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Alive In World Online  作者: 一狼
第8章 Intelligence-Inspiration-Imagination
41/83

40.腕相撲と瞬動と力の使い方

『久々の挑戦者です!

 あまりの強さにチャンピオンに挑む者が居なかったこの究!極!腕相撲!!

 時には相手の腕をへし折り、時には相手の腕を捻じ切る、極めつけは試合が始まる前のお互いの手を握った状態だけで握り潰すと言う凄まじい力を披露したチャンピオンに挑むのは若くして冒険者を営む鈴鹿と言う青年です!』


 大勢集まったギャラリーに向かって音声拡張魔道具(マイク)で場を盛り上げる司会者。

 囃し立てる者も居れば野次を飛ばす者や場の熱気に乗っかって無意味に騒ぎ立てる者も居し、司会者そっちのけで賭場を仕切っている者に我先にと賭けを行う者までいる。


『さぁ! 皆さん! 一見普通の冒険者に見えるこの青年・鈴鹿。この細腕ではチャンピオンに勝つどころか何秒持つのかと思われるでしょう!

 しかし! この鈴鹿の経歴を聞けば考えを改めざるを得ません!

 鈴鹿はこの天と地を支える世界(エンジェリンワールド)に来て1ヶ月と経たない異世界人(プレイヤー)なのです!

 そしてなんと! その1ヶ月でエンジェルクエストを17個もクリアした最速攻略者でもあります!!!』


 その司会者の声にギャラリーは「嘘だ!」とか「いやハッタリだろ」とか「クリア速度と腕相撲は関係ないだろ」とかざわめいていた。

 中には「もしかしてチャンピオンに勝っちまう?」「もしかして秘めた力が・・・」とか俺の勝ちに傾いている者などが出てきていた。


『さぁさぁ! これは分からなくなってきました究!極!腕相撲! 賭けの勝敗はチャンピオンの瞬殺が一番人気! 次いで秒殺が二番人気!

 だが、鈴鹿の異色の経歴で一番人気二番人気の倍率が変動するか!?

 もう間もなくで賭けを締め切ります! まだ賭けてない方は今すぐ向かいの受付へLet’s Go!!』


 司会者の煽りにこぞって賭けに向かうギャラリーたち。


「・・・・・・何これ?」


 この現場を見て出た一言がそれだった。


「何・・・って、バダックが言っていた腕相撲の賭けでしょ?

 まぁ、思ってたよりも規模が大きくてびっくりはしたけど」


 そうなんだよなぁ。てっきり場末の酒場とかでの賭場みたいなのを想像していたが、トリニティの言う通りあまりにも規模が大きすぎて頭が付いて行かない。


 バダックはあの後大通りに出て、大通りのど真ん中の広場になっている場所で腕相撲の宣言をした。

 すると出て来るわでて来るわ。ただでさえ大通りには大勢の観光客やら住人やらが多かったのだが、腕相撲の賭けに合わせて場を埋め尽くさんばかりの人が集まってきたのだ。


 今、この場を仕切っているのは司会者と賭けの受付者だが、実質バダックの代理人でしかない。

 バダックはチャンピオンと言う立場の為、また或いは場を盛り上げるために彼らを雇い代わりに賭けの運営をしてもらっている。


「でも、まぁ、これだけの規模だとすればさっきバダックが言っていた腕相撲の賭けで大金を稼いでいると言うのは頷けるわね」


「いや、たかが腕相撲だろ? 何故これだけ大騒ぎになるんだよ・・・」


「最初の頃はそうでもなかったんじゃない? 今これだけの規模になっているのはバダックの実績がものを言っていると思うわよ」


 アイさんはバダックの腕(この場合はプロデュースの腕だな)にしきりに感心していた。

 まぁ、たかが腕相撲如きでこれだけ稼げる用は賭場を作り上げたのは流石に感心はするが。


「にしても・・・『力の使徒』のクエストに挑戦するのに何で腕相撲をしなければならんのだ・・・

 しかも俺達の時だけ唐突に決めやがって」


「あー、賭け腕相撲の興行が滞っているってのもあるんじゃないのかな?」


「それって完全に公私混同だろ・・・」


「そもそも、この賭け腕相撲自体が『力の使徒』としての公認だから別に公私混同って訳でもないんじゃないのかな?」


 確かに使徒の力を金稼ぎに使っている時点で公私も何もあったもんじゃないんだよな。

 つーか、興行が滞っているからって無理やり巻き込むんじゃねぇよ。


「マジであの腕と腕相撲するのかよ・・・比喩じゃなくて本当に腕が引きちぎれたりしないか・・・?」


 わざわざ大通り広場ど真ん中に作られた特設ステージの上でバダックがその丸太の様な腕をアピールしていた。

 俺も天と地を支える世界(こっち)に来ても鍛えてはいるが、はっきり言って腕の太さが違い過ぎて勝負にすらなりゃしないと思う。


「だから、勝負は瞬殺か秒殺に人気が集中しているんだろうね。あ、鈴鹿が勝つのは大穴だって。倍率が凄い事になってる」


 瞬殺は試合開始から一瞬のことで、秒殺は10秒以内に決着が付くことを言うらしい。

 後は15秒、20秒、25秒、30秒と5秒刻みで賭けられ、1分以降は10秒ごとに分けられていた。

 当然、時間が長くなればなるほど倍率が高くなっていく。

 で、俺が勝っちまったら大穴で大フィーバーってわけだ。


「あら? 私は鈴鹿くんが勝つと思うわよ?」


「へ?」


 アイさんの突然の言葉に俺は思わず変な声を出してしまった。


 俺が勝つって? あの腕に?


「いやいやいや。アイさん、何を言っているんだよ。あの腕にどうやって勝つと?

 種族的身体能力依然に、筋肉の量からして負けているじゃないか。」


「もう、何を弱気になっているのよ。鈴鹿くんは疾風迅雷流の教えを受けているんでしょ? それに剣姫流も受け継いでいる。負ける要素なんてないわよ。

 なんなら本当に賭けるわよ? 金貨10枚でもどーん、と」


 何故そこで疾風迅雷流が出てくる。

 剣姫流は分からないでもないが・・・って、いやいや。剣姫流は凄い流派だと胸を張って言えるが、腕相撲に関しては全く以って無力だろう。

 剣姫流はどちらかと言うと速度と技で敵を倒す流派だ。

 剣戦技三大流派の鋼斬剛剣流ならば力を主とした流派だから対抗できるかもしれないが。


「ふーん、アイさんは鈴鹿が勝つって信じているんだ・・・よし、あたしも鈴鹿が勝つ方に賭けよ!」


 おい、俺が勝つことを信じてくれるのは嬉しいが、本当に賭けるなよ。

 あ、アイさんも本当に受付に向かって行った。マジか・・・


 俺は本当に賭けるために受付に向かったトリニティとアイさんを死んだ目で眺めていた。


 ええ~、これで俺が勝たなきゃどうなるんだよ・・・

 つーか、クエストを受けるために勝たなきゃならないのは分かっているんだが・・・




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 特設ステージの檀上に俺とバダックが上がっている。

 腕相撲のリングは古典的な大樽だ。

 現実(リアル)のアームレスリングの様な立派なテーブルなんかじゃない。


「さぁて、お前の実力を見せてくれよ。久々に血の滾る勝負が出来そうでワクワクしてんだよ」


「勘弁してくれ・・・どう見ても勝負にならないだろうよ」


「いいや、そんなことは無いぜ。俺の勘がそう言っている」


 どいつもこいつも買いかぶりやがって。

 仕方なしに俺は覚悟を決める。

 どのみち、この腕相撲に勝つのが『力の使徒』のクエストを受ける条件ならどうやっても勝たなければならない。

 ああ、因みにこの腕相撲の参加費は俺達パーティーの財務省のアイさんが払ってくれている。


『さぁさぁ! 究!極!腕相撲のチャンピオンVS挑戦者・鈴鹿の賭けは締め切られました。

 一番人気は瞬殺、二番人気は秒殺です。流石にこの体格差を見れば大穴と言う無謀な挑戦はしないか!?

 挑戦者・鈴鹿に今の心境をお伺いしたいところだが、精神統一の邪魔をしてはいけません。我々が出来ることはただ勝負の決着が付くのを見守るだけです!』


 バダックは腕を振り回し肩慣らしをしてから大樽に右腕の肘を付き左手で樽の端を掴む。

 俺も大樽に右腕の肘を付き踏ん張りを利かす為、左手で樽の端を掴む。


 お互いの右手が握り合い、腕相撲の準備が整う。


『さぁ! お互いの準備が整いました! 後は試合開始の合図を待つばかり!

 いいですか? いいですか? 宜しければ試合開始の合図をさせて頂きます!』


 俺とバダックはお互い頷き合う。


『では・・・レディ――――・・・GO!!!!』


「ふんっ!!!」


「ふんぐっ!!!」


 試合開始の合図と主に右腕に力を入れたのだが、一瞬にして反対側に仰け反る。

 だが、まだ右手の甲は付いていない。

 辛うじてだがギリギリ保っていた。


 勝負が一瞬で付かなかった事にギャラリーは沸き起こる。

 賭けに負けた者の罵声や勝負が続いていることに対する歓声やら、今この広場は大熱気に包まれていた。


「ふんぐぐぐぐぐぐぐ・・・・!!!」


 冗談じゃねぇ。本当に腕が引きちぎられるかと思ったよ!


「ほう、あの一瞬の力を凌ぎきるか。いいねぇ、そう来なくっちゃ」


 対するバダックは余裕綽々で腕に更なる力を込める。


 やべぇ・・・このままじゃ負ける。


「ちょっと、鈴鹿! 何やられっぱなしになっているのよ! ほら、いつもの底力を見せなさいよ!」


 簡単に言うなよ!?


 トリニティにしてみれば励ましなんだろうが、こっちはそれどころじゃないっての。


「鈴鹿くん、しっかりしなさいよ。疾風迅雷流の基本が出来ていないわよ。基本が出来ていればいくらでも応用が出来るわ。

 鈴鹿くんはもう既に『力の使徒』に勝つ下地は出来ているのよ」


 アイさんまでが俺が勝つ応援をしてくる。


 疾風迅雷流の基本って・・・歩法だろ? ここじゃ役に立たないぞ。

 ・・・いや、待て。疾風迅雷流の(・・・・・・)基本(・・)が出来ていない?


 そう言えば歩法は足をしっかり大地に踏みしめ体幹を真っ直ぐ立たせることから始まる。

 今の俺はしっかり足を踏みしめているか?

 腕ばかりに意識が向き、足場を疎かにしている。


 俺は改めて腰を下ろし足を踏みしめ大地を掴む。


 それにより、少しだけ右腕が浮く。


 ・・・・・・そうか、そう言う事か。

 腕相撲は腕の力だけで行うんじゃない。体全体の力を使って行う競技なんだ。

 あ、いや、腕の力を使う競技なのは間違いないが、少なくとも俺に関しては体全体を使った競技になるんだ。


 足で踏みしめた力を循環させるように体を伝い、足から脚へ、腰へ、腹へ、胸へ、肩へ、腕へと全体の力を右腕に集める。


 そうして集まった力は次第にバダックの右腕を押しのけ中央まで持ち直した。

 その光景にギャラリーがこれまでにない大歓声が沸き起こる。


『なんと! もう既に勝負がついたと思った挑戦者・鈴鹿! 驚異の底力であそこから持ち直したぁーーー!!

 これで勝負は分からなくなりました! 驚異の粘りを見せる挑戦者・鈴鹿か!? それともチャンピオンの意地を見せるか!?

 尚、この時点で1分を越えたので、大抵の方は賭けに敗れています! さぁ、誰が賭けに勝つのか!? そして挑戦者・鈴鹿はチャンピオンに勝つことが出来るのか!?』


 バダックは驚きと歓喜を混ぜ合わせたような顔でこちらを見ていた。


 一方、俺はそれどころじゃなかった。

 歩法の様に足を踏みしめるたびに理解する。

 これは疾風迅雷流奥義・(またたき)、剣姫流歩法・瞬動に通じるものがあることを。


 一見、足の力だけで移動しているかのように見える瞬だが、実際は体全体を使っての移動なのだ。

 目にも止まらないような速度で移動する瞬。当然それは下半身だけでなく上半身も付いてこなければ仰け反って移動どころじゃない。

 踏みしめた足を爆発させ前へ移動すると同時に、その力を体を伝い上半身へと集めて重心を前へ向けれるようにするのだ。


 つまり、今やっている腕相撲は腕を使った瞬でもあるんだ。


 それを理解した俺は更なる力を伝える為、瞬を使用するように力の循環を螺旋状にして効率よく右腕へと集中させ、一気に爆発させる。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ズダンッ!!!


 一瞬の爆発の後、俺の右腕が反対側に、バダックの右手の甲が樽に叩きつけられた。


 意外な勝負の結末に会場は静寂に包まれる。

 そして状況を理解すると会場は爆発するように大歓声に包まれた。


『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』


『なんとなんと! 大穴が来たぁぁぁぁ!! 挑戦者・鈴鹿! チャンピオンを破ったぁぁぁぁぁぁっ!!

 一時は危ぶまれたと思われた勝負が気が付けば一瞬のうちに挑戦者・鈴鹿の逆転勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』


 腕を叩きつけられたバダックは信じられない面持ちで叩きつけられた自分の腕を見ていた。

 そしてふと満足したように満面の笑みを浮かべて右手を差し伸べてきた。


「完敗だ。やるのは分かっていたがまさかこの俺が負けようとは。世の中は広いな。鈴鹿みたいなその腕で俺の力を破るとは思いもしなかったぜ。

 精々1分粘れればいい方だと思っていたが、これは俺の方が己の未熟さを思い知らされる結果になっちまったな」


「いや、俺が勝てたのはほぼ偶然に等しいよ。アイさんの助言が無ければ力任せにしか腕を使ってなかったからな。

 少なくとも俺もまだまだ未熟だったってわけさ」


 お互いを褒め称え己の未熟さを噛みしめながら手を交わし握手をする。


「まぁともあれ、約束通りクエストを受けてもらうぞ」


「それは勿論。こうまで完敗されて約束を違える気はねぇよ」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 腕相撲の勝負が終わった後、俺達は再び片隅の小さな食堂へとやってきた。

 時間は既に昼を回っていので昼飯を食べながらと言う事だ。

 最初に来た時は時間の所為もあったが、今は搔き入れ時と言う事で食堂の中はそれなりに客が入っていた。


「さて、お前らは『力の使徒』のクエストを受けたいと言う事だが、クエストの内容は知っているか?」


「まぁ、大体は。クエストを受けた者が一時的にバダックの主になって何かを為す、だろ?」


「そうだ。クエストの内容は『力の使徒』の力をどう使うか、それを見極めるものだ」


 そう言いながらバダックはかつ丼の大盛りを搔き込むように食べていく。

 但しどんぶりの大きさがハンパなくでかいんだが。


 流石獣人と言うべきか、それとも流石『力の使徒』と言うべきか。


 因みに俺は生姜焼き定食を頼み、トリニティとアイさんは野菜炒め定食を頼んでいた。

 如何にも庶民的なメニューだったが、こう言った食堂はそれなりに味があったりする。


「見極める・・・って、どういう事?」


「そのまんまの意味だよ。

 己以上の力を、身に余るほどの力を手に入れた者はそれをどう使うか。正しきことに使うのか、それとも悪しきことに使うのか、己の欲望に沿って使うのか、他者のために使うのか。

 それは何も『力の使徒』に限ったことじゃない。エンジェルクエストを経て手に入れた使徒の証の力をどう使うのかにも関わっている訳だ」


 トリニティの質問にバダックが答える。


 俺達にとっては既に17個もの使徒の証を手に入れている訳だからそれほど関係ない話でもあるが、これから大量のエンジェルクエストに挑む者にとっては手に入れた使徒の証を正しく使えるか試すクエストでもあるのか。


 ・・・いや、既に手に入れた使徒の証を正しく使っているのかも見極める事でもあるのかもしれないな。

 正に『力』の使徒ってわけだ。


「お前ら、『宝石の使徒』をクリアしたか?」


「ああ、あれには苦労したよ。なんせ『宝石の使徒』本体と戦ったんだからな」


「ほう? 本体とだと? なるほどな。確かに一筋縄じゃいかないわけだ。

 ならクエストのクリア内容が使徒の証の特殊能力に影響されるのも分かるだろう。

 『力の使徒』のクエストは挑戦者の見極めは大前提として、そのクエスト攻略の内容がPの使徒の証の特殊能力に直結されている。

 ぶっちゃけ、俺を使って凄い事をすればその分特殊能力の効果も増すって訳だ」


 バダックの話によると、Pの使徒の証の特殊能力はただ単純に力を増幅させる能力を持っているらしい。

 大した内容じゃなければ1.1倍くらいで、バダックも認める内容だったら2倍とか場合によっては3倍4倍もあり得るのだとか。


「尤も最近の挑戦者は委縮しちまって大抵無難なハレミアの近辺のモンスター狩りやハレミアの雑務にしか俺を使わなかったがな。

 あ、言っとくが俺はハレミアの自由奴隷だから遠出とか無理だからな。それと他の挑戦者の事もあるから拘束時間は俺がこれ以上は時間の無駄だと判断するまでだから」


 まぁ、その挑戦者の事情もあるだろうから一概にも委縮しているとは言い難いとは思うが。

 時間が無い者もいるだろうし、戦闘もそれほど得意じゃ無い者も居るだろうしな。(尤も戦闘に関しては『始まりの使徒』で最低限の戦いが出来ることを証明しているだろが)


 俺達の場合はそれほど時間を掛けれないと言う理由があるから他の挑戦者と同じくこの辺のモンスターを狩ってバダックを使ったって言う内容にするのが無難か?


「うーん、どうしたものか・・・」


 そんな俺の悩みなんか吹き飛ばすかのようにトリニティから名案が出てきた。


「何を悩んでいるのよ?」


「あ、いや、バダックをどう使うかと思ってな。確かにこの後の他のエンジェルクエストの事を考えればPの使徒の証の特殊能力は結構捨てがたいんだよ。

 時間を取るか、能力を取るか、ちょっと悩みどころだな」


「何を言っているのよ。この後の『知恵と直感と想像の使徒』の攻略に力を貸してもらえばいいじゃない。

 時間も短縮できるし使徒のクエストに力を使うんだから『力の使徒』のクエストもそれなりの内容になるでしょ」


「そ・れ・だ!!」


 俺は思わず箸でトリニティを指した。


 そういやそうだ。何の因果か『知恵と直感と想像の使徒』はハレミアに居るんだった。

 バダックと一緒にクエストを攻略すれば一石二鳥じゃねぇか。


「鈴鹿くん、お行儀が悪いわよ」


 ・・・アイさんに注意されてしまった。


「ほほう、『知恵と直感と想像の使徒』が今ハレミアに居るのか。確かにこれは今までにないパターンだな」


「よし、そうと決まれば早速『知恵と直感と想像の使徒』に・・・名前が長いな。略して『知恵の使徒』でいいか。

 ・・・って、そう言えば『知恵の使徒』の居場所は把握しているのか?」


「あー、それはこれからだね。ごめん、ちょっと時間頂戴」


 元々『力の使徒』をクリアしてから『知恵の使徒』に挑戦するつもりだったからどうこう言うつもりはない。

 トリニティも『力の使徒』のクエストを攻略している間に情報を集めるつもりだったらしいし。

 てか、トリニティの事だから大体の情報は掴んでいるのだろうな。

 でなければこの一石二鳥作戦は思いついていないはずだ。


「どれぐらい時間が掛かる?」


「それほど時間は掛からないと思うよ。1・2時間くらいかな?」


「そっか、それじゃあ俺達はここで待っているよ」


 ここでトリニティは『知恵の使徒』の居場所を探るため外へと出て行った。

 何故かアイさんも一緒に付いて行ったので、食堂には俺とバダックの2人だけが残る形になる。


 バダックはこれ幸いとばかりにあれだけ大量のかつ丼を食ったにも拘らず酒盛りを始めやがった。

 よく飯を食った後に酒なんてのめるな。


「何を言ってやがる。麦酒(エール)は生活の原動力じゃねぇか」


 お前こそ何を言ってやがる。少なくともアルコールは生活の原動力なんかじゃない。

 それはアル中の屁理屈だ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 そうしてトリニティ達を待つこと1時間ほど経過した。

 バダックはがははと景気よく麦酒(エール)を呷る。

 その向かいでは俺はちびちびとジュースを飲んでいた。

 バンドの打ち上げの時みたいに二日酔いはごめんだからな。


 と、そこへ昼飯の搔き入れ時も過ぎ、ほぼ人が居なくなった食堂へ闖入者が現れた。


 身なりはどう見ても貴族っぽかった。

 上品な生地を使った豪華な刺繍を施した衣装に指には如何にも高そうな指輪を嵌めている。

 そしてよほど良いものを食っているのか、小太りを通り越しデブな30代くらいの男だった。

 そんなありがちな容姿でこれまたありがちな典型的な庶民を見下す貴族様だった。

 いや、この場合はハレミアの貴族は人族至上主義だから庶民は関係ないか?


「こんな辛気臭いところに居たのか。ふん、お前の様な薄汚い獣人にはお似合いのところだな」


「・・・何の用ですか、エチーガ様。それこそエチーガ様が来るような場所ではありませんよ」


 今まで上機嫌で麦酒(エール)を飲んでいたバダックが一気に覚めて不機嫌になっていくのが分かる。

 まぁ、気持ちは分かる。これは人族至上主義関係なく気分が悪くなる態度だしな。


 そんな典型的貴族様の側には幾人もの獣人の奴隷を伴っていた。

 中にはこんなところに居るのはおかしいだろうと思われる、真っ赤な髪に真っ白い羽をした羽鳥人(ハーピー)――チキル種が居た。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 AIWOn 都市情報交換スレ102


492:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:00:45 ID:MyaA5neKo

 第四衛星都市のハレミアってサイテーだねo(`ω´*)oムキー!!!


493:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:03:02 ID:Wan106Inu

 ああ、あの都市は貴族が人族至上主義だからな


494:とらとらとら:2058/8/31(土)21:05:55 ID: Tora10RaT

 ケモ耳を奴隷としている都市だね

 なんてうらやま・・・ゲフンゲフン、怪しからん都市だ


495:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:10:36 ID:UcAn9cH3tha

 ケモモフ '`ァ'`ァ (*´Д`*) '`ァ'`ァ '`ァ'`ァ (*´Д`*) '`ァ'`ァ


496:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:15:02 ID:Wan106Inu

 >>494

 >>495

 気持ちは分からんでもないが^^;


497:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:17:59 ID:Chun65nEzu

 あの都市の貴族にとって獣人は人じゃないからねぇ


498:ケモモフ命:2058/8/31(土)21:20:15 ID:km0Nmfm2L

 どうにかしてケモモフ達を救いたいニャ・・・


499:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:24:45 ID:MyaA5neKo

 それにはまず貴族をどうにかしないとね


500:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:29:24 ID:bb86brz2kT

 こちとら一介の冒険者だぜ? 出来ることは限られているんじゃないか?


501:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:33:02 ID:Wan106Inu

 一番手っ取り早いのはA級やS級の冒険者になって権力を手に入れることだね


502:とらとらとら:2058/8/31(土)21:41:55 ID: Tora10RaT

 もしくはA級S級の人物の協力を得るか


503:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:44:36 ID:UcAn9cH3tha

 ケモモフ '`ァ'`ァ (*´Д`*) '`ァ'`ァ '`ァ'`ァ (*´Д`*) '`ァ'`ァ


504:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:44:45 ID:MyaA5neKo

 けど権力を手に入れたからってどうにかできるものなの?

 ちょっと調べたけどハレミアの貴族たちはちゃんと奴隷法で獣人を手に入れているみたいだよ?


505:ケモモフ命:2058/8/31(土)21:50:15 ID:km0Nmfm2L

 ニャ、それは表向きの理由だニャ

 大半の貴族は違法手段でケモモフを手に入れているはずニャ!


506:名無しの冒険者:2058/8/31(土)21:58:02 ID:Wan106Inu

 >>505 はず・・・って証拠はないのかよ!?

 誰かシーフはいないか! シーフは!?


507:名無しの冒険者:2058/8/31(土)22:05:59 ID:Chun65nEzu

 あ、俺シーフ (*・∀・)ノ '`ィ


508:とらとらとら:2058/8/31(土)22:14:55 ID: Tora10RaT

 よし、行け! 507! ハレミアのケモ耳たちは君の腕に懸かっている!


509:名無しの冒険者:2058/8/31(土)22:16:59 ID:Chun65nEzu

 えー、俺今プレミアム共和国の首都に居るんだけど・・・


510:名無しの冒険者:2058/8/31(土)22:20:36 ID:UcAn9cH3tha

 ケモモフ '`ァ'`ァ (*´Д`*) '`ァ'`ァ '`ァ'`ァ (*´Д`*) '`ァ'`ァ








次回更新は2/25になります。

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