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Alive In World Online  作者: 一狼
第8章 Intelligence-Inspiration-Imagination
40/83

39.第四衛星都市と自由奴隷と力の使徒

大神鈴鹿、『逃走の使徒』と鬼ごっこをする。

大神鈴鹿、『投槍の使徒』の槍投げクエストを受ける。

大神鈴鹿、武闘トーナメントに出て『闘争の使徒』と戦う。

大神鈴鹿、『刀装の使徒』と決勝戦で戦う。

                       ・・・now loading


 獣人王国の首都ビーストロアから半日ほど時間を掛けてスノウに乗ってエレガント王国の第四衛星都市ハレミアへ到着する。

 獣人王国の時みたいに流石に直接街中へ降り立つことが出来ないので、少し離れた都市の外にスノウを着地させた。

 騎獣縮小リングでいつものようにスノウを小さくし、俺達は第四衛星都市へと向かう。


「ハレミアはあまりいい噂を聞かないんだよね~」


 トリニティはスノウを頭に乗せながらこれから向かう第四衛星都市の簡易情報を俺達に説明してくる。


 ・・・それにしても、スノウは最早トリニティの頭を定位置にしてしまっているな。余程居心地がいいのだろうか。

 トリニティもよく頭にスノウを乗せたまま歩けるな・・・


「ハレミアは言ってみれば人族至上主義の都市ね」


「ハーティーみたいな奴が沢山いるってことか?」


「ハレミアと比べればまだハーティーの方がマシ、ね。

 ハレミアの貴族にとって獣人は家畜と一緒なのよ。ううん、まだ家畜の方がマシかも。下手をすれば道具扱いで人ですらないのよ」


 おいおい、それは幾らなんでも酷過ぎやしないか?

 つーか、そんな横暴がこんな大都市で行われていて王国は何も言わないのか?


「それって王国も容認しているって事なのか?」


「うーん、流石に酷い扱いだとお咎めがあると思うけど、表に出ない様に裏で色々やってるみたい。

 それに表向きは奴隷で所有者である貴族のものだからね。どう扱うのかはその貴族次第になるわ」


 あー、第四衛星都市ハレミアをどこかで聞いた事があると思ったら、深緑の森のアーキティパ村の時に聞いてたっけ。

 珍しい種族のハーピー・チキル種は貴族の自慢に狙われやすいって。特に第四衛星都市ハレミアの貴族が主だって狙っていると。


「うーん・・・奴隷、ねぇ。あんま気分のいいものじゃねぇな」


「そりゃあ、ね。誰も好き好んで奴隷になんかなりたくはないわよ」


 獣人王国に居た時は丁度天獣祭と言う事で奴隷市もあったからそこそこ見る機会があったが、あれは見ていてあまり気分のいいものじゃなかったな。

 奴隷商によってはちゃんとした扱いを受けていた奴隷も居たが、酷いものになると着ている物もままならずガリガリに痩せて不健康な奴隷も居たりしたのだ。

 あれは幾らなんでも扱いが酷過ぎるだと思った。

 この世界には奴隷保護法が存在するので最低限の衣食住や命の補償はされている訳だが、どの世界にもああいった法の抜け道を使う悪徳商人がいるものだ。


「ってことは、奴隷市みたいな奴隷が沢山居るわけか」


「正確には獣人奴隷ね。人間の奴隷はあまりいないみたい」


「尚更酷いじゃねぇか、それ」


 聞いてくるだけで厄介事がてんこ盛りな都市だな。

 そんなところに居る26の使徒のクエストは大丈夫なんだろうか。


 第四衛星都市ハレミアの門が見えてくるころには俺らの他にも冒険者や商人、旅人といった者が出入りしているのが見えてきた。

 今の時間だとどちらかと言うと出ていく人より入る人が多いな。


 そんな出ていく人の中には小柄な者もいた。

 130cm位の身長に華奢な体つきで子供のように見えた。

 見たところ連れはいなそうだが、まさか1人で外を回るのだろうか。


「ん? 何? ボクの顔に何か付いている?」


 じっと見ていたら向こうがこちらの視線に気が付き声を掛けてきた。

 声変わりのしていない高い声で男か女かも良く分からん。


「ああ、悪い。子供が1人で外に出ていくみたいだからちょっと心配してな。連れは居ないのか?」


「ああ、そう言う事。大丈夫だよ、ボクはこう見えて危機には敏感でね。今まで一度も危ない目にあったことは無いんだよ。

 と言うか子ども扱いは止めてよね。ボクはこう見えて15歳の立派なレディなんだよ」


 へぇ、トリニティの祝福(ギフト)・危険感知みたいなのを持っているのか?

 つーか、これで15歳? 女?

 言っちゃ悪いが、どう見ても小学生のガキにしか見えん。

 つるぺたすとーん、で幼児体型と言っても間違ってないと思う。


「おにーさん、何か失礼なこと考えてない?

 まぁ、いいや。ボクを心配してくれたお礼に忠告してあげるよ。悪いことは言わないからこの町には行かない事だね。行っても精々今日明日で出ていくことをお勧めするよ」


 幼児体型の15歳はそう言って「それじゃ」と都市の外へ出て行ってしまった。


「どう見たってガキだよな・・・」


「あたしより年上なのにあれはちょっと可哀相・・・」


「こぉら。鈴鹿くん、それは彼女に失礼よ。少なくともこの世界じゃ15歳は大人なんだからちゃんとした扱いをしないと。

 それとトリニティは安易な同情は彼女に失礼よ」


 俺とトリニティがさっきの幼児体型15歳の感想を呟いているとアイさんからお咎めを言い渡されてしまった。


 そんなこんなでハレミアの門へ近づいて行くと、衛兵が門番をしていた。

 見たところ出入りのチェックはしていない。結構みんな素通りしている。


 あ、牛人(ミノタウロス)の獣人が衛兵に止められた。

 なんか牛人(ミノタウロス)が文句を言っていたが、渋々衛兵に従い出入りの審査を受けていく。


 こうしてみると人間はほぼ素通りで、獣人だけがいろいろ難癖を付けられたりしているな。


 大丈夫かよ、この都市。


 俺達は何事も無くハレミアの中へ入る。

 都市の中は大勢の人で溢れていたが、居るのは基本人間ばかりだ。

 獣人も居ることはいるのだが、大半は奴隷の首輪を付けて人間に傅くように付き添っていた。


 取り敢えず俺達はこの都市の拠点となる宿を取り、今後の行動を決める。


「それじゃあ、あたしは盗賊ギルドに行ってこの都市の詳しい情報と、この都市に居ると思われる『知恵と直感と想像の使徒』と『力の使徒』の情報を集めてくるね」


「私は一度離魂睡眠(ログアウト)させてもらうわ。流石に暫く異世界(テラサード)へ戻ってないから」


「あー、そう言えば俺もそろそろ一週間になるな。俺も離魂睡眠(ログアウト)するか」


「了解。2人が戻るまでに色々調べておくね」


 そう言ってトリニティはスノウを頭に乗せたまま宿の外へ出ていき、俺達は離魂睡眠(ログアウト)をして現実世界(リアル)へと戻る。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ――2059年5月30日(金)――


 現実(リアル)に戻ってきた俺は最早俺専用看護師となっている3人の看護師の1人、宇佐美蜜さんからの健康チェックを受け、アイさんといつものように親父にAIWOn(アイヲン)の状況を報告しに行く。

 時間は夕方だったが、親父はいつもの研究室に居た。


 俺達の報告に親父は何やら驚いていた。

 アイさんからの謎のジジイの報告に特に驚いていたが。


「もしかしたら『彼』なのかもしれない。すっかり風貌が変わっていたけど、どことなく面影があるし、多分・・・」


「マジか・・・いったいどうやって・・・いや、今の状況から考えればあり得ない事ではないのか・・・? いやいや、それでもAIWOn(アイヲン)に居る理由が分からないな」


 そう言って2人ともこれまでにない深刻な表情で考え込んでしまった。

 つーか、俺置いてきぼりなんだけど。


 やっぱアイさんは何も話してはくれないか。それを知っている親父もな。

 それだけ俺が蔑ろにされているか、それとも内容が内容で重要すぎるから言うタイミングを見計らっているか。

 尤も俺の目的は唯姫の救出なので2人の抱えている秘密を打ち明ける必要性を感じてないのかの知れないけどな。


「・・・アイは引き続き調査を続けてくれ。もしかしたら『彼』の事も何か掴めるかもしれない。

 鈴鹿は・・・あまり無茶はするなよ。ここにきて死んでしまえばこれまでの努力が無駄になるからな」


「分かったわ」


「了ー解、俺もここまで来て死ぬつもりはねぇよ」


 俺はアイさんと明日の夜に待ち合わせをして自宅へと帰った。

 親父も丁度定時の時間に仕事が終わったので一緒に帰宅だ。


 その後は俺の心配をしてくれたお袋に顔を見せて安心させ、1週間ぶりの家族3人でも食事となり、次の日には現実(リアル)での鈍っている体の鍛錬と、入院している唯姫の様子を見に行った。


 結局唯姫は1ヶ月経ちそうになっても目を覚まさないと言う事で、3日後には生命維持装置を付けたカプセルベッドに入れられ専用の病室へと移される予定だ。


 唯姫が目を覚まさなくなってから1ヶ月か・・・


 AIWOn(アイヲン)をプレイしているプレイヤーやそこの住人の天地人(ノピス)からしてみれば俺のエンジェルクエストの攻略は異常なほど早いのだろうが、唯姫の置かれている現状を見てみれば俺にとっては遅いくらいだ。


 今は親父の助言やアイさんの嗜めのお蔭でそれ程焦ることは無くなったが、唯姫に残された時間は少ない。

 親父の話だと意識不明者は約半年しか持たない。10か月持つ者も居るらしいが唯姫にそれを当てはめて行動するのは危険だ。


 そう考えると残り5か月。


 それだけあれば十分なような気もするが、この後の攻略状況や、アルカディアでの状況を考えれば安心できるものではない。


 いずれにせよ俺の出来ることはエンジェルクエストをクリアして一刻も早くアルカディアに向かう事だ。


 俺は眠り続ける唯姫の頬を撫でて誓いを新たに心に刻む。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ――AL103年5月1日――


 現実(リアル)では夕方に戻って丸一日経過し夜にログインした訳だが、現実(リアル)天と地を支える世界(エンジェリンワールド)では時間の流れが違う。

 4月29日昼過ぎに離魂睡眠(ログアウト)して5月1日の朝に帰魂覚醒(ログイン)したわけだから、待っていたトリニティにしてみれば約2日近く1人で行動していたことになる。


 この世界では宿屋の作りは何処も似たようなもので、1階は食堂兼酒場となっており2階は宿泊施設となっている。

 俺達は1階の食堂で朝食を摂りながらトリニティが降りてくるのを待っていた。


「あ、2人とも戻って来てたんだ。おはよー」


「クルゥ」


 2階から降りてきたトリニティは俺達の姿を見つけると挨拶をしてくる。

 トリニティの頭の上のスノウも嬉しそうに鳴いていた。


「おう、おはよう。

 それで、俺達が居ない間に集めた情報は? 時間は丸1日以上あった訳だからそれなりに有効な情報を集めれたんだろ」


「何言っているのよ。本来なら情報収集は1日やそこらで集めれるものじゃないのよ。

 急げばその分精度が落ちるし、ガセネタだって掴まされるんだから」


 そういやそうか。言われてみればその通りだな。

 現実(リアル)じゃインターネットとか情報伝達が発達しているから気が付かないが、こう言った中世の世界を模したファンタジー世界だと情報収集には一夕にはいかないものがあるだろう。


 そう考えると、これまで1日やそこらで情報を集めていたトリニティは意外と凄いのか?

 気が付けばしっかりと俺達の情報担当のポジションに収まっていて必要不可欠な存在になっているし。

 これからはあまりトリニティを蔑ろにできないな・・・


「まずは『力の使徒』からね。

 『力の使徒』は虎人(ガルディグ)の獣人でこのハレミアの自由奴隷になっているわ」


「自由奴隷?」


 自由なのに奴隷? 矛盾していないか?


「そ、普通の奴隷はご主人様に仕えるんだけど、自由奴隷はその場所とか国とか町とかが所有している感じかな? つまり皆の奴隷でもあるってこと。

 問題を抱え誰も買い手が居なくなった奴隷とか、ご主人様が死んで所有者とかが居なくなった奴隷の事を指すわ。

 尤も所有者が死んでも遺産として相続されたり、よっぽど問題を抱えてない限り売れ残ることが無いから自由奴隷と言った奴隷は居ないんだけどね」


 分かり辛いが自由奴隷は1人のものじゃなく皆のものって考えでいいのか?

 それだと命令権とかが分散して使いづらいと思うんだけどな。


「まぁ、大抵はその場所に住む長が命令をしたりするからそこまで混乱はしないわ。

 色んな人からの命令を実行するとなると矛盾が存在するからね。長が命令権を持つのは当然となるわ」


 俺の考えを読んだかのようにトリニティは自由奴隷の命令権が誰にあるか教えてくれる。

 なるほどな。一応命令権は長が持つのだが、その命令権が多岐に亘る事で返って自由奴隷の行動を縛る事が出来ないと。

 それで皮肉を込めて『自由に行動できる奴隷』と『誰にでも自由にできる奴隷』と言う事で自由奴隷と呼ぶと。


「但し『力の使徒』である自由奴隷は他の自由奴隷と違って所有者はクエストの挑戦者が所有者と言う事になるわ」


「どういう事だ?」


「うーん、何と言っていいのかな。

 クエストを受けた挑戦者が『力の使徒』の所有者になって『力の使徒』を使って何かを為す。これが『力の使徒』のクエスト内容よ。

 大抵の挑戦者は町の労働に使ってクエストをクリアしているみたいだけど」


「何か変わったクエストだな、使徒を従えるって」


 『力の使徒』のクエストの為に自由奴隷になったのか?

 それともハーティーの時みたいに元々自由奴隷だから『力の使徒』に選ばれたとか。


「後は『知恵と直感と想像の使徒』だけど、これはもうちょっと時間を頂戴。

 アイさんの言う通り暫く前からハレミアに居るみたいだけど、中々偏屈で人とのかかわり合いが薄いみたいなのよ。その所為か情報が集まり難くてね」


「いや、居場所が分かっていればそれだけでも十分だよ」


 数日前までは獣人王国で臨時軍師をしていたり放浪癖があるみたいだからな。

 ・・・そう考えると同じように音楽を求めて旅をしているハーティーを俺達はよく捕まえることが出来たな。


「それじゃあまずは『力の使徒』から攻略に入るのね。トリニティ、居場所は把握しているの?」


 アイさんが勿論ちゃんと調べているわよね?と師匠(?)としてトリニティに鋭い視線を浴びせる。


「それは勿論。この都市の奴隷は扱いが酷いけど、使徒である所為か『力の使徒』は普通の住人と同じような扱いを受けているわね。

 奴隷にはあり得ない待遇としてハレミアの大通りにある大宿『煌めきの夜空亭』に宿泊しているわ」


 宿の宿泊代は何処から出ているんだろうか?

 自由奴隷と言う事でハレミアから出ているのか、それとも使徒と言う事で特別客なのか、もしかして普通に自分で稼いで止まっているのか?


「早速その『力の使徒』の所へ行くか。トリニティ案内を頼む」


「了解」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 観光客やら宿泊客やらで賑わいのある大通りに面した一際大きい宿、『煌めきの夜空亭』。

 天と地を支える世界(エンジェリン)では珍しい5階建ての建物だ。

 1階は言わずと知れた食堂なわけだが、2~4階は上級客の宿泊施設に4階はスイートルームとなっており、最上階の5階は王族や貴族などお忍びで止まる5階が丸ごとワンフロアの超VIPルームとなっている。

 一見さんはお断りで、金持ちしか泊まれない高級宿だった。


 聞けば『力の使徒』は4階のスイートルームに泊まっているだとか。

 ・・・こんな宿に泊まっている『力の使徒』はどんだけ金持ちなんだよ。


「なぁ、俺達が足を踏み入れてもいいものなのか? ここ」


「うん、あたしもちょっとビビっているけど、1階の食堂は一般客にも開放されているから大丈夫よ。

 ・・・ただ食事の代金もべらぼうに高いけどね」


 ちょっと予想外の高級感に二の足を踏んでしまっていたが、どうやら1階部分はそこら辺の宿と大差がないみたいだ。


「ほら、何時までも気後れしてないで中に入りましょう」


 アイさんは平気で『煌めきの夜空亭』の扉を開け中へ入って行く。

 俺達もアイさんに続き恐る恐る中へ入る。


 中はこれまでの宿と違い、現実(リアル)でも通用するくらい煌びやかな装飾や高級感漂う食堂となっていた。

 食堂と言うより高級ホテルのレストランだな、これ。


 中に入って更に気後れしている俺達を余所に、アイさんは受付に話しかけ『力の使徒』へ取り次いでもらう様に頼んでいた。

 受付のホテルマン(もうホテルと呼んでやる)は実に慣れた様子で携帯念話(テレボイス)っぽい物で『力の使徒』に連絡を入れていく。

 もう何度も使徒への挑戦と言う事で俺らみたいな普通人の対応も慣れているんだろうな。


 暫くすると階段から1人の虎人(ガルディグ)が降りてきた。

 身長のほどは2mと高く、男の獣人らしく虎の顔に艶やかな毛並みの体毛、そして何より『力の使徒』と言うだけあって筋肉隆々の逞しい体格をしていた。

 但し着ている物はこのホテルに相応しいと言っていいのものなのか、そこら辺の一般人が着る様な服装をしている。

 そして首には奴隷の証である首輪が。色は借金奴隷を示す白色だ。


「おう、あんたらが『力の使徒』のクエスト挑戦者か?」


「あんたが『力の使徒・Power』か」


「おうよ。俺が『力の使徒・Power』こと虎人(ガルディグ)のバダックだ。知っているかと思うが自由奴隷だ」


「俺は鈴鹿。こっちがトリニティとアイさん。俺の仲間だ。

 呼び出したのは他でもない、『力の使徒』のクエストの事だ」


「ふむ、そうだな。ここじゃ話し辛いだろうから場所を変えるか」


 確かにこんな高級感漂う場所じゃ落ち着かない。

 俺達はバダックの後をついて行き、大通りの端にある小さな食堂へと入って行く。


 時間もまだ午前中と言う事で食堂の中はガランとしていた。

 バダックは慣れた感じで女性店員に麦酒(エール)を注文して一気に呷る。


「っかー! 朝っぱらから飲む麦酒(エール)はうめぇな!」


 まるで飲んだくれの酔っ払いみたいなセリフを吐くバダック。

 俺達も合わせて飲み物を頼んでいたが、流石に朝からはアルコールは飲まない。と言うか、飲んだ後の二日酔いがきついのは身に染みている。


「なぁ、バダックは自由奴隷なんだろ? 何でそんなに羽振りがいいんだ?」


「ん? ああ、『煌めきの夜空亭』の事か。

 確かにありゃあ一介の冒険者やまして奴隷なんか住めるような場所じゃねぇからな」


 俺の疑問にバダックも俺の言いたいことに思い当たったのか、先ほどのホテルの事を言ってくる。


「確かに俺は自由奴隷だが、『力の使徒』でもある。だから特殊な自由奴隷と言っても過言ではないな。

 だから特別扱いっちゃあ特別扱いなんだが、『煌めきの夜空亭』に泊まっているのはただ単純に俺が稼いでいるからだよ」


「稼いでいるって・・・どうやって?

  確かに自由奴隷にも普通に労働の対価として報酬は支払われるけど、奴隷身分だから言うほど大稼ぎは出来ないはずじゃ?」


 トリニティの基本的な奴隷の知識によれば、借金奴隷は奴隷法により命や衣食住を保証してもらいながらもちゃんとした労働報酬を受け取ることが出来ると言う。

 そして最終的には自分を買い戻して奴隷から解放されることも可能だと。

 尤も奴隷と言う身分から稼ぎも言うほど大きなものとは言えないらしい。


「まぁな。嬢ちゃんの言う通り自由奴隷と言えど、手に入る報酬は少ない。

 だが俺は普通の自由奴隷じゃない。『力の使徒』の自由奴隷だ。

 使徒の権限であることを容認してもらい、それで莫大な稼ぎを得ていると言ってもいい」


「そのある事って?」


「それは腕相撲! 力と力のぶつかり合い! 己の力を示す最もわかりやすい競技!」


 俺の言葉にバダックは待ってましたと言わんばかりに嬉々とした笑みで語りだした。

 トリニティを見ると、これはトリニティも知らなかったと首を横に振っていた。


 挑戦者は参加費の100G(小銀貨1枚=1万円)を払い、バダックに勝てばその100倍の10,000G(金貨1枚=100万円)を賞金として貰う事が出来る。

 勝たなくても一定時間負けなければ1,000G(銀貨1枚=10万円)の賞金も出るのだとか。

 そして逆に一定時間――5秒以内に勝つとそれまで挑戦してきた者の参加費のプールした額が賞金として与えられると言う。


 ちょっと参加費が高いが腕相撲で勝てば賞金10,000Gが手に入るともなれば、力自慢の挑戦者は目の色を変えるだろうな。

 勝たなくても負けなければそれだけでも賞金も貰えるんだし。

 逆に速攻で勝てばこれまでの挑戦者の参加費が全部貰える。実に挑戦者の心を擽る仕組みだ。


 だがこれだけではあの『煌めきの夜空亭』に泊まれるのかと言えば否と言える。


 ならどうやって大金を稼いでいるのかと言うと、『力の使徒』主催による公式ギャンブルだと言う。

 要は腕相撲でどちらが勝つかの賭博をバダックが仕切っていると。

 確かに胴元ならそりゃあ儲けるか。


「だけど、それだとバダックが常に勝つから賭けにならないんじゃ?」


「おいおい、『力の使徒』だからと言って俺が常に勝つとは限らねぇよ。中にはとんでもない奴もいるしな。

 それに、賭けの方も俺がどの時間で勝つかのレートになっているよ。大穴は俺が負けた時だな。その場合のリターンが凄いから何人かは大穴に賭けるんだよ」


 そう言いながらバダックは腹黒商人の様な笑顔を見せる。

 あれ? でもそれって・・・


「それって、バダックが八百長をしたら賭けにならないんじゃ?」


 俺も疑問に思った事をトリニティが言う。

 盗賊(シーフ)の視点から見れば確かに八百長は直ぐ思いつく事でもあるよな。


「そこは女神アリスに誓って無いと言えるよ。常に全力で腕相撲に挑んでいる。

 もし八百長をすればこの奴隷の首輪が反応を示す。まぁ奴隷ならではの不正防止だな」


 あー、それなら大丈夫なのか?

 まぁ、奴隷の首輪自体が女神アリス推奨らしいから、女神アリスに誓ってっていうのは本当だろうな。


 にしても、確かに賭場の胴元は儲けるって言うが、たかが腕相撲如きで高級ホテルに連泊できるだけの稼ぎを得れるものなのか?


「ま、そんな訳で奴隷でありながら俺は金持ちってわけだ」


 それだけの金があれば奴隷身分の解放も直ぐだろうに。

 ん? その場合は不正防止機能が働かないから賭け事が成立しないから意味ないのか?


 そんなことを考えていた俺にバダックはとんでもない事を言い始めた。


「んー、なぁ、鈴鹿。俺と一勝負しないか? お前とならなんかいい勝負が出来そうなんだよな」


「いや、どう考えても力の差は歴然だろう」


 確かに鍛えてはいるが、俺とバダックの筋肉の量は違いすぎる。勝負にもなりゃしないだろうよ。


「そうだ! 俺と腕相撲をして勝たなければ『力の使徒』のクエストを受けれないと言う事にしよう! 今決めた! そうしよう!」


 その言葉に俺達は唖然としたとしか言いようが無かった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 Alive In World Online攻略スレ537


812:名無しの冒険者:2059/1/14(火)10:24:33 ID:Mp539Lrin

 『警告の使徒』って何処に居るの? 全然見つからないんだけど;;


813:名無しの冒険者:2059/1/14(火)10:41:15 ID:MG2108Tgm

 あー、彼女を見つけるのは至難だよね


814:名無しの冒険者:2059/1/14(火)10:55:16 ID:F0kSb6C0nT

 まぁ、『警告の使徒』は逃げるのが得意だからね


815:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:10:51 ID:G5seITensA6

 >>814 それだと『逃走の使徒』になっちゃうじゃんw


816:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:14:22 ID:lip9S616rm

 正確には危険感知が抜群に鋭いから厄介事から逃げ回っているだけだけどね


817:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:21:15 ID:MG2108Tgm

 何故か冒険者からも逃げているんだよな

 私等からも危険を感じているのかな?


818:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:25:40 ID:MPL865Hnd

 聞いた噂じゃ『警告の使徒』に手を出そうとした馬鹿が居るみたいだよ?


819:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:34:29 ID:RRdb6to12

 え? それマジ? だって『警告の使徒』っていったら・・・


820:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:40:51 ID:G5seITensA6

 手を出そうとしたってどのレベルの事?


821:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:41:15 ID:MG2108Tgm

 変態だな


822:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:42:22 ID:lip9S616rm

 変態だね


823:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:43:40 ID:MPL865Hnd

 変態よね


 >>820 そのままの意味よ。『彼女』に『手』を『出そう』としたのよ


824:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:44:51 ID:G5seITensA6

 マジかwww

 あー、でも確か15歳の大人とか言ってなかったっけ

 それだとセーフじゃ?


825:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:51:29 ID:RRdb6to12

 いや、それでもあの容姿だと犯罪でしょ


826:名無しの冒険者:2059/1/14(火)11:54:22 ID:lip9S616rm

 そのバカの所為で『警告の使徒』は冒険者を警戒しちゃったんだね


827:名無しの冒険者:2059/1/14(火)12:00:33 ID:Mp539Lrin

 なんかよく分かんないけどどこかの誰かの所為で『警告の使徒』が見つかりにくくなったのは良く分かりました;;









次回更新は2/23になります。

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