19.地下都市と深緑の森とキャラバン
大神鈴鹿、竜宮の使いの行方不明事件を解決する。
大神鈴鹿、ジパン帝国の戦争に参加する。
大神鈴鹿、『覚醒の使徒』とオークキングと三つ巴になる。
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「信じらんねぇ。ほっんと信じらんねぇ。
あたし達あの戦争の功労者だよ? 予想外の第三者の乱入にも対応し、スノウを使ってまで戦争に貢献したにも拘らずこの扱いって何なんだよ。
この戦争の元凶のチレム公王をも捕まえたってのにあり得ないだろ」
「クルァ・・・」
スノウの上でトリニティがひたすら文句を言ってくる。
心なしかスノウまでが呆れているような声を出しているのは気のせいだと思いたい。
まぁ予想外の参入者である天使化オークキングを倒したのは俺じゃなく別のオークだし、チレム公王を捕まえたのはお前の手柄じゃないだろうよ。
「うるせぇよ。俺だって1日くらいゆっくり休んでいたかったよ。
特殊スキルの後遺症で丸1日体が重たくって仕方がないってのに・・・なんでこうなった・・・」
俺達は今、スノウに乗ってジパン帝国を脱出し、真夜中の海を渡りセントラル大陸へと戻っている途中だ。
そう、戦争終了からほんの数時間もしないうちにだ。
その原因は俺が戦場で拾ったロリの王の証だったりする。
「まぁその王の証の効力を考えればシャルロット皇帝の気持ちも分からないわけでも無いけどね」
アイさんの言う通り、このロリの王の証の力は一部の人にとっては至高の宝として、またある一部の人にと手危険極まりないアイテムと認識されているのだ。
何せ持っているだけで無条件で少女に好かれると言う、ふざけた性能を発揮するアイテムだ。
これを戦場で手に入れたせいでシャルロット皇帝からジパン帝国から追放されてしまった。
ロリの王ことチレム公王が無条件に少女に好かれる原因が実はこのロリの王の証にあったりする。
何処で手に入れたのかは知れないが、チレム公王はこの証を使いジパン帝国の少女を手に入れようと画策していたらしい。
ところが天使化オークキングに敗れてロリの王の証を落としてしまい、俺が拾ってしまったという訳だ。
最初の頃はそれほど影響が無かったが、戦後処理と言う事で捉えたチレム公王と講和条約(直ぐ条約を破ってしまうため半ば形式だけとなっている)を結ぶ段取りをしていた途中で、寄り添っていたエルフ少女たちが目を覚ましたかのようにチレム公王から離れて行ったのだ。
そこでチレム公王はロリの王の証が無い事に気が付き、講和条約どころではなく慌ててロリの王の証を探し出した。
俺が証を持っているのに気が付き取り戻そうとしたが、何故かロリの王の証は俺の手元から離れることは無かった。
最初はよく分からなかった俺がチレム公王に証を渡してもいつの間にか俺の手元に戻ってくるのだ。
一説によれば戦いで勝利した者の元に王の証は所持されるらしい。
つまり第三者にとは言え、負けてしまったチレム公王にはロリの王の証の所有権は無いと言う事だ。
例えワザと負けて王の証を渡そうとしても不正と見なされ所有権の移動は起こらない。
チレム公王の元に集まっていたエルフ少女は散り散りになって残ったのは極僅かな人数のみ。それでもチレム公王の元に残る人数が居るのには驚いたが。
因みにS級冒険者の人形使いはチレム公王の元に残ったらしい。
それからと言うものチレム公王は腑抜けになってしまい、ロンリー公国に引きこもることになったと風の噂で聞く事となる。
多分二度とジパン帝国に戦争を仕掛けることはないだろう。
そしてそのロリの王の証を手に入れてしまった俺をシャルロット皇帝は最重要危険人物として俺をジパン帝国から追放してしまったのだ。
何でもシャルロット皇帝は幼い頃に大大勢の貴族やらどこぞの王に言い寄られまくっていたせいでロリコンが大の嫌いだとか。
それにしても何で直ぐにシャルロット皇帝にバレたかって?
そりゃあ、本陣の後方で控えていた皇帝が戦後処理の為に出張ったところに、ロリの王の証の効果が出始め俺が少女を引き連れているところを見られればそりゃあ危険視もされるだろうよ。
まぁ一応、追放と言うよりジパン帝国から出て行けと勧告されただけましだろう。
下手すればそのまま捕縛と言う事もあり得たらしいし。
今にして思えば何故ジパン帝国はロンリー公国の戦争を何度も許しているのかと思ったが、この危険アイテムのであるロリの王の証の事を考えれば納得できる部分もある。
下手に完全撃破してロリの王の証が他の誰かの手に渡ってしまった時のことを考えれば、黙ってチレム公王の手に持ってもらった方が所有者が分かっている分だけまだ安全と言える。
それ故、チレム公王を適度にあしらいつつ仕掛けてくる戦争を許容しているのではないか。
まぁ最もシャルロット皇帝の愛娘であるジョセフィーヌ王女がロリの王の証所有者に見つかるのは避けなければいけない最優先事項にはなるが。
そんな訳で間違って事故でもあってジョセフィーヌ王女に見られないためにも追放された俺達は碌に休みもせずにジパン帝国から飛び出した訳だ。
「あー、最低限でも他の冒険者ギルドから報酬を貰えるのが唯一の救いかぁ」
「ん? 他の冒険者ギルドからも報酬を受け取れるのか?」
「ああ、一応冒険者ギルドは横の繋がりで出来た組織だからな。報酬が未払いなら他の支部から受け取ることが出来るよ。
但し依頼の出来高までは見てもらえないから最低限の報酬だけどな」
トリニティは勿体ないと言いながら俺に説明をしてくる。
ギルドカードには依頼内容、討伐モンスターと討伐数、報酬内容などが記録されるので、依頼報告、報酬の受け取りなどは他の支部でも可能らしい。
「愚痴ばかり言ってもしょうがないだろ。結果として今こうしている訳なんだから」
「分かっちゃいるんだけど納得できないものがあるんだよ・・・」
まぁ、気持ちは分かる。俺が一番そうなんだからな。
「兎に角、今は一刻も早くセントラル大陸に行って休む場所を確保しないと。
アイさん、次の26の使徒の側で休めるところはどのあたりになる?」
「そうね。港町ボートポートより北西にある深緑の森に向かいましょう。あそこにはボートポートより施設が整った都市があるわ」
「森の中にか? まぁアイさんがそう言うならまずはそこへ向かおう。
スノウ、戦闘後で着かれているところ悪いがもう少し踏ん張ってくれ」
「クルゥゥ♪」
俺達はスノウの上で少し休みながらブルーサファイア海を越えてセントラル大陸へと向かう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――AL103年3月30日――
港町ボートポートから北西に広がる深緑の森の中央部分に拓けた広場が存在し、真ん中にはそこそこの大きさの建物が建っている。
その建物の前には2人の門番が居た。
広場に降り立とうとしているスノウに驚きながらもこちらを警戒していた。
そりゃあ、真夜中の時間帯に突如巨大な飛竜が目の前に現れれば警戒もするよな。
そんな門番を余所に広場に降り立ったスノウだったがスノウは疲れが出たのかそのままぐったりと臥せてしまう。流石に戦争の跡に碌に休まずに海越えをさせたのはちょっと無理があったか。
「スノウ、お疲れさん。無理を言って悪かったな。暫くここで休むつもりだからお前もゆっくり休んでな」
「クルゥ・・・」
スノウは小さな声で鳴くとそのまま眠りについた。
「さて、アイさん。この建物が目的地の都市? もしかしてコバルトブルーと同じく地下都市なのか?」
「そうよ。ここがダークエルフが住まう地下都市エメラルドグリーンよ。
コバルトブルーと違ってここは入口に建物が建っているみたいね。ちゃんと都市に入るのに検問があるみたい」
そう、門番の2人の男は耳が長く肌が浅黒いダークエルフだった。
ダークエルフと言えばエルフの堕ちた種族と思われがちだが、見たところエルフとそれほど変わらない感じがする。
格好も金属鎧に身を包み、腰には剣を下げている。とてもエルフ種には見えん。
ともあれ、俺達は強行して海を渡った疲れを癒すべく都市の入口へと足を運ぶ。
門番の2人は俺達が建物に近づくと声を掛けてきた。
「止まれ! 見たところ敵意は無いみたいだが、このエメラルドグリーンに何の用だ!」
「おいおい、何の用だって仕事か冒険者の依頼とかで出来たんだろうよ。
すまんね。こいつ頭がガッチガチだから。騎竜に乗ってきたところを見るとプレミアム共和国かエレガント王国からの使いか?」
「おい! 俺は任務を忠実にこなしているだけだ! それに外部者を警戒するのが警備の仕事だろうが!」
あー、確かに外部から着た者を警戒するのは当然だよな。なにせ10mはあろうかと言う竜に乗って来たんだし。
だけどもう片方の門番が言う通り、こんなところに来るのって冒険者とかしかいないんじゃないのか? 後は観るところがあるか分からないが地下都市の観光とか?
「いや、俺達は国の使いとかじゃないよ。ただの一介の冒険者だ。それでここの都市で休みを取ろうとして寄らせてもらったんだ。入らせてもらえるだろうか?」
「ならば身分証明になる者を提示しろ。なければ仮の身分証明書を発行するため500ゴルドが必要になる」
俺が都市を訪れた目的を述べると、頭の固い方が身分証明の提示を求めてきた。
俺達はギルドカードを身分証明書として見せる。
しかし仮の身分証明に500ゴルドか。確か50,000円くらいだったよな。意外と高いな。
「ふむ、D級冒険者か。騎竜を持っているからてっきりC級かB級だと思ったんだがな」
「まぁ騎竜を持っているのは運が良かったんだよ。それで都市の中には入れるのか?」
「ちょっと待ってな。今、登録照会をしてくるから」
そう言って頭の固い方がギルドカードを持って建物の小部屋へ入る。
後で聞いた話だが、ここで登録紹介の他にもギルドカードから犯罪記録の有無を確認していたんだとか。
実はギルドカードには自動で立件した犯罪が記録されるらしい。
まぁ門番としては犯罪者の確認は必須だから当たり前と言えば当たり前だな。
「よし、確認は終わった。中に入ってもいいぞ」
俺達はそのまま建物の中から出てきた別の門番に案内され建物の中に入り、階段を下りて行く。
この辺りはコバルトブルーと同じだな。階段と一緒に広く長い坂がひたすら地下へ向かっている。
因みにスノウは門番の2人に危険はない事を告げ、この広場に居ることを許可してもらっている。
普通であれば騎獣や馬車などは坂を使って地下都市へと進むことが出来るが、流石にこの建物は10mもの巨体が入る入り口じゃないので特別に外での待機が許された。
「なぁ、地下都市ってことはもしかしてあの地下都市コバルトブルーから入る地下迷宮と繋がっているって事か?
前に言っていた他にも出入り口があるって言ってたのここの事だろ」
「あら、よく覚えていたわね。トリニティの言う通りここが出入り口の1つね。他にも地下都市として出入り口があるのはジパン帝国にある地下都市ルビーレッドになるわね」
「ふーん、なら今度ジパン帝国に行くとしたら地下迷宮からの方が侵入しやすいのか」
「バレたら即刻牢屋行きだろうけどな」
トリニティが地下からのジパン帝国の密入国方法を考えるが、あまり使いたい手段じゃないな。
バレたらってのもあるが、あのひたすら長い距離を地下迷宮で突き進むのははっきり言って気が滅入ると思うぞ。
もっとも二度とジパン帝国に行くことはないけどな! ・・・無いよな?
どういう仕組みかは分からないが、地下都市とは言え地下の広大な空間は外と連動しているらしく外で日が昇れば地下都市も明るくなり、日が沈めば暗くなる仕組みになっている。
今は真夜中と言う事で、地下都市の空間も真っ暗だ。所々に明かりの魔法が掛けられている街灯が夜の都市を照らしている。
「さて・・・やっとのことでエメラルドグリーンに着いたけど、このまま宿屋に直行でいいな?」
「異議なーし」
「そうね、流石に真夜中の強行軍は疲れたわね。ゆっくりベッドで休みたいわ」
俺達は宿屋を選ぶ余裕も無く、目に付いた宿屋に飛び込む。
真夜中と言う時間帯にも拘らず宿屋の主人は快く俺達を迎え入れ、俺達はそのまま指定された2階の部屋へ足を運びそのままベッドへ倒れ込むようにして眠りについた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「うぁ・・・もうこんな時間かよ・・・」
目を覚ますと宿の窓から見える外の景色は日が落ちようと夕焼け色をしていた。
地下都市に着いたのは確か真夜中だから、あれから約16時間近く眠ってたのか。
よほど疲れていたんだろうな。
先の戦争で使用したSの使徒の証の特殊スキルも24時間経過した為、身体能力が半分になると言うデメリットによる体の重さも解消され以前と同じような体の切れが戻ってきていた。
まだ眠い体を無理やり起こし、宿屋の1階にある食堂へと足を運ぶ。
1階部分が食堂と言う事もあって、宿泊客以外にも食事をするための客が夕食時とあって大勢いた。
そしてその中には既に目を覚ましていたアイさんとトリニティが夕食を摂っていた。
「おはよう・・・って言うのも変だな」
「あ~、あたし達もさっき目を覚ましたばかりだからおはようでいいんじゃね?」
「思ったよりも疲れてたみたいね。まさかこんなにぐっすり眠るとは思わなかったわ」
俺もアイさん達と同じ席に座り夕食を注文する。
運ばれてきた夕食を食べながら俺達はこの後の行動をどうするか決める為話し合う。
「とは言っても次の使徒を目指すだけなんだけどな。アイさんここから近い使徒はどんな奴なんだ?」
「次の目的の使徒は、ここから更に北西に向かったところにあるツンデレ平原に居るわ。
使徒の名前は『牙狼の使徒・Fang』ね」
「ツンデレ平原・・・?」
「そう、ツンデレ平原よ。そこは年中雪に覆われている寒冷地域になるわね」
なんなんだろうな。この何とも言えない感じは。
このAIWOnを作ったやつはもう少しまともな名前を付けれなかったんだろうか。
「なぁ、第三次のじゃー大戦の報酬も忘れるなよ。早いとこメシ食って冒険者ギルドに行こうぜ」
「っと、そうだった。先の戦争の報酬もあったな。それじゃあ冒険者ギルドで報酬を貰って今日は後は自由行動だな。
出発は明日の朝でいいか?」
俺の提案に2人は特に意義も無く賛同する。
「にしても・・・勿体ないなぁ~あのまま上手くいけば皇帝陛下から直々に報酬を貰えたかもしれないのに」
「まだ言うか。いい加減諦めろ」
「だって、なぁ。鈴鹿のそれを見てると文句の1つも言いたくなるよ」
トリニティの視線は俺の隣に居る少女に向けられている。
俺の隣には店の給仕服を着たダークエルフの少女が垂れかかりようにより添い、1品だけ俺の皿に余分食べ物を付け加える。
「お兄ちゃん、はいこれ、サービスだよ♪ お兄ちゃんだけ特別ね」
「あ、ああ、ありがとう。俺の事よりも他のお客さんにちゃんと給仕してな?」
「分かっているわよ。ああん、お店の手伝いじゃなかったらお兄ちゃんと一緒にご飯食べたかったのに」
そう言って少女はそのまま次の給仕へと向かう。
彼女はこの宿屋の娘で時折食堂の手伝いをしているらしい。
今日もその手伝いの日らしく、給仕中に俺を見つけていきなり目の色が変わったのだ。
少女と言ってもダークエルフの発育は素晴らしく、体つきだけを見ると大人顔負けのナイスバディだ。
そんなダークエルフの少女に言い寄られている俺を見てトリニティは呆れているのだ。
とは言え、これはロリの王の証の効果であって決して俺の意思ではないと弁解させてもらいたい。
「と、兎に角、早くメシを食ったら冒険者ギルドへ行こう! うん、そうしよう!」
俺は慌てて夕食を平らげ早々に食堂を出ようとし、トリニティは呆れながら、アイさんは苦笑いをしながら俺を見ていた。
俺達は夕食を終えた後そのまま戦争時の報酬を貰いに冒険者ギルドに来た。
夕方時ともあって、依頼を終えた冒険者が溢れていた。
殆んどがダークエルフの冒険者たちだったが、中には人間や獣人の冒険者も居た。
深緑の森から来た冒険者か地下迷宮から来た冒険者かは分からないが、見た感じかなりの実力者だと言うのが見て取れた。
ランクで言えばC級かB級ってところか?
そう言えば門番が騎竜を持つほどの冒険者だからC級かB級なのかって言ってたな。
つまりここにはそれ程の冒険者が集まる都市だと言う事なのか。
「何故ですなの!? いつもの通り彼らを雇いたいと言ってるのに何故駄目なのですなの!?」
「ですから、彼ら『栄光への道』パーティーは解散されました」
「そんな訳ないですなの! 彼らほどの実力者がこれからという時に何故解散するのですなの!」
報酬を貰おうと受付に向かうと、幾つもの受付の1つに1人の女性が喚き立てていた。
どうやら特定パーティーを指名依頼しようとしたら既にそのパーティーは解散していたようだ。
「確かに彼らはB級冒険者として名を上げて来ましたが、パーティーリーダーは大怪我を負ってしまい冒険者としての活動は出来なくなり、他のメンバーも心に傷を負った者や死んでしまった者もいます。
なので彼らを雇う事は出来ません」
「そんなの信じられないですなの! もういいですなの! 私が直接頼みに行くですなの!」
そう言いながら女性は踵を返し冒険者ギルドから出て行ってしまった。
冒険者ギルドに依頼に来たと言う事は冒険者ではないのだろう。
見た感じも武具に身を包んだ冒険者と言うよりも、動きやすさを優先した旅慣れた服装をしたところを見ると旅行者・・・いや着こなし方がビシッっとした感じは商人と言ったところか?
「指名依頼をしようとしてたところを見ると随分と仲のいいパーティーだったのか?
それだと尚更パーティーが解散したのは信じられないだろうな」
「あたしはそれよりもB級冒険者が解散に追い込まれた事件そのものに興味があるけどな」
「この深緑の森はそれほど強力なモンスターが居るのか? いや、地下迷宮の方か?
・・・トリニティ、一応調べておいてもらえるか?」
「了解。あたしも外に出た途端、バッサリは嫌だからな。・・・よく考えたらスノウが居るから森はあまり関係ないか?」
まぁ何だかんだ言ってもトリニティはちゃんと調べてくるだろう。
俺達と旅をするようになってから盗賊としてそれなりに成長しているからな。
トリニティに調べさせたのも一応であり、俺もスノウで森を超えるからそれほど心配はしていなかったが、まさか次の日さっきの女性に関わるとはこの時は思ってもいなかった。
ちょっとした騒動だったが、直ぐに通常業務に戻った受付に俺達は戦争時の報酬を貰うべくギルドカードを提示する。
多少目減りはしたが、思ったよりも多めの金額を貰う事が出来た。
この後それぞれが自由行動で解散するが、特に目的もない俺は町中の探索でぶらぶらするだけだった。
こんなんだったら一度離魂睡眠をした方が良かったか?
うーむ、現実とAIWOnは時間の流れが違うからなぁ~
それに今から現実に戻っても夜中だしあまり意味ないか。仕方ない、適当に町中を散策するか。
因みにトリニティが調べたそのB級冒険者PTの『栄光への道』の解散原因は、深緑の森の一角にある石碑から謎の空間に飛ばされ、そこで未知のモンスターに襲われ再起不能になったと言うらしい。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――AL103年3月31日――
準備を終えた俺達は朝一で次の目的地『牙狼の使徒』を目指すため、地下都市の出入り口である建物を抜け地上へと出る。
するとそこには昨日冒険者ギルドで騒いでいた女性が居た。
2頭立ての幌を纏った3連結の馬車の前で女性と男性、猫人の女性、それとあの頭の固い門番が揉めていた。
昨日感じたとおり彼女は商人だったらしく、馬車で各地域を渡り歩く商隊なのだろう。
一緒に居る2人はその従業員ってところか?
「会長! 流石に護衛なしに森を抜けるのは危険ですよ!」
「危険上等ですなの! 私は商売に命を懸けているですなの。これしきの事で諦めたら商売人失格ですなの!」
「会長、考え直すニャ。幾らなんでも無茶苦茶ニャ」
何だ、あれ。
どうやら護衛なしにこの深緑の森を抜けようとして他の2人に止められている見たいだな。
あの頭の固い方の門番も会長と呼ばれた女性を止めていた。
「流石に護衛なしにこのまま都市から出ていくのは看過できない。地下に戻って護衛を雇う事をお勧めする」
「それが出来たら苦労はしないですなの! ここから先は信頼できる護衛じゃなきゃだめなのですなの!」
元々ここでその信頼できる護衛を雇う予定だったのだろう。だがその護衛――冒険者パーティーは解散していたと。
昨日の今日で直ぐに信頼できる冒険者を雇えるわけないもんな。
だからと言って流石に護衛なしの強硬は無茶すぎるわけだが。
「よう、昨日はゆっくり休めたか?」
「ああ、お蔭様で。真夜中にも拘らず通してくれて助かったよ」
もう片方の少し砕けた門番が話しかけてくる。
「なぁに、ここは元々冒険者が根城にする都市だ。時間なんか気にしてたらやっていけないよ」
「確かに。冒険者にとっては時間はあってないようなものだからな」
特に異世界人の冒険者は現実との時間の兼ね合いもあるから天と地を支える世界の生活時間と合わないこともあるからな。
「ところで・・・あれ、いいいのか? こんなところで騒いでいて」
「ああ、まぁ普通なら俺達が干渉する必要は無いんだが、流石にこのまま見過ごすわけにもいかないからな。
あの女性の会長は何を焦っているのか分からんが、あれじゃ命を落としかねん。
いつも護衛していた『栄光への道』が解散したのが堪えたんじゃないかと思っているんだが」
本来雇う予定だった護衛を雇えなくて予定が狂って焦っている・・・って感じか?
まぁ、俺達には関係ない事だし関わるつもりも無いからな。
そんな俺達を余所に彼女たちは益々ヒートアップしていく。
「バイイン、バチナ、私達は誓いあったはずですなの! このマーチャキャラバンを結成した時にどんな苦境も命を懸けて乗り越えると!
それが何ですかですなの!? たかがモンスターに怯えてお客様に商品を届けないとはどういう事ですなの!」
「しかし会長! 会長はこうも言っていたじゃないですか、私達はお客様の為を思って行動するんだと!
会長の言う通り我々はこのキャラバンに命を懸けてます。ですが我々のちっぽけなプライドの為に途中で命を散らしてお客様に商品を届けることが出来なくてどうするんですか!」
「そうですニャ。まずはお客様を優先させるニャ。我々の命よりお客様の命が最優先ニャ。
あそこは我々が来るのを待っているニャ。我々のキャラバンが命綱だニャ。簡単に死んでもいいわけにはいかないニャ」
「ぐ・・・確かに、私のちっぽけなプライドでお客様を蔑ろにしていいわけじゃないですなの・・・」
命を捨ててまで強行しようとした会長は、2人のお客様優先の説得により感銘を撃たれたかのように納得してしまったようだ。
「確かにあそこに信の置けない冒険者を連れて行くのは躊躇うけど、そこは会長の手腕の見せ所なのニャ。信頼を上手く掴み取るニャ」
「ですなの・・・とは言え、これから護衛を雇うとなると更に時間が経過してしまうですなの。これ以上あの方たちを待たせるのは時間的に拙いですなの」
「よくは分からないが、そこそこ実力のある冒険者ならそこに居るぞ。何せその騎竜の持ち主だからな」
そう言って頭の固い門番がこちらを指さしてくる。
って、おい、何指さしているんだよ。
「この騎竜の飼い主ですなの!? それは是非とも護衛に雇うですなの!」
「凄いニャ。これほどの騎竜を従えるなんて凄腕の冒険者なのかニャ?」
「会長! 少なくともこれなら護衛として安心できますよ!」
もう既にあちらさんは俺達を雇う気で満々らしい。
と言うか、会長さんよ。あんたさっきまで信頼できる冒険者じゃなきゃダメだって言ってなかったか?
「ちょっと、どうすんだよ。これ。
あたし達『牙狼の使徒』に向かうんだろ? こんなところで道草食っていいのか?」
「まぁ鈴鹿くんの判断に任せるわよ。スノウの移動力なら1日くらいのロスは取り戻せるから」
アイさんとトリニティは俺に判断を投げてよこした。
って、どうすんだ、これ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Alive In World Online雑談スレ902
105:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:20:19 ID:RRdb6to12
そういや深緑の森の別名って乙女の森ってホント?
106:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:22:21 ID:KLsT410bl
モン娘prpr
107:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:23:59 ID:Ms6kinMan
我としてはあまり好かない森だな
何せ筋肉成分が少ない
108:シ者薫子:2059/02/28(金)19:25:02 ID:EVA2014Fifth
確かに深緑の森は乙女の森って呼ばれているね
森に住むモンスターが全部女モンスターから来てる由来だね
109:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:27:43 ID:AnT1m9C9
>>108 それは興味深い
因みにどんなモンスターが居るんだ?
110:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:30:21 ID:KLsT410bl
ワーキャット♀、ワーウルフ♀、ラミア、ハーピー、アラクネ、ケンタウルス♀、etc.
111:シ者薫子:2059/02/28(金)19:31:02 ID:EVA2014Fifth
因みに期待しているところ悪いけど、モン娘と言っても人間部分は人の形をしているだけで醜悪なモンスターの姿だね
112:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:31:21 ID:dn50SekkA
おお、それは素晴らしい!
113:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:32:35 ID:nzo3IxtI73
あれは期待していた分だけガッカリしたね;;
ラミアなんかまるで蛇女の顔してるんだもん
なまじ人に近い分だけ怖かったガクガクブルブル((;゜Д゜))
114:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:33:19 ID:RRdb6to12
なん・・・だと・・・!?
くそっ! モン娘とイチャイチャ出来ると思ったのに!
115:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:33:21 ID:dn50SekkA
バカな・・・ぬか喜びじゃねぇか!! ヽ(`Д´)ノ
116:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:35:11 ID:P6so7GdaN
>>110 因みにワーキャットやワーウルフって獣人の猫人〈ケットシー〉や狼人〈ウィーウルフ〉とどう違うんだ?
117:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:37:59 ID:Ms6kinMan
うむ、やはり筋肉が一番だな
118:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:38:21 ID:KLsT410bl
モンスターと獣人の基本的な違いは知性があるかないかが一番だね
あとはモンスターは111や113も言っている通り人の形をした化け物だと思えばいいよ
獣人はより人に近いね。特に女性はw
119:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:39:21 ID:dn50SekkA
くっ・・・下手な希望は持たずに初めからケモモフ王国に行った方がいいのか・・・!
120:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:41:11 ID:P6so7GdaN
やっぱり獣人とモンスターは違うのか
121:名無しの冒険者:2059/02/28(金)19:42:35 ID:nzo3IxtI73
乙女の森ってのも良くないよね
この別名とモン娘で結構な人が勘違いしやすいよ、これ@@;
次回更新は6/23になります。