♯6 友情ですか。⑤
短いです。
放射される湯が体を打つ。心地よい程度の温度で、俺は気持ちよさに息を吐いた。項垂れた後頭部に当たった湯は、重力に従って俺の顔面を流れてゆく。自然と下を向く目線。腰かけた木製のおけについた己の手を見つめる形になって、心ならずも思い出された炎に身震いした。
噂が簡単には消えたりしないことは良く分かっている。以前、つまりこの世界に飛ばされる前にも噂が流れる事はあった。あの時は一人でいることを苦痛と思わなかったし、規模だって学年の生徒の一部とかで多くは無かったし、何より内容が取るに足らなかった。しかし、今は違う。大切にしたい友人がいる。噂は全校生徒にまで及び、内容だってもしも肯定的に取られた場合、俺はこの学校にはいられない。弁解をすれば余計怪しまれるだろうと予想できる俺は、いったい何が出来るだろう。このまま時間が解決するのを待つ以外に、俺は何もできない。
「でも、まぁ」
俺が実はネコだとか、そっちの噂の方は弁解しても害はなさそうだと思う。寧ろ何も言わないのもおかしいだろう。ただ、もう一つのこの間の件との関係があるから、俺は何となく何も口にしなかったし、周りも俺を倦厭した。その倦厭のおかげで今言い寄ってくる輩がいないのだとト―レは言っていたが、実際そんな人いないのではないだろうか。だって、俺だぞ。この、コミュ力0で平凡顔の。まぁ、奇特な奴がいた時のために、ネコ疑惑は払拭しておく必要がある。ノンケですって宣言すればいいのだろうか。ノンケって言葉あるよな?
体もあったまったところで、俺はそろそろ上がろうかと腰を上げる。シャワーのコックを絞り、掛けておいたタオルを手に取る。黄緑色のバスタオルで顔面を覆った。
ト―レが噂を信じず、俺を信じてくれたことが嬉しかった。噂だけじゃきれない繋がり……のようなものを見つけた様な、俺にとっては本当に新鮮な感覚。もしかすると、ナザやレントも噂に関して、ト―レのように俺を信じてくれていたりしないだろうか。俺の秘密が原因の溝だけれど、独断で打ち明けられる秘密ではない。それを、きっと彼らは分かってしまった。あの時の俺の態度は、明らかに尋常じゃなかっただろうから。
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