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出会い




小学4年生になりました。


亮君とユリウス君はあっという間に身長が伸びていき、今は見上げないと視線があいません。


今回初めて、京ちゃん、みっちゃん、茜ちゃんとクラスが別になってしまいました。

ユリウス君とも離れて、亮君だけです。

仲のいい女子が側にいないのは非常に寂しいです。


みんな、ますます美人になってきて、それに伴い人気もすごいことになってきています。

私に対する風当たりはますます強くなり、しかし、みんなの目のあるところでは何もされなくなりました。

その分、1人のときを狙って悪口をこれみよがしに言われたり、うわばきに画鋲が入っていたり、机に花瓶が置いてあったりとだんだん巧妙な手口になってきています。

そうなると、犯人がわからず、反省文も書かせようもありません。


周りの友人たちはどんどん過保護になり、それに伴い、いじめも激化し、と負のスパイラルに陥ってしまっております。


うーん、困った。


友人のサポートがあるから踏ん張れていますが、それでも悲しい気持ちや憤りを感じないわけではなく、毎日心の綱渡りです。


今までのノートから対策を作ってみたのですが、実行するには踏ん切りがつきません。


私一人では到底実行できるものではなく、しかし、今でも充分にかばわれている私がこれ以上みんなに負担をかけてもいいのでしょうか。


ここで転校しちゃおうかな、とそろそろ逃げる算段をしたりもして、でも、素敵なお友達がいる小学校にもう少し通いたい。そんな気持ちに後押しされるように今日も小学校に通っていたそんなある日。


亮君の家でボールを投げて遊んでいたら、小さいお家にボールが入っていってしまいました。


「あちゃ、とってくるねー」


「沙良だめだよ。あそこはおじい様の家だから近寄ったら駄目なんだよ」


「えー」


そうはいってもお気に入りのボールです。

亮君には内緒でこっそり取りにいくことにしました。


面倒くさいので、がさがさ茂みをかき分けて一直線に走っていくと縁側で将棋をしているおじいさんがいました。


「なんじゃ、お前は」


こちらを見て、のっそりと立ち上がった姿はまるで野生の獅子を思わせる威圧感があり、老いてなお、日本人とは思えないほど高い身長に鍛え上げた体にはほどよい緊張感がみなぎっています。

後ろに撫で付けた白髪に似合わないほど野生的な黒い眼光にたじろいで後ろに一歩下がってしまいました。


「り、亮君の友達です。ボールをさがしにきました」


亮君のお父様の威圧感が赤子に思えるその空気に声が震えてしまいます。

しかし、おじいさんは片眉をあげると、


「なんじゃ、そうか」


と、また将棋に戻り、そのとたん、重苦しかった空気がふっと元に戻りました。


「探していいですか?」


「すきにせい」


片方の手をひらひらとふると、もうこちらを見ようともしません。


ボールを発見してもどっても、将棋だけをずっと見て考え込んでいます。


「おじいさん」


「なんじゃ」


「一緒に将棋しませんか?」


そこでやっとこちらを向いてくれました。

おじいさんは昔はかなりの美形だったのでしょう。でも、皺としみがあるその顔は、年齢を積み重ねたことで、ただ美しい顔ではなく、苦労や自信や優しさや、そんなものを感じさせるものになっています。

視線があったことが嬉しくて、なんだか心がほわほわします。


「できるんか?」


「それなりに、ですが。でも、相手がいたほうが楽しいですよ」


「じゃあやってみろ。弱かったらやめてもらうぞ」


縁側にあがりこんで、棋板の前に座ります。 

前世でたしなみ、現在パパと毎週末にうち、それなりに勉強しているのでなんとかなるんじゃないでしょうか。


パチ   パチ    パチ


駒を進めていきます。

意外なことに勝ってしまいそうです。


「おい、なんでとどめをささんのじゃ」


えぇ、さっきから明らかに駒は多くなってきているし、相手の王はどんどん追いやられているというのに終わりません。


「じ、実はいつも負けてるので、勝ち方がわかりません」


情けない顔をした私を思いっきり笑って、おじいさんが言いました。


「しょうがない、勝てるまでやってみろ」


うまく指せない私につきあって、じわじわとなぶり殺しに付き合ってくれました。


「また、遊びに来ていいですか?」


ものすごく長引いた対局のあとで聞いてみます。


「次はなぶり殺しにしてやる」


にやっと笑った顔に、しばし見惚れてしまいました。






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