♯6 友情ですか。⑥-終-
あけましておめでとうございます。
遅い挨拶となってしまいました。
昨年はこの小説にお付き合い下さり本当にありがとうございました。
神箱を書き始めて三度目の年越しとなりました。
今年も、どうぞよろしくお願いいたします。
タオルを肩にかけてシャワールームを出た。誰もいない体育館はしんと静まり返って、真冬の夜中のような冷たい寂しさすら感じた。
訓練場に置いておいた荷物類を取って、その後はどうしようかと思案する。教室に戻る気にはなれないし、多分、そろそろ昼休みを知らせるチャイムが鳴るころ合いだ。どうせもうサボっているわけだし、このまま帰ってしまうのがいいかもしれない。そうしよう、と一人ごちた時、丁度よくチャイムが鳴った。早めに体育館を離れなければ、ボールを持った血気盛んな生徒たちがやってくるだろう。こんなところに一人でいたと知れればまたいらぬ噂が立ちかねない。俺は速足に一方通行の渡り廊下を渡って行った。
昇降口は教室棟とは真逆の方向にある。しかし廊下自体は直線に通っているため、後ろ姿は向こうからでも見える。後姿だけで俺と分かる奴なんてそれこそナザ達ぐらいだろうが、それでも俺は足をゆるめず、小走りに廊下を急いだ。
呼びとめられたのはそんな時だった。
「セガワ様」
階下へ降りる階段の脇、丁度俺の右手側に声の主はいた。
栗色の髪をボブにした、一見すれば女の子のような小柄の生徒。アイラインでも引いているのか、大きな眼の端が少し青かった。もう一人、白髪の少年。こちらは平凡な高校生然とした体格と顔をしていた。
僅かに笑みを浮かべて、振り向いた俺を見据える二人。俺は不意のことに戸惑い、見つかってしまったことに狼狽した。
また、変な噂が立つのだろうか……?まず、この二人は一体なんだろう。
「うっわほんとイケメンっすね―!!やっぱ王道転校生とは違うけど、俺非王道も嫌いじゃないし、いや待てよ?イケメン転校生って王道か!?」
「ちょっとテラ、しょっぱなからそれじゃ失礼でしょう!ごめんなさいセガワ様。こいつ思ったことすぐ口に出しちゃんうんです。気にしないでやってください」
「うん!気にしなくって結構ですよ!俺なんて気にせずにそのまま生徒会口説き落としてください!」
口説いてるつもりはないんだけど。どうやら腐っているらしい平凡君はしゃべると犬歯が目立った。それがちょっと可愛いな、なんて思ってしまったのは長く他人と触れ合っていなかったからなのか、この世界の業に浸食されてきたのか。多分両方だろう。
仲良さげな二人は犬歯君がテラ、栗毛君がエイナと名乗った。
やっぱり、友人って大切だ。この二人のようにふざけ合えるような友人は、きっと簡単に手に入らない。俺はまた逃げてしまったから。もう一度手に入れるためには、いったい何をすればいいのだろう。もうあの4人の輪には戻れないのだろうか。
「セガワ様?」
いつの間にやら思考の内に沈んでいた。暗い表情でも浮かべてしまっただろうか、エイナが気遣わしげな表情を浮かべていた。見ていられなくて、目を伏せる。
「いえ……あの、俺に何か?」
「そうそう!俺達セガワ先輩の親衛隊作りたいんです!許可お願いしまーす!」
そう言ってテラが1枚の紙を差し出した。そこには確かに、親衛隊創設希望届けとある。
「親衛隊?俺にですか?」
頷いた二人から紙を受け取り、良く見てみると既に人数は1クラス分は超えている。
え?まじで?だって親衛隊ってランキングに入る様な人達にしか……入ってましたね俺、ランキング。あまり気にとめてなかったけれど、確か総合で10位だったとアセラが教えてくれたっけ。
でも、噂までたっているような俺にまたなぜ……。
「サインさえいただければいいんですけど、創設、許可していただけますか?」
「あ、えっと……サインね」
俺はあたふたと肩から掛けていたカバンからペンケースを取り出した。シャーペンを手に取り、壁を机代わりにサインしようと思い、手を止める。やはり、気がかりだった。
「なんで、俺の親衛隊なんて作ろうと思うんですか?」
え、と二人は首をかしげる。その様に俺はさらに首を傾げてしまった。
「そりゃ、セガワ様に惚れた奴らが多いからですよ。隊長みたいに人として惚れたり、恋愛感情で惚れたり、そう言う子らが多けりゃ親衛隊は出来ます」
「惚れ……えと、そうじゃなく」
「噂なら、気にしていませんよ。どうせホラがほとんどでしょうから」
「ってゆーか本当でも俺は構わないけどね!訳ありとか大好物ですからね!!でもわけあり主人公はやっぱり巻き込まれだとも思うわけです!とゆう訳で巻き込まれからのラブを是非!!」
「うっさい!」
「いやこればっかりは止まらない!」
「自重しろ!全く失礼な」
「いつものことじゃん、やーねーエイナったらー」
「いつもだから頭が痛いの……すみませんセガワ様、ほんっとうに、こいつのことは気にしないでください。空気中の二酸化炭素くらいの扱いでいいです」
「え!?吐き出される方!?」
「ふっ」
一寸吹き出して笑ってしまうと、そろって二人がこちらを見た。驚いて震わせた肩がピタリと止まる。笑わない方がよかったですかね……?
恐る恐るとテラの方を向けば、彼は目を逸らす。白髪に埋もれた耳が赤かったのはどういうことだろうか。俺なんか変なことした……のかなぁ。俺は首を傾げ、今度はエイナを向いた。彼は既に俺を見ておらず、ふわふわの栗毛がうつ向けられ、つむじが俺によく見える。
「やっぱりかっこいいですね……憧れだけじゃ済まなくなりそうです」
エイナはぱっちりおめめを、まるで光を見るかの如く細めて言う。うっとりとした様子は儚げで、俺は一瞬どきりとした。
「イケメン転校生×可愛い系親衛隊長……否、逆か?」
黙ろうか腐男子君。
色のつきかけた空気が一言で壊されたと同時に、ポーンと校内に音が響いた。連絡用のチャイムだ。『呼び出しをします』としゃがれた声がして、禿の担任の声と気がつく。
『2-Cタツミ・セガワ、今すぐ理事長室に来て下さい。繰り返します――』
「え……」
俺?ってか校長いたのに理事長もいるのか?
「理事長って誰も見たこと無いって」
「俺一時理事長室見張ってたけど、人の出入りさえ無かったぞ」
驚きと疑問を半分ずつ浮かべた顔で二人は言った。いろいろつっこみたいのだが、どうやら俺は急ぎ行かなければならないらしい。その旨を伝えて紙を渡せば、
「では後日、教室にうかがいます。隊員たちと顔合わせしていただきたいので。よければ昼食を共にしてもかまいませんか?」
「理事長に会えたらぜひ情報を!」
とそれぞれ言われたので苦笑して頷いて返した。
この呼び出しで噂に拍車がかかる気もしたが、新たな出会いに浮かれて、頭の外に追いやった。
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