14.現実と変化と決意
大神鈴鹿、剣姫一刀流を習得。
大神鈴鹿、セントラル遺跡でスノウと出会う。
大神鈴鹿、『宝石の使徒』を倒す。
大神鈴鹿、『迷宮の使徒』と激闘し火達磨になる。
大神鈴鹿、未知の力で『迷宮の使徒』を倒す。
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――AL103年3月23日――
「知らない天井だ」
目が覚めた俺が最初に口にした言葉がこれだった。
って、お約束ネタを言ってる場合じゃねぇ。
ここは何処だ? 何で俺は寝ているんだ?
起き上がってざっと辺りを見渡してみると、ここはどこかの宿屋らしき部屋だった。
まだ頭がはっきりしないため、俺が今置かれている状況に対応しきれていない。
俺が直前まで覚えている事と言えば・・・
ああ、そうだ。『宝石の使徒・Gem』を攻略した後、美刃さんの案内の元『迷宮の使徒・Labyrinth』を攻略するために地下迷宮へ降り立ったはずだ。
それで美刃さんを除いた俺とアイさんとトリニティの3人でミノタウロスとは思えない、某最後の幻想の召喚獣に出て来そうな『迷宮の使徒』との戦闘で・・・
思い出した!
俺は『迷宮の使徒』の特殊能力で発せられた火炎に巻き込まれて全身火傷を負ったんだった!
慌てて体を弄るが火傷の跡が一切見られない。
あれは夢だったのだろうかと訝しげに思っていると、扉からトリニティが姿を現した。
「ああ! 鈴鹿やっと目を覚ました!」
「お、おう」
「あんたあれから丸1日眠ってたんだよ」
なぬ? 『迷宮の使徒』との戦闘から丸1日経っていると言うのか?
「アイさん、鈴鹿の奴目を覚ましたよ!」
トリニティが扉の向こうからアイさんを呼んでいた。
部屋に入るなりアイさんは俺の顔を見て少しほっとしたような表情を見せた。
「鈴鹿くん、おはよ。と言ってももう夕方なんだけどね」
部屋の外を見れば確かに夕暮れで空が赤くなっているな。
『迷宮の使徒』との戦闘も夕方前頃だったから、確かに丸1日経過したことになる。
「アイさん、あれからどうなったんだ?
どうも記憶があやふやで、『迷宮の使徒』との戦闘で俺が火炎に巻き込まれたところまでは覚えているんだが・・・」
「え? 覚えていないの?
鈴鹿くん、あの後1人で『迷宮の使徒』を倒しちゃったのよ」
は!? あの状態から俺1人で『迷宮の使徒』を倒した?
「あんときのお前、人間業じゃなかったぞ」
その時の事を思い出したのか、トリニティは少し身を震わせていた。
2人に言われ俺は慌ててその時の事を思い出そうとする。
炎に巻かれてこれで終わりかと思った後に、何やら目の前が真っ白になって・・・
そう言えばその後何か必死になって戦ってた覚えがあるな。
「鈴鹿くん、全身やけどを負って慌てて治療をしたんだけど、最初は効果が薄くて。
でも突然全身に光が纏ったと思ったら一瞬にして火傷が治って、おもむろに立ち上がったと思ったら『迷宮の使徒』へ向かって行ったのよ」
「そうだ、そうだよ。なんで火傷が治ってんだ?」
「最初は美刃さんがくれた試薬ポーションの影響だと思ったけど、そこまでは効果が無いみたいなのよ。
寧ろ試薬ポーションは別の効果が発揮したみたい。それは後で話すとして、火傷の感知の原因はこれじゃないかと思うの」
そう言ってアイさんはベッドの脇に掛けてあった刀―― 一刃刀ユニコハルコンを掲げる。
師匠が免許皆伝代わりにくれた選別の刀。
確か師匠が若い頃冒険で手に入れたユニコーンの角とオリハルコンを掛け合わせて作った刀だ。
・・・そうか、ユニコハルコンのユニコーンの角による治癒能力か。
「どうやらこの刀には治癒能力が備わっているみたいね」
「凄いよ、これ。これがあれば治癒師いらずじゃないか」
確かにあの時ユニコハルコンの力を解放していた覚えがある。
とは言え、あの時はユニコハルコンから力を感じて解放していたのだが、今はその様子が少しも見えない。
多分同じように治癒能力を使おうとしても今は何も効果を発揮しないだろう。
そのことを告げるとアイさんは何やら神妙に頷き、トリニティはさっきまではしゃいでいたが目に見えてがっかりしていた。
「そうね、この刀には意思があるみたい。多分ユニコーンの意思が宿っているとかそう言うのかも。
あの時は命の危険があったから力を貸してもらえたけど、今は無理みたいね。
鈴鹿くんがこの刀に認められないとそう簡単に力を使えないみたいね」
「そうか、あの時はユニコハルコンを使いこなしたんじゃなく、力を貸してくれたのか。
・・・もしかしたら師匠の意思も混じっていたのかもな」
「そうかもね」
「え~? 武器に意思が宿るって・・・なんか眉唾物なんだけど」
「そんなことないわよ。少なくとも巫女神フェンリルの所持していた妖刀村正は意思があると言われているわ」
いつの間に調べたんだ?
つーか、巫女神フェンリルが持っている武器ってあの有名な妖刀村正かよ。
そりゃあ神様になるくらい強いわけだ。
「ふ~ん・・・まぁどちらにしろ鈴鹿がユニコハルコンを使いこなせないってことは分かった」
「うるせーよ。しょうがねぇだろ、今までユニコハルコンに意思があるとは思ってもいなかったんだから」
「そう言うところが使いこなせない一因じゃないの?」
トリニティにそう言われてぐうの音も出なかった。
とは言え、一刃刀ユニコハルコンを授かって1日だ。たった1日で全ての力を使いこなす方がどうかしていると思うが。
「まぁ、それはこれから認められるように頑張るしかないわね」
「そうと分かれば何時までも寝てられねぇな。ユニコハルコンに認められるようにもっと強くならなければ。
それに丸1日寝過ごしたから早く次の使徒へ行かないと」
只でさえ時間が無いんだ。
ユニコハルコンを使いこなしながら使徒を攻略し、アルカディアに行って唯姫を助けないと・・・!
そう思ってベッドから立ち上がろうとするとアイさんが俺を押し止める。
「駄目よ。鈴鹿くんはもう1日休んでいる事。これは命令よ」
「ちょっ! 何でだよ!」
「鈴鹿くんの体は今は思った以上に損耗しているわ。
ユニコハルコンで火傷は治ったけど、それと同時に1人で『迷宮の使徒』と戦った影響が出ているのよ」
アイさんの推測の話によると、美刃さんに貰った試薬ポーションは掛けた部分の潜在能力を高めて治癒力を上げる回復薬なのだが、全身に掛けたことで俺の潜在能力を限界以上に引出し単独で『迷宮の使徒』との戦闘を可能にしたのではないかと。
その影響で俺の体は今ガタガタらしい。
そう言えば思った以上に体が重いな。
「という訳で、鈴鹿くんにはまだ休んでいてもらうわ」
くそ、こんなところで休んでいるなんて歯がゆくて仕方がない。
「鈴鹿くん、折角だから一度離魂睡眠したらどうかな?
離魂睡眠していても体は回復するから丁度いいと思うの」
「あ~、そういやもう何日もAIWOnに居るな」
親父にも1週間に1度は戻ってこいって言われてたっけ。
お袋にも心配をかけているだろうし、一度現実に戻るのもありか。
「そうだな。一度離魂睡眠するよ。
そういや、試薬ポーションや『迷宮の使徒』の単独戦闘で思い出したが、美刃さんや使徒の証はどうなったんだ?」
「案内は『宝石の使徒』と『迷宮の使徒』までだからね。
美刃さんも自分のクランの事もあるから名残惜しいけど王都へ帰ったわ。
まさかこの大陸の端の港町ボートポートまで来るわけにもいかないしね」
「は? ここって大陸の端なのか?」
「そうだよ。鈴鹿が倒れてしまったからスノウに乗って、次の使徒の目的地の傍のここに来たんだよ」
俺が倒れている間にいつの間にか大陸の端に来てしまったみたいだ。
このボートポートはセントラル大陸から唯一イーストエンド大陸のジパン帝国を繋ぐ港町らしい。
かつて100前にセントラル王国と一緒に一度滅んでしまったが、セントラル大陸の国々と交易を結ぶためにジパン帝国が援助して再び港町として再生したみたいだ。
「てぇことは、次の使徒はジパン帝国にいるのか?」
「そうね。正確にはセントラル大陸とイーストエンド大陸の間にあるブルーサファイア海の海底神殿に居る『竜宮の使徒・Mermaid』ね。
後はジパン帝国に居ると言われている『覚醒の使徒・Zone』になるわね」
ふむ、次の目標は海底か。
・・・ってどうやって海の底へ行くんだ?
そのあたりはアイさんやトリニティが何か情報を掴んでいるのか? でなければ現地で情報収集ってところか。
「後、『迷宮の使徒』に関しては、私たち3人ちゃんと攻略したことになっているわ。
使徒の証を確認してご覧なさい」
アイさんに言われて改めて首に下げた使徒の証を起動させると、時計の様に表示された魔法陣にアルファベットが表示されている。
Lの文字が光っていた。
確か一度「試練は失敗だ」って『迷宮の使徒』が言っていたような気がするが、まだ戦闘継続中と言う扱いだったんだろうか。
どちらにしてもあの状況でもクエストがクリア扱いと言うのはありがたい事だ。
因みに俺が『迷宮の使徒』の本体を倒してしまったので、分体の中から1体選出され新たな本体としてあの部屋に常駐するらしい。
但し強さは今の段階ではほぼ分体とそう変わらないみたいだ。徐々に力を付けて俺達と戦ったミノタウロスになるのだとか。
取り敢えず今の置かれた状況を確認したところで、俺は一度離魂睡眠することにした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――2059年5月6日(火)――
離魂睡眠により眠りにおち、再び目を覚ますとそこはAIWOnにダイブする前の親父の勤務先の会社――ICEの中の部屋だった。
ヘッドギアタイプのVR機アミュレットⅡを頭にかぶりながらカプセルタイプのVR機ドリームドライブの中で目を覚ました俺はドリームドライブのふたを開け、おもむろに体を起こし部屋の中を見渡す。
今の時間は夜明け前だ。外の様子はまだ日が昇る前で暗闇に包まれていた。
部屋の中には俺の健康状態を観察する為、綾子おばさんの病院から派遣された3人の内の1人の女性看護師――確か綾辻一美さんだったな――が居た。
綾辻さんは俺が目を覚ましたのに気が付くと、体に付いた電極コードを取外しサッと拭いてくれた。
俺はその間にアミュレットⅡを取り外す。
「お帰りなさい。どうやら無事に戻ってこれたみたいね。
体の方も今のところ健康状態に異常はないわ」
電極コードに繋がれた機械とそれから印刷された用紙を見ながら俺の体に異常がない事を教えてくれる。
長時間のVRダイブもさることながら、AIWOnは魂を抜き取られる可能性も示唆されていたからな。
「どう? 向こうの世界で何か幼馴染ちゃんの手掛かりが掴めたかしら?」
「一応、情報は手に入れましたよ。あるクエストを進めていくと唯姫にたどり着けるみたいなんですよ。
なのでもう暫くAIWOnの世界に用があるのでこの後も宜しくお願いします」
俺は着替えをしながら話しかけてきた綾辻さんに答える。
ここに居ると言う事は綾子おばさんからある程度状況を聞いているのだろう。綾辻さんはAIWOnの世界の状況を聞いてきた。
魂を抜かれた患者の状態を心配しているのか、ただ単に興味本位で聞いているのかは分からないが、彼女は本来の仕事である病院勤務から外れたこの状況にいることを思えば暇を持て余しているのかもしれないな。
「そう、無茶だけはしないでね。死んじゃったら何にもならないんだから」
「大丈夫ですよ。唯姫を見つけるまで死ねませんから」
言われてから気が付いたが、普通はVRMMOで死ぬと言う事はまずありえない。
それでも今回の事件のあらましを知っている綾辻さんは俺の体を気遣って心配してくれていた。
「さてと・・・一応親父に報告しておくか。と言っても今の時間じゃまだ家で寝ているか」
「君のお父さんなら研究室にいるんじゃないかしら」
「こんな時間まで会社に残って仕事しているのかよ」
ここんとこ家に帰るのが遅かったが、さまか今の時間まで残業をしているとは。
「まぁ、状況が状況だからね。簡単に家に帰れないみたいよ。看護師としてはちゃんと家に帰って体を休めて欲しいんだけど」
親父の体の事まで心配してくれた綾辻さんにお礼を言って部屋を出て親父の居る研究室を探す。
そう言えば肝心の親父の居る研究室の場所が分からないな。気軽に遊びに来れる場所でもないので分からないのが普通だが。
今の時間だと人がいないので暫くICEの中をうろちょろして回る。
・・・? 体が少し重いな。長期ダイブしていた影響か?
体の不調を感じつつも親父の研究室を探して回る。
親父の部署は確かVR課だったからそれ関係の場所だろうと当りを付けて何とか親父の居る研究室を探し出した。
「親父、居るか?」
「ん・・・? 鈴鹿か。やっと戻って来たのか。どうにか無事に帰ってこれた見たいだな」
研究室と言うから実験機器が溢れているのかと思えば、数台のパソコンが置かれたごく普通の部屋だった。
まぁただ置かれているパソコンが普通の市販のパソコンとは違ったが。
後で聞いた話だが、この部屋は特にVRを研究するための部屋なんだとか。
俺がダイブしたAIWOn然り、他のVRMMO然り、VRそのものの研究開発調査をするスパコンを集めた研究室らしい。
親父は向かっていたパソコンから目を外し、俺が部屋に入って来たのを確認して少しほっとする表情を見せた後、呆れながらも労いの言葉を掛けてきた。
「何とかな。それで一応AIWOnの世界の状況を報告しておこうと思ってな」
「む、そうか。一応、ちょっと前に戻ってきた愛からも状況は聞いているが、お前の口からも聞いておこう。
何か違った報告が聞けるかもしれんしな」
俺は親父に促されAIWOnにダイブしてからの数日間を報告した。
暫く俺の報告を聞いていた親父は聞き終わった後、深い溜息を吐いた。
「鈴鹿、お前この後どうするつもりだ?」
「どう・・・って、エンジェルクエストをクリアしてアルカディアに行って唯姫を見つけるつもりだけど?」
「・・・相変わらず唯姫ちゃんの事となると目が眩んでいるな。こうならない様に愛に付いて行ってもらったのに・・・何をやっているんだ、愛の奴・・・」
親父が何やら呟いているが、俺にはよくは聞こえない。何か俺の悪口を言っているようにも聞こえるが。
少し考えるそぶりをした親父は改めて俺に向かって口を開く。
「そのアルカディアが偽りだと言う可能性を考慮しているのか?」
なん・・・だと?
俺は親父が何を言わんとしているのか理解できなかった。
だが、親父のこの後の話を聞いて別の可能性もあると言う事に気が付いた。
「アルカディアの事は愛からも聞いたが、何もアルカディアと言う世界が必要なわけではない。
極端な話、エンジェルクエストの攻略者の魂を集める装置の名前がアルカディアと言う事もあり得るんだぞ」
そうだよ。アルカディアに行って戻ってきた人は誰もいない。
そこがもう一つに別世界だと言う保証は何もないんだ。
最悪、親父が言った通りアルカディアと言う名前に釣られたエンジェルクエスト攻略者の魂を集める装置の可能性もあるんだ。
もしそうだとすれば、今の俺にAIWOnの中から唯姫を救う方法はない。
唯姫の救出手段を見失った俺に親父は更に追い打ちをかける。
「こちらの昏睡状態の者を見て分かる通り、そのアルカディアに行って戻って来たものは誰もいない。
アルカディアが魂集積装置だとすれば、帰ってくる方法は初めからないのだからな。
お前は帰ってくる手段が無いのにどうやって唯姫ちゃんを連れて帰るつもりだ?
ミイラ取りがミイラになってどうするんだ?」
俺はアルカディアに行って唯姫を見つけれればどんな手段を使っても戻ってこれると漠然と考えていたが、その大前提が崩れ去ってしまえば戻る手段すらも初めから無い事とされる。
黙り込んでしまった俺に親父は戻って来たばかりだからと少しは休んで頭を冷やせと一度家に帰るように促した。
「母さんも心配している。早く顔を見せてやれ」
「ああ、分かった」
俺は重い足取りでICEを後にする。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
まだ日も昇らぬ暗闇の中を俺は家に向かって歩いていく。
昨日までGWだったせいか、最終日の夜はそれなりに賑わいを見せていた。
・・・今年のGWはまさかの飛んだ騒ぎになってしまったなぁ。
せっかくの休みがまるまるAIWOnに費やしてしまった損失を後で唯姫に請求しておかないとな。
家に付くころには朝日が昇り始め当りが明るくなり始めていた。
「ただいま」
家に入るとお袋が朝食の準備をしていた。
俺に気が付いたお袋は朝めしの準備の手を止めて抱きしめた。
「お帰りなさい。無事に戻ってきてくれたのね」
「お袋、大袈裟だよ」
「そんなことないわよ。あのゲームは普通じゃないから、鈴鹿が無事に戻ってきてくれただけでも嬉しいのよ」
やはりお袋には心配を掛けていたみたいだな。
俺の顔を見て安堵した表情を浮かべていた。
「今、朝ごはんの準備をしているからもうちょっと待っててね。
ああ、その前にシャワーを浴びて来なさい。何日もVRカプセルで寝たきり状態だったから匂いがするわよ」
「げ!? マジか!?」
俺は慌てて体を洗いに風呂場へ向かった。
シャワーを浴び終わる頃には朝めしの準備が終わって、お袋と一緒に朝めしを食べる。
「やっぱり1人でご飯より、誰かと一緒の方が美味しいわね。最近はお母さん1人でご飯だったから寂しかったわ」
「1人でって・・・親父はどうしたんだよ」
「お父さんはここの所、泊りで仕事だから家には着替えを取りに来るくらいなのよ」
げ、親父の奴残業どころか徹夜で仕事漬けなのかよ。
話を聞けば俺がAIWOnにダイブしてから会社に寝泊まりしているらしい。
・・・そうか、親父にも心配を掛けていたんだな。俺は。
「鈴鹿も唯姫ちゃんを助けに頑張っちゃうし・・・やっぱり男の子ね、好きな女の子を助けるために頑張るのってかっこいいわよ。
お父さんも若い頃ね、私を助けるために頑張ったことがあるのよ」
「ぶふぅっ!!」
お袋の突然の言葉に俺は思わず吹いてしまった。
「ちょっ、ちょっと待ったお袋! 誰が誰を好きだって!?」
「え? 唯姫ちゃんの事好きなんでしょ?」
「好きじゃねぇよ! ああ、だからと言って嫌いだという訳でもなく!
唯姫を助けるのは好きとか嫌いとかじゃなく、幼馴染だから、傍にいないと落ち着かないと言うか・・・!」
「あらあら、やっぱり好きなんじゃないの」
「だから違うって!」
くそ、この手の話はだから嫌いなんだよ。特に家族に言われるのが一番落ち着かねぇ。
お袋に散々からかわれながら朝めしを食べた後、少し体を休めるために部屋のベッドに身を沈める。
だが体は休めても頭の中はそうでもなかった。
こうして一息つくと親父に言われたことが頭の中でグルグル回る。
唯姫の事、AIWOnの事、アルカディアの事、などなど。
終いに落ち着かなくなった俺は体を動かしてすっきりさせようと疾風迅雷流の道場へと足を運んだ。
数日誰も訪れなかった為、少し埃まみれになっていたので掃除をしてから道着に着替えて体を動かす。
まずは準備運動がてらに疾風迅雷流の歩法を。
その後に木刀を手に持ち改めて疾風迅雷流の歩法を鍛錬し、続いて剣姫一刀流のステップを鍛錬する。
木刀を持って疾風迅雷流の歩法を行ったのは、素手と武器を持った状態では若干歩法に違いが出るからだ。
この時になって俺は現実とVRの体の違いに気が付いた。
短い期間でログインとログアウトを繰り返していればそれほど差があると気が付かなかっただろう。
だけど俺は長期VRダイブをしていた所為か、現実の体がVRの身体の動きに追いついていないのが明確に分かった。
それともこれは俺だけの違和感なのか?
これほどまでに現実とVRの体に差が出れば噂にはなっているはずだ。
いや、他のVRMMOだともっと顕著な差が出ているな。
現実世界と同等の仕様のAIWOnだからこそ、その差が感じるんだろうか?
確かAIWOnでは成長率が100%だったはず。
それも影響しているのか?
考えても答えは出てこない。
取り敢えず俺は現実とVRの体の差を埋めるべく、VRの身体に追いつく様に鍛錬を、足捌きを行い続ける。
その間にも親父に言われたことを元に、俺はこの後どうするべきか考える。
考えては足を動かし、足を動かしては考え、没頭するかのようにただただひたすら動き続ける。
時間の感覚さえも吹き飛ばし、気が付けは夕方まで体を動かし続けていた。
そして考えに考えた末、俺はあることに気が付き目の前が拓けた。
同時に思考と噛み合うかのように体が軽くなる。
――シュタン
軽い音と共に道場の端から端まで一瞬で移動する。
気が付けば俺は疾風迅雷流の奥義・瞬をマスターしていた。
今までAIWOnの中でも瞬もどきを使ってはいたが、今のは紛れもない奥義・瞬そのものだった。
師匠から教えてもらった剣姫一刀流が影響を与えたのだろうか。
それとも悩んでいた答えが見つかったから体がそれに応えたのだろうか。
いずれにせよ俺のやることはただ1つ。
そう、何も悩む必要は無い。唯姫を救う事だけだ。
道場での鍛錬を終えた俺は新たな決意を元に、綾子おばさんの病院に寄って唯姫の様子を見に行く。
唯姫の病室にはおばさんがいた。
「あら、鈴鹿くん。わざわざ唯姫のお見舞いに来てくれたの」
「おばさん・・・ごめん、唯姫を助けるのもう少し掛かりそうなんだ」
「いいのよ、そんな心配しなくても」
おばさんはそれっきり黙っていた。
俺も必要以上の事を話さず黙って唯姫の顔を見つめる。
暫く沈黙が病室を支配した後、俺はおばさんに挨拶をして部屋を後にする。
待っていろよ、唯姫。必ず助けてやるからな。
家に戻った後、お袋と一緒に晩飯を食べ、久々に自分の部屋で睡眠をとる事が出来た。
――2059年5月7日(水)――
「お袋、行ってくる」
「うん、気を付けて行ってらっしゃい」
朝めしを食べた後、今度はちゃんとお袋にも声を掛けて家を出る。
再びICEを訪れて親父の居る研究室へ直行した。
「少しは頭が冷えたか?」
「ああ、十分すぎるほどな」
そう、昨日1日ひたすら体を動かし続けることで頭に上っていた余計な血が下がり、冷静になる事が出来た。
「それでお前はこれからどうするんだ?
ありもしないアルカディアを目指して再びAIWOnにダイブするのか?」
「親父、アルカディアはちゃんと存在するよ」
「ほぅ、その根拠は?」
「Alive In World Onlineを作ったのがArcadia社だからだよ。
Arcadiaってのは確か理想郷を意味する言葉のはずだ。
Angel In事件の真犯人・・・Arcadia社の幹部の野郎どもはAIWOnの中に自分たちの理想郷を作ろうとしてるんじゃないのか? それがアルカディアだと思うんだ」
だからこそ会社名をArcadiaにしたのだろう。
もしかしたらAlive In World Onlineの仕様が現実世界と同等の扱いなのも理想郷に関係しているのかもしれない。
「そしてAIWOnがゲームである以上、アルカディアもその制約から逃れられないはず。
アルカディアと言う世界を創りあげる上でデバックが必要だ。ゲームの外と中からのな。
その為、必ずどこかでアルカディアからの調整用の出入り口、もしくは緊急避難出口が設けられているはず。俺はアルカディアで唯姫を見つけた後、それを探し出すつもりだ」
「その根拠は鈴鹿の想像の範囲でしかないぞ。それが間違っていてお前まで昏睡状態に陥ったらどうするつもりだ?」
「そん時は、外に居る親父に何とかしてもらうよ。
何も俺1人で全部やる必要は無い。外には親父がいるし、中には頼りになる愛さんが居る。
俺がすべきことは周りにいる皆を頼って唯姫を助けることだ」
俺のその言葉を聞いた親父はさっきまでの厳しい表情から穏やかな表情へと変えていた。
「少しは眩んでいた目が見えるようになったか。
そうだ。昨日までの鈴鹿は1人で唯姫ちゃんを助けようと周りを見ていなかったからな」
親父の言葉に俺は昨日までの俺の行動を思い返す。
確かに唯姫を助けようとするのに必死で1人で突っ走っている感が否めなかったからな。
そのせいでAIWOnでは結構な無茶ばかりしていた。
「それが分かっただけでも十分だよ。
ったく、愛の奴それを分からせるために少しばかり無茶な事をしたな? それでそのタイミングで外に出すのも織り込み済みか」
あ~~~、なるほど。AIWOnの中で大怪我をするようなことをして、何でそうなったかをそれを外で気づかせる、と。
分かりづれぇ・・・!
「まぁいい。外の方からも色々調査をして解決策を探している。
鈴鹿は中の方から唯姫ちゃんを探す手がかり――アルカディアを調べてこい。
但し十分用心して臨むこと。いいな。
愛の力を以ってしてもアルカディアの中の世界の全貌が掴めないんだ。行く手段も今のところはエンジェルクエストしか探し出せなかったらしいからな」
「ああ、了解・・・って、おい、待て親父。
アルカディアの中の世界って、親父は初めからアルカディアと言う世界がちゃんと存在しているって分かってたのか!?」
「おっと、余計な事を言ったか」
余計な事をじゃねぇよ!
ああ、くそ。親父の手のひらで踊らされていたのか。
踊らされていたと言うのは正確じゃねぇな。示し導かれたと言うのが妥当か?
・・・まぁ、いいか。流石は父親だとでも言っておこう。
俺はその後、看護師の元――今日は飯塚不二子さんが担当だ――長期ダイブ用に設定されたVR機で再びAlive In World Onlineの世界へと降り立った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
VRMMOによる現実の体感差がある件 その5
153:名無しの検証さん@AIWOn:2058/4/10(木)19:11:43 ID:Ken5h0346B
やっぱりAIWOnがリアルで体感に一番差があるね
154:名無しの検証さん@GGO:2058/4/10(木)19:14:15 ID:sc00perHr86
だね。他のVRMMOだとそうでもないのに何でだろう?
155:名無しの検証さん@VSO:2058/4/10(木)19:16:42 ID:Vi888eRvivip
AIWOnのログアウトの後の一番体に違和感が感じる件
156:名無しの検証さん@AIWOn:2058/4/10(木)19:17:36 ID:ExpL49Ff10
寧ろ他のVRMMOの方があり得ない身体能力だから現実で違和感が強いはずなのになぁ
157:名無しの検証さん@FFO:2058/4/10(木)19:20:29 ID:VR36936Dsk
ログアウト時に体感調整機能を組み込んでいるからだろ?
AIWOnはそれを組み込んでいないらしい
158:名無しの検証さん@DDD:2058/4/10(木)19:22:50 ID:BattelJk810
いや、一番リアルに近いのがAIWOnだからそれだけ違和感が感じるんじゃ?
159:名無しの検証さん@FFO:2058/4/10(木)19:22:50 ID:Ba9New3Kcp
おっぱいが揺れる揺れる
リアルでも揺れる揺れる
一番違和感があるのがAIWOn
ログアウトの後が一番揺れる揺れるwww
160:名無しの検証さん@AIWOn:2058/4/10(木)19:23:36 ID:ExpL49Ff10
>>157 いや、それデマだからw
一時噂になったけどそんなものは存在しないw
161:名無しの検証さん@AIWOn:2058/4/10(木)19:26:43 ID:Ken5h0346B
う~ん、やっぱ158の理由がしっくりくるかも
162:名無しの検証さん@GGO:2058/4/10(木)19:27:15 ID:sc00perHr86
他のVRMMOだとリアルとの動きの差があり過ぎてかえって違和感がないのか?
163:名無しの検証さん@VSO:2058/4/10(木)19:27:42 ID:Vi888eRvivip
>>159 おっぱいの揺れ具合をもう少し詳しく説明して欲しい件
164:名無しの検証さん@AIWOn:2058/4/10(木)19:31:43 ID:Ken5h0346B
AIWOnは現実仕様だからVR世界とは言え一番スムーズに体を動かせるんだよね
それが影響しているのかも
165:名無しの検証さん@FFO:2058/4/10(木)19:32:29 ID:VR36936Dsk
なんだよ、デマなのかよ
まぁ考えてみればそうか。違和感が無いようにしているとすれば頭の中弄ってると同じだからな
166:名無しの検証さん@VSO:2058/4/10(木)19:33:42 ID:Vi888eRvivip
>>159 おっぱいの揺れ具合をもう少し詳しく説明して欲しい件
167:名無しの検証さん@AIWOn:2058/4/10(木)19:34:43 ID:Ken5h0346B
>>165 ちょw それマジだったらシャレにならねぇぞww
168:名無しの検証さん@AIWOn:2058/4/10(木)19:36:36 ID:ExpL49Ff10
やっぱりVRMMOとリアルの体感差を埋めるのはリアルの体を鍛えるしかないのかなぁ?
169:名無しの検証さん@VSO:2058/4/10(木)19:37:42 ID:Vi888eRvivip
>>159 おっぱいの揺れ具合をもう少し詳しく説明して欲しい件
170:名無しの検証さん@VSO:2058/4/10(木)19:39:42 ID:Vi888eRvivip
>>159 おっぱいの揺れ具合をもう少し詳しく説明して欲しい件
171:名無しの検証さん@DDD:2058/4/10(木)19:42:50 ID:BattelJk810
ちょwww どんだけおっぱいwwwwwwww
次回更新は5/3になります。




