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おじいさんと一緒に

2話投稿ですので、前の話をとばさないようお気をつけください。


「えへ、おひさしぶりです」


なんとか計画が立って、お久しぶりのおじいさんのお庭に来てしまいました。


「なんじゃ、お前か」


竹の棒を持って体操をしていたようです。

かいた汗を手ぬぐいで拭いています。


「いまさらですが、水月沙良といいます」


「うん、本当にいまさらじゃな。私は正人まさとだ。好きに呼べ」


「じゃあ正人さん。私は沙良と呼び捨てにしていただければと思います」


「ふん、水月でええじゃろ。名前を呼ぶのは好かん」


なんででしょう。

名前を呼んでもらえないことにひどくガッカリしてしまいました。


しかし、こうして立っていると正人さんは非常に背が高いですね。

おじいさん世代の方は身長が小さい方が多いように思いますが、その中で目立ちそうなくらい高い身長です。190cmくらいあるのではないでしょうか。


上に大きく仰け反りそうになりながら正人さんを見上げていると、手ぬぐいで汗を拭き終わりさっぱりしたのかチラリとこちらを見下ろしてきました。


「今日はましな顔じゃな」


「はい」


笑顔で返事ができます。


「だから、今日は約束どおりもう一度将棋を挑みに来ました」


縁側でまたパチパチと将棋の音が響きます。


今度は私が劣勢になってしまいました。


「うーん、予告通りになぶり殺しにされてしまいそうです」


情けない顔でしかし、負けなれているので、どんどん王を脱出させていくと、あっという間に詰んでしまいました。


「まいりました」


「ふん、わざとなぶる趣味はないわ」


またしてもニヤリとするその笑みに、妙な迫力と色気を感じてしまいます。

赤くなってないかな、と思わず頬を押さえてしまいました。


段々と夕方が寒くなり、秋の気配がします。

風通しのいい縁側に少し寒くなって震えてしまいました。


「女子が体を冷やすのはいかん、何も持ってないんか?」


眉をひそめた正人さんは部屋の奥からひざ掛けを持ってきてくれました。


「子供を生む体だ。大切にせんといかん」


パサッと放り投げられたひざ掛けをありがたく使わせていただきながら、しかし少し反論したくなりました。


「ありがとうございます。でも、男女差別だと思います」


正人さんは、またしてもフンと鼻をならすと、堂々と言い放ちました。


「差別してなにがわるい。女子は子供を生むよう体のつくりが違うんじゃ。産む産まないは関係なく、男は守り、いたわらにゃならん」


「でも、学校では男女平等って習いました」


「それは嘘じゃ。違うもんは一緒にはならん。なんでもかんでも公平に分け合うのは間違いじゃ」


「でも、女性だって働いて1人で生きていけるようになってるんですよ」


「知っとる。よう知っとる。もしかしたら男より稼ぐのもおるかもな。それでも男は守らんといかん。」


うーん、頑固ですね。

でも、こんな風にひざ掛けを渡されて大切にされるのは、心がふわふわして幸せな気分になります。

子供のくくりに入れられつつも、女性として大切にされるとどこか自尊心がくすぐられて気持ちいいです。


でも、そう思いつつも納得しきれなくて、顔をあげて聞いてみました。


「私は守られるだけなんて嫌です。自分の力を試してみたいです」


その言葉に、破顔して、今までないくらい笑い顔を見せる正人さんがいました。


「おう、飛べ飛べ。自由に飛べばええ。落ちてきたら拾ってやるから飛んでこい。この間から羽ばたきたくてしょうがない雛のようじゃ。飛ぶ時期がきたんじゃな」


うーん、よくわかりません。


「それは、守ってるんですか?」


「女子だからと籠に入れて自由を奪いたいわけじゃないわい。自由にすればええ。それを守れるかどうかはそばにおる男の甲斐性しだいじゃな」


そう言うと、さらにニヤリと笑って付け加えました。


「甲斐性のある男をつかまえれるかはお前さんしだいじゃが」


悪戯っぽく笑うその顔が少年のようで、ドキンと心臓が高鳴るのを感じつつ、むぅっと頬を膨らませました。


「捕まえれなかったら誰も守ってくれないんですか」


平凡な私に本気の恋愛で将来捕まってくれるような男性がいるとも思えず、不公平な気分でいっぱいです。


「そんときゃ、この老いぼれが死ぬまでは守ってやろう」


頭をぽんぽんと子供扱いされることがすごく嫌で、でも台詞が嬉しくて、切なくて。

なんとも言えない気持ちになってしまいました。





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