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Alive In World Online  作者: 一狼
第3章 Zone
16/83

15.竪琴と人魚と竜宮城

 ――AL103年3月25日――


 Alive In World Onlineに帰魂覚醒(ログイン)して目を覚ました先は、離魂睡眠(ログアウト)した時に寝ていた港町ボートポートの宿屋の一室だ。


 ベッドから身を起こし外の様子を見れば、日が真上に上っており時間が昼頃だと伺える。

 部屋の外へ出て、1階の食堂フロアへ降りるとアイさんとトリニティが昼食を摂っていた。


「おはよう。と言ってももう昼だけどね」


「やっと帰魂覚醒(ログイン)したんだ。もう戻ってこないと思ってたよ」


 俺を見つけた2人は声を掛けてくる。

 俺も2人がいるテーブルに座りAIWOn(アイヲン)での約2日ぶりの食事を摂る事にした。


「今日はこのまま海を渡ってジパン帝国に行くんだろ?」


「そうね。スノウだと2~3時間もあればイーストエンド大陸には着けるわね」


 普通であればこの港町から出る船で約丸1日掛かる距離だそうだ。

 そう考えるとスノウの性能は破格だな。

 流石白銀騎竜(シルバードラゴン)。移動に特化した騎竜は伊達じゃない。


「向こうに着いてからはまずは『竜宮の使徒・Mermaid』の情報を集めましょう。

 まぁ、『竜宮の使徒』は海底の竜宮城に居るから行く手段は限られているけどね」


「海底かぁ。これが普通のゲームなら水中戦!って行きそうなところだけど、AIWOn(アイヲン)じゃそうもいかないよなぁ」


 AIWOn(アイヲン)じゃ普通に水の抵抗なんかもあったりするから水中での戦闘ははっきりってハンパない。

 水中戦専門の訓練を受けなければムズいんじゃないか?


「なぁ、ふと思ったんだけど、あたしって鈴鹿達に付いて行く必要があるのか?」


 突然何を思ったのか、トリニティはそんなことを言い始めた。


「戦闘では殆んど役に立たないし、盗賊(シーフ)としてはあたしより役に立つ奴もいるだろ?

 なんか鈴鹿達に付いて行くのはあたしである必要が無いように感じるんだけど」


 ああ、自分が役に立っていないのが申し訳なく感じているわけだ。

 そんなトリニティ対して俺達のかける言葉は・・・


「今さらだな」


「今さらね」


「・・・は?」


 俺達の言葉にトリニティは一瞬呆けた顔をする。


「確かにそれほど強いわけでも無いから戦闘では微妙だし、駆け出し盗賊(シーフ)よりは有能な盗賊(シーフ)の方がいいに決まっている。

 案内人(ガイド)としては最早機能すらしているのか怪しいくらいだ」


「・・・自分で言っておいてなんだが酷い言われようだな」


「だけど俺達はトリニティがいいのさ。

 新たに盗賊(シーフ)を雇うにしても、有能な盗賊(シーフ)って簡単に見つかるものなのか?

 仮に見つかったとしても俺達のやることはエンジェルクエストを巡る旅になるんだ。長期間拘束されるとなるとそう簡単にはいかないと思うけど」


「確かに名のある盗賊(シーフ)こそ契約するのが難しいし、それが長期間ともなれば尚更だな・・・」


 それに大抵は盗賊(シーフ)って地元密着が基本っぽいから世界を巡る旅ともなると尚更雇うのも大変そうだ。


「戦闘面でも役に立たないって言っても、これから私たちと一緒に強くなっていけばいいじゃない。

 寧ろエンジェルクエストを巡る事によって強くなっていくんじゃないかしら。

 少なくとも最初に出会った時よりは強くなっていると思うわよ」


 まぁ確かに最初に出会った頃のトリニティよりは今の方がいくらか役に立ちそうな感じにはなっているな


「それに忘れてやしないか?

 トリニティには俺達――ああ、どちらかと言えばアイさんに盗賊ギルドのノルマを立て替えてもらった借りや、俺達を罠にはめようとしたのを見逃してもらった借りがあるんだぞ」


「ああ! そういやそうだった! ここんとこお前らと馴れ合ってしまったせいかすっかり忘れてた!」


 トリニティはこうは言っているが、俺達と一緒に居られることに嬉しさを感じているはずだ。

 さっき「今さらだな」って言った時のトリニティの表情は喜びに満ちていた。

 こういうのをツンデレって言うんだっけ? 今のトリニティは正にそれだと思うんだがな


「それじゃあ各自準備が整ったら早速ジパン帝国に向かうわよ」


 俺達は昼飯を食べ終えて旅立つための準備をしてジパン帝国に向かう事になった。

 とは言っても2人の準備は俺が寝ている時に終わっているので、ほぼ俺待ちの状態だ。

 まぁ、俺も火達磨になったドラゴンレザー装備の代わりのミスリルの胸当て等の装備を身に着けるだけだが。


 因みにこの港町ボートポートではドラゴンレザーの鎧は修理が不可能で代わりにミスリルの胸当てを購入してくれていたみたいだ。

 と言うか、よくこんな港町にミスリル装備があったな。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「クルゥ」


 港町の外ではスノウが大人しく俺達を待っていてくれた。

 流石に騎竜とは言えど10mもの巨体は町中には入れず、外で待機してもらっていたのだ。


「スノウ、悪いな。流石にお前の大きさじゃ町中はちと厳しいからな」


 スノウはそんなの構わないと言わんばかりにその顔を擦りつけてくる。

 うむ、愛い奴じゃ。


 俺達は早速スノウに乗り込む。

 スノウの背中にはその巨体に合わせた鞍が取り付けられていた。

 俺が寝ている間に特注で急遽作ってもらったらしい。

 確かに最初にスノウの背中に乗った時よりは座り心地が良かった。


「クルァア!」


 スノウはその巨体を浮かび上がらせ高速で海を越えてイーストエンド大陸のジパン帝国を目指す。

 3~4時間ほど飛び続けた頃、ようやく海の端に大陸が見えてきた。


「あれがジパン帝国の港町ロングネスね。

 スノウ、悪いけどまた町の外に降りて頂戴」


 アイさんの指示の元、スノウは町の外に降り立つ。

 当然町の警備の者達は突然飛来したスノウに警戒を露わにし、武器を突きつける。


 アイさんが交渉の矢面に立ち、俺達に敵意が無い事を示しスノウを町の外で待機させることにして俺達はジパン帝国の港町ロングネスに立ち入ることが出来た。


 因みにアイさんが交渉の際、提示したギルドカードが敵意が無い事を示したのに一役買っている。

 そのギルドカードだが、いつの間にやら冒険者ランクがD級になっていた。


「ああ、それはエンジェルクエストを攻略するとその数に応じて冒険者ランクが自動的に上がる仕組みになっているんだ」


 トリニティ曰く、俺が地下都市コバルトブルーで修行してた時や港町ボートポートで寝ていた時に暇だったから調べたらしい。

 エンジェルクエストを1人攻略すると自動的にD級に(この場合『始まりの使徒・Start』が必然的にそうなる)、10人攻略するとC級に、20人攻略するとB級になるらしい。


 この後のエンジェルクエストがどれだけの難易度かは知らないが、確かにこれほどのクエストを攻略して冒険者ランクが低いままだと言うのはあり得ないからな。


「さて、今日は時間も時間だから夕食時まで情報収集に徹しましょう」


 取り敢えず拠点となる、海の幸が美味いと言う宿屋を取ってから俺達は今日のこの後の行動を決める。

 アイさんの言う通り時間も4時頃とこれから日が暮れる時間になるので、今日は『竜宮の使徒』の情報を集めることにした。


「そうだな。トリニティは盗賊ギルドの方を頼む。余裕があれば案内人ギルドもな。

 俺は冒険者ギルドの方に行って見るよ。

 アイさんは?」


「私は少し気になっているところがあるからそこを見て回るつもりよ」


 気になるところって何だろ?

 まぁ、アイさんの秘密は今に始まったことじゃないから必要があれば俺達にも言ってくるだろう。


 俺達は早速別れて情報収集に奔走した。

 俺は冒険者ギルドへと足を運び、『竜宮の使徒』に関する情報を集める。


 集まる情報は『竜宮の使徒』の情報と言うよりは、マーメイドの海底神殿――通称竜宮城との交易によってもたらされる町の繁栄に関する情報が殆んどだった。

 やれ竜宮城の宝石類は価値が高いだの、やれ竜宮城のマジックアイテムや武具等はそこら辺の物より質がいいなどとかだ。

 ただ最近は交易が上手くいっていないのか、竜宮城の情報に関しては何やら不穏な空気が漂っていた。


 『竜宮の使徒』に関しての情報はそれほど集まらなかったが、取り敢えず時間なので宿屋へと戻っていく。

 宿屋には既にアイさん達が戻ってきていたので、早速夕飯を摂りながらお互いの情報を出し合った。


「『竜宮の使徒』のクエストはそれほど難しくないわ。

 ただ『竜宮の使徒』の居る竜宮城へ辿り着く事。そうすればMの使徒の証を授けてもらえるみたいね」


「ああ、それは俺も冒険者ギルドで聞いたよ。

 最初はそれだけかって思ったけど、どうもそう簡単にいかない見たいだな。

 つーか、普通に考えて海底にどうやって行けっつーの」


 一見簡単そうに見えて、実はそこへ至る方法が試練(クエスト)そのものなんだろうな。

 ファンタジー仕様と言えど、流石に海の底に至る方法ってのは簡単ではないはずだ。


 そんな俺の考えを読んだかのように、アイさんが竜宮城へ至る方法を提示してくる。


「そうね、『竜宮の使徒』がいる竜宮城に行くには方法が3つあるわ。

 1つ目は戦技やら魔法やらアイテムやらを駆使して直に竜宮城を目指して潜水していく方法ね。

 まぁ、ただこの方法は余りお勧め出来ないわ」


「なんでだよ。竜宮城を目指して潜っていくだけだろ? シンプルでいいじゃないか」


 アイさんの示す3つの方法の内、1つ目に関してトリニティは単純に賛同していた。

 いや、これは俺でも分かるぞ。トリニティはそこまで考えていないのか?

 アイさんの言う通りこの方法は流石に実行するのが不可能に近い。


「戦技やら魔法などの付加時間は大体30分くらいしか持たないからな。

 それで海底何百m潜るのかは分からないが、30分で着くような距離じゃないだろう。

 おまけに潜水病や水圧の危険も伴う。この方法で行ける奴がいたら凄いと思うぞ」


「そうね。鈴鹿くんの言う通りよ。

 潜ることに関しては獣化戦技のフィッシュブレスや水属性付与魔法のアクアラングがあれば出来ないことはないけど、水圧が厄介ね。

 水圧に体を慣らしながら潜らなければ潜水病に罹ってしまうし、時間を掛ければその分Buffの効果がすぐ切れてしまうわ」


「じゃあ1つ目は駄目じゃないか」


 トリニティは両手を上げてお手上げのポーズをする。


「それで2つ目の方法が一番適している方法なのだけど・・・この2つ目の方法は今現在トラブルを抱えてるみたいなのよ」


 アイさんが困ったわっと言いながら頬に手を当てる。


「2つ目の方法ってどんなんだ?」


「竜宮城専門の案内人(ガイド)――通称竜宮の使いを雇う事ね。

 『竜宮の使徒』でもあるマーメイドの女王から授かった竪琴を使って普通の人でも海底に案内(ガイド)出来るみたいなのよ。

 まぁ、雇うのにも一筋縄じゃいかないみたいだけどね。竜宮城に案内(ガイド)に値する人物か判断する為、それ相応のクエストを出されるみたいよ」


「専門の案内人(ガイド)ね。その竪琴を使えば俺達でも竜宮城に行けるって訳か。

 確かにそれじゃあ有象無象が群がるからクエストで選別する、と」


「クエストで選別するのは大体冒険者たちで、この町の商人とかはまた別で選別してるみたいだけどね。

 ただ、今日仕入れた情報に寄れば竜宮の使いは・・・」


「今現在行方不明って話だな。と言うか、竪琴を持って竜宮城の財宝をちょろまかしてとんずらしたって専らな噂だよ」


 トリニティはさっきの両手を上げたポーズから頭の後ろに手を回し、そのまま椅子にもたれ掛るようにして仰け反りながら言ってきた。


「盗賊ギルドや案内人ギルドにも確認してきたから間違いねぇよ。

 いつも通り1人で案内(ガイド)に向かった後、行方が分からなくなったそうだ。

 依頼人から竜宮の使いが来てないと苦情が来て行方不明が発覚したらしいね。

 竜宮城へ行く方法が失われたことにより今この町は軽くパニックになっているよ」


「ああ、それって竜宮城との交易が途絶えたとかいう奴か。

 しかしまぁ、竜宮城との渡りを付ける案内人(ガイド)が1人だけなんだ? 普通はもっといるようなものだけどな」


 そう、竜宮城との港町ロングネスの商人を結びつける案内人(ガイド)が1人しかいないのだ。

 その1人が行方不明になった所為で、今ロングネスは竜宮城の恩恵を受けられなくなっている。


「マーメイドの女王から竪琴を授かったのが1人しかいないからな。女王が認めた者にしか竪琴は使えないらしいんだ。

 実際は3人に竪琴を授けたらしいが、実質竜宮城に行くことが出来るのは1人だけってな」


「他の2人はどうして駄目なんだ?」


「単純な話さ。1人はジパン帝国の帝王。もう1人は伝説となった巫女神フェンリル。

 帝王は政治がらみで竜宮城に訪れることはあるが、一般人を連れて歩く案内人(ガイド)なんて出来るわけねぇし、巫女神フェンリルに至っては100年前の人物だ。

 本人は神の世界に行ったっきりで竪琴もどうなったことやら」


 マジか。確かにそれだと実質使えるのは1人だけだな。

 つーか、女王様ももう少し竪琴を授けても良かったんじゃないのか?

 まぁ、簡単に竜宮城に人を濾させないための政策でもあるんだろうが。


「で、その肝心の最後の竪琴の所持者である竜宮の使いが行方不明ってか」


「行方不明って言うより財宝の持ち逃げ?って言うのがこの町の噂だよ。

 金に目が眩んだだの、竜宮城との交易を独り占めしようとしただの色んな噂が飛び交っているよ」


「なぁ、その噂どこまで本当なんだ?

 マーメイドの女王から竜宮城との繋がりを任されたほどの人物がそう簡単に欲望に身を任せるかなぁ~?」


「さぁ? 人なんて欲望の塊なんだからひょんなことでタガが外れたりするんじゃないの?」


「トリニティみたいにか?」


「・・・喧嘩売ってるのか?」


 トリニティが俺達を襲った時の事をからかうと、半眼で睨んできた。


「・・・トリニティ、その竜宮の使い行方不明になったのって何時ごろなのか聞いてる?」


「えーっと、確か5日くらい前だって話だよ」


 トリニティの答えにアイさんは頬に手を当てて少し考え込んでいた。

 ん? 今の会話の内容に何か引っ掛かりを感じるな。なんだろう?


「で、どうするんだよ。このままじゃ竜宮城へ行く方法が見つからないぞ?

 あたしは別にかまわないけど、一番困るのは鈴鹿じゃないのか?」


 何か悩んでいるアイさんを余所にトリニティがこれからどうするのかを聞いてくる。


 うーむ、一番オーソドックスな方法が取れないとなると・・・

 って、そう言えばアイさんは3つの方法があるって言ってたっけ。


「えーと、アイさん。方法が3つあるって言ってたけど、3つ目の方法ってのは・・・?」


「あることはあるんだけど・・・かなり危険よ。一番お勧めできない方法ね。

 ロングネスの近くにあるダンジョンの竜宮洞を使えば竜宮城へ行くことが出来るわ。

 この竜宮洞は海底地下を通っていて徒歩で竜宮城へ行くことが出来るんだけど・・・危険度はA級、竜の巣と同じくらいのモンスターが蔓延るダンジョンなのよ。

 少し気になる場所があるって言ってたのはそこなのよね。少し中を覗いてみたけど間違いなくA級モンスターが蔓延っているわね」


 げ、マジですか。あの竜の巣と同じ危険度のダンジョンって・・・

 しかも海底地下をひたすら徒歩でってことは距離的にも相当時間が掛かる事だろ。

 A級ダンジョンを長時間ひたすら歩いていくって・・・そりゃあ確かに一番お勧めできないな。


「あ~~、3つ目の方法はパスだな。それ以外の方法・・・って結局全部だめじゃん!

 う~~~~~ん、しょうがねぇな。一番可能性がありそうな竜宮の使いを使って行く方法を取ろう。

 取り敢えずは行方不明の竜宮の使いを探し出すってことでいいか?」


「そうね、取り敢えずは竜宮の使いを探す方向で行きましょう」


 アイさんは納得してくれたが、どういう訳かトリニティがアホ面を晒しながら俺を見ていた。


「何だよ。竜宮の使いを探すのは反対なのか?」


「あ・・・いや、てっきり鈴鹿の事だから竜宮洞を使って竜宮城へ行くぞ!って言うのかと思ってたから・・・」


「何も好き好んで危険なところを通らなくてもいいじゃんか」


「・・・お前がそれを言うのか?

 ついこの間までディープブルー――ユキだっけ?を助けるために時間なんか掛けてられない、危険度なんか知ったことか!って突っ走ってたじゃないか」


 おおう、そう言えばそんな感じだったな、俺。

 こうして周りに言われてみるとどんだけ余裕が無かったんだよ、俺。

 そりゃあ確かに親父に頭を冷やせと言われるよ、俺。


「ま、まぁ、俺もこの間の火達磨の件で反省しているのですよ。矢鱈無闇に危険に首を突っ込むのはやめようって、な」


「うわぁ・・・何か鈴鹿じゃないみたいで気持ち悪い・・・」


「喧嘩売ってるのか!?」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 今後の方策を決め、夕飯も一段落したところで宿屋の食堂の一角で騒動が起こった。


「ああ? なんで裏切り者のガキどもがこんなところでメシを食ってるんだよ」


「ったく、君たちは町の皆に迷惑を掛けているって分かっているんですか? んん?」


 エルフにしては珍しい強面の大男と、エルフの知的と言うよりは小ズルい感が出ている細身の男の2人組が食堂の隅のテーブルでメシを食べている女の子と男の子の子供2人に凄んでいた。


 子供たちはこのジパン帝国では珍しい獣人だった。

 しかもそこらに居るメジャーな獣人ではなく、マイナーな亀人(タ・トルス)だ。

 男の子の方はまんま2足歩行の亀だ。薄緑色の肌に手には水掻きが付いている。

 服を来ていてわからないが、背中は亀の甲羅の様に硬い肌で覆われているらしい。

 女の子の方は姿かたちは人間とほぼ変わらないが、男の子と同じように手には水掻きが付いていて背中は甲羅の様な硬い肌になっているみたいだ。


 男の子は2人は大の大人が迫りくる恐怖に怯え文字通り亀のようにうずくまっていた。

 女の子は男の子を庇うように背中に隠して気丈にもチンピラエルフたちを睨みつけている。

 見たところ女の子の方がお姉さんみたいだな。


「おめぇらの親父が竜宮の使いをブッチしたお蔭で俺達の商売にどんだけ損害が出たと思っているんだ? ああ?」


「君たちには親の代わりにその責任を取ってもらう必要があるんですよ。それなのに暢気に食事などと・・・自分の立場を分かってないですね」


 どうやら脅されている2人は行方不明になった竜宮の使いの子供らしい。

 と言うか、親の代わりに子供が責任を取る・・・?


「なぁ、天と地を支える世界(この世界)では親に何かあったら子供が責任を取るのか?」


「んなわけないじゃん。そんな事言ったら世の中の子供は親の責任を取らされまくって生きていけないって。

 家柄の良い貴族とかは継承権とかあるからそういう事はあるかもしれないけど」


 この世界の常識なのかと思いトリニティに聞いてみたが、どうやらそんなことは無いらしい。

 そうこうしているうちにチンピラエルフたちは子供たちに殴る蹴るなどの暴力を使い始めた。


「おいおい、幾らなんであれはやっちゃいけないだろ」


 流石に見かねて助けに入ろうとしたところ、俺よりも先に宿屋の店主が子供たちを助けに入って行った。


「あの暴力はやめて下さい。幾らなんでも子供に手を上げるのは・・・

 2人を食事に招いたのは自分です。責任は自分に有りますので子供たちには手を出さないで下さい」


「あん? 店主、こいつらを庇うのか? おめーも被害者の1人だろうが。

 こいつの親父が居なくなった所為で竜宮城の海の幸が手に入らなくなって困っているんだろ? それなのに何でこいつらを店に入れているんだよ」


「理解に苦しみますね。見てください、誰一人としてこの2人を助けようとしない様を。

 ここに居る町の人たちはこの2人の親の所為でロングネスに多大な不利益を被っているからなんですよ。

 これは町の人たちの総意であり、制裁でもあるんです」


「分かったら退け。親の責任は子供がきっちり取らなければなぁ」


 大男のチンピラエルフは店主を無理やりどかし、再び暴力を振るい始める。


 男の子はひたすら蹲り、女の子は男の子に覆いかぶさりながら「お父さんは悪くないもん!」と叫んでいた。


 つーか、見ててマジで胸糞悪くなってくる。

 店の中の客の大半はやや気まずげにしているものの、本当に誰一人として助けようとはしない。


 俺はおもむろに立ち上がり大男のチンピラエルフに向かって行く。

 当然、アイさんもトリニティも当たり前のように見送る。と言うか殺ってこいの合図すら送っていた。

 俺は子供2人に夢中になっている大男に後ろからケンカキックをお見舞いした。

 大男は面白いようにつんのめって顔面を床に打ち付けた。


 それと同時に客の中から1人の女性が立ち上がり、小ズルい感の細身のエルフにビンタをかましていた。


 おお? どうやら客の中にも流石にこの状況を看過できない人物が居たみたいだな。


「ぶふっ、な、何しやがるっ!?」


「いきなり何をするんですか」


 鼻血を出しながら睨んでくる大男に、大勢の前でビンタをかまされプライドを傷つけられた細男が文句を言ってくる。


「子供相手に何いきがってんだ? あ゛あ゛!?」


「貴方達の行為は責任追及と言うより、町の損失を言い訳にしたただの八つ当たりです」


 まさかこの町の状況で言い返されるとは思わなかったのか、チンピラエルフ共は狼狽える。


「て、てめぇ、余所もんじゃねぇか! これはこの町の問題なんだよ! 余所もんが首を突っ込むんじゃねぇよ!」


 大男は俺が人間だと分かると途端に攻勢に出始めた。


「貴女もエルフならこの町の状況をご存知でしょう? 何をトチ狂って子供たちを庇うんですか」


 ビンタをかました女性は薄い水色のワンピースを纏った腰までの黒髪の美人エルフだ。

 美形が多いエルフでも更に麗しい容姿をしている。

 特に目を引くのがしっとりした艶のあるストレートの黒髪だろう。

 まるで水に濡れて光に反射するような煌めきも見える。


「町もんも余所もんも関係ねぇよ。てめぇらのやっていることはこの人も言ったようにただの八つ当たりだろ」


「トチ狂っているのは貴方達ではなくて? 子供たちに暴力を振るったところで町の損失は補えません。まるで意味不明です」


 美人エルフはチンピラエルフを構わずその横を通り抜け子供たちに優しく手を翳す。

 子供たちは美人エルフに抱きかかえられ思わず泣き出していた。


「さて、余所もんの俺にも詳しく教えてもらえないかな? 町の損失をどうやって子供たちに責任を取らせるのか。

 暴力を振るえばお金が湧いて降ってくる? そりゃすごい。俺も思わず参加しそうだよ。

 子供たちを損失補填の為に働かせる? 当然そう簡単に補える額じゃないからそれこそ死ぬまで? それで補える額はどれくらいになるんだ?

 ・・・ふざけんなよバカヤロウ!!」


 俺の叫び声が食堂内に響き渡る。

 チンピラエルフ共は忌々しげに俺を睨みつけていたが、周りで様子を伺っているエルフたちは少し気まずげに視線を逸らしていた。


「てめぇらのやっていることは町の為でもなんでもねぇ、ただの集団リンチなんだよ!

 そもそもてめぇら商人にも責任が無いとは言わせねぇぞ」


「は? 何を言っているのですか。何故私たちに責任が生じると」


「じゃあ聞くぞ。この町の生命線でもあるただ1人の竜宮の使いに何故護衛や監視が付いていないんだ?

 竜宮の使いに何かあったら困るのはてめぇらだろ。現に今こんな状況に陥っている。

 町の経済の責任を竜宮の使い一手に背をわせておいて、てめぇら商人は己の利益のみ追及して竜宮の使いの存在を蔑ろにしたんだ。

 それでもてめぇらには責任が無いとでも?」


 普通であれば竜宮の使いはこの町の最重要人物に当たる。にも拘らず1人で行動させているなんてこいつら頭が湧いてるんじゃないのか?

 細男に至ってはそんな事すら思いつかなかったのかポカンとした表情をしていた。


「俺達は竜宮の使いを信頼していたんだ。それを裏切ったのが竜宮の使いだろ! 俺達にまで責任があるわけがねぇよ!」


 大男が喚くが俺はそれを無視する。

 信頼と信用は別物だろうよ。竜宮の使いを信頼するのは構わないが、商人が信用しきっちゃまずいだろ。

 それこそ何かあった時の保険を掛けるのが商人じゃないのかよ。それを怠った結果がこれだろ。

 ・・・段々話にならなくなってきたな。


「てめぇらの言い分はこの際今はどうでもいいよ。これ以上子供たちに暴力を振るおうってんなら俺が相手になってやるよ」


 俺は拳を握りチンピラエルフの前に突き出す。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 AIWOn ロリエルフはのじゃーさんの件10


253:名無しの冒険者:2059/1/31(金)22:15:20 ID:2ChN6erM07r

 うおおおおおおおお!

 俺は遂にエルフの国に来たぞ――!


254:のじゃーさんペロペロ:2059/1/31(金)22:17:51 ID:Noja3prprelf

 おーおめでとーなのじゃ


255:名無しの冒険者:2059/1/31(金)22:18:45 ID:100Sho9Zoc

 エルフの王国・・・羨ましいぞ!


256:怒り新人:2059/1/31(金)22:20:03 ID:EVA2014Srd

 僕まだエルフの王国にいった事ないや

 確か海を越えた大陸にあるんでしょ?


257:デプ子:2059/1/31(金)22:23:18 ID:Dpbl16Slv

 >>255 正確には帝国でデプ

 エルフの住まうジパン帝国は良い国でデプ


258:牧葉・真理・苛巣鳥明日:2059/1/31(金)22:24:18 ID:EVA2014Forth

 んー? ワンコ君はエルフフェチなのかな?


259:のじゃーさんペロペロ:2059/1/31(金)22:25:51 ID:Noja3prprelf

 うむ、帝都にはのじゃーさんが溢れておるのじゃ


260:鈴原錯乱:2059/1/31(金)22:27:26 ID:EVA2014wille

 のじゃーさんって何ですか?


261:怒り新人:2059/1/31(金)22:28:03 ID:EVA2014Srd

 ぼ、僕エルフフェチじゃないよ!

 ただエルフの人は綺麗な人が多いから、どうなんだろうって・・・


262:のじゃーさんペロペロ:2059/1/31(金)22:29:51 ID:Noja3prprelf

 のじゃーさん:語尾にのじゃーを付けて話す幼女

 ネット小説にありがちな幼い容姿でありながら中身が老人と言うのが大半を占める

 この場合はエルフは成長が遅く長寿であるのでのじゃーさんが大勢いる

 出典:のじゃーさん辞典


263:名無しの冒険者:2059/1/31(金)22:31:20 ID:2ChN6erM07r

 ああ、いたいた! のじゃーさんが!

 可愛い姿でのじゃーのじゃー言ってくるんだよ!

 思わずその場で土下座してしまったよw


264:牧葉・真理・苛巣鳥明日:2059/1/31(金)22:32:18 ID:EVA2014Forth

 土下座www

 まぁ、のじゃーさんは可愛いもんねー


265:のじゃーさんペロペロ:2059/1/31(金)22:35:51 ID:Noja3prprelf

 のじゃーさんは正義なのじゃ!


266:牧葉・真理・苛巣鳥明日:2059/1/31(金)22:36:18 ID:EVA2014Forth

 >>261 ああゴメン

 ワンコ君はエルフフェチじゃなくてのじゃーさんフェチだったね

 ペロペロしたいと思ってるんでしょ?


267:鈴原錯乱:2059/1/31(金)22:38:26 ID:EVA2014wille

 変態がおる・・・ホンマ勘弁してほしいですわ









次回更新は5/5になります。








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