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Alive In World Online  作者: 一狼
第7章 Katana
37/83

36.投槍と鷲鷹人と狙撃

 ――AL103年4月23日――


 俺達は『投槍の使徒』――リザルトの居る家へと向かう。

 昨日までは騎士団の要請――奴隷市を襲撃するテログループに対する戦力――で騎士団の詰所に集まっていたが、事件そのものが一段落したと言う事で四天王は解放されたらしい。

 なので、自宅に戻っているリザルトの家へ直接向かっているのだ。


 因みにその奴隷市の襲撃事件に関わっていたと思われるウィルたちは既に獣王都市に居らずエレガント王国へ戻ったらしい。


 後で説明をするって言ってたんだがなぁ~

 かなりの大事件だったらしいし、ウィルも大怪我をするまでの事だったからこっちに気を回す余裕が無かったのかもな。

 まぁ、王都エレミアでのエンジェルクエストに行ったときにでも文句を言いに行ってやるか。


「そう言えばハーティーは獣人に慣れた? 前みたいにあまり嫌悪感を抱かなくなったみたいだけど」


 獣人が殆んどを占める獣王都市の町中を歩くハーティーにトリニティが声を掛ける。

 人族至上主義(本人は否定)のハーティーは一見すると普通に都市の中を歩いている。

 俺との戦いを経てそれなりに獣人に対する偏見は薄れたのだろう。


「ええ、彼らに接すれば接するほど僕達人間と変わらないのが分かりましたからね。

 泣いて笑って怒って・・・どこにでもある、どこにでもいる普通の「人」です。

 ええ、例え獣臭くても、野生の本能剥き出しの脳筋でも僕達と変わらないのですから」


 ・・・訂正、中身はまだあまり変わってなかった。

 まぁ、いきなり180°方針を転換をしろと言われても直ぐには変われるわけもないか。

 なるべく普通に接しようとしているだけでも十分か。


「と、着いたわよ。ここね」


 トリニティに案内され俺達はリザルトの家へと辿り着く。

 26の使徒、それも四天王と呼ばれるほどなのでどれ程の豪邸に住んでいるかと思えば、何の事のない普通の一軒家だった。


 トリニティがドアをノックしてリザルトを呼び出す。


「む、来たか。昨日から楽しみにしていたぞ。何せ最近はエンジェルクエストに挑む輩が少なくなってきたからな」


 ドアから顔を出したリザルトは猛禽類特有の獰猛な笑みを浮かべながら俺達を見渡す。


「俺達をそこら辺の軟弱な冒険者と一緒にするなよ。

 自慢じゃないがまだエンジェルクエストを攻略し始めて1ヶ月で集めた使徒の証は13個にもなるんだぜ」


「・・・マジか?」


 俺の言葉にリザルトは目を開かんばかりに驚愕する。

 天地人(ノピス)の冒険者なら兎も角、AIWOn(アイヲン)現実(リアル)を行き来する異世界人(プレイヤー)だとエンジェルクエストの攻略にはそれなりに時間がかかるからな。

 いや、天地人(ノピス)だからと言って簡単に攻略できるわけじゃない。


 俺達の1ヶ月で13個クリアははっきりって異常とも言えるだろう。


「くくく、なるほどな。久方ぶりの手応えのある挑戦者か。よかろう、思う存分相手になってやるぞ。

 さて、まずはクエストの挑戦場所へと向かおうとするか」


 俺達は同意し、今度はリザルトに着いて目的地へと向かう。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 『投槍の使徒・Javelin』。本名、リザルト・ホークアイ。

 鷹の頭と翼をもつ獣人・鷲鷹人(イグルホク)羽鳥人(ハーピー)とは違い、腕が翼ではなく、背中に翼が生えている。

 羽毛で覆われてはいるがちゃんとした人間の様な腕があり、二足歩行の鷹だ。

 まぁ、足は鳥類独特の(あしゆび)となっているが。


 『投槍の使徒』のエンジェルクエストはリザルトに触れればクリア。

 『逃走の使徒』の鬼ごっこと似てはいるが、決定的に違うのはリザルトが攻撃をしてくると言う事だ。

 獣王都市の一番高い建物――通称『投槍の塔』を中心に半径300mがフィールドとなる。

 リザルトは『投槍の塔』の天辺の立ち位置から動かず、迫りくる挑戦者を使徒の力で作り出した投槍(ジャベリン)を容赦なく投げてくる。

 下手をすれば命の危険性もあるクエストだ。

 時間は日没まで。クエストを失敗すると『逃走の使徒』と同じく再戦には1ヶ月時間を空けなければならない。


 トリニティが仕入れた情報とリザルトから説明される内容を突合せしながら確認していく。


 俺達はクエストの挑戦場所――『投槍の塔』付近まで来ていた。

 城を除けば獣王都市で一番高い建物である『投槍の塔』は高さ100m、幅2mの円柱の塔だ。

 近づいたとは言え、この塔は町の何処からでも見つけることが出来る。

 逆を言えば塔の天辺からは獣王都市が一望できるわけだ。


「それで、俺のクエストの挑戦者は誰が受けるんだ? まさかミューレリア姫まで受けるとは言わないだろうな?

 クエスト用に力をセーブするとは言え、ジャベリンの当たり所が悪ければ命の危険があるぞ」


 昨日の『応援』で気をよくしたミューレリア姫は今日もまた俺達に付いて来ている。

 マクレーンも渋々ながらお供をせざる負えないので一緒だ。

 そんな姫を見ながらリザルトは忠告をしてくる。


「いや、受けるのは俺とトリニティとアイさんとハーティー、それとスノウの4人と1匹だ」


「む、騎竜はダメだ。流石に空を飛ばれるとクエストの意味が無くなる。

 それに空を飛んでいいなら俺も飛ぶぞ?」


 あー、確かにこっちは飛んでも良くて、そっちはダメだって理屈は通らないよな。

 もし空中戦もありならば、鳥の獣人であるリザルトに空を飛びながらジャベリンを振り撒かれればこっちは対処しようがない。


「分かった。スノウはマクレーンたちと一緒に居てくれ」


「クルゥ・・・」


 スノウは少しだけ残念そうに鳴きながらマクレーンの肩に止まった。


「よし、それでは『投槍の使徒・Javelin』のクエストを始めようか。

 ミントのクエストを受けたら分かるが、戦技魔法アイテム何でもアリだ。但し自分や周囲への被害は自己責任と言う事になるからな。

 今から1時間後、俺は『投槍の塔』に降り立つ。そこからクエストの開始だ。それまでの1時間は作戦の準備時間だ」


 リザルトはそう言うと翼を広げ俺達の前から姿を消した。

 1時間後にはあの『投槍の塔』の上に立って俺達を迎撃するのだ。


「さて、作戦会議と行きましょう。移動時間なども考えると時間が無いからぱぱっと決めちゃわないと」


 アイさんが気を引き締めるように手を叩いて集中させる。


「ジャベリンを躱しながら塔の天辺に居るリザルトに近づくとなると・・・方法としては分散して近づくか、一塊になってジャベリンを防ぎながら近づくかの2通りだな」


「一塊の方は狙われやす過ぎない?」


「狙われやすい分、躱す方向より防ぐ方向で進むって事になるな」


 トリニティの言う通りリザルトにしてみれば固まって動く分狙いが絞りやすいからな。

 ただ、固まって動く分機動力より防御力を主とする形になる。


「あ、そう言えばアイさんの『探求の使徒』のペナルティで得た祝福(ギフト)魔法攻撃無効化(マジックキャンセラー)は『投槍の使徒』のジャベリンには有効かな?」


 あー、どうなんだろう?

 使徒の力で作っているジャベリンは魔法とは違うような気がするけどな。


 俺の思考を読み取るようにアイさんはトリニティの疑問に答える。


「残念だけど、使徒の力は魔法とは違うからね。幾ら祝福(ギフト)とは言え流石に無効化は出来ないわ」


「そっか、アイさんの祝福(ギフト)が有効なら楽にクリアできると思ったんだけどなぁ」


 ふむ、なら使徒の力ならどうなんだ?

 使徒の力に使徒の力をぶつける。これなら上手くいきそうなんだが・・・


 俺達がこれまで得た使徒の証の特殊スキルは13個。



 Dの使徒の証。特殊スキルDisaster。効果:不明(予想では仲間の数だけ力増加)。

 Eの使徒の証。特殊スキルEscape。効果:ほぼ確実に戦闘から逃走。

 Fの使徒の証。特殊スキルFang。効果:狼神(フェンリルイド)化。

 Gの使徒の証。特殊スキルGem。効果:分体の能力を持った分身。

 Lの使徒の証。特殊スキルLabyrinth。効果:不明(予想では四属性の能力)。

 Mの使徒の証。特殊スキルMermaid。効果:不明。

 Nの使徒の証。特殊スキルNo。効果:嘘発見器(Yesとのセット)。

 Oの使徒の証。特殊スキルOracle。効果:神託(但しエンジェルクエスト限定)。

 Qの使徒の証。特殊スキルQuest。効果:質問に対して答えを得る(但し質問に対して管理権限が高いものほど答えに時間がかかる)。

 Rの使徒の証。特殊スキルRhythm。効果:呪文の完全詠唱(実はLv2もあり?)。

 Sの使徒の証。特殊スキルStart。効果:身体能力の2倍。

 Yの使徒の証。特殊スキルYes。効果:嘘発見器(Noとのセット)。

 Zの使徒の証。特殊スキルZone。効果:集中力増加。Lv2の更なる段階がある。


 Vの使徒の証はまだクエストを完了していないからマクレーンからは授かってはいない。

 ミューレリア姫を羊王国に届けてそこでクエストが完了になるからだ。



 ・・・こうしてみると使える特殊スキルが少ないな。

 大体が戦闘系でFangやStartと言った能力の増加になる。

 Escapeなんかは躱すのには持って来いなのだが、逃げにしか効果が無いから向かって行く『投槍の使徒』のクエストには効果が無い。

 となれば、これまでの様にFang・Start・Zone・Rhythmで身体能力を高め一気に近づくしかないか?


 だが、特殊スキルは24分しか使えないからこれはいざと言う時の切り札だ。

 しかも『投槍の使徒』をクリアしてそれで終わりじゃないからな。

 『闘争の使徒』のクエスト・武闘トーナメントは3日後だから2日余裕はあるが、下手をすればまだ詳細も本人も捕まえてないが明日『刀装の使徒』のクエストを受けるかもしれないのでおいそれとデメリットが発生する使徒の証を使えない。


 となれば、ここは特殊スキル無しでクエストにチャレンジか。


 ・・・いや、待てよ。この特殊スキルは使えないか?

 上手く使えば『投槍の使徒』を出しぬけるかもしれない。


 特殊スキルを使ったプランを練っているとアイさんがパーティーリーダーである俺にどうするのかを聞いてくる。


「それで、鈴鹿くんどうする? 分散して塔に攻める? それとも一塊になって一丸で突破する?」


 ふむ、一塊の方法だと躱さずに防ぐがメインになるから全くの無傷とは言い難いな。

 リザルトの意識を分散させるためにもここは4方向からの攻めが効果的か。

 俺やハーティーは剣姫流で回避率が高いし、トリニティは盗賊(シーフ)だ。それなりの身軽さを持っているだろう。

 アイさんは言わずとも何の心配もない。


「よし、ここは分散して4方向から塔に近づこう」


 だが、俺の決定にハーティーが待ったをかけた。


「ちょっと待ってください。塔に近づくことだけに意識してますが、肝心の塔の上までどうやって登っていくのですか?

 まさか塔にしがみ付いて登っていくわけでは無いですよね?

 流石にリザルトもそれを黙って見ているとは思えません。登っている途中での攻撃も当然あるはずです」


 ハーティーが塔の天辺にどうやって到達するのかを聞いてくる。

 確かに俺達が今決めている作戦は近づく事だけでその後の事はまだ決まっていない。

 100mもの高さがある塔は流石に登るのは難しいと言えるだろう。


 一応、浮遊の魔法・レビテーションや高速で空を飛ぶ古式魔法のレイウイングなどがあるが、空を飛ぶのは禁止されているから使用は出来ない。

 尤も使えたとしても、レビテーションはゆっくり浮かぶからジャベリンの的だし、レイウイングは古式魔法だから使える者が数えるほどしか居ないのだ。


 まぁ、ハーティーの言うように登るのはスタンダードな方法だろうが、俺には秘策と言うほどでもないが塔の天辺に到達する技を考えていた。


「いや、多分大丈夫だ。上手く4人で塔に近づけば天辺のリザルトに触る策がある。

 その策と言うのは―――」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 俺達は準備時間中にそれぞれ配置に付く。


 『投槍の塔』の北側と南側から挟み込むような形で俺とハーティーが目立つように進み、東側と西側からアイさんとトリニティが建物の陰に隠れながら塔に近づくと言う配置だ。


「皆準備はいいか?」


『こちらは配置に付いた』


『こっちもOKよ』


『いつでもいいわよ。あ、それとトリニティ。幾ら建物の陰に隠れて移動しても、リザルトは鷹の目の戦技を持っているから気を付けてね』


『分かってるわよ』


 昨日アイさんから貰った携帯念話(テレボイス)のグループチャットモードで皆の状況を確認する。


 どうやら皆配置に付いたみたいだ。

 時間も丁度1時間経とうとしていた。


「よし、開始時間だ。『投槍の塔』を目指して突っ走れ!

 GoGoGo!」


 俺は建物の陰から飛び出して一直線に向かって塔に向かって突っ走る。

 まぁ、一直線と言っても建物や人を避けながらのコースなのだが。


 と、そこへ塔の天辺からリザルトが攻撃を仕掛けてきた。

 『投槍の塔』の天辺から光の投槍(ジャベリン)が放たれたのだ。


 俺は頭を振って避けるも、リザルトのその技量に驚きを隠せないでいた。

 300mも離れているのにジャベリンは俺の頭を寸分違わず狙いを付けて飛んできたのだ。


 おいおい、鷹の目だけじゃなく投擲技術もべらぼうに高いじゃねぇか。


 再び塔の天辺が光る。

 おそらく今度は反対側のハーティー向かってジャベリンを投げたのだろう。


 一度俺達に投げ終わると準備運動が終わったとばかりに、今度は3本のジャベリンが俺に向かって放たれ高速で向かってくる。


 俺はダッシュで一歩踏み込み1本目のジャベリンを躱す。

 だがその一歩先を見越して2本目のジャベリンが迫る。

 走りながらのステップはきついが、俺はターンステップで2本目のジャベリンを躱し、次に狙い来る3本目のジャベリンをクロスステップで躱しきる。


 ステップを駆使したことで走る速度が落ちたが、再び加速して塔に向かって走る。


 おそらく塔の反対側――ハーティーに向かっても3本のジャベリンを放っているのだろう。

 左右にジャベリンの光の軌跡が見えないところを見ると、俺とハーティーの引き付けが上手くいってアイさんとトリニティは上手い具合に隠れながら進んでいるみたいだ。


「ハーティー、そっちは大丈夫か?」


『ええ、大丈夫ですよ。それにしてもいきなりタイミングをずらしての投擲とは恐れ入りますね』


「ま、伊達に『投槍の使徒』を名乗ってはいないんだろうよ。と、次が来るな。ハーティー、気合を入れろよ!」


『鈴鹿こそ、剣姫流の名を汚さないで下さいよ!』


 俺達は会話をしながらも次々降り注ぐジャベリンを躱し続ける。

 但し周囲の建物や住人達には堪ったもんじゃないらしい。


「おわぁ!? なんだぁ!? って、『投槍の使徒』のクエストか!」


「避難―! 避難だー!!」


「久々の『投槍の使徒』の挑戦者か。あんちゃん頑張れよー!」


「って、こっち来んなー!! うぎゃー!!」


 俺が躱し続けるたびに建物や住人の周辺にジャベリンが突き刺さる。

 リザルトの話によれば手加減をしているから命に係わることは無いだろうと思うが、だからと言って住人達も自ら進んで当たりたいとは思わないだろう。

 そう考えるとこのクエスト自体、獣王都市の住人にとっては迷惑極まりないんじゃないのか?


 だけど中には応援している人も居るんだよなぁ。

 これも一種の祭りだとした認識なんだろうか。


 俺はなるべく住人に迷惑にならないように躱しながら進む。


 距離が後200m位と言ったところでリザルトの投擲が変わった。

 ジャベリンを投げる数が一気に9つにも増えたのだ。

 しかも着弾に差をつけタイミングをずらした投擲だ。


「うおおおぉっ!?」


 流石にスピードを落とさずに全部を躱すことは出来なかったので、なるべくスピードを落とさずに直撃しそうなのをユニコハルコンで斬り伏せ、そのほかのジャベリンはステップで躱す。


『ちょっ!? 鈴鹿、ちゃんと引き付けているんでしょうね!? こっちにも飛んでくるようになったわよ!』


 携帯念話(テレボイス)のパーティーチャットからトリニティの苦情が飛んでくる。

 どうやら向こう側にも攻撃が開始されたらしい。

 流石に塔に近づいて行けば隠れながらの移動も難しいだろう。


「こっちは必死こいて躱しているんだよ! 少しくらいジャベリンが飛んできても文句言いうな!」


『攻撃を引き付けるのが鈴鹿達の役目でしょう!』


「全部引き付けれるわけないだろうが!」


 トリニティの苦情を返しながらも俺は塔に向かって突き進む。

 半分の距離まで縮めたところでようやく塔の天辺のリザルトが目視できるようになった。


 リザルトは右手を掲げ光のジャベリンを複数生み出し、右腕を振り下すことでジャベリンを放っていた。

 右腕を振るうとすかさず左腕を掲げジャベリンを生み出す。


 なるほどな。ああやって左右の腕を連続で振るう事によって連続攻撃を可能にしているのか。

 アイさんやトリニティに攻撃が行きづらくなっているのも両腕だけじゃ追いつかないからだろう。

 リザルトの攻撃手段が両腕から生成されるジャベリンだけなら塔に近づくのも容易だな。


 と、そう思っていたのだが、後100mと言うところまでまたリザルトの攻撃が変わった。

 今度はマシンガンの様にジャベリンが幾つも降り注いできたのだ。


 リザルトの方を見ればこれまで手を掲げジャベリンを飛ばしてきたのが今は背中に光の輪みたいに円を描く様にジャベリンを展開させ、指揮者の様に腕を振るうだけで飛ばしてきたのだ。

 ジャベリンの光輪は放たれると同時に補充され途切れることは無い。


 リザルトが腕を振るうだけで俺とハーティー、同時にジャベリンの雨が降り注ぐ。

 俺とハーティーだけじゃない、前後左右、俺・ハーティー・トリニティ・アイさんと4方向にジャベリンを放ち続けている。


 流石にこうも連続でジャベリンを放たれると歩みは鈍くなり、全てを躱すことは出来ない。

 ユニコハルコンを振るいながらもステップを駆使して進むも、何本かのジャベリンが俺に当り衝撃により更に歩が鈍くなる。


 リザルトがクエスト用にジャベリンの力をセーブしているので体に穴が開くようなことは無いが、殴られたような衝撃が連続で襲ってくるのは正直キツイ。


「ハーティー・・・そっちは大丈夫か・・・?」


『結構きついです・・・ね。正直このまま・・・隠れてやり過ごしたい気分ですよ』


「・・・同感!」


 だが今ここで足を止めれば完全に足止めを食らってしまう。

 次に飛び出すタイミングが掴めない上、トリニティとアイさんの方へも攻撃に意識が割かれ完全に動きが封じられ下手をすれば時間切れだ。


 だから俺達は攻撃を受け続けようとゆっくり1歩ずつ足を進める。

 そうして残り50mを切ったところでリザルトの攻撃が若干だが弱くなった。


 ふと疑問に思って上を見上げてみれば、塔の陰になってリザルトの姿が確認し辛い。


 ・・・そうか。灯台下暗しと言う訳じゃないが、塔の麓への攻撃はリザルトにとってはし辛いものがあるのだ。


 よし、これなら俺の策の成功の確率が上がる。


「こちら残り30m、皆それぞれ配置に付いてくれ」


『了解』


『ちょっ・・・ちょっと待ってよ! 流石にこれは隠れながらの移動は難しいのよ!』


『僕も配置に付きました。いつでもどうぞ』


 アイさんとハーティーは準備が整ったが、トリニティは少しもたついているみたいだ。

 まぁ、それは仕方がない事だ。

 この距離に来るとリザルトのジャベリンの攻撃はほぼ真上からなので建物の陰に隠れての移動はほぼ無意味だ。

 何せ真上から丸見えなのだから。

 なので隠れながらの移動となると建物の中を移動する羽目になる。


 現に俺も策の準備の為、無断で建物の中に入ってジャベリンの雨を凌いでいるのだ。

 降り注ぐジャベリンが建物を削りミシミシ音がなっているのが聞こえる。


 これ、建物が壊れたら俺達に請求が来るんだろうか・・・?


 少ししてトリニティからも配置に付いたと連絡が来る。

 俺は策を実行する為、ある使徒の証の特殊スキルを起動する。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 建物の中から銀髪(・・)の俺が飛び出し、並んで赤い髪(・・・)の俺が飛び出す。


 俺が2人同時に飛び出してきたことでリザルトに一瞬の動揺が見えたのか、少しだけ降り注ぐジャベリンが止まった。


 その隙を逃さず2人の俺は塔に到達し、背を向けて両手を組んで腰だめに構えた。


 次にアイさんとトリニティが近くの建物の中から飛び出し、塔を背にした2人の俺の両手を足場としてアイさんは銀髪の俺を足場に、トリニティは赤髪の俺を足場にしてタイミングを合わせ空高く飛び跳ねる。


「「うおおおりゃぁぁぁぁぁっ!!」」


 2人の俺の足場は思ったよりも力強く、アイさんとトリニティは塔の50m付近まで飛んでいた。

 そこで今度はアイさんが降り注ぐジャベリンを片方の水色の剣で弾きながら、もう片方の青色の剣を塔に突き刺しその場での足場となる。


 アイさんは水色の剣を手放し片手でトリニティの足底を捉え、トリニティもアイさんの片手を足場として2人の力を合わせて再び空へと飛び上がる。

 降り注ぐジャベリンはアイさんが青色の剣――魔剣を発動し、氷の剣を生み出し迎撃してトリニティへの道を作る。


「っせぇぇぇぇぇぇ!!」


 トリニティの掛け声とともに『投槍の塔』の天辺に居るリザルトに近づくが、残り10mと言ったところでその勢いは衰えた。


「着眼点は良かったが、頂点に届くまでには力が足りなかったみたいだな」


「それはどうかしら?」


 リザルトの呟きにトリニティは腰の蛇腹剣を抜き放ち鞭モードにしてリザルトの足下へと伸ばしていく。


「甘いな。この程度躱せないとでも思ったのか?」


 足元に迫りくる蛇腹剣をリザルトはジャベリンで打ち払い、狙いが逸れた蛇腹剣はあさっての方向へと飛んで行ってしまった。


「甘いのはそっちよ。

 モード・無弦の剣」


 蛇腹剣は剣の刃が分裂しようとも中心に魔力の紐で結ばれ刃の鞭のようになる剣だ。

 だがトリニティの蛇腹剣はソードテイルスネーク亜種の尾を使った特殊素材を使っており、更に作成した鍛冶屋が色々なギミックを盛り込んだ蛇腹剣となっているらしい。


 トリニティは蛇腹剣に魔力を流し分裂した刃を繋いでいる魔力の紐を消す。

 普通ならそこで繋がりを無くした刃は地に落ちるのだが、分裂した刃は宙に浮いたままトリニティの意のまま自在に飛び回る。


「なんと!?」


 リザルトの驚きを余所にトリニティは分裂した刃を足場にして駆け上がりリザルトを捕まえようとする。


「だが、やはり甘いな」


 あと一歩と言うところでリザルトの足下に円形状に配置されたジャベリンが一斉にトリニティに襲い掛かった。

 塔の下から見上げている俺達には気づかれず隠されていたジャベリンだ。

 不意の攻撃を食らったトリニティはリザルトに触れることは叶わず、そのまま地上へと落下していく。


「そうかしら? あたしの役目は十分に果たしたわよ」


 あと一歩のところにも拘らず、トリニティは落ちていく瞬間にも悔しそうな顔をせずやり遂げた顔をしていた。


 そう、トリニティの役目は気を引き付ける事だ。


 そのリザルトの背後に()が現れた。

 2人の俺とアイさんとトリニティが駆け上がっている反対側の塔でハーティーと金髪の俺が踏み台となり駆け上っていたのだ。


「甘いと言った筈だ。この手の策には慣れているのでな」


 そう言いながらリザルトは()に背を向けながら背後に向かって背中の光輪のジャベリンを撃ち出す。

 隙をついたと思い手を伸ばした()にジャベリンは容赦なく撃ち抜く。

 無防備な状態で攻撃を受けた()はそのまま塔の外へと追いやられ地上へと落とされる。


 リザルトは満足そうに振り返り、落ちていく()を見て目を見開いた。

 落ちていく()の髪の色が緑色だったからだ。


 『投槍の使徒』のクエストをクリアするには分体ではなく、本人がリザルトに触れなければクリアとはならない。

 つまり本物の俺はまだ別にいてリザルトを狙っている訳だ。

 そのことに気が付いたリザルトは慌てて周囲を見渡すが、俺の姿はそこには無い。

 何故ならば本物の俺はリザルトの真上に居たからだ。


「はい、捕まえた」


 慌てふためくリザルトの目の前に降り立ち、俺はそのまま肩を叩いてリザルトを捕まえクエストをクリアする。


「なっ・・・馬鹿な、空から降りてくるだと・・・!?」


「あ、言っとくけど、空を飛ぶ魔法は使ってないからな。まさかジャンプも駄目とは言わないよな?」


 俺のそのセリフで俺がどうやってリザルトの頭上を取ったのか理解したらしい。

 驚愕の表情が一転してリザルトは納得した顔をする。


「まさか多段ジャンプの戦技を使ってくるとは・・・この戦技はそう簡単には使いこなせないはずだがな」


「ま、その辺は色々経験してますんで」


 実はジャンプには戦技があり、ジャンプを極めれば空中を蹴って更にジャンプが出来る二段ジャンプの戦技を使えるようになるのだ。

 更にその二段ジャンプを極めれば連続で空中を蹴って自在に宙を駆け巡る事の出来る多段ジャンプと言う飛んでも戦技を使えたりする。


 俺が何故二段ジャンプと言う戦技に気が付いたかと言うと、昨日の『逃走の使徒』のクエストの時だ。

 ミントが宙を蹴って捕縛を躱した時にもしかして空中を蹴る戦技があるのではないかと。


 最初は『逃走の使徒』の特有の能力かと思ったが、後でミントに聞いたところ二段ジャンプと言う戦技の言葉が出てきたのだ。


 その後、色々試行錯誤したところ、俺には既に二段ジャンプの使用が可能だった。

 何故なら俺が良く使用する疾風迅雷流奥義・(またたき)=剣姫流・瞬動と二段ジャンプは似ていたのだ。


 よくよく思い出してみればかつて師匠は瞬動はダッシュとステップとジャンプを上手く融合させた戦技だと言っていた。

 それを思い出してからは二段ジャンプどころか、少しコツを掴めば多段ジャンプも可能になったのだ。


「多段ジャンプもそうだが、まさか『宝石の使徒』の力を複数使えるとはな・・・流石にこれには驚いたな」


「普通のクエストのクリアはしていないからなぁ。ただでさえ1ヶ月弱でエンジェルクエストを13個ってありえないからな。

 それを思えば『宝石の使徒』の特殊スキルにも納得がいかないか?」


「・・・確かに。お前らが異常だと言う事を頭から抜けていたよ」


 そう言いながらリザルトは苦笑する。


 俺の取った策とは単純に『宝石の使徒』の特殊スキルで人数を増やすと言う事だ。

 数は力とはよく言ったものだ。


 最初にアイさんとトリニティを正面から上がらせ注意を引きつけ、塔の反対側でハーティーと紫髪(・・)の俺と緑髪(・・)の俺をアイさん達の両々でリザルトの背後から迫る。

 そうして金髪(・・)の俺の力を借りて俺が本体が多段ジャンプでリザルトの頭上を取り、背後から迫った緑髪の俺を囮にしてリザルトを捕まえると言う2段作戦だったのだ。


 あ、勿論落ちていくトリニティを赤髪と銀髪の俺が優しく受けて止めているから身の危険の心配はない。


 ただ、デメリットはこの後もう数分もすれば24時間身動きが取れなくなると言う事なんだよなぁ。


「鈴鹿、お前の作戦は見事だった。『投槍の使徒』のクエストは文句なしにクリアだ」


 何はともあれ『投槍の使徒』は無事ジャベリンでボロボロだがクリアだ。

 四天王は残り2人。

 次は3日後の武闘トーナメントの『闘争の使徒』だ。

 それとも『刀装の使徒』が先になるのだろうか。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 Alive In World Online攻略スレ312


969:名無しの冒険者:2058/3/5(月)03:03:03 ID:NohuKin953

 『闘争の使徒』のクエストって運要素強くね?


970:名無しの冒険者:2058/3/5(月)03:09:51 ID:gGa444AsSin

 確かに運の要素が強いでござるな


971:名無しの冒険者:2058/3/5(月)03:18:39 ID:h1B106expt

 >>969 どゆこと?


972:名無しの冒険者:2058/3/5(月)03:25:45 ID:O9ri000kAmi3

 トーナメントも運要素があるからなぁ~


973:名無しの冒険者:2058/3/5(月)03:44:10 ID:BattelJk810

 一応『闘争の使徒』と戦わなくてもトーナメントで優勝すれば使徒の証は貰えるけどね


974:名無しの冒険者:2058/3/5(月)03:53:03 ID:NohuKin953

 >>971 『闘争の使徒』がトーナメントで戦う前に他の参加者に負けてしまえばクエストは未挑戦扱いって事


975:名無しの冒険者:2058/3/5(月)03:59:29 ID:ExpL49Ff10

 973も言った通り『闘争の使徒』に勝った者とトーナメント優勝者の2組に使徒の証は貰えるけどね


976:名無しの冒険者:2058/3/5(月)04:08:39 ID:h1B106expt

 あ~、969が言った運要素ってトーナメントの対戦運ってことか


977:名無しの冒険者:2058/3/5(月)04:15:51 ID:gGa444AsSin

 自分が『闘争の使徒』に当たる前に『闘争の使徒』が負けてしまえば優勝以外にトーナメントに参加している意味が無くなるでござる


978:名無しの冒険者:2058/3/5(月)04:24:10 ID:BattelJk810

 >>975 2組が貰えることは稀だろ?

 大抵は『闘争』に勝った奴がそのまま優勝だからな


979:名無しの冒険者:2058/3/5(月)04:25:45 ID:O9ri000kAmi3

 つーか『闘争の使徒』に勝てる奴、可笑しいよw

 何あれ、魔闘気ってw 何処の漫画の世界だよwww


980:名無しの冒険者:2058/3/5(月)04:48:29 ID:ExpL49Ff10

 あー、あれはちょっと反則臭いよな

 だけど決して無敵って訳じゃないから勝てないわけじゃない

 要は戦い方だよ、明智君


981:名無しの冒険者:2058/3/5(月)04:57:39 ID:h1B106expt

 >>980 その心は?


982:名無しの冒険者:2058/3/5(月)05:11:29 ID:ExpL49Ff10

 物理で殴ればいいのだよwww


983:名無しの冒険者:2058/3/5(月)05:24:10 ID:BattelJk810

 これだから脳筋族は・・・(ヾノ・ω・`)ナイナイ









次回更新は12/27になります。

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