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Alive In World Online  作者: 一狼
第2章 Labyrinth
12/83

11.一刃刀とセントラル遺跡と銀竜

 爺さんの右の刀をバックステップで躱す。

 その隙をついて俺の死角から左の刀の突きが繰り出される。

 なんとか体を捻って突きを躱すが、完全には躱しきれずに薄皮一枚斬り裂かれる。


 血を吐きながら刀を振るう爺さんは明らかに動きが鈍っているにも拘わらず、鬼気迫る迫力で俺を圧倒していた。

 そう、爺さんは文字通り命を懸けて俺に剣姫一刀流の訓練をつけているのだ。


 俺の視界の隅ではトリニティに連れてこられたニルちゃんとニルちゃんの父親が爺さんを見て驚いていた。


「ニコおじいちゃん!」


 ニルちゃんが俺達を止めようと駆け出すが、それを父親が止めた。

 父親の方は自分の祖父が覚悟を決めているのを悟ったのか、黙って最後まで見届けようとニルちゃんをその場に押し止めていた。

 当然ニルちゃんは抗議をするが、父親は首を横に振ってニルちゃんに黙って見ているように強いていた。


 爺さんは言った。「ワシを止めたければ力ずくで止めて見せよ!!」と。

 だったら力ずくでも止めてみせるよ。爺さんから教わった最高の技でな。

 爺さんあんたの期待に応えるためにも。

 そして心配そうに見ているニルちゃんの為にも。


 昨日の夜に爺さんから剣姫流の魔法理論を習った際、剣姫一刀流の奥義を教わった。

 剣姫流の攻撃の要は魔法剣だ。そしてその魔法剣を発展させたのが剣姫一刀流の奥義だ。

 この奥義は俺の覚えたての初級魔法でも可能で、決まれば一撃必殺にもなりえると言う。


 俺は爺さんの攻撃を躱しながら呪文を唱えていく。

 まずは火属性魔法のファイヤーボールを。次に水属性魔法のウォーターボールを。

 そうして順次各属性の呪文を唱え、腰に下げた鞘に魔法剣を掛けていく。


 但し魔法を掛ける場所は鞘の内側。剣を収める中にだ。

 魔法剣は『イメージ効果理論』を用いた技術であり、確固たるイメージ次第ではいくらでも応用が利く。剣姫流はその応用を最大限に発揮する流派なのだ。


 俺は7種の初期魔法の魔法剣を唱え終え、爺さんの一刀を躱しながら剣を鞘に収める。

 本来ならこの時点で鞘の中の魔法剣が剣と接触した為発動するのだが、魔法剣の呪文を唱える際にもう一イメージを追加している。

 剣を収めることで鞘の内側に掛かっていた魔法剣を全て纏めて剣に移し替えたのだ。


 この奥義の利点は魔法剣を唱えながらでも剣を使って攻撃や防御を出来ると言う事だ。

 本来の魔法剣は剣に魔法を掛けた時点で攻撃にしか使えないからだ。

 だからこそ輪唱呪文で魔法を1つに纏めて魔法剣を使うのが普通なのだが、この奥義はバラバラに魔法剣を唱えながらも武器を使用できる利点がある。


 返す刀で斬りかかる爺さん目がけて7種の魔法の掛かった居合切りを放つ!


「剣姫一刀流奥義・天衣無縫!!」


 ズガァン!!!!!!


 俺の放った居合切りは、咄嗟に刀を交差させて二刀流戦技・十字受けで防ごうとした爺さんごと吹き飛ばした。

 火水風土氷雷無の7種の相互作用により格段に威力の上がった一撃は俺の想像した以上の破壊力だった。


 って、爺さん無事か!?


 あまりの威力で吹き飛ばされた爺さんに慌てて駆け寄る。


「おい、爺さん大丈夫か!?」


「ごほっ、お主の攻撃ごときでくたばるほど軟な体をしておらぬよ」


 爺さんは軽口を叩きながら何とか体を起こそうとするが、明らかに爺さんの顔には死相が見えていた。


「ニコおじいちゃん!」「ニコ爺さん!」


 ニルちゃんと父親も慌てて爺さんの元へ駆けつける。

 何とか体を起こそうとした爺さんは、ニルちゃん達と一緒に駆けつけたアイさんに優しく膝枕されていた。


「ニコ君、無理はしないで」


「すみませんのう、アイ様」


「ニコおじいちゃん、しっかりして。こんなところで死んじゃやだよ」


「ほっほっほっ、ひ孫や、人は死ぬときは死ぬんじゃよ。それにワシはとうに寿命を超えた犬人(コボルト)じゃ。今まで生きていた方が奇跡なのじゃよ。

 それよりもひ孫よ。ワシの部屋から赤い紐で結ばれた長細い木の箱を持って来てはくれんかのう」


「え? で、でも・・・」


「頼むよ、ひ孫よ。ワシがまだ生きているうちに」


 ニルちゃんは爺さんの心配をしながら急いで宿の方へと駆け出す。


「おい、爺さん。こんなところでくたばるんじゃねぇよ」


 身体が不調にも拘らず俺に剣姫流を教え、尚且つ俺の一撃が止めを刺したとなれば目覚めが悪すぎる。

 そんな俺に爺さんは穏やかな顔で微笑んでいた。


「なぁに、お主の所為じゃない。さっきも言ったように元々寿命だったのじゃよ。

 最後の最後でやっと剣姫一刀流を継承してもらえる者が現れたのじゃ。ワシはついている」


「おいおい、俺が初めての剣姫一刀流の継承者かよ。どんだけ人気がねぇんだか」


 俺の心情を察したのか、爺さんは俺の所為じゃないと言ってくれる。

 そんな爺さんに俺は軽口しか叩けなかった。


「ニコおじいちゃん!」


 そこへニルちゃんが長細い木の箱を持ってきた。


「弟子よ。その箱を開けよ」


 俺は木の箱をニルちゃんから受け取り紐をほどいて蓋を開ける。

 中に入っていたのは一振りの刀だった。

 鞘から柄までが純白の色をしていて唯一鍔だけが鈍い銀色だった。

 抜いてみると刀身も純白に近い輝きを放っていた。


「ワシが若い頃手に入れたユニコーンの角とオリハルコンを掛け合わせて作った一刃刀ユニコハルコンじゃ。

 何、心配しなくてもユニコーンの角は年老いたユニコーンから快く譲り受けた物じゃ。

 ・・・弟子よ、剣姫一刀流の継承祝いじゃ。これをお主に授けよう」


「爺さん。俺はたった2日しか手ほどきを受けてないぞ。これを貰うほど剣姫一刀流を修めたつもりは・・・」


「なに、もう十分剣姫一刀流を名乗ってもいいほどの実力は付けた。まぁワシから見ればまだまだじゃがの。

 後は自分の納得いくまで研鑽を積めばいいじゃろう。

 受け取っておくれ。ワシの最初で最後の弟子よ」


 ・・・そう言われれば受け取らないわけにもいかないじゃないか。


「分かった。ありがたく頂戴する」


 爺さんは満足したように頷く。


「さて、孫よ、ひ孫よ。最後のお別れじゃ。お主たちには最後まで迷惑をかけたの。

 特にひ孫よ。いつもお主には迷子になったワシを探しに来てもらって難儀を掛けたのう」


「ニコ爺さん・・・」


「ニコおじいちゃん、そんなことないよ。迷惑だなんて思ってないよ・・・だから、そんな事言わないでよ・・・」


 いよいよ寿命が尽きようとしていた爺さんの様子を見てニルちゃんは涙を流しながら縋り付いていた。


「ニルや、達者で暮らせよ。

 ・・・アイ様、我が不肖の弟子をお頼みいたします。最後にアイ様にお会いできてこれほど嬉しい事は無かったです・・・」


「うん、私もニコ君に会えて嬉しかったよ。

 ・・・長い間お疲れ様。もうゆっくり休んでもいいんだよ」


 アイさんの声に応えるように爺さんはアイさんに膝枕をしたまま目を閉じ、二度と目を開けることは無かった。


「ニコ爺さん!」


「ニコおじいちゃん!」


「おい、爺さん! ・・・・・・師匠――――――――――っ!!!」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ――AL103年3月22日――


 俺達は爺さんの・・・師匠の葬儀に参加している。

 当初は今日にでも地下迷宮へ出発する予定だったが、流石にこのまま師匠を弔わずに出て行けなかった。


 地下都市コバルトブルーでの葬儀は地上での火葬となっていた。

 木の枠で組んだ祭壇に爺さんの遺体を乗せてそのまま火を付け弔う。

 なんとその火を付ける役割をこなしたのが、『始まりの使徒・Start』こと老竜(エルダードラゴン)のエルディディアルだったのには驚いた。


 何でも師匠とエルディディアルは師匠が若いころからの知り合いだと言う。

 師匠が若い頃冒険者として竜の巣に挑戦した時にエルディディアルに出会ったのだとか。

 そして『始まりの使徒』として始源の森に来たエルディディアルによく訪ねて来たらしい。


 葬儀の全てを終え、俺はニルちゃんと別れの挨拶をした。


「鈴鹿さんは悪くありませんよ。ニコおじいちゃんは貴方に自分の夢を託したんです。

 今思えばニコおじいちゃんは自分の後継者を探してあちこち出掛けていたんですね。

 そんなニコおじいちゃんが最後に貴方に出会えたんです。満足して人生を全うしたんです」


 ニルちゃんは俺が師匠を死なせてしまったと言う負い目を否定してくれた。

 俺が師匠と出会わなければ・・・と考えてしまうが、ニルちゃんの言う通り師匠は最後に俺に出会い自分の編み出した流派を伝えられたので幸せだったのだろう。

 ならば俺は師匠の分まで剣姫一刀流の名を広めよう。


「ニルちゃん、ありがとう」


「幼馴染の人、見つかるといいね」


 ニルちゃんはそう言って地下都市へと戻っていった。


「さてと。改めてエンジェルクエストの攻略に取り掛かろうぜ」


 俺の言葉にトリニティとアイさんが頷く。


「昨日のうちに準備は済ませておいたぜ」


「案内のスペシャリストはセントラル遺跡で待ち合わせだから、このまま始源の森を抜けて来たに向かうわよ」


 俺が剣姫一刀流を習っている間にアイさんは件の人物に連絡を取って待ち合わせ場所を決めていた。

 これから地下迷宮に挑むのだから地下都市で待ち合わせの方がいいのではないかと思ったが、スペシャリスト曰くセントラル遺跡からの方が都合がいいのだとか。


 俺はアイさんと一緒に走竜(ドラグルー)に跨り、2人乗りでセントラル遺跡を目指す。

 ・・・いい加減騎乗の練習をした方がいいかもしれないな。

 いつまでもアイさんと2人乗りだとこれからの旅に支障がでるからなぁ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 セントラル遺跡は100前の大災害時に滅んだセントラル王国王都の名残だ。

 かつて栄華を極めていた王都セントラルには財宝が数多く存在していたと言う。

 今は冒険者たちが粗方発掘していったので財宝はほとんど残っていない。

 それでも未だに冒険者がセントラル遺跡を訪れるのは、隠された財宝があるのではないかと言う噂が流れているかららしい。


 曰く、埋蔵された財宝の地図が見つかった。

 曰く、魔導士協会の跡地に古代の秘術が隠されている。

 曰く、王城跡地の地下に王家の宝が眠っている。


 などなど、冒険者心をくすぐる噂話が飛び交っているとか。


 地下都市コバルトブルーに居た冒険者はこのセントラル遺跡を目指して来ているのも含まれていたりする。


「さて、セントラル遺跡に来たけど・・・どこで待ち合わせなんだ?」


「待ち合わせ場所は中央の王城跡地よ。

 ・・・でもその前にちょっと行ってみたい場所があるから寄ってもいいかしら?」


 王都が栄えていたころには立派な門がそびえ立ってたと思わるが、今俺達の目の前にあるのは朽ち果てた門の残骸だけだ。

 セントラル遺跡と言ってもかなり広いのでアイさんに待ち合わせ場所を聞こうとしたが、アイさんは何やら行きたい場所があるらしい。


「それは構わないけど・・・セントラル遺跡に現れるモンスターってそれなりに強いんじゃなかったっけ?」


「確か盗賊ギルドの情報ではセントラル遺跡に出るモンスターはC級以上って話なんだけど・・・今さらだね」


 情報を集めておいてくれたトリニティにセントラル遺跡のモンスター状況を聞くが、確かに今さらだな。

 ただでさえ戦闘力が突き抜けたアイさんがいるうえ、C級モンスターの居る魔の荒野を駆け抜け、B級の飛竜(ワイバーン)が居る飛竜の渓谷やA級のドラゴンが居る竜の巣を通ってきた俺達にとってはC級のモンスターは今さらだ。


「まぁ周りを警戒しながら行けば大丈夫か。

 それでアイさん、どこに行きたいんだ? 」


「えっと、確かこっちの方だったかな・・・」


 そう言いながらアイさんは走竜(ドラグルー)を遺跡の中に走らせる。


 俺達は南門の跡地から西に進んでいく。

 この区域は住宅地区だったらしく、基礎だけの状態の家もあれば雨露を凌げる程度残っている家もあった。


 途中で遺跡を徘徊するラージスライムやスケルトンと言ったモンスターが2・3回現れたが、アイさんの魔法や俺の剣であっさりと片付けていく。


「ああ、あった。あそこよ・・・って、あれ? 気を付けて、何か居るわ」


 アイさんが目的地を見つけ近づいていくが、アイさんの気配探知に何やら反応があったみたいだ。

 俺達は走竜(ドラグルー)から降りてなるべく気配を殺しながら近づいていき様子を伺う。

 歩を進める中、突如俺達の周りの景色が変わる。


 目の前に現れたのは、朽ち果てている家が多い中で珍しく殆んど原型が止まった家と、その前に佇んでいる巨大な生物――ここ数日で何度も目にしたドラゴンだった。

 しかもその鱗の色は他のドラゴンではあまり見られない眩いばかりの銀色をしていた。


 その銀竜は何とも可愛らしい事に体長10m位の体を丸めて家の前で熟睡している。

 とは言え、相手はドラゴン。下手に刺激して反撃を食らっては目も当てられない。

 俺はどうしようかとアイさんを見たが、何とアイさんは己の姿をドラゴンに晒しながら呆然としていた。


「ちょっ、アイさん! 隠れて隠れて!」


 慌ててアイさんを引っ込めようとしたが、銀竜の方もアイさんの気配を察知したのか目を覚ましてこちらを見つめ返していた。


 ヤバい、このまま戦闘に突入か!?と思われたが、どうしたことかアイさんと銀竜はお互い見つめあったまま微動だにしなかった。


「うそ・・・もしかして、スノウ?」


「クルゥゥゥ」


 アイさんの呟きを聞いて、銀竜はその鼻先を近づけて匂いを嗅ぐ。

 そして何かを確信したのか、銀竜は顔をアイさんに擦りつけてきた。


「そっか、お前も頑張ったんだね」


 アイさんは銀竜の頭を撫でながらその鱗の傷跡を見てそう呟いた。

 よく見れば銀の鱗はあちこちに大小の傷がついていた。

 それはこの銀竜の戦歴を物語っている。


「ちょ・・・銀のドラゴンでスノウって・・・もしかして巫女神の騎獣のスノウ!?」


 隣ではトリニティが驚愕した表情でアイさん達を見ていた。

 巫女神フェンリル・・・この名前どこにでも出て来るな。


「えっと、つまりこの銀竜は伝説の騎竜ってことか?」


「伝説に決まっているだろ!? 巫女神が神の世界に招かれた後その姿を消してしまった幻の白銀騎竜(シルバードラゴン)だよ」


 その幻の白銀騎竜(シルバードラゴン)が目の前に居るって、どういう状況だ?

 と言うか、襲ってこないんだったら警戒する必要は無いのか・・・?


 俺達の存在に興味を持ち始めたのか、白銀騎竜(シルバードラゴン)――スノウはこちらにと言うより俺に向かって鼻を近づけてくる。


「クルォォォォォォォォォォォン!」


 アイさんと同じように匂いを嗅いだと思ったら、突然歓喜の声を上げて俺を舐めまわした。


「うわっぷ! ちょ、なんだ!? いきなり!?」


「うふふ、スノウに懐かれちゃったわね」


 え? これ懐かれているのか?


 アイさんは俺とスノウの様子を見て楽しそうに微笑んでいた。


「・・・なぁ、これってもしかして伝説の騎竜を手に入れちゃったとか、そういう事なのか?」


 俺はトリニティの言葉にスノウを俺達の騎竜として移動手段に使えることに気が付いた。

 スノウが居ればかなりエンジェルクエスト攻略の時間短縮になると言う事に。


 本来であれば野生のドラゴンはそう簡単には人には懐かない。

 騎竜にする為には子竜から育て上げるか、実力を見せて屈服させるかの2通りの方法しかない。

 ましてや七王神である巫女神フェンリルが使役していた騎竜だ。そう簡単には手なずける事なんで出来やしない。

 が、何故か俺にはこんなにも懐いている。

 俺達の騎竜として使うには何の問題もないだろう。

 あるとすれば巫女神フェンリルの神罰?が下らないかくらいか。


「なぁ、スノウ。お前俺達を乗せて世界を回ってもらえるか?」


「クルゥゥゥ!」


 どうやらスノウの方もそのつもりだったのか、快い返事が貰えた。

 これで移動時間は大分短縮されるな。


「そういや、何でスノウはこんなところに居たんだ?」


 新しい仲間が入ったのはいいが、俺はふとそんな疑問が浮かんだ。

 こんな朽ち果てた遺跡の中でスノウは何をしていたんだろう。それに目立つ銀竜が遺跡に居るとなればそれなりに噂も立っているはずだが。


「それは多分、ここを守っていたからだと思うわ。

 この家は・・・巫女神フェンリルとその仲間が住んでいた家よ」


 は? この家がフェンリルの住んでいた家?

 ・・・そうか、スノウはかつての主の家を守っていたわけか。


「それと信じられないことに、この子魔法を使っているわね。

 光属性魔法のルクスミラージュ――周りに幻影を投影する魔法ね。この魔法でこの場所を隠してたみたい」


「なるほど、さっきの景色が変わったのは幻影の内側に入ったからか」


「ちょ・・・ドラゴンが魔法を使うって・・・流石巫女神様の騎竜だな」


 トリニティはスノウが魔法を使っていたことに驚いていたが、『始まりの使徒』の古竜(エルダードラゴン)が治癒魔法を使っていたのでそんなに不思議な事ではない。

 と言うか、お前も一緒に『始まりの使徒』が魔法を使うのを見てたじゃねぇか。


 スノウは顔を俺に擦りつけながら自分の背中に目を向ける。

 ん? 乗れってのか?


「アイさん、スノウの奴乗れって言ってるみたいだな。折角だから1回遊覧飛行でもしようか?」


「いいわね。鞍が無いからスピードは出せないけどゆっくり回るくらいなら大丈夫ね」


 このスノウのサイズだと4・5人は平気で乗れる大きさだ。

 俺達はスノウの背中に乗り大空へと飛び立つ。


「クルォォォォォォォォォォォォォォ――――――!」


 眼下に広がる景色に俺達の目は奪われる。

 北には雪山がそびえ、東には広い平原とその向こうには海が、南には始源の森と遥か彼方に火山が、東には果てしない草原が俺達の目に映っていた。


「スゲェ・・・何だこの景色。都会のビルの森とは違った自然の景色・・・スゲェな」


「凄いわね・・・確かに私たちの世界じゃなかなかお目に罹れない光景ね」


「あんたら・・・よく平気でいられるな。あたしはいつ落ちるんじゃないかって気が気でないんだけど」


 どうやら周りの景色を楽しんでいるのは俺とアイさんだけだったみたいだ。

 トリニティは景色を楽しんでいる余裕は無く、必死でスノウの背中にしがみ付いていた。


 一通り遺跡の上空を旋回して戻ろうと高度を下げていくと、遺跡の南区域の広場で何やら戦闘が行われていた。

 モンスターは1匹、4mほどの大きさ。丸い肉の塊に黒と黄色の縞模様の蜘蛛の足が8本ついていて、上部には十数本の触手、肉塊の中央には縦に裂けた目玉と横に広がる大きな口が付いた、見るからに気色の悪いモンスターだ。

 対するのは冒険者が3人。

 剣士風の男と魔法使い風の男が2人、僧侶風の女が1人だ。

 但し魔法使い風の男はモンスターの触手に捕まっていて、残りの2人は触手の攻撃に翻弄されていた。

 明らかに苦戦を強いられている。


「助けに入るぞ」


 俺が助けることを宣言してスノウを広場へ向けるとトリニティから抗議の声が上がった。


「ちょっ、何で助けるんだよ。明らかに見たこともないやばそうなモンスターじゃないか。

 あたし達にあいつらを助けるメリットなんてないぞ」


「なんだ、トリニティは助ける気は更々ないのか。流石は俺達を罠にはめようとしただけのことはあるな」


「ぐっ・・・」


 俺が嫌味を言うとトリニティは苦い顔をして俺を睨みつけた。

 だがまぁ、トリニティの言う事は分かる。

 人命救助は確かに美徳だが、無条件・無報酬の行いはどこかに歪みしこりが残るからな。

 ある程度自分の中に線引きをしなければいずれどこかで破綻する。


「だが、メリットはあるぞ。

 今の俺達に足りないのは戦闘経験だ。それもザコなんかじゃない、それなりの力を持ったモンスターを相手にした経験が。

 その点、あのモンスターは丁度いい。見た目はグロだがそれなりの強さを持っているんじゃないか?

 人助けはついでかな」


 アイさんは別として、今の俺とトリニティはボスクラス、又は中ボスクラスのモンスターとの戦闘経験が足りない。

 これからのエンジェルクエストの攻略には個人個人にそれ相応の力がいる。だからこそ、少しでも戦闘経験を積む必要があるのだ。


「くっ、分かったよ。でもいいか、やばくなったらあたしは逃げるからな!」


「ああ、それでいいさ。逃げることも立派な戦術の一つだ。

 スノウ、あの広場へと降りてくれ」


 俺の指示に従ってスノウは広場へと急下降する。

 と、その時肉塊モンスターの触手が戦士風の男を捉えようと伸びていた。

 男は触手の速度に対応しきれずに捕まろうとしていた。


 俺は地面にぎりぎりまで近づいたところでスノウの背中から飛び降り、空中で刀を抜き放ち着地をしながら男に伸びていた触手を切り落とす。


「よお、大丈夫か?」


 俺は戦士風の男に向かって声を掛けるが、男は安堵の表情を浮かべたと同時に一目散に逃げて行った。

 隣を見れば一緒に居た僧侶風の女も同じように背を向けて逃走している。


「・・・は? 逃げた? 仲間を置いて?」


「あれが普通の反応だよ。あたし達を囮にして自分の命を守ったんだよ」


 スノウが地面に降り立ち、アイさんとトリニティはスノウから降りて武器を構えながら俺の傍に立つ。


 いやいや、無いだろう。逃げるのはありにしても、仲間を置いていくのは無いだろう。


「・・・何ともまぁ、この世界の命はそんなに軽いのかね」


「鈴鹿の世界の方が恵まれているんじゃないのか?」


 それは言えてるかもな。


「た、助けてくれ!」


 残された魔法使い風の男はナイフで自分を捕まえている触手に向かって攻撃をするも、触手は傷ついた傍から回復していたので自らの脱出は無理そうだった。


 そう言えば俺の切り落とした触手もすぐさま再生されていたな。


 俺達が魔法使い風の男を助けるために動こうとしたが、肉塊モンスターは新たに現れた俺達に目もくれずに捕まえていた魔法使い風の男を横に広がった口に持っていく。


 バクン


 ゴリゴリゴリ、ゴクン


「うげ・・・」


「あ・・・」


 最初に上半身を噛み千切り、そして残った下半身もそのまま口に入れて咀嚼する。

 人が食われる様を見ているのははっきり言ってトラウマものだ。

 しかももう少し早く動けば助けることが出来たのかもしれないのなら尚更だ。


 獲物を食べて満足した肉塊モンスターは縦に裂けた目をギョロリとこちらに向け、次の標的を俺達に定めた。


「2人とも気を付けて。モンスターの対象が私たちに向いたわよ」


 俺はアイさんの忠告に一刃刀ユニコハルコンを構えて迎え撃とうとするが、トリニティは何やら打ち震えて武器を構えるどころではなかった。


「ああ・・・ああああああああああああああああああああああっ!!!」


 トリニティは突如頭を抱えて蹲るとそのまま気を失ってしまう。


「ちょっ!? トリニティ!?」


 慌てて駆け寄ろうとするが、肉塊モンスターの触手が伸びてきて俺の行く手を阻む。


「鈴鹿くん、トリニティを安全なところに避難させるからそのモンスターを引き付けて!」


「了解!」


 俺はそのまま肉塊モンスターの触手を一刃刀で斬り落としながらトリニティから距離を取る。

 その隙にアイさんはトリニティを抱えて後ろで警戒していたスノウの元へと避難する。


「おら! てめぇの相手はこっちだよ!

 ――ファイヤーボール!」


 触手を打ち払いながら弱点と思わしき縦に裂けた目を狙って火属性魔法の火炎球を打ち出すも、別の職種によって打ち払われる。


「ギョギョギョギョギョギョ」


 肉塊モンスターが気持ち悪い声を出したか思うと、目の周りに光の輪が現れる。

 そして光の輪はそのまま小さくなっていき、一点の光となりそのまま一条の光を解き放つ。


 カッッ!


「目からビームだとっ!?」


 俺は慌てて疾風迅雷流の歩法で横に避ける。

 俺の横を通り過ぎた目からビームは広場にあった残骸に焼け焦げた穴を開けていた。


 なんつー威力だよ・・・


「鈴くん前!!」


 よそ見をしていた隙を突かれ目の前に1本の触手が迫っていた。

 俺は紙一重で頬をかすりながら避けるも、もう1本死角から迫っていた触手に左腕を絡め取られる。

 肉塊モンスターに引き寄せられるのを踏ん張り、お互いが綱引き状態で膠着する。

 その間にも触手の鞭が俺を襲うが、身動きが取れない状態では存分に剣姫一刀流を発揮することが出来ない。


 ・・・いや、ならばこの状況を利用するまでだ。


 肉塊モンスターの目玉が弱点なのは間違いないだろう。

 目からビームで弱点をカバーしているのもその根拠の1つだ。


 俺は素触手を打ち払いながら早く呪文を唱える。

 そして左腕を引っ張る触手を利用して一気に肉塊モンスターの懐へ飛び込む。


「剣姫一刀流・氷弾閃牙!」


 俺のアレンジアイスブリットの魔法剣と刀戦技の突き技・戦技を剣姫流のジャンプステップで放つ技だ。


 一気に懐へ入った俺に対応できず、肉塊モンスターは目玉を貫かれる。

 と同時にアレンジアイスブリットが肉塊モンスターを突き抜けた。


「ギョギョギョギョギョギョッッ!!」


 どんな構造をしているか分からないが、明らかに致命傷の一撃だ。

 左手の触手の拘束が緩んだ隙にバックステップで距離を取る。


 だが肉塊モンスターは目玉をやられたにも拘らず、目玉の前に光の輪を展開させる。

 しかもその数、5つ。


 一気に光の輪が一点に集中し、5つの光の点は螺旋状になりながら目からビームを解き放った。

 バックステップで着地した瞬間を狙われ躱すことが出来ず、さっきのビームよりも極太の目からビームが俺を襲う。


 直撃すると思った瞬間、突如目の前に現れた人物によってビームが斬り裂かれた。


「ん、モード剣閃三日月(クレセント)

 ――刀戦技・五月雨:集」


 助けてくれた人物は、ついこの間あったばかりの俺が知る人だった。

 俺は思わず助けてくれた人の名前を叫ぶ。


「美刃さん!」






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 Alive In World Online攻略スレ689


653:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:01:44 ID:Flee9S2leeKc

 セントラル遺跡マジパネェ!


654:アミシュ:2059/5/5(月)18:02:32 ID: Am3Sh6sh

 ん? どうかしたの?(o'ω'o)モキュ?


655:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:04:10 ID: bla510Pls10

 ああ、セントラル遺跡は結構辛辣だからな


656:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:05:24 ID: lizer00GndM

 あそこのモンスターも意外と面倒くさいよな

 スライムとかスライムとかスライムとか


657:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:06:45 ID: HkOj33sSn

 セントラル遺跡は危険度C級だからね

 意外ときついよ?


658:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:08:31 ID: AYa20Kwii

 >>656 スライムどんだけwww


659:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:09:44 ID:Flee9S2leeKc

 セントラル遺跡で肉玉の合成獣と戦ったんだけど強ぇのなんの、てんで敵わなかったw

 通りがかりの冒険者が助けてくれたけど仲間置いて逃げちゃったテヘペロ


660:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:10:10 ID: bla510Pls10

 ・・・・・・・・・


661:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:11:45 ID: HkOj33sSn

 ・・・・・・・・・


662:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:12:26 ID: AYa20Kwii

 ・・・・・・・・・


663:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:13:54 ID: Ca9seR69

 ・・・・・・・・・


664:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:14:44 ID:Flee9S2leeKc

 え? 何でみんな黙るの!?


665:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:16:32 ID: HkOj33sSn

 あーあ、やっちゃった・・・


666:アミシュ:2059/5/5(月)18:02:45 ID: Am3Sh6sh

 うん、やっちゃったね・・・(ノ▽≦;)アチャー


667:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:14:44 ID:Flee9S2leeKc

 え?え? やっちゃったって何!?


668:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:15:33 ID:gI11z2DHr

 それトレイン行為だぞ


669:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:16:54 ID: Ca9seR69

 それだけじゃないぞ

 仲間を見捨てるって人間としても駄目じゃないか


670:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:18:32 ID: HkOj33sSn

 他のゲームとは違いAIWOnはあの世界でも『生きている』んだからね

 人として間違った行為は咎められるよ


671:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:20:44 ID:Flee9S2leeKc

 え? だって仲間もプレイヤーだから大丈夫だろ?

 1か月かかるけど、プレイヤーは死んでも後でキャラ作り直しできるって話だろ?


672:アミシュ:2059/5/5(月)18:21:45 ID: Am3Sh6sh

 擦り付けられた人は冒険者ギルドに報告するだろうね~ロックオン!!(`・д『+』


673:怒り新人:2059/5/5(月)18:22:03 ID: EVA2014Srd

 逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ


674:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:22:55 ID: eRleNAaD4

 下手をすれば盗賊ギルドの刺客が放たれるかもしれないですね


675:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:24:10 ID: bla510Pls10

 死んでも大丈夫って考え自体がAIWOnでは駄目なんだよ

第一、死んだ奴が生き返ったら天地人がパニックになるだろ?


676:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:25:26 ID: AYa20Kwii

 そうね、死んでキャラを作り直しする時は前のキャラの人間関係をリセットしてプレイするのが暗黙の了解になってるね


677:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:26:44 ID:Flee9S2leeKc

 たかがゲームで何で咎められるんだよ?


678:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:27:33 ID:gI11z2DHr

 天地人にしてみれば「何言ってんのこいつ?」になるし、プレイヤーが死んでも生き返るんだと分かれば気味悪がられるからなぁ

 実際そうなったプレイヤーも居るし


679:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:29:32 ID: HkOj33sSn

 たかがゲームと言っている時点で間違ってるね

 AIWOnはたかがゲームじゃないんだよ


680:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:31:24 ID: lizer00GndM

 AIWOnはプレイヤー同士だけじゃなく天地人=NPCとの繋がりも大事なんだよ


681:名無しの冒険者:2059/5/5(月)18:32:54 ID: Ca9seR69

 「異世界で生き残れ!」がキャッチコピーのゲームだからね

 命が1つしかないゲームなんだよ


682:怒り新人:2059/5/5(月)18:35:03 ID: EVA2014Srd

 死んじゃだめだ死んじゃだめだ死んじゃだめだ死んじゃだめだ死んじゃだめだ







次回更新は3/5になります。

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