2.現実と仮想とデスゲーム
――2059年5月2日(金)――
「唯姫ちゃん今日は遅いわね。何かあったのかしら」
いつもならとっくに来ていてもおかしくない時間なのに唯姫は未だに来ず、お袋が心配そうに朝食の後片付けをしている。
「いくら幼馴染だからって毎日迎えに来る方がおかしいんだよ。小学生じゃあるまいし。
唯姫も俺にばかり構ってないで、もう少し自分の時間を持てばいいんだよ」
「鈴鹿、そんなこと言うもんじゃないわよ。毎日唯姫ちゃんが来てくれるのがどれだけ大切な事なのか分かっているの?」
「そうだぞ。青春ってのは何気ない日常が続くからこそ有りがたいものなんだぞ」
お袋と親父の両方から説教じみた言葉が飛んでくる。
特に親父は日ごろから青春青春って言っているからな。よくもまぁ恥ずかしげもなくそんな青臭いセリフを言えるもんだ。
とは言え、親父たちの言いたいこともよく分かる。
今まで当たり前の事だったのが、それが失われてしまうと今までの事がとても大切だったってことがある。
青春・恋愛うんぬん関係なく登校時には今まで唯姫と一緒だったからな。
散々一緒じゃなくてもいいと言っておきながら言っておきながら、今さら別々で登校しようとしても何か物足りなさを感じるのだ。
「言われなくても分かっているよ。
多分風邪を引いたとか寝坊したとかで今日は来れないんだろ。唯姫の家に寄ってから学校行くからそれでいいだろ」
俺は鞄を手に取ってこれ以上説教じみた言葉を聞かないようにとっとと家から出る。
「もう。いってらっしゃい」
お袋はため息をついて呆れながら俺を送り出す。
俺はすぐ隣の唯姫の家の玄関にたどり着きチャイムを押して待つ。
反応は直ぐ有り、おばさんがドアを開けて俺に挨拶をしてくる。
「あら、鈴鹿くんおはよう」
「おはようございます。唯姫は?」
「唯姫ったらこの時間になっても起きてこないのよ。また遅くまでゲームやってたみたいでね」
ああ、やっぱり寝坊だったのか。今までも遅くなる事はあったが、ここまで寝坊するのも珍しいな。
「唯姫を待っていたら鈴鹿くん遅刻しちゃうから先に行って頂戴。唯姫は今からじゃどうやっても遅刻だから説教してから行かせるから」
「ああそうっすね。じゃあ俺は先に行ってますね」
「わざわざ迎えに来てもらってごめんね」
そんな訳で今日は・・・と言うか唯姫が不登校したとき以外で初めてか? 1人で登校するのは。
いつも隣にいた唯姫が居ない朝は何か落ち着きが無い感じがした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「おう、鈴鹿おはよう」
「おはよう・・・って、今日は早海は一緒じゃないのか?」
「なんだ、もしかして夫婦喧嘩か? って、ひぃぃ!?」
教室に着くなりまた下らない事を言ってくる友人にいつも以上に睨みを利かせ威圧を思いっきり放つ。
「き・今日はいつも以上におっかないな・・・」
「そりゃあ、早海が一緒じゃないとなれば不機嫌にもなるだろうよ。
つーか、お前睨まれるって分かっていながらよくあんなこと言えるな・・・」
友人たちはいつも以上に小声になりながらヒソヒソと会話をしている。
「ああ、唯姫の奴今日は寝坊だとよ。昨日も遅くまでAIWOnをしてたみたいでな」
「珍しいな。早海が寝坊だなんて」
「ああ、でも分かるわ。AIWOnは今流行だからなぁ」
「俺にはよく分からんな。ゲームなのに現実同様の鍛えが必要だなんてやるメリットが無いような気がするぞ」
昨日も唯姫に誘われて断った理由がそれだからな。
AIWOnは既にVRMMO―RPGの枠を超えている気がする。
「あー、まぁそうだなぁ。AIWOnはネトゲと言うより異世界トリップと言った方が正確かもな」
「キャッチコピーが「現実を超えた現実」「もう一つの現実世界」「異世界での冒険を」そして極めつけが「異世界で生き残れ!」だからな」
異世界で生き残れって・・・そういやAIWOnは他のVRMMOよりシビアだって話だな。
異世界で活動と言うのであれば現実同様の苦労もあって当然か。
「あ、そういやAIWOnにデスゲームの噂があるって聞いたことあるな」
さっきまで俺の威圧にビビっていた友人がようやく口を開いたかと思ったら、これまたくだらないことを言い出して来た。
「デスゲームって・・・23年前のAngel In事件じゃあるまいし・・・」
「もしそうだとしたら噂どころじゃなく既に大騒ぎになっているぞ」
友人たちも呆れながら否定の言葉を口にする。
「いや、あのさ、キャッチコピーが異世界だの現実だの言ってるからさ。異世界や現実みたいにAIWOnで死んだらこっちでも死ぬんじゃないかって噂が立ってるんだよ。
で、早海が遅刻してるのってもしかして・・・って!?」
「あ゛!!? なんか言ったか!?」
「ヒィィィ!? ゴゴゴゴメメンッ! じょ、冗談だよ冗談っ!」
何でこいつはこうも下らないことをポンポン口にするんだか。
俺は特大の威圧を効かせて友人の下らない口を塞ぐ。
「なぁ、こいつもしかしてわざとやってないか?」
「ああ、狙ってやっているとしか思えないな・・・」
またもや小声で話す友人たちに俺は心の中で同意する。
「おらー、席に着けー。ホームルームを始めるぞー」
下らない話をしている間にホームルームの時間が来たみたいだ。
担任の教師が教壇に立って皆を席に着かせる。
「あー、今日は早海は遅刻だな。後は九重は欠席っと」
さっきまでの友人の下らない噂の所為で、担任の事務連絡的な一言なのに俺は言いしれない不安に陥った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
コンッコンッコンッ
俺は紙パックのジュースを啜りながら苛立ちを紛らわすように机を指で叩く。
周りも俺の苛立ちを感じ遠巻きに眺めているだけだった。
唯姫は1時間経とうが2時間経とうが一向に学校には現れなかった。
流石に昼休みになっても来ない唯姫に俺は苛立ち、唯姫のスマホに電話を掛けるも一向に出る気配が無かった。
唯姫の家の方にも電話を掛けたがおばさんも出なかった。
これはもう寝坊なんてレベルの話じゃない。
もしかしたら何か起きているのかもしれないと言う不安が俺を苛立たせる。
「おい、虫。唯姫はどうしたんだ?」
いつの間にか来ていた光輝が相変わらず女子生徒を侍らせながら俺を見下した態度で聞いてくる。
「あ゛? 何でわざわざ石ころに話さなきゃならねぇんだよ」
「虫は黙って俺の質問に答えてればいいんだよ」
「石ころには知ってても話さねぇよ」
「おい虫の分際で随分な態度だな。俺が下手に出てればいい気になりやがって。
虫はいつでも叩き潰せることを忘れているのか?」
いつもは唯姫が居るためか俺の言葉をスルーしていた光輝が、今日はここぞとばかりに俺に突っかかってきた。
光輝は俺の胸ぐらを掴んで自分の方へと引き寄せ睨みを効かせてくる。
「あ゛あ゛!? てめぇがいつ下手に出たんだよ? てめぇこそそこらへんに転がっている石ころの分際で偉そうな態度とりやがって」
俺も光輝の胸ぐらを掴み返して睨みを利かせる。
お互いが胸ぐらを掴み引き寄せあう状態になると、教室の空気が緊張状態へと一変した。
ゴンッッ!!
次の瞬間、お互いが拳を突きだし顔がはじけ飛ぶ。
「うわっ!?」
「きゃぁっ!?」
「ちょっ!? それは流石にまずいよ!」
「志波君! やめて!」
殴り合いの喧嘩が始まろうとしたのを俺の友人たちと光輝の取り巻きの女子生徒たちが慌てて止めに入る。
お互い引き離され睨み合う事、数分。
光輝は「もう大丈夫だよ」と女子生徒に言いながら離れてもらいそのまま教室から出て行った。
そして俺は鞄を掴み教室から出て行こうとした。
「お、おい鈴鹿。どこ行くんだよ?」
「帰る」
只でさえ唯姫に何かあったのかもしれない不安で苛立っているのに、光輝のバカが突っかかってきたせいで苛立ちはピークに達していた。
ここで状況が分からずに苛立つよりも、とっとと帰って唯姫の安否を確かめた方が早いと判断したのだ。
ったく、唯姫のやつ人にいらん心配ばかり掛けさせやがって・・・!
俺は急いで家に向かう途中も不安を誤魔化すためか、心の内で唯姫に罵りまくる。
「ただいま!」
俺は鞄を部屋に放り込んですぐさま唯姫の家に行こうとするが、リビングに居たお袋を見て俺は足を止めた。
お袋は学校を早退した俺を叱るのかと思いきや、青ざめた表情で俺を見てくる。
俺はその表情を見て不安が的中したのを確信した。
「鈴鹿・・・唯姫ちゃんが・・・」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺はマウンテンバイクを必死に漕ぎ、市内でも大きな病院である赤坂病院へと向かっていた。
唯姫はヘットギアのVR機「アミュレットⅡ」を装備したまま発見された。
おばさんは最初徹夜でネトゲをしていたと思い、流石に看過できずに強制ログオフになるにも拘らずアミュレットⅡの電源を落としたそうだ。
だが、電源を落としアミュレットⅡを外したにも拘らず唯姫は一向に目が覚める気配が無かった。
息はしているものの揺すっても顔を叩いてもなんの反応も示さずにただ横たわっているだけだった。
流石にこの状態が普通ではないと気が付いたおばさんは急いで救急車を呼んで唯姫を赤坂病院へと連れて行ったそうだ。
病院へ着いた俺は唯姫の居る病室を聞き出すために急いで受付へと向かう。
受付で聞いた結果、唯姫は集中治療室等に居るかと思いきや普通の個室部屋に居るそうだ。
俺は急いでその部屋へと向かうと部屋の中にはベットで横たわっている唯姫の他に4人の男女が居た。
唯姫のおじさん、おばさん。そしてこの赤坂病院の院長でありお袋の兄の嫁の綾子おばさん、最後に何故か俺の親父が。
綾子おばさんは院長であるのでまだ分かるが、親父は何故ここに居るんだ?
お隣であり友人であると言えばそれまでなのだが、それだけの理由で親父がここに居るわけではないと思う。
「おじさん、おばさん・・・」
おじさん達は俺が部屋に入って来たのに気が付いてこちらを見てくる。
「鈴鹿くん・・・ほら、唯姫、鈴鹿くんが来てくれたわよ。いつまでも寝てないでさっさと起きなさいよ・・・」
おばさんが唯姫に話しかけるも一向に起きる気配はない。
「・・・唯姫はどうなったんですか?」
「医学上、原因不明の昏睡状態です」
俺の質問の答えてくれたのは綾子おばさんだった。
「原因不明って・・・じゃあこのまま一生目が覚めないんですか!?」
綾子おばさんは答えなかった。いや、その沈黙が答えだった。
・・・唯姫はこのまま目が覚めない・・・?
その事実が俺の胸を締め付け上げる。
昨日まで隣に居たじゃないか。いつも通り笑って怒って呆れて。
何気ない日常はこんなにもあっさり崩れるものなのか?
やり場のない怒りは何処にも向けられず、俺は思いっきり拳を握りしめる。
「医学上の原因不明だが、昏睡状態に陥る過程までの原因なら判明している」
今まで黙っていた親父が答える。
「! じゃぁ唯姫は治す方法はあるのか!?」
「有るとも言えるし、無いとも言える」
「どっちなんだよ!」
俺はどっちつかずの答えに苛立ちを覚える。
ただでさえ苛立っているところにそんな答えを寄越されてはいい加減キレそうだ。
「・・・ついて来い。ここじゃお前の怒鳴り声で周りが迷惑をかける」
親父が部屋から出て行き、綾子おばさんが近くの看護師に指示を出して親父に付いて行く。
俺もおじさん達に頭を下げて親父の後を付いて行く。
親父達に連れてこられた場所は院長室だった。
まぁ確かにここなら病室等から離れているため多少の大声を出したところで迷惑にはならないだろう。
綾子おばさんは院長席に着き、親父は応接用のソファーに座る。
俺はテーブルを挟んで親父の向かい側に座る。
「で、いったい何がどうなっているんだ?」
「結果から言えば、VRMMOのAlive In World Onlineが昏睡状態の原因だ」
確かに唯姫はAlive In World Onlineをやっていたが、VRゲームが原因って無理があるだろう。
漫画や小説じゃあるまいし、ゲームの特殊な電波を浴びて昏睡状態に陥ったとでも言うのか?
だが親父は更なる驚愕な事実を述べる。
「実は世間には公表されていないが、唯姫ちゃんの様に原因不明の昏睡状態に陥っている人間は200人ほどいるんだ」
「正確には唯姫さんを入れて214人ですね。
ですが今現在の昏睡状態の患者は114人へと減っています。生命維持装置による延命措置も効果が無く次々と死亡されている方が出てきているのです」
綾子おばさんが補足説明に俺は戦慄した。
じゃぁ何か? 唯姫もこのまま昏睡状態が続けば死んでしまうのか?
俺は事態が予想以上に切迫しているのに今さらながら気が付いた。
「そしてその昏睡状態の人たちの共通点がAlive In World Onlineのプレイヤーと言う事だ」
ここでAlive In World Onlineの名前が出てきた。
だがおかしい。いくら世間に公表されていないとは言え昏睡状態――さらには死者が出てきているのだ。噂くらいはあってもいいはず。
そこで俺は友人たちが話していた噂を思い出した。
――そういやAIWOnにデスゲームの噂があるって聞いたことあるな――
その噂はここから来ているのか?
「Alive In World Onlineが原因だと言うのにはもう一つ理由がある。
・・・鈴鹿、23年前のAngel In事件の原因となったタイトルは分かるか?」
「確かAngel In Onlineだろう?」
「じゃあその通称は?」
「いや、そこまでは・・・」
当時は世間を賑わせていたが、大量の死者を生み出したVRMMOと言う事で世間では口にするのも憚れたらしい。
そして次第に詳細は薄れていったとか。
だが次に親父の口から出た言葉は思いもよらないものだった。
「Angel In Online――通称AI-On」
なっ!? AI-Onだと!?
まさかAIWOnと関係があるのか!?
「そのまさかだ。Angel In OnlineとAlive In World Onlineは関係がある。
Ange In Onlineの最高責任者であった者を逮捕し事件は収まったとされているが実はそうではない。
Angel In Onlineの運営会社Access社の幹部、こいつらは逮捕されなかったが全くの無関係だと思うか?」
「・・・いや、流石に無関係は無いだろう」
「普通はそう思うが、奴らはどういう手を使ったのか事件の責任は全く追及されなかった。
もっとも会社自体は補償問題とかで倒産してしまったがな。
で、責任を逃れデスゲームに関知していたとされる幹部たちが次に立ち上げた会社がArcadia社という訳だ」
Arcadia社はAlive In World Onlineの運営会社だ。
なるほどな。デスゲームを起こした会社の幹部たちが引き続き何かを企てているという訳か。
「だが何でわざわざ通称をAIWOnにしたんだ? そんなことをすればAngel In事件との関連を疑われるじゃないか」
「それは幹部たちに聞いてみないと分からないが、多分Angel Inプレイヤー達への挑戦状だろう。
まだ事件は終わっていない、悪夢はまだ続いていると」
だがそれに巻き込まれてしまった者は堪ったもんじゃない。
原因不明の昏睡状態に、最後には死亡してしまうと言うAngel In事件さながらのデスゲームの再来じゃないか。
「これ以上ないくらいAIWOnが原因とはっきりしているじゃねぇか。
これArcadia社を訴えて原因を追究すれば問題は解決するんじゃないのか?」
「VRMMOはあくまでVR機から電波を脳に飛ばして逆に延髄から脳波を読み取ることで遊ぶことの出来るゲームだ。
VR機を取り外した状態ではゲームの影響による因果関係は無いとされている。
つまりVR機を取り外しているにも拘らず昏睡状態に陥っているのにはAlive In World Onlineは関係ないってのがArcadia社の言い分だ。
そしてArcadia社はもし下手にAlive In World Onlineと昏睡状態を結び付けようものなら逆に訴えるときている。
もっとも訴えたところで昏睡状態に陥った原因を素直に提示するわけはないだろうけどな」
ふざけるなよ。ここまで状況証拠が揃っていて、死者が出ていてAIWOnは無関係だと?
だが親父の言う通り20年以上も前から暗躍をしている奴らが簡単に尻尾を出すわけが無い。
のらりくらりと言い逃れをして時間だけが経過されるのは拙い。
いや待てよ。親父は治療法が有るとも無いともと言っていたな。
「親父、Arcadia社から治療法を聞き出すのではなく、何か別の方法があるんだな」
「少しは頭が回るようだな。体ばかり鍛えて脳筋にならないかと心配していたんだが大丈夫そうだな」
「いくらなんでもそこまで馬鹿じゃねぇよ。
で、どうすれば唯姫は治るんだ?」
「あらかじめ言っておく、これは俺が独自に入手した情報をもとに予測したものだ。
はっきりって眉唾なものだから信じられないかもしれないが、多分間違いなくこれが唯一の解決方法だ」
親父は少し悩むように考えるが、覚悟を決めてその治療方法を俺に教える。
「どういう原理かは知らないが、唯姫ちゃんは今意識だか魂だかがAlive In World Onlineの中に囚われている。
Alive In World Onlineの中に入って唯姫ちゃんを連れ戻すのが唯一の方法だろう」
は?
ゲームの中に魂が囚われている?
親父の突拍子もない言葉に俺は耳を疑った。
オカルトじゃあるまいしゲームに魂が宿っているとでも言うのか?
「信じられないのも無理はないと思います。
ですが、魂が抜けていると言うのが昏睡状態の原因なら説明が付きます。
幾ら生命維持装置を付けていても魂が無ければ肉体を維持するのは不可能ですから」
綾子おばさんもこんなオカルトめいたことを信じてるわけじゃないだろうけど、綾子おばさんの言う通り確かに状況的には理屈が通っている。
いや、ここでごちゃごちゃ考えても意味が無い。
「親父、信じていいんだな? 唯姫がAIWOnの中に居るって」
「ああ」
だったら俺がやることは一つだ。
医学的な問題なら綾子おばさんに任せるしかないが、これなら俺にも助ける手段があると言う事だ。
俺は早速ソファーから立ち上がり院長室を出て行こうとすると親父が俺を引き止める。
「まて、どこへ行くんだ?」
「決まっている。AIWOnにダイブして唯姫を助け出してくる」
「簡単に言うが当てはあるのか?
いくらゲームとはいえVRMMOの世界は広いぞ。すぐ見つかるわけじゃない。探し出すのにどれだけ時間が掛かる事やら」
「ここで燻っているよりはマシだろう。当てなんてAIWOnの中に入ってから見つけるさ」
「学校はどうするんだ?」
「そんなのに関わっている時間はねぇよ。幸い明日からゴールデンウィークだ。少なくともこの4日間は問題ない」
「死を伴う危険があるVRゲームにダイブするのに俺が許可すると思うのか?」
「親父の許可なんていらねぇよ。俺は俺のやれることをやるだけだ」
俺は親父の制止を振り切って部屋を出て行こうとする。
だが親父は再び俺を呼び止めた。
「だから待てと言っているだろう。
何のためにお前にこの話をしたと思っているんだ。お前の事だから間違いなくAlive In World Onlineの中にダイブするだろうと思っていたんだ。
協力者と一緒にAlive In World Onlineの中に入れ。それでなら許可をくれてやる。勝手に行動されるよりはましだからな」
それからとびっきりのサポートも付けてな、とそう言いながら親父はニヤリと微笑んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あれ? 愛さん! 何でこんなところにって・・・そう言えば親父の会社の手伝いって言っていたっけ」
「あれ? 鈴鹿くん? 何でこんなところに来ているの? と言うか学校はどうしたのよ」
俺はあの後親父に連れられてICEの会社へと来ていた。
そしてそこで愛さんを見つけたのだ。
愛さんは親父の会社の人と何か打ち合わせの様なものをしていたが、俺と親父を見つけてこちらに駆け寄って来た。
「愛、予定変更だ。お前は鈴鹿に付いてAlive In World Onlineの中にダイブしてくれ。調査の方はこちらで何とかする」
「何かあったの?」
「ああ、唯姫ちゃんもAlive In World Onlineの中に囚われた」
「・・・! そう、それで鈴鹿くんが助けに行くわけね」
「そういう事だ。悪いがこいつの舵取りを頼む。唯姫ちゃんの事になると些か目が眩むからな」
「おい、誰の目が眩むだって?」
親父が俺をどういう目で見てるかよく分かったよ。
「お前だお前。少しは自覚しろ。
まぁそんなことはどうでもいい。向こうの部屋に行ってスタッフの指示を聞いてダイブの準備しろ」
自覚しろって何を自覚するんだよ。
俺は親父の言われた部屋に行きAIWOnにダイブする準備をする。
部屋の中にはカプセルタイプのVR機――確か「ドリームドライブ」だった気がする――が横たわっていた。
カプセルタイプのVR機は二昔も前の機体で、今はヘッドギアタイプのVR機が主流となり見なくなって久しい。
そして中にはヘッドギアタイプのVR機「アミュレットⅡ」が接続されていた。
スタッフの説明によると基本はアミュレットⅡでAIWOnに接続し、カプセルタイプは付属している生命維持装置で長時間のダイブを可能にするためだとか。
後は体に電極コードなどを付けて心拍等をモニターするらしい。
そのために赤坂病院からも医者と看護師を配備してもらっている。
なるほど、これならかなりの長時間向こうの世界で唯姫を探すことが出来るな。
「なっ! フルダイブすると言うのか!?」
突然、部屋の外から親父の怒鳴り声が聞こえてきた。
字面から分かると思うが、フルダイブと言うのはVRの中へ全感覚を投入することを意味する。
なので、そう怒鳴るようなことではないのだが・・・
「ええ、そうよ。その方が鈴鹿くん安全確保が容易になるからね」
「だが、お前が危険にさらされては意味が無いじゃないか」
「意味はあるわよ。私はこの為に戻ってきたようなものだからね」
愛さんの意味ありげな言葉に親父は黙り込んでしまった。
「・・・分かった。だが無茶はするなよ」
「分かってるわよ」
愛さんはそう言って親父の前から離れ別の部屋へと消えていく。
そして親父はそのままこちらへと向かってきて部屋の中のスタッフたちと打ち合わせをする。
その間に俺はドリードライブの中に入ってアミュレットⅡを被る。
その間に看護士が俺の体に電極コードを付けていく。
準備を終えた俺に親父が話しかけてくる。
「鈴鹿、お前の事だ、唯姫ちゃんが見つけるまでダイブするだろう。
だから長時間ダイブ出来るように生命維持装置を取り付けた」
なるほどね、その為に生命維持装置を付けたのか。
流石親父。俺の事分かってるじゃねぇか。
そうさ、唯姫が見つかるまでダイブし続けるに決まっている。
「幾ら生命維持装置が付いているからと言って長時間のダイブは危険だ。1週間に1回は戻ってくるようにしろ。
母さんに顔を見せて無事な事を知らせるんだ。いいな」
そうか、そう言えばお袋に何も言わずにこんな事になってしまってるんだったな。
すまんな、お袋。少し心配かける。
「ああ、分かった。そう言えば愛さんは?」
「愛は別の部屋からのダイブだ。少しは女性に気を使う事を覚えろ。
向こうの世界のスタート地点で待っているとさ」
ああ、確かに今の俺の様にドリームドライブに半裸で横たわる姿を見られるのは恥ずかしいか。
まぁいい。俺はこれからAlive In World Onlineの中にダイブして唯姫を探し出して助け出す。
そのためにも親父に確認しておかなければならないことが1つだけある。
「親父、ダイブする前にこれだけは確認しておきたい。
・・・唯姫は、どのくらい持つんだ?」
「・・・半年だ。最長で10か月の者もいたが他の昏睡状態の人たちは大体半年前後で死亡が確認されている。
唯姫ちゃんも半年と見ておいていいだろう」
半年か。普通であれば半年もあるのだろうが、現状を知ったAIWOn内での半年は短いのかもしれない。
これは思ったより厳しい状況だな。
「よし、行って来い」
「ああ、フルダイブ!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺は真っ白な空間に降り立つ。
目の前には長方形のAlive In World Onlineのロゴが浮かんでいる。
ここはアミュレットⅡのプライベートホームだ。
言ってみれば昔のデスクトップパソコンの画面みたいなものだ。
この空間でアプリを起動してプログラムを走らせたり、ネットに接続したりするのだ。
今目の前にあるのはAlive In World Onlineのアプリが1つだけ。
自分のアミュレットⅡのプライベートホームならもう少し色んなアプリがあるのだが、ここは借り物のアミュレットⅡのプライベートホームだ。
することはAIWOnにダイブするだけなので余計なものは一切ない。
俺はAIWOnのアプリを起動させる。
プライベートホームの景色がAlive In World Onlineの起動時のムービーに切り替わるが俺はそれをスキップする。
俺の目的は唯姫を探すことでゲームを楽しむことじゃないからな。
Alive In World Onlineのログイン画面切り替わるとすぐさま親父の会社で用意してくれたIDとパスワードを入力して準備を完了する。
「ログイン!」
こうして俺はAlive In World Onlineの世界へと降り立った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Alive In World Online攻略スレ325
901:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:00:59 ID:Bs8610hrk
何だこれ! クソゲーじゃねぇか!
902:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:01:41 ID:HkOj33sSn
何があった?
903:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:02:10 ID:nzo3IxtI73
いきなりクソゲーは酷いですね
904:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:03:59 ID:Bs8610hrk
初めてAIWOnプレイしたんで森に行って戦闘したら速攻死んだぞ!?
しかももう一回プレイしようとしたけど起動しないし!
これがクソゲーじゃなくてなんだよ!?
905:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:05:25 ID:dRrry9ull
あー、あるあるw
906:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:05:55 ID:F91zDB100
初心者には有りがちな罠ですね
907:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:06:42 ID:dd9cc44o
904さんはちゃんとアリス様の忠告を聞かなかったのかな?
908:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:07:29 ID:AkjAlssft1
このゲームを他のゲームと一緒にしちゃ駄目だろ
909:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:09:10 ID:nzo3IxtI73
『これはVRであってVRではない』byアリス
確かにこれはゲームではないですね
910:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:10:41 ID:HkOj33sSn
だね。ゲームと言うより異世界冒険だね
911:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:12:59 ID:Bs8610hrk
そんなん分かるか!!
つーか、キャラロストしたら1か月もプレイできないってどういうことだよ!
912:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:13:42 ID:dd9cc44o
AIWOnじゃ蘇生魔法もないし死んだら復活出来ないからなぁ
異世界の世界でも命は1つってことじゃね?
913:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:14:25 ID:dRrry9ull
1か月もプレイできないのは命を軽く扱うなって意味もあるかもな
914:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:16:41 ID:HkOj33sSn
因みに他の垢でやろうとしても無駄だよ
どういう訳か複垢でやろうとプレイできるアバターのは1つだけ
915:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:17:29 ID:AkjAlssft1
え!? マジで!?
916:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:18:55 ID:F91zDB100
それは知らなかった・・・
917:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:19:10 ID:nzo3IxtI73
一体どういった原理でそうなっているんでしょうね・・・?
918:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:20:59 ID:Bs8610hrk
クソゲーじゃねぇか・・・
てかよくこんなゲームに皆はまっているな
919:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:22:29 ID:AkjAlssft1
ハマるとでかいんだよw
920:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:23:41 ID:HkOj33sSn
まぁその初心者トラップを越えた先に面白さがあるんだよ
921:名無しの冒険者:2058/03/09(土)12:25:59 ID:Bs8610hrk
・・・やっぱクソゲーじゃねぇか
感想は第1章の終わり次第、活動報告にてさせてもらいます。
当作品は同時連載作品DUOとクロスオーバーしております。
もしよろしければDUOも読んでいただけると嬉しいです。