爵が獣人に言う事を聞かせ、自ら借金奴隷になるように指示をすると書かれていますが?
ヤーヴェイ伯爵が獣人を狩り、アルバ奴隷商が獣人を奴隷に貶めヤーヴェイ伯爵へと譲渡する。そして不必要になった獣人奴隷を再びアルバ奴隷商で受け入れ、アルバ奴隷商はその獣人奴隷を他の奴隷商へと卸す。
ヤーヴェイ伯爵とアルバ奴隷商の間には一切金銭のやり取りは行われず、アルバ奴隷商はタダで仕入れた奴隷を他の奴隷商へ捌く事で儲けを出している。
密約書にはそのような事が書かれていますが?」
書類――密約書を突きつけたアイさんが書かれた内容をざっと説明する。
今のアイさんは名目上、イーグレッド都市長の秘書と言う事で、いつもの冒険者風の姿ではない。
如何にも異世界のキャリアウーマン風のスーツ姿だ。
同様にソフィアテレサもスーツ姿になっている。こっちは『知恵と直感と想像の使徒』と言う立場でもあるので、都市長の補佐役と言った建前でいた。
俺達は護衛役だな。トリニティの頭に乗っているスノウの所為で些か気の抜けた威厳しか出せてないが。
「はぁっ!? そんな書類あるはずがない! そもそも儂とヤーヴェイ伯爵の間で取り交わした約束を書類に残すか! 口約束ではあるが伯爵の力を目の当たりにすれば逆らう気もおきんわ!」
「では、密約書の存在は兎も角、内容は間違いないのだな?」
そこで言質を取ったイーグレット都市長の言葉にアルバは今更ながら自分が口にした内容を思い出して真っ青になっていた。
分かっちゃいたが、このおっさんアホだわー
ソフィアテレサがアルバ奴隷商やアルバ・バルディッシュの知識を集め使徒の力で『予測』した結果、この方法なら口を割ると言う事なのでやってみたらあっさり暴露しやがった。
貴族の借用書は別にして、当然アルバの前に出された密約書は引っかけるためにこっちが用意したものに過ぎない。
だが、内容は俺達がここに来るまでに大よその検討を付けていた事だ。
ソフィアテレサが『予測』していた、エチーガの野郎の『人に言う事を聞かせる能力』はほぼ間違いないみたいだな。
さっきアルバが口走っていた「伯爵の力」は多分そのことを指しているだろう。
「い、いや、それは違・・・そ、そう! 儂は伯爵に言われるまま動いただけに過ぎないんだ! 伯爵のあの力に逆らえるわけがない! 儂は悪くない!」
「その言い訳は城で聞こう。アルバ・バルディッシュ。ヤーヴェイ伯爵に知っていることを全て吐いてもらうぞ」
イーグレッド都市長がアルバをひっ捕らえようと後ろに控えていた俺達に合図を送る。
当然、アルバは無駄な抵抗を試みようとじりじりと後ろへ後退していく。
「危ない!!」
と、その時隣に居たトリニティが動き、イーグレッド都市長に覆いかぶさり地面へと伏せさえる。
少し遅れて俺達も地面へと伏せた。
放たれた3本のナイフは俺達の頭上を掠め、その内の1本はアルバの脇を通り抜ける。
「ひぅ!」
突然の飛来したナイフにアルバは腰を抜かしその場にへたり込んだ。
「ふん、良く躱したな。
それにしても・・・余計な事をべらべら喋り過ぎだ。あまり口が過ぎると・・・殺すぞ?」
そう言って俺達の背後の戸口から現れたのはエチーガ=ヤーヴェイ伯爵本人だった。
エチーガの野郎の前には守るように1人の老執事と2人の竜人と猿人が立っていた。
エチーガの野郎は俺達を一瞥した後、射殺すような視線をアルバへと向ける。
その視線を受けたアルバは顔を真っ青にし、ガタガタ震えはじめた。
「冗談だよ、冗談。お前は俺の大事な駒なんだ。こんなところで殺さないよ。だが、これ以上余計な事を喋るな。いいな」
アルバは必死に肯定するように口を閉ざし頭を上下に動かす。
「にしても・・・都市長も随分と俺の事を嗅ぎまわっているみたいじゃないか。どうやって調べたか分からないが、今の俺の道を阻む者は従う者以外死んでもらおうか」
「どうやってって・・・あんなのちょっと調べれば誰でもわかるだろ? つーか、マジで分からないならあんた貴族止めた方がいいぞ。
それと、俺達を始末するつもりみたいだが、言っておくがそう簡単にやられるほど柔な鍛え方をしていないぜ。しかもこっちには『力の使徒』も居るんだ」
どうやらエチーガの野郎はあの丸分かりの関係性が本気でバレてないと思っていたみたいだ。
関係性を大っぴらにしているのは罠なんかじゃなく、自分ならと自分を特別視していた結果からきたものみたいだな。
もし本当に『人に言う事を聞かせる能力』があるのなら自惚れて警戒を疎かにするのは致し方ないのだろうが。
俺にそのことを指摘されたエチーガの野郎は顔を真っ赤にしたかと思うと、今度は嫌らしい笑みを浮かべ見下してきた。
「ふん、貴様ら下賤な庶民如き警戒する必要が何処にある。まして獣人如きでガタガタ言う方がどうかしてる。
それとお前ら如き口封じに殺すことなぞ容易い事だ。今の内だぞ? 俺に従えば殺さないでやる。
ああ、都市長には確実に死んでもらうが。いちいち煩かったんだよな。獣人如きでごちゃごちゃ言いやがって。
心配しなくても後任の都市長はこっちでちゃんと選んでおくから安心して死ね。
っと、折角だから女は俺が飽きるまで使ってやるよ。上手く媚びれば死なずに済むかもしれないぜ」
何処からくる自信なのか、エチーガの野郎はここで俺達を排除するらしい。
余程連れて来た3人腕に覚えがあるらしい。
それと俺達は兎も角、幾らここが人族至上主義の都市とは言え、使徒や都市長を殺害した後の事を考えているのか? これって下手に事が露見すれば罪に問われるのは間違いないはずなのだが。
アルバ奴隷商との関係を見れば一発でバレる様な後始末しかできないと思うぞ。
「言っておくが、その2匹の獣人はもとより、この執事は元A級冒険者の『大蛇』だ。
お前らの様な駆け出し冒険者が敵うような相手じゃない。素直に投降する事をお勧めする」
「ちょっ!? 『大蛇』ってあの『大蛇』!?」
「知っているのか? トリニティ」
「知ってるも何も、シクレットの暗殺者ギルド所属のヤバい奴よ。暗殺者でありながら表で行動する過激派。大勢の人数を相手に全て飲み込むように殺すことから付いた二つ名が『大蛇』なのよ」
シクレットって確かエレガント王国の隣の国の第二都市だったよな。
3つの組織が闇で血で血を洗う抗争を繰り広げられている犯罪都市の様なところだ。
その3つの組織の内の1つ暗殺者ギルドに所属していたA級冒険者って訳か。
「昔の話ですよ。今はご主人様に仕えるタダのしがない老いぼれた執事にしか過ぎません」
優雅にお辞儀をしながらこちらを見定める様な鋭い眼光を送る老執事は確かにトリニティの言う通りただ者じゃないように見えた。
「さて、どうする?」
切り札の1つである執事に気をよくしたエチーガの野郎はニヤニヤしながら戸口に身を預けこちらを伺っていた。
「だってさ。どうする?」
俺は分かり切った答えを皆に尋ねた。
「うむ、ここでヤーヴェイ伯爵と会うとは予想外だったが、致し方あるまい。伯爵の能力は気にかかるが、ここで倒してしまえば違法獣人奴隷の解放が可能になる。
私は戦闘はからっきしだからここは鈴鹿君たちに任せた」
「私を亡き者にしようとしているのだ。無論徹底抗戦に決まっている」
「野郎をぶちのめすのに絶好の機会じゃねぇか。大人しく従う理由なんてねぇよ!」
ソフィアテレサ、イーグレッド都市長、バダックと3人が3人ともここでエチーガの野郎を倒すことに賛成だった。
トリニティとアイさんは聞かなくてもエチーガの野郎に下るわけがない。
「そうかそうか、残念だ。本当に実に残念だ。折角優秀な駒が手に入るかと思ったのだがな。
――殺れ」
とても残念そうな表情に見えない笑みを浮かべながら、エチーガの野郎は目の前の3人に俺達を殺す指示を下した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
AIWOnの奴隷スレ9
154:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:17:26 ID:L6nB8S0v
奴隷になっちゃったテヘペロ
155:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:19:33 ID:S3nb8D00I
>>154 男がやっても可愛くないよ
156:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:20:55 ID:AkjAlssft1
>>154 女の子だったら奴隷は大歓迎だね!
157:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:25:12 ID:VR36936Dsk
と言うか、プレイヤーも奴隷になるんだ
158:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:29:21 ID:aIzNuk2zz
奴隷になった経緯を聞きたいね
159:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:33:41 ID:HkOj33sSn
>>157 なれるよ
プレイヤーだからって特別扱いじゃないんだよ
俺らはAIWOnではノピスと同じように扱われる存在なんだ
160:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:39:39 ID:B8nbeN0vb
>>154 借金奴隷? 犯罪奴隷? それによってコメントが変わる
161:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:41:26 ID:L6nB8S0v
まぁ普通に借金こさえて返せなくなりました
結果、見事奴隷落ちです・・・orz
162:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:46:55 ID:AkjAlssft1
女の子だったら性奴隷で稼ぐことも出来るけど、そこんとこどうなの?
163:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:47:26 ID:L6nB8S0v
あ、普通に借金奴隷です
164:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:50:08 ID:KyoNew3Hcp
え? このゲーム、エッチなことも出来るの!?
普通そう言うのって制限掛けられてるんじゃ・・・
165:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:53:41 ID:HkOj33sSn
借金奴隷か。犯罪奴隷じゃないだけマシかもね
166:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:55:12 ID:VR36936Dsk
誰か借金奴隷と犯罪奴隷の詳細plz!
167:名無しの冒険者:2057/09/26(水)20:55:39 ID:B8nbeN0vb
>>164 このゲームの売りは現実と同等以上の事が出来る事だから
リアルで出来ることはAIWOnでも可能
倫理に関してはArcadia社の超法的理由?
169:名無しの冒険者:2057/09/26(水)21:01:41 ID:HkOj33sSn
意味はまんまだね
借金奴隷:借金返済の為、金銭で縛られた奴隷
犯罪奴隷:犯罪を犯し罪を償う為、懲役がある奴隷
170:名無しの冒険者:2057/09/26(水)21:09:21 ID:aIzNuk2zz
>>163 因みに借金は幾ら?
171:名無しの冒険者:2057/09/26(水)21:10:08 ID:KyoNew3Hcp
そうか~エロは可能なのか~ ヘ(゜▽、゜*)ノ ジュルリ♪
172:名無しの冒険者:2057/09/26(水)21:11:26 ID:L6nB8S0v
>>170 借金は金貨3枚!(30,000ゴルド=3,000,000円)
173:名無しの冒険者:2057/09/26(水)21:12:21 ID:aIzNuk2zz
>>172 たった2ヶ月でどんだけ!? こいつアホだ!www
次回更新は2/29になります。




