♯7 体育祭ですか。②
特別教室棟は1,2階を各教科の研究室、3階を生徒会と風紀が使っている。1、2階フロアにはそれぞれ食堂、アリーナへと続く渡り廊下があり、休み時間の人通りは絶えなかった。
食堂へと向かう生徒たちの声が反響する1階。本日、その一番奥にある魔法工学室は俺ことタツミ・セガワ親衛隊初顔合わせ兼昼食会で、食堂にも負けぬ賑わいを見せていた。
「セガワ先輩はこの席に座ってください!もちろん隣は隊長です!」
「あ、ありがとうございます」
「じゃ、失礼して隣もらいますね。左隣は副隊長ね」
「えー!俺は隣のテーブルでいいですよ」
「どうせ萌えのためでしょ、副なんだから」
「そうだよテラ、せっかくなんだから座っとけよ」
「役得腐男子め」
にやにやしながら生徒たちがテラの脇を小突く。隊長や副隊長と役名はあっても、関係はただの友達のようだった。変に上下関係があるよりずっとよさそうだ。
結局押しに負けてテラは俺の隣に座り、エイナも右隣に落ち着く。と、他の生徒達も空いた席に落ち着いた。
6人掛けの6つの机がほぼ埋まるほどの人数。1.2年生が主体の俺の親衛隊は、俗にチワワと呼ばれる類の生徒から、たっぱの広い生徒までさまざまだった。俺より身長高いのもいるしあれでネコだったら……いやありか?母さんはタチ×タチが好きだったし。ちょっと……想像しちゃうと気分悪いが。
雑談しながら各自持ってきた弁当やパンを食べる。雑談といっても顔合わせなので、一人一人簡単な自己紹介をしてくれた。一気に名前を覚える自信はないけれど、せっかく俺の親衛隊なんて作ってくれたわけで、覚えられるよう努力はしようと思う。カタカナ暗記って結構苦手なんだけど。
一通り自己紹介をされると、最後にテラとエイナが立った。
「俺達はこの間自己紹介させていただいたので割愛しますね。エイナあとよろしく」
そう言ってテラは座り、チョココロネを真っ二つにした。
「私から、親衛隊結成に至った経緯を説明いたします。セガワ様も不思議そうでしたし」
エイナは優しそうな微笑みを俺に向けた。それは、ぜひともお聞かせ願いたい。そう思い、はいと返事をすると、彼は笑みを濃くした。
「入学当初からかっこいいなって理由で親衛隊結成の動きはありました。本当は人気投票が終わった時点で非公認親衛隊はあったんです。セガワ様は風紀に入りましたし、私達がお守りするなんておこがましいと思い、公認は見送っておりました。しかし、新入生歓迎で、いろいろ噂が立ちましたよね。私達は噂は気にしていませんし、真偽がどうあってもそれは変わりません。ずっと陰で見守ってきたので、セガワ様が本当にお優しい方だと言う事を私達は知っています。今、セガワ様の周りは不安定です。下世話は噂を真に受けた者たちが動くかもしれませんし、セガワ様を悪者にしようとするものが出てくるかもしれません。このタイミングで公認届を書いていただいたのは、そう言ったことからセガワ様を守りたいと言う、私達親衛隊の意志です。私達に、セガワ様の学校生活を守らせていただけませんか?」
エイナの瞳はまっすぐに俺の瞳を射抜いていた。
守らせて下さいなんて、始めて言われた。イ―ズが俺を守っているのとはわけが違う。きっと、単純に組み手をしたら俺が勝つような相手で、一人じゃ自分を守るのも精いっぱいなこんな可愛い人が、強い意志を持って俺を守ろうと言ってくれている。楽しく学校生活を送るため、俺を守ってくれると言う。
俺は胸が苦しくなると同時に、どこか悔しくて、鼻の奥がつんとした。
気にしてくれることが嬉しくて、この学校に受け入れられている気がして、噂も、関係ないと言ってくれて。本当に嬉しいのに、そんな決断が出来ることを羨ましく思う。
すごいな、と、俺は素直に彼らを尊敬した。
俺を見下ろすエイナに、視線を合わせるように立ちあがる。身長の問題で俺の方が少し高い目線になってしまうけど、ちゃんと同じ高さで言いたかった。
「俺は人に頼りまくって生きているような人間です。風紀に入っても自分一人守れなくて助けてもらってしまうし、噂だってなんの対処も出来なくて、みなさんみたいに気にしないと言ってくれる人の言葉を支えにしているような状態です。ですから、皆さんの好意は本当にありがたいです。だから、俺からお願いさせてください。守るとか、そんな皆さんの負担になりたくはないですが、きっと一人じゃ俺は耐えられないから。俺の友達になってくれませんか?」
頑張って皆さんの名前覚えます。そう言って隊員皆の方へ頭を下げた。
きょとんとするエイナさん。テラも、パンを口に運んでいた手を止めている。くりっとした瞳や細められた瞳。さまざまな顔が、俺を見ていた。
俺がかっこいいと思って集ってくれた人たちにこんな姿を見せたら、幻滅されちゃうかな。そう思うも、結局小心者が俺の素なわけで、堂々と威張ってることなんて俺には出来ない。だから、どうせなら俺の素を見せて、俺と接してもらおうと思った。
頭の片隅で無理にしまった引き出しから出てこようとする影もあるけれど、今は考えたくない。
室内がわっとどよめいた。それは歓声に近い。高い声から野太い声までさまざまで、声をあげた彼らは、みんな一様に笑顔だった。
受け入れてくれた。そう思って、いいんだよね。
頬に熱が集まった気がするのは、きっと嬉しいから。俺はちょっとはにかんで「よろしくお願いします」と、もう一度頭を下げた。
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毎週更新を目指している今日この頃……なかなかうまくいかない