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Alive In World Online  作者: 一狼
第0章 大神鈴鹿
2/83

1.鈴鹿と唯姫と愛

 ――2059年5月1日(木)――


「おはようございます~!」


 玄関から隣の家の幼馴染の早海唯姫(ゆき)の声が聞こえてくる。

 毎朝俺――大神鈴鹿(すずか)を迎えに来るのだ。ご苦労なこった。


「あら、唯姫ちゃんおはよう。ちょっと待ってね。鈴鹿、今ご飯食べてるから。

 鈴鹿~、唯姫ちゃんが迎えに来たわよ~。早く準備しなさい~!」


 お袋が出て唯姫の相手をしている間に、俺はご飯を平らげ朝食を食べ終わる。


「ご馳走様。

 じゃあ、親父行ってくる」


「ああ、行ってらっしゃい。しっかり青春して来いよ」


 普通なら「しっかり勉強して来いよ」と言いそうなものだが、俺の親父は変わっていて「勉強なら後でも挽回できるが、青春は待ってはくれない」と俺に学校を楽しんで来いといつも言っているのだ。

 俺はまだ飯を食っているそんな親父に出かけの挨拶をしながら鞄を掴み玄関で待っている唯姫の所へと行く。


「あ、鈴くんおはよー」


「ああ、おはよ。お袋、じゃあ行ってくる」


「はい、行ってらっしゃい」


 俺は唯姫と肩を並べて学校へと歩いていく。

 つーか、幼馴染とは言え何で肩を並べて歩かなきゃならないんだろうな。


 唯姫(こいつ)の家の早海家の両親と俺の家の大神家の両親は友人同士で家も隣という境遇から、唯姫とは小さなころからの付き合いだ。

 おまけに誕生日も1週間しか違わず、小中高全てが一緒と言うべたべたの幼馴染だ。


 とは言え、高校生にもなると流石にお互いがべったりとい訳にもいかないのだが・・・

 唯姫はお構いなしに毎朝迎えに来るのだ。


「なぁ、唯姫、毎回言っているけど幼馴染だからって毎朝迎えに来なくてもいいんだぞ」


「幼馴染だから面倒見るとかで迎えに行ってるんじゃなく、唯姫が鈴くんと一緒に学校へ行きたいから迎えに行ってるんだよ」


 いや、それって言っていること同じじゃないのか?


「はぁ、まぁいいや。こう何回も言っても聞かないんじゃ好きにしろ」


「うん、唯姫の好きなようにするよ」


 唯姫は今でこそ元気に明るく振る舞っているが、小学校のころは不登校児だったのだ。


 今の唯姫は腰までのストレートの髪に整った顔立ち、プロポーションも出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。もちろん胸もある。多分Dカップもあるんじゃないか?

 10人中9人は美少女と回答するくらいの可愛さを兼ね備えている。


 だが小学校の唯姫は今とは比べ物にならない肥満体型――つまりデブだったのだ。

 無邪気に相手の心を傷つけることを躊躇わない小学生だった友人たちに言葉の暴力で傷つけられた唯姫は不登校になってしまう。


 その時は俺が唯姫を毎朝迎えに行ったり、励ますために遊びに行ったりしていた。

 いつまでも引きこもっている唯姫に俺は「あいつらを見返すくらい綺麗になればいいじゃん。そしたらあいつらのアホ面を見れるぞ」って発破を掛けてやったら、唯姫はその日から努力して痩せて元気になって明るく振る舞うようになったのだ。


 毎朝俺を迎えに来るのもその時のお礼も兼ねてのことなのだろう。

 まぁ、学校に行くのが楽しくなったってのもあるのだろうけど。


「そういや、昨日もネトゲやってたりするのか?」


「うん、そりゃあもうバッチリ!

 昨日なんか美刃さんっていうS級冒険者のプレイヤーさんと一緒にKATANAってクエストクリアしたんだよ。美刃さんかっこよかったなぁ~」


 何がバッチリなんだか。

 というか美人って凄い名前だな。


 唯姫は引きこもっていた時の影響でゲームや漫画などに嵌まってしまい、今や立派なオタクへと変貌していた。

 これで美少女なんだから勿体ないよな。


「ねぇねぇ、鈴くんも一緒にAIWOn(アイヲン)やろうよ」


「やらねぇよ。何で好き好んでゲームの世界に入ってまで鍛えなきゃならないんだよ」


 唯姫が言っているのは今はやりのVRMMO-RPG「Alive In World Online」のことだ。


 今から23年前にVR世界に閉じ込められログアウトが出来ず、ゲーム内で死亡すれば現実世界でも死亡すると言うデスゲーム――Angel In事件が起きてVR産業は一時追い込まれていた。

 だがVR産業はそんな事件さえも吹き飛ばしてしまうほど魅力的で、今では数多くのVRMMO―RPGのタイトルが世に放たれている。


 そんな中の一つAlive In World Online――通称AIWON(アイヲン)は数あるVRMMOのタイトルの中でも爆発的な人気を誇っていた。


 Alive In World Onlineの最大の特徴は今までにないHPやMP・ステータスの廃止、アイテムストレージ等の収納ボックスの廃止、斬られれば血が出る、モンスターを倒しても消えたりしない、そして死んでしまっても復活することは無く、もう一度プレイするには最初からキャラクターを作り直さなければならない等のさながら現実(リアル)と同じような仕様になっている。

 それは言い換えれば現実(リアル)と同じように剣や体を鍛えなければならない。

 鍛冶や料理をやるにしてもそれ相応の知識と経験や時間が必要になってくる。


 楽して強くなって楽しむゲームなのに、現実(リアル)と同じ苦労をしなければならないのは何か間違っていないだろうか?

 それなのにこのAlive In World Onlineは人気が衰えることなく、全国的に今一番勢いがあるVRMMO―RPGなのだ。


 だが俺に言わせれば数多くあるタイトルの中でこのゲームは遊ぶ価値が見いだせない。


「ほ、ほら現実(リアル)とは違って魔法とか使えるよ?」


「他のVRMMOでも使えるだろ。しかも簡単に」


「うぅ、じゃあ、AIWON(アイヲン)は習得率が100%なんだよ。鍛えれば鍛えた分だけ強くなるよ!」


「間違った鍛え方をすれば間違った分100%覚えるわけか」


「うぅっ、鈴くんのいじわるー! 唯姫は鈴くんと一緒に遊びたいだけなのに・・・」


 隣で唯姫がしゅんと項垂れてしまう。

 俺もVRMMOは嫌いじゃないがどうもそのAIWOn(アイヲン)は性に合わないんだよな。


「ゲームで体を鍛えてる暇があったら現実で鍛えた方がいいんだよ」


「はぅ・・・そういや今日も帰り道場の方に行くの?」


「ああ、出来る限り毎日続けてなきゃ意味が無いからな」


 道場と言うのは唯姫の父親が経営している空手道場だ。

 ・・・この場合経営と言っていいのか?

 この空手道場は完全におじさんが趣味でやっているもので、かつていた門下生も今や俺1人という道場と言っていいのか怪しくなっている。

 流派も疾風迅雷流空手と如何にも中二病っぽい名前が門下生減少に拍車を掛けているのかもしれない。

 まぁ、趣味の道場なので門下生の減少なんて気にしてないんだろうけど。


「ふーん、じゃぁ帰りは佐奈ちゃんたちと帰るね」


「ああ、そうしろ」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 学校に着き唯姫と一緒に教室に入る。

 小中高と一緒の上クラスまで同じとはいささか話が出来すぎている気はするが、まぁ世の中そんなもんだろう。


「お、鈴鹿おはよう」


「よう、おはよ」


 俺の机のまわりで駄弁っていた友人たちが俺に気が付いて挨拶をしてくる。


「おはよう」


 俺も挨拶を返し自分の席に着く。


「今日も一緒に嫁さんと登校か。相変わらずラブラブだな」


「あ、バカっ」


 友人の1人が慌てて止めようとするが、もう既に俺の耳の届いていた。


「あ゛あ゛!?」


 友人はからかい半分で言ったのだろうが、俺にとってはその手のからかいは地雷だ。

 俺は半眼で睨みドスの効いた声で冗談を言った友人に威圧を掛けた。


「ひぅ! ご・ごめん・・・」


「バカ、鈴鹿には早海とのその手の冗談はタブーなんだよ」


 俺の威圧に耐えられなかった友人はすぐさま誤り、もう1人の友人が小声で俺と唯姫との関係について注意を促していた。


 小さい頃から俺と唯姫の関係について散々からかわれてきた。

 小学生のころは唯姫が太っていたことに関して。

 今は美少女へと変貌を遂げた唯姫との幼馴染への嫉妬の混じったやっかみで。


 そんなからかいに関して俺は全て力づく(・・・)でねじ伏せてきた。

 唯姫を守る意味でも余計なからかいを退ける意味でも俺はおじさんの道場に通い力を付け、容赦なくその力を振るった。

 当然、やんちゃを越えた俺の行為はまわりにも影響を与え、素行の良くない輩も時々絡んできたりる。

 そいつらを全て退けていたら俺の悪名――餓狼(がろう)なんて二つ名――がかなり広まっていた。


 もっとも俺自ら進んで不良たちと絡んでいるわけではなく、絡まれている友人を助けたり襲い掛かる火の粉を振り払っていただけなので、不良のレッテルは張られてはいないのが唯一の救いだ。


 そんな訳でその手の話をされると俺は途端に機嫌が悪くなり、俺の悪名も相まって威圧するだけで相手は委縮してしまう。


「そ、そう言えば鈴鹿の父親ってICE(アイス)の課長なんだよな?」


「え?! マジで!? 今、四ツ葉グループで急成長株のあのICE(アイス)の課長!? 鈴鹿スゲー!」


「あ、じゃさ、鈴鹿の家にヒューマノイドが居たりするのか!?」


 話題を変えようと友人の1人は俺の親父の会社の話題を持ち出して来た。

 さっきまで俺の威圧にビビっていた友人もその話題に食いついて興奮したように話してくる。


 おい、さっきまでビビッて割には切り替えが早ぇーな。


「あのなー、凄いのは親父であって俺じゃねぇよ。

 それとヒューマノイドは完全オーダーメイドだから会社の人間だからって簡単に買えたりするもんじゃねぇんだよ」


 親父の務めている会社はIntelligence・Create・Electronics=通称ICE(アイス)と言って、四ツ葉グループの中でも新進気鋭中の会社だ。


 もともとAI産業を主体とした作業用AIやプログラム制御AIを研究・販売していたのだが、近年人間とほぼ変わらないヒューマノイド――つまりアンドロイドを作成したことで一気に世間の注目を集めたのだ。


 今までのロボット然としたアンドロイドと違い、ヒューマノイドは人間と変わらない頭脳――AIを持ち、人間と同じように肉質を持ち血を通わせ食事や排せつもするという画期的なものだ。

 だがその人間とほぼ変わらない性質上、人権問題が発生して(法律上の改正も必要でないかと議会を騒がせている。今現在は個人所有の特殊家電製品扱いになっている)おいそれと量産せずに厳選な審査の通った顧客にしかヒューマノイドは販売されていない。

 当然ヒューマノイドには管理コードが付けられ、どこにどのヒューマノイドが居るのかを所在をはっきりさせて不当な扱いをされないよう管理されているのだ。


「因みに親父は課長と言ってもヒューマノイドとは全く関係ない課長だからな」


「なんだ、期待しただけ損じゃないか」


「いや待て待て。今のうち鈴鹿と仲良くなっておけば将来コネでヒューマノイドを手に入れるかもしれないぞ」


「いや、だからそれは無いって」


 おい、お前ら俺の話を聞いていたのか?


「おらー、席に着けー。ホームルームを始めるぞー」


 駄弁っているうちに時間になったので担任の教師が教壇の前に立っていた。

 こうして今日も他愛もない一日の学校生活が始まる。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「鈴くん、一緒にお昼食べよ」


 昼休みの時間になり、いつも通り唯姫が俺の分の弁当を持ってきて一緒に食べようと机を並べてくる。


「く・・・! 呪いで人を殺せたらいいのに・・・!」


「リア充爆発しろ・・・!」


「この世には神の救いは無いのか・・・」


 少し離れた席では友人たちが血の涙を流しながら呪詛を呟いていた。


「唯姫もマメだな。わざわざ俺の分の弁当まで作ってきてさ」


「えー、だって鈴くんと一緒にお昼食べたいんだもん。こっちからお弁当を用意するのは基本でしょ?」


 ・・・小さい頃にオタク趣味に嵌まってしまった影響か、唯姫の知識は時々意味不明な事があるんだよな・・・


「まぁいいや、用意してくれるんだから文句を言える立場じゃないんだし。

 まさか「あーん」なんてことまでするわけじゃないよな?」


「え? 鈴くん「あーん」して欲しいの? して欲しいんだったら喜んでやるよ!」


「いや、冗談だからさ。ってか本気でやろうとすんな!!」


 俺の冗談に唯姫は広げた弁当をクラスの皆が見てる前で堂々と「あーん」を実行しようとする始末だ。

 勘弁してくれ。


 面倒な事は重なるもので、そこへ取扱いに面倒な奴が現れた。


「やあ、唯姫。美味そうな弁当だね。今度は俺の為に作ってきてくれよ」


 そう声を掛けてきたのは学年一番のイケメン・志波光輝だ。

 周りには女子生徒を侍らせている。

 もっとも光輝自身は侍らせているつもりは無く、周りが勝手に付きまとっていると言っているが。

 こいつは唯姫を狙っているから他の女子生徒は有象無象にしか見えないとか。


 俺はこいつが嫌いだ。

 こいつも小学生時代は同じ学校だったのでこいつが唯姫にしていたことはよく覚えている。

 小さいながらも自分の容姿を自覚していた光輝は太っていた唯姫を他の奴らと一緒になって馬鹿にしていた。

 だが唯姫が痩せて美少女へと変貌した中学生時代になると手のひらを返したように甘い言葉をささやき始めたのだ。

 当然唯姫も小学生の時の事を覚えているのでこいつの事は大っぴらには言えないが好きではないらしい。

 そしてイケメンには標準装備なのか空気を読めないこいつはことあるごとに唯姫を毒牙に掛けようと近づいてきている。


「志波君ごめんね。お弁当は鈴くんの作る分だけで精一杯なの」


「なら、大神の分を作るのをやめて俺の分を作ってくれよ」


「そうもいかないよ。唯姫にとっては鈴くんは特別なんだから」


 聞き方によっては恋人関係とも取れる言い方にクラス中がざわめく。

 中には再び呪詛を呟く男子生徒もいれば、黄色い声を上げる女子生徒もいる。


「特別ならこの俺が居るじゃないか。俺にとっては唯姫は特別だし唯姫にとっても俺が特別だろう?」


 相変わらず空気を読まないなこの男は。

 いや、空気を読んでいないんじゃなく、自分の我を通す俺様系なのか?

 そこで光輝は今気が付いたという感じで俺の方を見てくる。


「ああ、いたのか虫。相変わらず唯姫の周りをうろついているな。目障りだから早々に消えろ」


「お前こそ空気読んで消えろよ。相変わらず人の話を聞かない奴だな」


「ふん、 美しい宝石のような唯姫の傍にいるのは同じように宝石のように光り輝く俺が相応しいんだよ。空気を読むのはお前の方だろ」


「誇大妄想も甚だしいな。宝石じゃなくてそこらへんに落ちてる石ころの間違いだろ」


 俺が殺気を込めた威圧を放つも、こいつはお構いなしに俺を虫呼ばわりし唯姫に甘い言葉を囁き続ける。


「あの、ごめんね。志波君が色々気にかけてくれることは嬉しいけど、唯姫は鈴くんが一番だから・・・」


「可哀相に。この虫に惑わされているんだな。

 まぁいい。今日のところは大人しく引き下がろう。いずれ唯姫の目を覚まさせて上げるよ」


 そう言いながら光輝は女子生徒を侍らせながら教室から出ていく。


「何なんだよあいつは・・・毎回毎回同じことを繰り返して」


 高校入学してから1か月ほぼ毎日同じことを繰り返しているのだ。

 また明日にもなれば今日の事なんかお構いなしに同じセリフを吐くのだろう。


「あはは・・・志波君も悪い人じゃないんだけどね~」


 どこがだ? 悪い人じゃないんだったらせめて空気を読む能力だけは身に着けてくれよ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 放課後になると唯姫は友達と一緒に下校し、俺はおじさんの道場の方へと足を進める。

 因みに学校が終わる放課後に光輝の奴がここぞとばかりに唯姫に詰め寄りそうなものだが、奴はサッカー部に所属していて放課後は真面目に部活に取り組んでいるためそう心配することは無い。


 俺は暫く歩いて寂れた道場へと入って行く。

 趣味でやっている道場なのでおじさんは常に居るわけではなく、門下生が自主的に鍛錬を行う指導方針のためやる気のない門下生はどんどんと減っていき、遂には俺1人になってしまった。

 その為、道場の鍵は俺が所持しているので掃除等の管理は俺1人でやらなければならない。


 簡単な掃除を終え道着に着替えた俺は一般的な空手の型を鍛錬し、続いて疾風迅雷流の独特の型の鍛錬に入る。

 とは言っても、疾風迅雷流は歩法を主としているため鍛錬はもっぱら道場内を練り歩く事だけだ。

 この一般の空手とは違う歩く事だけに費やした鍛錬は言ってしまえば詰まらないもので、門下生減少の一因だったりする。


 とは言え歩くと言えば簡単そうに見えるが、牛歩の様にじっくり足運びを確認する鍛錬や、まるでダンスの様なステップを刻む鍛錬やら一概にも楽にできるものではない。

 俺は滝のような汗を拭いながら歩法の鍛錬を終えてシャワーを浴びてから道場を閉めて家に帰宅した。


 今日もおじさん来なかったなぁ。前におじさんの指導を受けたのいつだっけ・・・?


「ただいまー」


「お帰り」


 家に帰ると今日は珍しく俺より早く親父が帰っていた。


「あれ? お袋は?」


「ああ、母さんなら今日は女子会とか言って外でご飯を食べて来るそうだ」


「はぁ!? 女子会!? ってかもう女子って歳でもないだろう」


 いい歳したお袋が女子会だってはしゃいで出かける姿が目に浮かぶ。


「・・・お前、母さんの前でそのこと言ったら殺されるぞ・・・」


「いくらなんでもそこまで間抜けじゃねぇよ。それより夕飯はどうするんだよ」


「それならちゃんと準備して出かけているよ。後はレンジで温めれば直ぐにでも食べられるよ」


 俺が着替えている間に親父は夕食の準備をしていると玄関からチャイムの音が聞こえてきた。

 親父は手が離せないだろうと俺が玄関へ行き来客の対応をする。


「はい、どちら様で」


 玄関を開けるとそこには身長160cmくらいで体つきは細めで胸もそこそこ、長い黒髪をポニーテールに纏めた少女が立っていた。

 だが見た目は高校生くらいなのだが、纏っている雰囲気が落ち着いた大人の女性を感じさせている。


「こんばんわ。

 ええっともしかして・・・鈴鹿ちゃん? うわぁ随分と大きくなったわね」


 その少女は親戚のおばちゃんの如く俺の体をべたべた触りだしてくる。

 流石の俺もこの対応には慌てふためいた。


「ちょ! ちょっと待った! あんた誰だよ。つーかちゃん付けで呼ぶなよ」


「ああ、ごめんね。つい懐かしくなっちゃって。

 私は一之瀬愛。大河さんの――君のお父さんの友人だよ。そして赤ん坊だった時の君を抱っこしたこともあるんだよ」


 はぁ!?


 俺は彼女の言葉に一瞬思考が停止する。


 ちょっと待て。親父はこんな少女と友人だと?

 いやいや、彼女は赤ん坊の俺を抱っこしたことがあるって言っている。と言う事は少なくとも20歳以上も年上!? この容姿で!?


「どうした鈴鹿。何かあったのか」


 と、そこへ親父が現れる。

 来客との騒ぎを感じたのだろう。何事かと様子を見に来たようだ。


「あ、大河さんお久しぶり!」


「あれ、愛? お前もう来たのか? 予定じゃもう少し掛かるって言ってなかったっけ」


「そりゃあ大河さんや鈴さんに会いたいから飛んできたんじゃない」


「あちゃー、タイミングが悪かったな。鈴は今日は出かけていないぞ」


「ええーー! ドッキリさせようと思ったら裏目に出ちゃったよ・・・」


 どうやら親父の知り合いで間違いないみたいだ。

 ・・・が、見た目でどうこう言うつもりはないが、親父の友人ってのは無理があるだろう。まるで親子の様にしか見えねぇぞ。もしくは援助交際をしている怪しい関係とか。


「親父・・・もしかしてお袋が居ないのをいいことに連れ込んだんじゃないだろうな」


「え? 何? 浮気? 私と浮気? 喜んで受けちゃうよ」


「何馬鹿なこと言ってるんだ。つーか愛も真に受けるな。

 そういや愛は夕食はまだか? 良かったらここで食べていけよ」


「そうね、お言葉に甘えさせてもらうわ。日本についてから直でここにきたからおなかペコペコで」


 ん? 日本についてから直でって・・・愛さんは外国から来たのか?


 その後は俺と親父と愛さんでお袋の作った夕食を食べた。


 何でも愛さんは今までアメリカの電脳守護会社(サイバーガーディアン)に居たらしい。

 電脳守護会社(サイバーガーディアン)と言うのは警察から電脳事件を完全委託された専門組織だ。

 アメリカの電脳守護会社(サイバーガーディアン)は電脳事件の最先端であり世界最高峰のコンピューター技術の凄腕が集うところだ。

 愛さんが日本に居た時電脳警察(サイバーポリス)に所属していて、ハッカーたち相手に大分活躍していたと言う。

 その活躍を耳にしてアメリカの電脳守護会社(サイバーガーディアン)が愛さんを引き抜いたとか。

 愛さんも23年前のAngel In事件の様な事件を起こさせないよう電脳技術を磨くため、電脳戦の本場であるアメリカへ行くことを決意したのだ。


 何故そこでAngel In事件が出てくるのかは分からなかったが、それは暫く後で俺は知ることになる。


「それで何で愛さんはわざわざアメリカから来たんだ? まさか親父たちに会いたいってそれだけじゃないだろう?」


「んー? 言っていいのかな? 詳しいことは言えないけど大河さんの仕事のお手伝いの為ね」


「アメリカ帰りの電脳守護会社(サイバーガーディアン)が手伝うほどって・・・ICE(アイス)でなんかヤバい事でも起きてるのか?」


「お前が心配する事ではないさ。愛を呼んだのはもしもの時の為だよ。

 因みに愛はICE(アイス)の社長の娘だぞ。ま、そのコネで呼び戻したんだがな」


 え? マジで?


 俺は思わず愛さんの顔を見る。そういやICE(アイス)の社長の名前は一之瀬だったっけ。

 愛さんは実は社長令嬢だったのか・・・


 夕食は愛さんや親父の昔話で盛り上がっていた。

 まぁ当然俺は蚊帳の外だったわけだが。


 こうして大神家の夕食はちょっと変わった来客を交えていつも通り過ごされた。

 愛さんは明日ICE(アイス)へ行くための準備があるからと夕食後に家を後にした。


 だが、いつも通りの日常はこの日までだった。


 愛さんの来訪を切っ掛けに事態は動き始めた。


 いや、既に動いていたと言うべきか。俺の知らないところで。


 その内の1つが俺の身の回りで起きていた。




 次の日の朝、唯姫は迎えには来なかった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 Alive In World Online雑談スレ931


565:デプ子:2059/05/01(木)16:09:23 ID:Dpbl16Slv

 幼馴染をAIWOnに誘ったら断られたデプ;;


566:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:10:11 ID: HkOj33sSn

 断られたってなんでまた?

 今流行りのAIWOnを断る理由が理解できん


567:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:10:56 ID: aIzNuk2zz

 はぁ? 何で断るんだよ?

 こんなに面白いのに


568:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:12:01 ID: Td105OUkb

 あれじゃね? 姫の誘い方がまずかったとか


569:デプ子:2059/05/01(木)16:15:03 ID:Dpbl16Slv

 現実でも苦労してるのに何でゲームでも同じ苦労をしなければならないって

 言われたデプ;;


570:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:15:43  ID: OkitSitLow

 ああ、断られた理由はそれか


571:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:17:55 ID: HkOj33sSn

 AIWOnはほぼリアルと同じ仕様だからな~

 その幼馴染の言わんとすることはよく分かる


572:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:18:56 ID: BltzPl202P

 確かにw

 特に魔法なんか覚えるくらいなら英単語でも覚えてろって言いたくなるなw


573:名無しの冒険者:2059/0501(木)16:20:09 ID: eRleNAaD4

 姫はただ単純にその幼馴染と一緒に遊びたかったんだよね~ヨシヨシ( ´・ω・)ノ


574:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:20:46 ID: KLsT410bl

 確かにマニアックな仕様だけどハマると病み付きになるんだよな

 なんて言うか他のゲームとは違い、こう自分自身が強くなっていくのが分かると言うか


575:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:21:43  ID: OkitSitLow

 ああ、分かる分かる

 他のVRMMOはあくまでステータスでの数字上だけでしかないからな


576:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:22:56 ID: BltzPl202P

 その点AIWONは全てがリアル仕様w

 AIWOnで鍛えればリアルで鍛えたのと同じ効果!


577:デプ子:2059/05/01(木)16:24:03 ID:Dpbl16Slv

 鍛えた筋肉はリアルでは影響されないでデプ


578:名無しの冒険者:2059/0501(木)16:26:09 ID: eRleNAaD4

 痛いところを突いてきたね^^;


579:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:27:11 ID: HkOj33sSn

 あくまで鍛えられるのは体の操作感覚と知識だけだからなぁ


580:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:28:01 ID: Td105OUkb

 そういや姫はもう少しでエンジェルクエストをクリアするんだっけ?


581:名無しの冒険者:2059/05/01(木)16:28:56 ID: aIzNuk2zz

 いや、でも体を動かす感覚を覚えてるだけでもリアルじゃかなり差が出るぜ


582:デプ子:2059/05/01(木)16:30:03 ID:Dpbl16Slv

 そうデプ

 エンジェルクエストも残すところあと1つデプ

 順調にいけば今日エンジェルクエストクリアでアルカディアに行くでデプ







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