20.原型獣人とアーキティパ村と殺生石
マーチャキャラバン。マーチャ会長を筆頭にバイイン、バチナの2人の従業員を抱えるたった3人のキャラバンだ。
販路は地下都市エメラルドグリーンを中継点とし、港町ボートポートと吸血鬼が納める夜の国ミッドナイトを結び商売をしている。
そしてその販路の所々に点在する村にも商品を届け、村のライフラインを担っていたりする。
今回これから向かおうとしている村もその内の1つだ。
「で、その村には信頼している冒険者しか連れていけない、と」
「正確には口の堅い冒険者が望ましいですなの」
口の堅い、ねぇ・・・それって暗にその村には何か秘密があるって言っているようなものなんじゃ・・・?
それともその村での取引自体が口外するにも憚られるものなのか? ・・・なんかこう考えるとこのキャラバン自体に何か裏が有りそうな気もしてくるな。
「もし直接依頼を受けてくれるのならこれを報酬として先払いするですなの」
そう言ってマーチャ会長が渡してきたのは少し大きめのリングだった。
腕輪・・・にしては少々大きいな、これ。
「会長! それを渡してしまうんですか!? かなりの希少アイテムで、下手すれば二度と手に入ることのない品ですよ」
「いいのですなの。信頼を得るにはまずこちらから信じる必要があるですなの。
彼らにこの報酬を渡すことによって私たちの本気度を知ってもらうですなの」
どうやらこのアイテムはかなりの希少モノらしい。
つーか、二度と手に入らないって・・・マーチャ会長さんよ。あんた商売人だろ? そんなのを報酬にしちゃったりして損しないのかよ。
「会ったばかりの俺達をそこまで信じてもいいのか?
前払いしたこの報酬を貰った途端、とんずらするかもしれないぞ?」
「大丈夫ですなの。そう言ってもらえた時点で貴方は私たちを裏切らないですなの。
そんなつもりがあるのなら黙って受け取って護衛した振りをするですなの」
まぁ、確かにその気があるのなら黙ってるよな。
「それに、そんなことをすればこの場に居る門番の方々に犯罪者の経歴を記録されるですなの。この犯罪歴は各地域の門番が所有する審査システムを介してギルドカードに記録されるから、そうすれば二度と町中に入ることは出来なくなるですなの」
あー、報酬の持ち逃げを去れない様にこの門番が居る前でわざと報酬のやり取りを見せている訳か。
それと同時に自分たちの商売に裏が無い事をも証明していると。
意外と強かだな。小さいながらも流石にキャラバンを率いる会長ってところか。
しかし、どうしたものか。
俺達の目的はエンジェルクエストで、今回の使徒は『牙狼の使徒・Fang』だ。
キャラバンの護衛をしている余裕はないんだが。
しかも森の中を走ると言う事で、森の中じゃその巨体が邪魔をしてスノウで行くことが出来ないのでここに置いてくことになるんだよなぁ。
だからと言ってこのまま見捨てるのもあまり好ましくないな。
まぁ、俺達が引き受けなくてもエメラルドグリーンに戻って冒険者ギルドで他の誰かを雇うだろうけどな。その場合出発が遅れて村に多少の影響が出るっぽいが。
そんな悩んでいる俺に、マーチャ会長はその報酬のリングの効果を説明する。
「あ、言い忘れてたけど、このアイテムは騎獣縮小リングと言って騎獣の大きさを変えることが出来る旧セントラル王国で作られたアイテムですなの。
旧セントラル王国の人たちは騎獣を小さくすることで世話を簡単にして、経費節約を図ろうとしてたみたいですなの」
なん・・・だと・・・!?
じゃあこれをスノウに付ければスノウを持ち運びできると言う事なのかっ!?
なんて素晴らしいアイテムなんだ。
だが待てよ。それだけ価値のあるアイテムだとすればその価格も高いんじゃないのか?
俺と同じことを思ったトリニティが恐る恐る尋ねる。
「って、それだけ凄いアイテムだと値段の方も結構するんじゃ・・・?」
「確かに金額にすれば金貨2枚――20,000ゴルドはするですなの」
20,000ゴルドって・・・200万円!?
マジか!? たかが護衛で200万円ってどんだけだよ!?
「それだけ価値のあるものを報酬として渡すのですから信頼を裏切らないで欲しいって意味合いもあるですなの」
うおおお、この会長マジやり手だ。
俺達が巨大な騎竜を抱えて管理が儘ならないのを見越して、この騎獣縮小リングを報酬として寄越したのだ。
それが二度と手に入らない20,000ゴルドものアイテムだとしても、俺達の信頼を掴むためにあっさりと手放す度胸、俺達に必要なものを見極める目利き、そして何より敢えて価値の高い物を渡すことによって自分たちがこれだけ期待していると言うプレッシャーを与え裏切らないようにする駆け引き。
マーチャ会長パネェ・・・!
「よし、これだけのものを貰っちゃあ受けざるを得ないな。
但し俺達もなるべく急いでいる身なんでそんなに長くは護衛できないぞ」
俺はこの依頼を受けることにした。
確かに時間のロスが大きいが、スノウの管理がしやすくなるメリットを考えればここは受けておいて損はないはずだ。
あと一応護衛の期間を限定させてもらう様に進言をしておく。
「むぅ、出来れば今後も定期契約をして欲しいところだがこればかりは仕方がないですなの。取り敢えず村を経由して夜の国までの護衛をお願いするですなの」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺は早速貰った騎獣縮小リングをスノウに使う。
このリングは伸縮自在なのでスノウの首に取り付ける際に大きくなり、程よい具合にフィットする。
そしてリングを起動させるとスノウはみるみる小さくなり子犬程度の大きさになった。
「きゃーー! 可愛い!!」
「これは思わず抱きしめたくなるわね」
「クルゥ」
小さくなったスノウにトリニティとアイさんが群がる。
スノウも撫でられるのが気持ちいいのか、為すがままにされていた。
「可愛がるのもいいが、護衛の方もしっかりしてくれよ」
まぁ、出発してしまえば護衛に専念すると思うけど、一応釘を刺しておかないと。
マーチャ会長の方も元々強行軍で出発する予定だったので、直ぐにでも村へ向かうことが出来る。
「もし宜しければ直ぐにでも出発したいですなの」
マーチャ会長の合図で俺達は目的地である深緑の森の中にある村へと向かう。
3連結の馬車には、先頭に御者としてマーチャ会長、真ん中にバイイン、最後尾にバチナがそれぞれ乗っている。
俺達は気配探知でモンスターを警戒する為アイさんが先頭の馬車に、俺が真ん中の馬車でスノウと一緒に横からの敵襲を警戒、最後尾の馬車に後方警戒の為トリニティを配置する
村へ向かう道中、当然モンスターの襲撃があった。
この深緑の森は別名乙女の森と呼ばれているらしく、出現するモンスターは全てが雌なんだそうだ。
ワーウルフ、ワーキャット、ラミア、ハーピー、アラクネ、ケンタウルス、等々それら全てが所謂女の子モンスターなんだとか。
まぁ、元々雌しかいないモンスターも居るのだが。
と、女の子モンスターなどと可愛い言い方をしているが、実際はそんな可愛いものじゃなかった。
姿かたちは確かに人を模している部分もあるのだが、顔なんかは人と呼べるようなものじゃなかった。
ラミアなんかは蛇目蛇舌でまんま蛇女だし、ワーウルフ・ワーキャットに至っては獣人の女の子の様に人間の姿にイヌ耳ネコ耳などが付いているのではなく、狂暴な顔をした二足歩行の犬猫なのだ。
ケンタウルスも野生の荒ぶる毛深い顔をしていてとても女の子モンスターとは呼べない代物だった。
そんな雌モンスターを倒しながら進んでいく。
アイさんの気配探知でいち早く襲来を察知し、殆んどが俺とアイさんとで蹴散らしていく。
トリニティは後方警戒要因なので今回はほぼ出番が無かった。
そしてもう1匹・・・スノウも十分活躍していた。
小さくなったことで小回りが出来るようになったので、持ち前の機動力で戦場を縦横無尽に駆け巡る。
しかもスノウは光属性魔法を使うことが出来るので、無数の光球を生み出しモンスターに向けて放っていた。
特に横合いからの襲撃に対し、スノウのその光属性魔法は十分護衛としての役割を果たしてくれた。
よくよく考えれば、3連結の馬車に3人だけで護衛するのも結構無茶だったりするんだよな。
その点ではスノウの活躍は嬉しい誤算だった。
馬車で村を目指して進むこと3時間。
マーチャ会長がもうそろそろだと言うところでアイさんが新たな気配を探知する。
「ああ、大丈夫ですなの。多分、村の警備の方だと思うですなの」
そうして目の前に現れたのは何とケンタウルスだった。
但し、モンスターの様な風貌などではなく、漫画やゲームなどでお馴染みのれっきとした女の子モンスターだったのだ。
女ケンタウルスは上半身に鉄の鎧と槍と盾を身に着け、さながら騎士のようにも見えた。
彼女は槍を構え警戒しながらこちらに近づいてくる。
「ターニャ、久しぶりですなの」
「む、マーチャ殿か。よく来てくれた。
そろそろ村の備蓄が少なくなってきたところだったので助かった。このまま村まで案内するので付いて来てくれ」
相手がマーチャ会長だと分かると女ケンタウルス――ターニャは警戒を解き、先導となって村へと案内する。
だが完全には警戒を解いたわけでは無い。少し観察するような目で初見の俺達を見ていた。
「・・・ところでその者達は?」
「今回だけ特別に雇った護衛ですなの」
「む、グローリィ達はどうした?」
「・・・彼らは冒険に失敗してパーティーを解散してしまったですなの」
グローリィ――多分いつも護衛に雇っていた『栄光への道』パーティーたちの事だろう。
「そうか。それは残念だったな。いつもの護衛じゃなかったので少々警戒させてもらった。許せ」
「ううん、それが貴女の仕事ですなの。それで彼らも一緒でも大丈夫ですなの?」
「ああ、今のところは私の目にも警戒する要素は見当たらない」
「それは良かったですなの」
まぁ、警備だから俺達を警戒するのは当然だよな。
と言うか、ケンタウルスが警備している村ってなんなんだ!?
この女ケンタウルスは村に来るまでのモンスターのケンタウルスと明らかに毛色が違うのも訳分からん。
モンスターじゃないのか・・・?
「む、村が見えてきた。
護衛の諸君、原型獣人が住まう村・アーキティパへようこそ」
俺はその村の光景を見て驚愕する。
なんと驚いたことに村の住人は全てがラミア、ハーピー、ケンタウルスと言ったモンスターだった。
・・・いや、ターニャさんの言葉を借りれば原型獣人と言う、れっきとした人族の仲間である獣人だと言う事だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「まずは村長に挨拶に行くですなの。
バイインとバイナは取引を進めてるですなの」
そう言ってマーチャ会長は俺達を村長の所へと案内する。
この村が初見な俺達はまずは村長にお目通ししておかなければならないと言う事だ。
まぁ幾ら護衛とは言え、この村の特殊性を鑑みればトップとの面通しは必要な事なのだろう。
因みにターニャさんは警備の為、再び村の外へと戻って行った。
本来であれば何度も来ているマーチャ会長には案内はいらないのだが、一応俺達を警戒(いや観察か?)しての事だったらしい。
村長の所へ案内される中、トリニティは俺よりもしきりに驚いていた。
特に羽鳥人を見ては唸っていたりする。
真っ赤な髪に純白の羽を持つ羽鳥人は確かに普通の羽鳥人と違って見える。何と言っても全員が空を飛ばないで地面を歩いているのだ。
トリニティがその羽鳥人を見ながらマーチャ会長へ質問する。
「なぁ、あの羽鳥人ってもしかしてチキル種なのか?」
「ええ、そうですなの。絶滅危惧種とされているあの羽鳥人のチキル種ですなの。
それ故、この村への護衛は信頼のおける冒険者にしか頼むことが出来なかったですなの」
いや、俺にも分かるように説明してくれよ。
こちとら異世界人なんだぞ。こっちの世界の事はそれほど詳しくないっての。
「おい、どういう事なんだよ」
「あー、そうだな。鈴鹿にとっちゃ訳が分からないか。
まずはこの村に住んでいるのは原型獣人と言って、ここに来るまで戦ったモンスターとは明らかに違う種族なんだ」
トリニティの話によれば、犬人と同様にモンスターから知恵を付けて派生したのが原型獣人だと言う事だ。
但し原型獣人と言われるようにモンスターの原型に近い半人半魔のような獣人の姿をしているため、原型獣人が公に認識していない時代に人間からの迫害が酷かったらしい。
その為人間の町から離れ、隠れて住んでいるのが殆んどだと言う事だ。
この村もその内の1つらしい。
但し3種族もの原型獣人が住む村と言うのは珍しいそうだ。
「あたしもこんな村があるなんてビックリだよ」
今では原型獣人の認識が広まってそれほど迫害はされていないが、羽鳥人のチキル種だけが獣人と認められた今でも迫害にあっているのだとか。
いや、迫害なんてものじゃない。より正確に言うなら狩猟されていると言った方が正しい。
何でもその種族特性が原因なんだとか。
「彼女たちは金の卵を産むんだよ」
「は? 金の卵? それってものの例えじゃなく?」
「ああ、本物の金の卵。殻がゴールドで出来た金の卵。
その為、一部の人間・・・特に貴族連中だな。そいつらにチキル種は狙われているんだ」
貴族連中と言ってもエレガント王国の王都エレミアの貴族ではなく、プレミアム共和国第二都市シクレットの様に闇が蠢く第四衛星都市ハレミアの貴族がチキル種を狩っているらしい。
「この村はそんなチキル種を守るため、蛇人と人馬が集まってできた村ですなの」
マーチャ会長が補足の説明を付け加えてくれる。
空も飛べない金の卵を産む羽鳥人。確かにそれは狙われやすいな。
そんなか弱い羽鳥人を守るため、武勇に優れた人馬と魔術の精通した蛇人が村を起こしたと。
確かにこれじゃあ信頼した冒険者しか護衛に雇えないな。
金に目のくらんだ奴だとこの村の場所を売りかねないしな。
「そんな訳で貴方達にはこの村の事は黙っていてほしいですなの」
「ああ、それは安心してくれ。こんな風景を壊すような真似はしないさ」
村長の家に行くまでの間、村の中には蛇人・羽鳥人・人馬の子供たちが遊んでいる風景が見て取れる。
子供たちが笑って遊んでいられる環境があるのはこの村が豊かな証拠でもあり、大人たちがこの村を守ってきた証拠でもある。
幾らなんでもそれをぶち壊すような無粋な真似はしないさ。
「そう言ってもらえるとありがたいですなの」
そうこうしているうちに村長の家へと辿り着く。
先に使いを出して俺達の来訪を知らされていたのか、すんなりと村長の居る部屋へと通され俺達は村長と対面する。
アーキティパ村の村長は村人と同じチキル種の羽鳥人だった。
但し、さっきまで外で見かけた村人の羽鳥人とはまるで雰囲気が違った。
燃え上がるような真っ赤な髪に、光沢が見え隠れする純白の翼、それでいて何よりも包み込むような柔らかい優しい雰囲気が辺りを包み込んでいた。
「初めまして、冒険者の方々。私はアーキティパ村の村長のパティです。
この村を見て驚かれたと思いますが、見ての通り原型獣人が住む村となっております。
出来れば怖がらずに私たちと接してもらえれば嬉しく思います」
色艶なおっとりとした声にパティ村長の雰囲気も相まって気が付けば俺は見惚れていた。
俺だけではない。アイさんもトリニティも思わず息を呑んでいた。
「あ、ああ、大丈夫ですよ。俺達の仲間はそれほど獣人に差別を持ってませんから」
「そうですか。ありがとうございます。
何もないところですが、マーチャ様の商隊が旅立たれるまでゆっくりとごくつろぎ下さい」
そう言ってパティ村長はゆっくりとお辞儀をする。
俺達も慌てて礼をし、村長の家を後にした。
「今日いっぱいはこの村での取引があるので出発は明日の朝になるですなの。なので、村の中に居れば特に護衛の必要もありませんので自由に行動してもいいですなの」
パティ村長との面会後マーチャ会長からそう言われたが、特にすることはないんだよな。
一応パティ村長と面会したことで村の中での行動も許可されたことになるが、流石にいきなり知らない冒険者が来たとなれば村人もそう簡単に親しくはなれないだろう。
何せ羽鳥人・チキル種を守るため外から来る部外者をバリバリ警戒しているんだし。
「しょうがねぇ、外で訓練でもしているか。アイさん達はどうする?」
「私たちは村の中を見て回るわ。マーチャ会長との取引以外にも何か掘り出し物が見つかるかもしれないからね」
「そうだな。こういうところに意外なアイテムが売ってたりするんだよ。
後は情報収集ってのもあるな」
アーキティパ村の掘り出し物を探すべく、アイさんとトリニティの女性陣2人は村の中を散策するそうだ。
いわゆるウィンドウショッピングか?
そう考えると、アイさんは兎も角トリニティも女の子なんだと実感するな。
「ん? 何か変な事を考えていないか?」
「いや、何も?」
俺はトリニティからの追及を逃れるべく、そそくさと村の外へと向かった。
村の外と言ってもそれほど離れてはいない村の外周部分での訓練だ。
あまり村を離れすぎても村を警護しているターニャたちの邪魔になるので、ここら辺の適当な場所で訓練をすることにする。
なに、足捌きと刀を振るスペースがあれば十分だからな。
因みにスノウは女性陣2人に捕まっている。
小さくなった所為で2人の可愛がりがハンパない。
多分リボンとか付けられたりしているんだろうなぁ・・・
まずはいつも通り疾風迅雷流の歩法の訓練から始める。
そしてその後、刀を使ったステップに魔法剣を想定した刀捌き、後はひたすら刀を振るいながら常にステップを繰り返す剣舞を延々と続ける。
気が付けば空の景色は夕暮れに差し掛かっていた。
村に着いたのが昼前だから、かれこれ5時間もぶっ続けで刀を振っていることになる。
「うむ、見事な刀捌きだ。その足捌きも熟練の動きに達しているな」
声を掛けてきたのはターニャさんだった。
アイさんほどではないが、刀を振っている途中でこちらを見ているのが何となく感じ取れていたので、突然声を掛けられてもそれほど驚くことは無かった。
「ターニャさんか。もう村の警護はいいのか?」
「私の事はターニャでいい。警護の方は私1人でしているわけでない。今は交代の時間だと言う事だ」
そういやそうだ。他にも警護をする人がいて当然だな。
あれから時間もたっているので交代時間になっていてもおかしくはない。
「それにしても随分と熱心な訓練だったな。
その動き・・・もしかして剣姫二天流か? いや、一刀しかないと言う事は別の流派か?」
「別の流派って訳でもないな。剣姫二天流の派生流派、剣姫一刀流だ。
元々師匠が剣姫二天流を使っていて、そこから剣姫一刀流の流派を編み出したんだ」
「ほう、新た流派を編み出すほどの強者か。一度会ってみたいな」
「あー、そいつは残念だ。師匠はもう・・・」
「む、そうか。すまない」
そこで俺が言いたい事を察したターニャは直ぐに謝罪をしてきた。
それにしても新たに流派を編み出すのってやっぱりかなりの実力者じゃなきゃ難しいんだ。
そう考えるとやっぱり師匠は直接巫女神フェンリルに教えを受けたから、それ程の実力者になったんだろうな。
「確か鈴鹿殿だったか。鈴鹿殿は良い師に巡り合えたのだな。もし宜しければその師の事をお教え願えるか?」
「ああ、いいぜ。何てったって老竜とすら仲良くなるほどの強者だからな」
「なんと! それは真か!」
俺はターニャに師匠との出会い、そして教えを乞う経緯、最後に己の力を振り絞っての訓練などを話した。
「・・・そうか。鈴鹿殿はニコ殿の最初で最後の子弟なのだな。ニコ殿は最後に鈴鹿殿の様な強者に出会えて天命を感じたのかもしれない。
だからこそニコ殿は鈴鹿殿が幼馴染を見つけられるように剣姫一刀流を継承させたのだろう」
「天命かはどうかは分からないが、剣姫一刀流を教えてくれた師匠には感謝している。
だからこそこのエンジェルクエストを攻略しつつ、剣姫一刀流の流派の名を広めるつもりでいる」
「そうだな、ニコ殿も鈴鹿殿がその幼馴染を見つけるのを見守ってくれているはずだ。
ところで、その幼馴染はディープブルーと言ったか?」
「ああ、異世界では唯姫、天と地を支える世界ではディープブルーって名乗ってるらしい」
何やら思案顔になったターニャは唯姫――ディープブルーの特徴を聞いてきたので、 俺は美刃さんに聞いた特徴を伝える。
「ふむ、やはりブルー殿か。鈴鹿殿、ブルー殿もかつてこの村に訪れた事があるぞ」
「本当か!?」
「うむ、他の冒険者と共にこの村に来たことがある。
彼女らは夜の国から地下都市へ向かう途中、深緑の森で手強いモンスターの襲撃に会い消耗していたところにこの村を発見したのだ」
俺はこの時になって気が付いた。
今回はたまたま目的地がずれていたのが幸いしたが、唯姫もエンジェルクエストを攻略していたのでもしかしたら唯姫の事を覚えている人が居るかもしれないのだ。
今は唯姫がアルカディアに居るだろうと思われるが、こうして唯姫の情報を入手するのもアルカディアから助ける手段が見つかるかもしれないと言う事に今更ながらに気が付いた。
「それで!? 唯姫・・・じゃない、ブルーはどんな感じだったんだ!?」
俺は思わずターニャに詰め寄る。
俺の行動に驚いたターニャは宥めるように俺を押し返す。
「鈴鹿殿、落ち着け。そんなに慌てなくても教える。
・・・鈴鹿殿は余程ブルー殿の事が好きなんだな」
「なっ!? ばっ! そんなんじゃねぇよ!」
現実世界では散々周りから言われているのでいい加減にしろって言いたい事でもあったが、AIWOnで言われるのはまた別のくすぐったい変な感じがした。
俺はそれからターニャから唯姫の当時の事を聞いた。
唯姫は1年ほど前にアーキティパ村に来たそうだ。
その時はまだB級冒険者だったらしく、深緑の森の主の1人とも言われる巨大なアルビノアラクネと戦ったらしい。
辛うじて勝利した後傷ついた唯姫は仲間と共に偶然アーキティパ村を発見した。
「あれ? その時警備はどうしてたんだ? 村には誰も近づけないようにしているんじゃないのか?」
「本来ならそうなのだがな。だが完全に村を閉鎖してしまっては先が無いのが見えている。
なので、村に害を及ぼさない者は可能な限り来訪を歓迎しているのだ」
「村に害を及ぼさないって・・・こう言っちゃなんだが、人の良い振りした人間は何処にでもいるぞ。
まぁ、ブルーはそんな奴じゃないから迎え入れてくれたんだろうけど」
「その点は大丈夫だ。我々には『目』がある」
そう言ってターニャは自分の目を指さす。
すると微かにだが目の色が濃くなった。
「祝福・敵感知眼。これによって我々に敵意があるかないかを観ることが出来るのだ」
確かにこれなら敵意をもって近づく冒険者などは一発でバレるな。
とは言え、最初はそんな気はなかったが村に入ってから実情を知って気が変わることもある気がするんだが。
俺がその点を指摘すると、そこは人生経験がものを言うそうだ。
「この目と経験則を合わせて村に害を為さないか判断している。まぁ大抵はこの目で判断しても大丈夫な者が殆んどだが」
「凄いな、その祝福。こう言った警備や警護なんかじゃ優秀な祝福だな」
「確かに警備などには役に立つ祝福だが、それにしか役に立たないからな。
実際はC級くらいの祝福として認識されている。私の他にも何人かこの目を持っている者がいるくらいだ」
ターニャの話によると、元々人馬の獣人は主に使える事に歓びを見いだす種族で、仕える主を探すためその人の能力を見極める資格眼の祝福を持って生まれることがあるそうだ。
資格眼を持たなくても、それに引っ張られて敵感知眼の祝福を持つ者が生まれることが多いらしい。
「そんな訳でブルー殿たちには敵意が無いことが分かっていたので村に迎え入れた訳だ」
そしてこの村で唯姫たちは傷を癒しながらターニャたちと交流を深めていったそうだ。
元々魔法の才能があった唯姫は村人の蛇人や羽鳥人に魔法の手ほどきをしてもらい短期間でありながらメキメキと実力を付けたらしい。
「風の噂じゃブルー殿は『八翼』の二つ名で呼ばれているそうだな。我々の教えが少しでも力になっていると分かると嬉しいものだ」
気が付けば長い間ターニャと話し込んでしまっていた。
すっかり日が落ちて辺りは薄暗くなっていた。
「すまない、随分と長話になってしまった」
「いや、この世界のブルーの事を知れて良かったよ。探している本人の事が何もわからないってのも変な話だしな」
「そうか、少しでも鈴鹿殿の力になれたならそれは良い。
――む、誰か来る」
ターニャが村の中の方を向くと、こちらに近づいてくる人物を見えた。
蛇人だ。
たれ目、泣きボクロと言った妖艶な未亡人を思わせる雰囲気を纏っている。
しかも爆乳とも呼べるほどの大きさが服の下から突き上げて、その爆乳がより一層妖艶な雰囲気を醸しだしていた。
「エナか。どうした、こんなところまで来て」
ターニャがエナと呼ばれた蛇人に話しかける。
「ターニャ、子供たちを見なかったかしら? いつもの3人だけど」
「あのじゃじゃ馬3人組か。村の中には居ないのか?」
「ええ、こんな時間になっても戻ってこないのよ」
「まさか、村の外に出たのか? あれほど外に出るなと言い付けたのだが。
・・・マズイな。今は村の外はこの間追い払った悪意ある冒険者がうろついている」
「それは危険ね。その冒険者がティナの事に気が付けば攫われる可能性があるわね」
「急いだ方が良さそうだ。
警備の者にも注意を払って周辺を警戒して貰う事にして、私が外に出て捜してこよう。
エナは村長にこの事を知らせてくれ」
「ええ、分かったわ」
2人のやり取りを聞いていた俺はどうしようか迷う。
子供が3人、外に出てしまっている。そして外には悪意ある冒険者がうろついていると。
このままだと子供たちが誘拐されてしまう恐れがあるらしい。
知ってしまったからには流石にこのまま見知らぬふりは少々気まずい。
出来ればターニャに子供を捜す手伝いを買って出たいところだが、今の俺はマーチャ会長に雇われの身だ。
村の中での危険性が無いからと言って勝手に離れてしまっては護衛の意味が無い。
俺は少し考えてからターニャの手伝いをすることにした。
「ターニャ、俺も子供を捜すのを手伝うよ。こういう時人手があった方がいいだろ」
「それは助かる。だが、鈴鹿殿はマーチャ殿たちの護衛だ。護衛の役割を放棄するのか?」
「ああ、だからマーチャ会長に断りを入れてくるよ。村に居る分には護衛にはアイさんとトリニティが居れば十分だからな。
5分待っててくれ」
「分かった。その間私は他の警備の者にこの事を伝えてくる。
5分後ここに集合だ。5分経っても戻ってこなければ私は先に行く。いいな」
「了解」
俺とエナさんは村の中に戻り、ターニャは他の警備の者の所へと駆ける。
マーチャ会長に事情を話して子供たちを捜す許可を貰った。
その時一緒に居たアイさんからトリニティを連れて行くように言われる。
「こう言った人探しの時は盗賊の能力は役に立つわ」
「いや、あたしは盗賊としては未熟な方なんだけど・・・って、そうも言ってられないか」
よく考えればアイさんの気配探知があれば探しやすいのではと思ったが、ここはアイさんの言う通りトリニティの盗賊能力を当てにしよう。
護衛はアイさん1人でも十分だしな。
待ち合わせ場所に行き、ターニャと一緒に村の外へと走る。
「ターニャ、闇雲に探して大丈夫なのか?」
「いや、じゃじゃ馬たちの遊び場には心当たりがある。古の大妖が眠りについていると言う殺生石だ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
AIWOn デスペナルティスレ33
693:名無しの冒険者:2058/6/1(土)6:53:11 ID:ToHae10DT
遂にデスペナ実装!
694:名無しの冒険者:2058/6/1(土)6:59:33 ID:006anDm
よく分かんないんだけど、デスペナって1ヶ月ログイン出来ない奴じゃないの?
695:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:05:29 ID:Bell106nd
ようやくと言った感じかな
696:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:10:13 ID:Td105OUkb
>>694 あーそれとは違う
AIWOnは普通のVRMMOと違うから、この場合のデスペナは二度とログイン出来ない奴だな
697:シ者薫子:2058/6/1(土)7:13:53 ID:EVA2014Fifth
そうだね。余りにも行動に余るプレイヤーが居るから運営が重い腰を上げたみたいだね
698:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:16:33 ID:006anDm
>>697 具体的には?
699:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:21:31 ID:haerMi02
と言うか、どういう仕組みなのかな?
どの垢使ってもログインできなくなるみたいだね
700:シ者薫子:2058/6/1(土)7:26:53 ID:EVA2014Fifth
言わずと知れたマナーのなってないプレイヤーだね
他には死んでも再びログイン出来るから悪さをする人も多いらしいよ
701:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:29:11 ID:ToHae10DT
あー、死ぬキャラに悪事を被せて別キャラでそ知らぬふりか
確かにたちが悪いな、それ
702:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:35:29 ID:Bell106nd
元々復垢出来ない様になっていたからそれの応用じゃね?
703:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:36:13 ID:Td105OUkb
まぁデスペナ実装と言っても、実際はAIWOnのNPCが判断するみたいだね
704:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:40:11 ID:ToHae10DT
確か禁魂刑と言う形での実装だったっけ
705:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:46:33 ID:006anDm
運営がデスペナをするんじゃなくNPCがデスペナを付けるのか
706:シ者薫子:2058/6/1(土)7:50:53 ID:EVA2014Fifth
女神アリスを通じてAlice神教教会にお告げが下るみたいだね
看過できない悪事を働いたプレイヤーに禁魂刑を与えて二度とAIWOnに来ない様に罰を与えなさいってね
707:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:52:11 ID:ToHae10DT
NPCじゃなく天地人な
そこはき違えるとAIWOnじゃとんでもない目に遭うぞ
708:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:52:31 ID:haerMi02
と言うかAIWOnの住人にはプレイヤーが生まれ変わる?の知らない人が多いんじゃ?
709:名無しの冒険者:2058/6/1(土)7:56:13 ID:Td105OUkb
今までのプレイヤーの努力の甲斐あってNPCたちは生き返る?事は知らないね
まぁそれを利用した悪徳プレイヤーが出てきたんだけど
710:名無しの冒険者:2058/6/1(土)8:01:11 ID:ToHae10DT
706も言ったように一部の天地人――Alice神教教会の人たちが知ってるからそれほど心配する事でもないと思うよ
実際刑を執行するのはAlice神教教会の人たちみたいだし
次回更新は6/25になります。




