31.旋律と継承者と剣姫流
――AL103年4月19日――
「うぁー、頭いてぇ・・・これが噂に聞く二日酔いか・・・」
俺は昨日のバンドの打ち上げでしこたま酒を飲んでいたので、今朝起きたら頭がガンガンして起きるのがやっとだった。
「うーん・・・うーん・・・うーん・・・」
「クルゥ・・・」
隣ではトリニティが妙に可愛い声を出しながら唸っている。
トリニティの頭の上でスノウが心配そうにしていた。
そういや昨日はライブ(?)客と一緒の打ち上げでその場のノリで盛り上がって酒を飲んでしまっていたが、この世界では飲酒の年齢はどうなっているんだろ?
と言うか、AIWOnでは現実の年齢が適用されるのか、天と地を支える世界の法令が適用されるのか。
「何だったら解毒魔法でもかけてみたら? あれならアルコールを分解して酔いは無くなるわよ。
ただそれでも暫く頭が痛いのは治まらないけどね」
「それって魔法を掛ける意味があるのか・・・?」
そうは言ったものの、二日酔いのままの状態よりはいくらかマシだろうと俺はアイさんの助言に従ってユニコハルコンの力を借りて解毒魔法を使う。
・・・って、ユニコハルコンが云とも寸とも言わない。
え? なになに? 高々二日酔いの為に自分を使用するなって?
・・・ごもっとも。天下のユニコーンの角を二日酔いを治す為使うなんてあまり聞いたことが無いですよねー
「仕方がない・・・今日一日は我慢しよう・・・」
「うーん・・・うーん・・・うーん・・・」
「あららら。今日一日はほぼ何もできないわね。
どうせなら鈴鹿くんは一度離魂睡眠をしたらどうかしら」
「おお、その手があったか!」
なるほど! 二日酔いになっているのは天と地を支える世界にある身体だからな。
離魂睡眠してしまえば現実には何の影響もない。
「まぁその前に、ハーティーに会ってRの使徒の証を貰わないとね」
「あ」
そういやそうだ! 昨日はライブ(?)が盛り上がった勢いで打ち上げに突入してしまったから、使徒の証をまだ貰っていないんだった!
折角貴重な5日間を費やしてバンド練習をしたんだ。まさかこのまま忘れてましたーって無かったことにされたら堪ったもんじゃない。
ライブも成功したしここはちゃんと使徒の証を貰わないと。
「よし! 早速ハーティーに会いに行こう!」
まだ唸っているトリニティを引き連れて俺達はハーティーの居る部屋へと向かう。
俺達はいつもは別の宿に泊まっていたのだが、昨日は打ち上げからそのまま『陽光の微笑み亭』に泊まり込んでいたので直ぐにハーティーに会う事が出来た。
「おはようございます。皆さん」
「おう、おはよう・・・って昨日お前もかなり飲んでいたのによく平気だな」
部屋の中に入るとハーティーは既に身支度を整えて旅立つ準備をしていた。
ハーティーはバンド演奏を終えた今、この町でやることは終わったと言う事で次の町へ向かう事にしていたのだ。
「酒は飲んでも飲まれるなってね。吟遊詩人にとって喉は大切だからアルコールで喉を傷める真似は出来ないんですよ」
「どっかの飲酒運転撲滅キャンペーンのキャッチコピーかよ。
まぁそれはいい。昨日はすぐ打ち上げになったから忘れていたが、使徒の証を貰い忘れていたから旅立つ前に貰えないか」
「ああ、そう言えばそうでしたね。すっかり忘れていいました。
鈴鹿達との演奏が凄く楽しかったから、使徒の事なんか頭の片隅にもありませんでしたよ」
俺の指摘にハーティーは「そう言えばそうだ」と今思い出したかのように両手を打つ。
こいつ、マジに忘れていたな・・・
「おいおい、それでも26の使徒かよ。余りにも使徒を蔑ろにしていると女神アリスから天罰が下るんじゃないか?」
「あはは、僕としてはそれは願ったりですね。
使徒の力は魅力だけど、僕には未知の音楽を捜すと言う願いがあります。出来る限り使徒としての使命には時間を取られたくないんですよ」
「でも、26の使徒だったからこそ異世界の音楽や未知の音楽に出会えたんだろう?」
「そう言われれば確かにそうなんですよ。だからこそ今でも僕は『旋律の使徒』なんだと思います。
さて、君たちにも時間は限られているみたいですから早速使徒の証を授けましょう」
そう言ってハーティーは手をかざし俺達の首に掛かった使徒の証に光を注ぎ込む。
光が収まった後に使徒の証を展開して文字盤を確認すると、ちゃんとRの所が光っていた。
「よし、これで12個め。のこりは14個。やっと半分近くまで来たな」
「君たちがアルカディアに行けるのを遠くで願っていますよ」
ハーティーは用が終わったと言わんばかりに身支度を整えて旅立つ準備をする。
「そう言えば、貴方が特注で作ったギターやベース、ドラムはどうするの?」
あー、確かにハーティーは特注で作ったって言ってたな。
ギターやベースは何とか旅に持っていけるが、流石にドラムは無理だしな。
「ああ、それならバンド一式はここの親父さんに譲りました。何かに上手く役立ててくれと。
流石にあれ一式を持っての旅は不可能ですからね」
「おま・・・わざわざ特注で作ったんだろう? 決して高くは無かったはずだ。豪気と言うか大胆と言うか・・・ハーティー、お前実は大物の素質があるんじゃねぇか?」
「あるんじゃないか?じゃなく、あるんですよ」
「言うじゃねぇか」
そしてお互い笑いあう。
たった5日と言う短い間だったが、俺達の間には掛け替えのない絆が出来ていた。
と、そう思っていたのだが、次にトリニティが発した言葉が切っ掛けでその思いは儚くも崩れ去ってしまう。
「へぇー、ハーティーは剣も使うんだ」
旅立つ準備をしていたハーティーの腰には2本の剣を差していた。
赤い剣と白い剣だ。如何にも魔剣だと言わんばかりの装飾をしている。
「ええ、吟遊詩人と言えど自衛手段を持たないといけませんからね」
「でも左右に剣を差すのは珍しいね。確か剣姫二天流がそうだったって聞くけど、もしかしてハーティーもそう?」
「よく知っていますね。そうです。僕は剣姫二天流の流派を嗜んでいるんですよ」
その言葉に俺は驚いた。
まさかハーティーが剣姫流の使い手だったとは。
つーか、5日も一緒に居て気付かなかったのかよって突っ込みたい。
・・・まぁ、バンド練習に明け暮れていたから剣の話をする暇も無かったから仕方がないんだけどな!
「ハーティーも剣姫流だったのか。そうと分かれば流派についてもっと話を聞きたかったなぁ」
俺は同じ剣姫流と言う仲間を見つけた嬉しさから喜んでいたが、逆にハーティーの顔からは笑みが消え鋭い視線を俺に向けていた。
「ハーティー「も」? 「も」ってことは鈴鹿も剣姫流なのですか? それにしては刀が1本しかないんですが。もしかして他に刀を持っているのですか?」
「ん? いや、俺が使う流派は剣姫一刀流だよ。剣姫二天流の派生の。
だから俺が使う刀はこの師匠から授かった一刃刀ユニコハルコンだけだよ」
「・・・鈴鹿、君の師匠の名前を聞いてもいいですか?」
「あ、ああ、師匠の名前はニコって言うんだ」
「もしかして種族は犬人ですか?」
「・・・そうだ」
流石にハーティーの様子がおかしいのに気が付き、次第に怒気を孕んできた言葉に俺は訝しげに思いながらも答えていく。
「そうか、君はあの偽物の剣姫流を名乗る犬人の弟子なのか」
「おい、師匠が偽物ってどういうことだよ」
「そのままの意味ですよ。あの犬人は獣人のくせにして高貴なる剣姫流を名乗る不届き者です」
師匠が剣姫流を名乗る不届き者だって? ふざけんな。
師匠は己の命を賭してまで俺に剣姫流を授けてくれたんだ。
100年前に巫女神フェンリルに剣姫流を習ったって言うのが嘘だって?
そんなわけあるか。自分の命が尽きるのを覚悟で教える剣が嘘なわけがない。
「鈴鹿、君が剣姫流だったとはね・・・悪いが僕は君の剣姫流を認めません。これ以上剣姫流を名乗るのなら僕は君を斬る・・・!」
「それはこっちのセリフだよ。今すぐ師匠を偽物呼ばわりするのはやめろ。でなければ俺はお前を斬る」
さっきまでの和やかな雰囲気は一蹴され、場が一気に張りつめ緊張する。
二日酔い? そんなのとうに吹き飛んだよ。
「え? え? 何これ、何で急に険悪な雰囲気になるのよ!?」
トリニティはついてこれず状況の変化に狼狽えるが、悪いが今は相手している余裕はない。
俺とハーティーはそれぞれの武器に手を掛け互いに様子を伺う。
「おい、流石にここでは拙い。一旦外に出てそこでケリを付けようぜ」
「いいでしょう。この場で斬り合いをして親父さんに迷惑をかける訳にもいきませんからね」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ハーティーは決着を付けるのにいい場所があると言うのでついて行くと、そこは闘技場だった。
普段は奴隷同士や奴隷対モンスターの戦いを見せているのだが、今日は休養日らしく観客は誰もおらず闘技場はがらんとしていた。
こういった休養日の合間に民間人に貸し付けも行っていると言う。
「丁度空いてて良かったです。ここなら周りにも誰にも気兼ねなく存分に力を奮えます。
考え直すなら今の内ですよ」
「ふん、確かにここなら遠慮なく刀を奮えるな。そのセリフ、そのままお前に返してやるよ」
俺とハーティーは闘技場のど真ん中で互いに向き合いそれぞれの武器を抜く。
アイさんとトリニティは観客席にはいかずに、同じ闘技場内で距離を置いて俺達の争いを見守っていた。
「ね、ねぇ、アイさん。これ止めた方がいいんじゃ・・・」
「・・・残念だけど今は無理ね。お互いがお互いの信じるものの為に剣を奮うんだもの。
余人が口をはさむ余地はないわよ」
流石にトリニティはこの状況に耐えられなかったのか止めようとアイさんに訴えかけるが、アイさんは俺達を止める気はないみたいだ。
寧ろお互いがぶつかり合うのを勧めている要は節がある。
「ハーティー、覚悟はいいか?」
「鈴鹿、君を斬る覚悟なら初めから出来てますよ」
赤と白の剣を構えたハーティーは一気に距離を詰め、俺に向かって剣を交差させる。
剣姫流のステップか。
流石に瞬動とまではいかないが、間合いを詰めるのには良い足運びだ。
俺はハーティーの放つ二刀流戦技・十字斬りをユニコハルコンで弾きながらステップを刻み、ハーティーの死角から掬い上げるように剣を振り抜く。
ハーティーの脇腹を斬ったと思った一撃はあっさりと躱される。
そのままハーティーは左右の剣を自在に操り二刀流戦技の二連撃や、剣戦技のスラッシュストライクなどを次々と放ってくる。
俺も負けじとハーティーの攻撃を躱しながら刀戦技を放つが、どれ1つも当たらなかった。
流石は剣姫流ってところか? 回避率がハンパないな。
「ふぅん・・・偽物と言えど剣姫流ですね。僕の剣をこれほど躱せる人物はそう居なませんよ。
だけど、それもここまでですね。様子見は終わりになります。ここからは一気に行きます!」
ハーティーの放つ剣が先ほどとは違い鋭さを増す。
俺は剣姫流のステップを刻み躱すが、その躱す先にハーティーの剣が向かってきてじわじわと躱す先を防がれていく。
それに伴い腕や体にハーティーの剣が掠っていった。
幸いにしてリュデオから貰ったドラゴンコートのお蔭で傷は付かなかったが、俺がハーティーの剣を躱せないことが如実に表れてきた。
逆に俺の攻撃は次第に掠りすらもしなくなっていく。
「くそっ、これならどうだ!
――アイスブリット!」
俺はいつものライルリングを施し回転率を上げたオリジナルアイスブリットの魔法をユニコハルコンに掛け、魔法剣をハーティーに向かって放つ。
「確かに魔法剣は剣姫流の基本技術ではあるけど、弱点が無いわけじゃありません。
基本、魔法を剣に掛けている以上、それは当たらなければ何の効果も示さないんですよ」
ハーティーは俺の剣を躱しながらも淡々と講釈を始めた。
「そしてそれは逆に当りさえすれば効果を発揮する。そう、それこそ何にでも当たりさえすれば」
そう言いながらハーティーは足もとの石ころを蹴り上げ俺の前に弾き飛ばした。
俺は咄嗟に石ころをユニコハルコンで弾いてしまい、刀に掛かっていたアイスブリットが石ころを粉々に砕いてしまう。
魔法剣の効果を失った隙をついて、ハーティーは間合いを詰め十字斬りを俺に叩き込んだ。
「ぐはっ!!」
俺はもろにハーティーの攻撃を受けてしまい、後方へと吹き飛ばされた。
ハーティーの攻撃はミスリルの胸当てを斬り裂き真っ二つにしていた。
胸当ては斬り裂かれたが、防刃効果のあるドラゴンコートのお蔭で体にまでは傷は付かなかった。
だが斬撃の衝撃は胸に当り、何本かの肋骨を折る被害が出ていた。
俺はユニコハルコンの力で強制的に骨折を治癒し、邪魔になった胸当てを外しながらハーティーの前に立つ。
「もう一度言います。もう二度と剣姫流を名乗らないと誓うのならこれ以上の攻撃はしません」
「・・・もう勝ったつもりでいる気か? 言っておくが勝負はまだこれからだぜ」
「残念だけど、勝負は最初っから付いているんですよ。本物の・・・高貴なる剣姫流に勝負を挑んだ時からね。
それをこれから証明して上げます。君の魔法剣を躱さないでちゃんと受け止めることでね」
野郎・・・! 随分とまぁ上から目線じゃねぇか。
いいぜ、そっちがその気なら思いっきりやってやるよ!
俺は覚えたての魔法、火属性魔法の空間一点発動開放式魔法・バーストフレアと水属性魔法の空間一点発動圧縮式魔法・アクアプレッシャーを三大秘奥の一つ輪唱呪文で同時にユニコハルコンに掛け、火と水の水蒸気爆発をイメージした魔法剣を発動する。
「バーストフレア!
アクアプレッシャー!
――スチ‐プロ・ストラッシュ!!」
この攻撃が決まればただでは済まないが、ハーティーの奴は何やら対応策があるみたいなので遠慮なくぶっ放す!
ハーティーは避ける素振りすら見せず、白の剣を前面にした十字受けで俺の攻撃を受ける。
「破月」
ハーティーの特定の言葉により白の剣が光を放ち、俺の攻撃を受け止めた瞬間、魔法剣は発動せずユニコハルコンを覆っていた薄い赤と青の光の幕が消え失せた。
なっ!? 魔法剣を無効化したっ!?
ハーティーはそのまま十字受けで俺を押し出し、バランスを崩されたところに上下から剣戦技のトライエッジを叩き込まれた。
「剣姫二天流・二天六爪閃!!」
俺は咄嗟に頭への攻撃をユニコハルコンで庇い、下からの攻撃は左腕の籠手で強引に受け止める。
俺は一旦距離を取り、ユニコハルコンで躱しきれずに傷ついた頭と強引に攻撃を受けた左腕の傷を癒す。
「随分と丈夫なコートだね。僕の攻撃はここまで届いていて尚立っているのは賞賛に値しますよ」
「・・・魔法剣を防いだのはその剣――魔剣の効果か」
俺はハーティーの言葉を無視してさっきの魔法剣を防いだカラクリを導き出す。
「よく分かりましたね。鈴鹿、君の魔法剣を打ち消したのはこの魔剣・月を壊す者の効果ですよ」
そりゃあ、状況から判断すれば誰にでも分かるだろうよ。
・・・しかし、その魔剣がある限り魔法剣や魔法の類は効果が無いってことか。
「改めて自己紹介をしましょうか。
僕は剣姫二天流5代目正統継承者ハーティー・ルグラン。
そしてこの剣は開祖フェンリルが使用し、正統後継者に受け継がれてきた魔剣・太陽を掴む者と魔剣・突きを壊す者。効果は魔力増幅と魔法無効化。
鈴鹿の刀も力を秘めているようだけど、僕の継承された魔剣には敵わないでしょう」
そう言いながら2本の魔剣を構え、今度は赤の剣の特定の言葉を唱えて攻撃を再開する。
「太陽炉」
赤の剣――太陽を掴む者が光りを放ち、ハーティーの魔力が増幅する。
その増幅した魔力で魔法を唱え魔法剣を発動し、ユニコハルコンの防御を掻い潜って俺の体へと叩き込まれた。
「ファイヤージャベリン!
サンダージャベリン!
ストーンジャベリン!
シャイニングジャベリン!
――ジャベリンストライク!!」
「ぐふぅっっ!!」
まともに食らった俺はまたもや吹き飛ばされる。
再び肋骨が折れてユニコハルコンにより治癒される。
幾らユニコハルコンの治癒があるとは言え、こう何度もダメージを食らうと消耗が激しい。
肉体的にも精神的にも。
「鈴鹿、最後の忠告です。二度と剣姫流を名乗らないであの汚らわしい犬人の事は忘れるてください」
「・・・げほっ・・・それは出来ない相談だな。命懸けで剣姫流を教えてくれた師匠を忘れるなんて出来ないし、師匠は汚らわしくなんかねぇよ」
「なんだ、あの犬人は死んだのですか。ようやく剣姫様の威光に縋り付いていた老害が居なくなって清々しましたよ。
後はあの犬人の痕跡を消さなければならないのだけど・・・そうか、君がそこまで言うのなら仕方がありません。
きっちり引導を渡してあげます」
「ハーティー、貴方もしかして人族至上主義者?」
それまで黙って見ていたアイさんが口を挟んできた。
確か人族至上主義って人族が生物の頂点に立ち、エルフやドワーフなどの亜人や獣人を下に見下した傲慢な主義だって話だったな。
確かにハーティーの師匠を話すときの感じは見下している風に聞こえる。
「そんなことは無いですよ、アイさん。僕はこう見えて平等主義者ですから。亜人、獣人分け隔てなく接しますよ。
ただ・・・剣姫流をケダモノごときが使うのが許せないんですよ・・・!」
・・・しっかり人族至上主義者じゃねぇか。
表向きは平等主義を唱えているが、根っこの部分は人族至上主義だってことだな。
でなければ師匠が剣姫流を使う事に何ら文句はないはずだ。
「ハッ、なんてことはない。ハーティー、剣姫流云々は関係なく、ただてめぇが師匠を気に食わないだけで駄々をこねているだけじゃないか。
そんなんで剣姫流が高貴だって言えるのか? つーか、剣姫も獣人に剣を教えない程器の小さい人物なのかよ」
「鈴鹿・・・! 剣姫様の侮辱は許さないよ! 彼の御仁の思考は僕らには及びもつかないものなんです。
それをたかが犬人ごときに理解出来てたまりますかっ!」
ハーティーは赤の魔剣・太陽を掴む者と白の魔剣・月を壊す者を引っ提げて近づいてくる。
ついハーティーを挑発してしまったが、結果的には奴の心に揺らぎを撃ち込むことが出来たので良しとしよう。
とは言え・・・くそ、ただでさえハーティーには攻撃が当たらないのにあの2本の魔剣は厄介だな。
どうにかして魔剣を潜り抜けて攻撃を当てないと。
「鈴鹿、君は攻撃が当りさえすればと思っているでしょう? 残念だがそれは不可能です。
僕が女神アリス様より『旋律の使徒』に選ばれたのには訳があってね。僕は絶対音拍の祝福の持ち主なんです。
能力的にはC級と身体系の祝福に位置づけされていますが、希少的にはこの世に只1つの祝福です」
なんてこった。更には祝福の持ち主でもあるときたもんだ。
何処の完璧超人だよ、お前は。
「絶対音拍はその名の通り、拍子を読むことが出来ます。これにより女神様は僕を『旋律の使徒』に選びました。
つまり君の攻撃のリズムは完全に把握しているから決してその刀が当たることは無い」
なるほどね。だったらそのリズムをずらして攻撃すれば!
俺は瞬(瞬動)で一瞬に間合い詰めながらその一歩手前で一度足を止め、再度高速ステップで至近距離からユニコハルコンを振り下す。
「そして君はこう考えるでしょう。だったら攻撃のリズムを変えれば、と。
残念だけど一度体に染みついたリズムの根幹はそう簡単には変えられなですよ。それどころかかえってリズムが崩れてまともな攻撃すら出来やしない」
ハーティーの言う通り俺の攻撃は会話をしながらも悉く躱され、その反撃でハーティーの攻撃が次々ヒットする。
胸を突かれ、腕を弾かれ、胴を斬られ、足を掬われる。
幾度となく攻撃を食らいながらも意地で立ち続ける。
最早感覚が麻痺してユニコハルコンの治癒の効果が出ているのかすら分からない状態だ。
「幾らそのコートで防いでいるとは言え、これだけ攻撃を食らい続けて倒れないとは呆れるほどタフですね」
「・・・師匠の特訓に比べれば、これくらい屁でもねぇよ」
そうだ。師匠との2日間の地獄の特訓に比べればこれくらいなんてことない。
・・・そう言えば師匠は特訓の時、こう言ってたな。
『攻撃が当たらなくても決して諦めるな。当てる手段を考えるのは当然として、当てるまで攻撃の意思をしっかり持って攻撃し続けるのじゃ。
諦めた攻撃と当てる気で放った攻撃ではどちらが有効なのかは明白じゃろう?』
『いや、師匠。結局は当たらないんだからどっちも同じじゃね?』
『ふぅ・・・弟子よ、お主はまだまだじゃな。いずれワシの言ってることが分かる時が来るじゃろう。その時はワシの言葉を思い出すのじゃ』
師匠、思い出したよ。
確かに当たらないからと腐った攻撃をし続けるより、当てる気で放った攻撃が当たる気がするのはその通りだな。
俺はハーティーが躱し続けるにも拘らず、剣姫流の攻撃を次々と繰り出す。
ハーティーは絶対音拍の祝福のお蔭で俺の攻撃は一切当たらない。
それでも構わずに俺は攻撃をし続ける。
より強く。より速く。より的確に。
「く・・・っ! 鈴鹿、何故君は諦めないのですか! 僕には決して攻撃を当てることは出来ない上に、僕の攻撃は君は躱せない! 今現に君はこうして僕に嬲られているじゃないですか」
「それはな・・・! 師匠が決して諦めるなと教えたからだよ!」
決して諦めいない俺に、ハーティーは動揺したのか俺の攻撃が掠めた。
そうか、そう言う事か。
俺は更に剣を振るいハーティーに迫る。
ハーティーは俺の気迫に押され、次第に攻撃が当たり始める。
1本の刀が2本の剣の速度を上回っていた。
ハーティーは決して俺の攻撃を読めなくなったわけでは無い。
ただ、俺の気迫に押されて自分の攻撃が保てなくなったのだ。
決して敵わないはずの自分に決して諦めずに立ち向かう俺。
その姿勢にハーティーの心が動揺しているのが目に見えて分かってくる。
魔法剣は月を破壊する者により無効化されるが、俺は切り札の発動の為、隙をついて呪文を唱える。
「剣姫一刀流・刃翼!」
クロスステップで高速で左右に動きながら攻撃を放つ。
攻撃が当たり始めたとはいえ、流石に動きの大きい刃翼は2本の魔剣により阻まれる。
だが、動揺していた状態で受けたハーティーはその高速の動きについてこれずバランスを崩した。
俺はここがこの一番のチャンスと思い、ハーティーの懐に潜りつつユニコハルコンを鞘に納めた。
そして一閃―――!
「剣姫一刀流奥義・天衣無縫!!」
俺の居合が魔法剣によるものだと察知して、ハーティーは咄嗟に月を壊す者を発動させた。
「破月!」
ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッッ!!!!
天衣無縫の6種合成魔法がその力を発揮しようと、月を壊す者の破月が魔法を打ち消そうと、お互いがお互いをせめぎ合う。
ハーティーは打ち消せずにいる天衣無縫を見て驚いている。
「くっ・・・! 何故・・・何故魔法が無効化されない!」
動揺するハーティー。
「うるらああああああああああああああああああああああっっっ!!!」
ユニコハルコンと月を壊す者が均衡していたのはほんの僅かな間だった。
次の瞬間、天衣無縫の魔法が打ち勝ちハーティーの手から月を壊す者が弾き飛ばされる。
上体が起こされ無防備となったハーティーに返す刀で切っ先を喉元に突き付け勝負が決まる。
「まだ、やるか・・・?」
「認めない・・・こんなの認められません! 犬人如きに教えられた剣で正統継承者の僕が負けるはずはない・・・!
まだ・・・まだやれる! 僕はまだ負けてないです!!」
「剣1本でか?」
俺の言葉に睨んでいたハーティーは一瞬硬直する。
剣姫二天流は2本の剣を持ってして成り立つ流派だ。
剣1本ではその力が十分に発揮できない。
ハーティーが剣を吹き飛ばされた時点で勝負はついたのだ。
「師匠は言ってたぜ。例え武器が1つになろうとも敵は待っちゃくれない。だから剣姫一刀流を編み出したんだってな」
「犬人如きの浅慮な考えが剣姫様を上回っていると言うのですか?」
「あー、そう言う事を言っているんじゃねぇよ。物事は臨機応変に対応する必要があるって事だよ。
お前は剣姫二天流に盲目して武器が1つになった時の事を考えてねぇんだよ。それが今回の敗因だ」
「ついでに言うなら獣人を見下していたことも敗因の1つね」
未だ決着に納得していないハーティーに俺は刀を突きつけながらどうやって納得させるか悩んでいるところにアイさんが割って入って来た。
「言った筈ですよ。僕は別に獣人を差別なんてしません」
いや、してるから。してるから。
「そう? じゃあニコくんが剣姫流を使っても何の文句も無いわよね? だってたった今負けたんだもの。ニコ君の剣に」
「うぐ・・・」
アイさん結構きつい事言うな。
そんなんで納得するハーティーじゃないと思うが。
「ニコ君はフェンリルに習った剣をどうすればよりよくなるか必死に考えたんだよ。そこには人族だからとか獣人だからとか関係ないわ。
剣姫流を大勢の人に使ってもらう。それがフェンリルへの恩返しだって言ってたわ。
ハーティーは違ったのかしら?」
「僕だって、剣姫流を広めたいと思っていますよ。僕は正統継承者なんですから流派を繁栄させるのは当然でしょう」
「そう? ならフェンリルが種族の境を無くし流派を伝えようとしていたことも知ってるわよね?」
「・・・え? そんなの聞いてないですよ・・・」
さっきまでの悔しさに満ちた表情が途端に呆ける。
「ああ、ごめんなさい。そう言えばハーティーの正統後継者って言うのは偽りだったものね」
「そ、そんなことは無い! 僕は先代から確かに剣姫流を受け継いだんですよ!」
今度は怒りに満ちた表情でアイさんを睨む。
ん? ってことはハーティーが剣姫流だって言うのは嘘なのか?
ハーティーの様子から言って嘘をついているようには見えないが・・・
「ハーティーが嘘をついているって言ってるわけじゃないわ。
正確には2代目?が剣姫流だって偽物を名乗って3代目以降がそれを信じちゃったんだから。
つまりハーティーにとっては5代目正統後継者だって言うのは本当の事なのよ」
ああ、伝言ゲームで伝える言葉が歪んでしまうみたいなものか。
2代目?が嘘を付き、3代目4代目と本物だと信じてきて、それが5代目――ハーティーに受け継がれてきたと。
「しょ、証拠はあるのですか! 証拠は!?」
「証拠って言うか、ハーティーが正統後継者の証だって言ったその2本の魔剣、フェンリルは持ってなかったわよ?
フェンリルが持っていたのは妖刀村正と月読の太刀だもの」
「そ、それこそアイさんが嘘をついていると言うのでは・・・」
「んー、フェンリルがその2刀を持っていたのは大昔の資料を調べれば分かる事だけど、ハーティーは剣姫流を盲目し過ぎて魔剣の方を信じちゃったのね」
アイさんの言葉に流石にハーティーは項垂れて言葉を失っていた。
つーか、アイさん詳しすぎるぞ。幾らなんでも100年前のフェンリルの事なんてそう簡単に調べられるものじゃないはずだが・・・
「ねぇ、アイさん。だったらそれを戦いの前に最初っから言っていればこんなことにはならなかったんじゃあ?」
確かにトリニティの言う通り、それならこんな事をしなくても良かったんじゃないかと思う。
「あら、それだとハーティーは頭ごなしに否定して最初から聞いてくれなかったわよ。
こうして負けを認めた今だからこそ私の話も受け入れてくれているのだし。
それに鈴鹿くんも一度頭に上った血が冷えてきた頃でしょう?」
「・・・まぁね」
最初の頃は師匠を侮辱したことで頭にきていたが、一度ぶつかり合った事で今ではそれほど怒りは治まっている。
「アイさんは鈴鹿が負けるとは思わなかったんだ」
「そりゃあね。なんたって鈴鹿くんはニコ君の弟子だもの」
嬉しい事を言ってくれるね。
少しは師匠の期待に応えることは出来たのかな。
「鈴鹿・・・僕は君に負けましたが、犬人が剣姫流を名乗るのは納得できません。
正直アイさんの言う事もどこまで信じたらいいのかすら分からない状態です。
だが君が僕に勝ったのは事実です。
だから君の師を侮辱したのは謝ります。すみませんでした」
「あー、もういいよ。アイさんの言った通り一度暴れたら何かどうでもよくなってきたし。
師匠が生きていたら正統継承者とか獣人とかそんなの気にしないで自分は生きるために剣を振るっていたとか言いそうだしな」
「まぁハーティーは少しは人族至上主義を治した方がいいかもね~
『旋律の使徒』として差別は良くないよ~差別は。今までも亜人・獣人ってクエスト挑戦者は居たんでしょ?」
トリニティ、おまっ・・・ど直球過ぎるぞ!
幾らなんでも使徒が差別ってありえないだろ。
「人族至上主義ことは無いつもりでしたけど、確かにあたりが強かったことはあります。
確かに使徒としてそれは良くなかったですね・・・」
って、差別してたんかい!
ハーティーも人族至上主義を否定してたり獣人を毛嫌いしてたりと矛盾した感情を抱え込んでいるみたいだし、結構根深いところのトラウマがあるのかもしれないな。
「うんうん、これからは気を付けたまえよ。
ハーティーは音楽を集めているんでしょう? だったら尚更みんなとは仲良くしなきゃ。
音楽は種族を越える、だったけかな?」
「何それっぽいことを言って綺麗に纏めようとしているんだよ。どうせその言葉を異世界からの仕入れただけの意味も分からないで使った言葉だろ」
「あいた!」
俺はトリニティの頭をどついて黙らせる。
最初は俺とハーティーが戦う時にオロオロしていたくせに、ちゃっかり良いところだけを持っていこうとするなよな。
「さて、と。出発の前にいろいろごたごたしたが、これでお別れだな」
「まぁ最後はちょっといただけなかったけど、この5日間、バンド練習とか楽しかったよ」
「色々思うところがあると思うけど、貴方がこれまで習ってきたことは嘘じゃないから。それだけは覚えておいて」
「クルゥ」
俺達はハーティーに別れの挨拶をし、闘技場を立ち去ろうとした。
だがハーティーは俺達を呼び止める。
「・・・待ってください。僕も連れて行ってくれませんか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Alive In World Online雑談スレ933
355:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:07:09 ID:FeL888AiOn
>>354 その根拠は?
356:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:13:01 ID:Ari5aNtI910
どう扱うも何も冒険者として扱うだけでしょ?
357:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:13:39 ID:Kumo5Ttl910
あー、有名人の名を騙るのならそれなりの実力が無いといけないからねぇ
多分ボロがでると
358:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:15:09 ID:OkitSitLow
偽物だろうと本物だろうと実力が無ければ成果は出ないんだし、事件に関われば振るいに掛けられるだろ?
359:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:16:09 ID:OkitSitLow
って357に先に言われたw
360:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:19:56 ID:KMakr5Mnt6
うーん、やっぱ基本放置だね
と言うか、そのフェンリルを名乗る人物から今日パーティー勧誘を受けたけどどうしようwww
361:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:20:15 ID:nzo3IxtI73
名を上げるのなら積極的に事件に関わってくるよね
362:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:22:44 ID:Oli976Oli2n
つーか、AIWOnで名を上げて何か意味があるのか?
363:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:23:39 ID:Kumo5Ttl910
>>360 え? マジ? なんて勧誘受けたの?
364:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:24:09 ID:FeL888AiOn
>>360 それは興味深い
361:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:27:56 ID:KMakr5Mnt6
「このフェンリルのパーティーからの誘いを受けることに誇りに思いなさい」ってwww
362:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:30:15 ID:nzo3IxtI73
名を上げる=ちやほやされる
AIWOnはほぼ現実同様だから上手くやれば酒池肉林できるよ?
363:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:33:01 ID:Ari5aNtI910
>>361 マジ受けるwww
364:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:33:39 ID:Kumo5Ttl910
>>361 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
次回更新は10/27になります。




