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閑話⑧

初のナザ視点。必要な人でやってるから一定にできない(汗

翌日から、タツミは俺達から距離を取った。否、俺達も取ってしまった。無かったことに出来ない程、俺達がタツミを傷つけてしまったのは、悲しいくらいに明確だった。

震える肩とうるんだ瞳を見た。事件のあったとき、あれほどまでに凛々しく立ちまわった彼とはかけ離れた、ひどく弱々しい姿。無理をしていたのだ。そう気が付いた。気がついて、余計にタツミを苦しめるモノを知りたくなった。自分に出来る事があるならしてやりたい。守ってやりたい。苦しめるモノが許せない。自分を、信じて欲しい。全ての気持ちが高ぶって、結果としてタツミのことをちゃんと考えてやれなかったのだ。なんて俺は馬鹿なのだろう。

そんな自責だけが積もる。それは俺に限らず、アセラもレントも感じているように見えた。俺とはきっと、少し違うのだろうけれど。

はぁ、とアセラがため息をついた。鬱々とした気分の中、生徒会の仕事をしているが、奈何せん、集中できていないようだ。その証拠に、ため息はこの30分で10回以上に上る。俺とレントも似たようなもので、生徒会室のソファを陣取って、物思いにふけっていた。生徒会の奴らには悪いが、アセラの仕事もあるしタツミに出くわすのも忍びないので、最近は入り浸らせてもらっている。正直殆ど物音のしないこの部屋は今の気分にはちょうどいい。

はぁ、と今度は俺がため息を吐きだした時、唐突に会長が席を立った。静かだった空間が威圧感を漂わせる。俺はけだるげに、近寄って来たディルを見上げた。

「……なんですか」

 じっときつい視線を向けられ、俺は渋々と口を開く。勝手に居座ってこのセリフも何様だと言うところだが、ディルだし、構うものか。昔からこいつは常識というものがないから、きっと大して気にとめないだろう。分家の長男と本家の跡取りという間柄から、俺もディルもお互いあまり好いていないのだ。

 対して見上げる俺にディルは眉根を寄せ、あからさまにむっとした。そして口をへの字に曲げ、開いた。

「言っておくが、俺たちだって気になっている。変な噂だって出ているしな。しかしだからと言って――」

「ちょっと、かいちょーさん噂って?」

 対面のソファに座っていたレントが身を乗り出した。彼も、俺と同じ部分に反応したらしい。その様にディルは僅かに驚きを見せ、そうしてアセラを見やった。こちらを凝視するアセラに、ディルは知らないのか?と呟く。

「たぶん……気まずそうで誰も君たちには言えなかったんじゃないでしょうか?」

 椅子を回し、副会長が言った。つまり、

「タツミの、良くないうわさが出てるって事?」

アセラの問いに、ディルは重々しく頷いた。

「発信源は分からんが、この間の一件がタツミが招いたものだという噂が広がっている。タツミが招き入れたと、そう言った風にな。転入してきて間もないし、あいつは目立つから、そう言う噂はすぐに回る。しかもどんどん尾ひれがついて、タツミが校舎を壊しただとか、どっかの国のスパイだとか、良くない組織に属しているだとか……もっと突飛なものをあったな。そんな具合で、タツミは今好奇の目で見られているだろう。多分、あいつも気がついている」

 俺は息をのんだ。そして、その噂があながち、間違いばかりでないことも察した。この場にいる全員、それは分かっているだろう。

「タツミは、被害者だと思うのですが」

 意を決して言えば、ディルはまたむっとして、口を引き結んだ。そうだそうだ、とレントが俺に続く。私もタツミはきっと巻き込まれただけだと思います。と副会長も述べた。絶対、理由があるのだ。話せないと、ひどくつらそうに言わねばならない程の理由が。

 その場がしんと静まり返る。なぜかディルが口を閉ざして、またもや威圧を醸し出していた。彼の存在は大きい。ギュッと口を閉め、眼光を下に向ける様は、何か大事なことを秘めているようにも見えて、自分が今口を開くことが憚られた。たっぷり2分は経った頃、ようやくディルが大きく息を吐きだした。

「炎を見たのは、この中で何人だ」

 重々しくも言ったのは、そんな言葉だった。その場にいたほとんどが、へ?と首を傾げる。

「炎?グラウンドを焼いたってゆー?」

「窓から、少し見えたけど」

「俺も」

「私も、燃えているのは見えました」

「俺らは職員室行ってすぐテレポートしちゃったから」

「……あぁ」

順に、レント、アセラ、サナ書記、副会長、またレントで俺。

「では、皆使用者は見てないんだな?」

「……襲って来た奴らじゃないんですか?」

 副会長の訝しげな問いに、俺は嫌な予感を感じずには居られなかった。はっとしたうるんだ瞳と焦げたカバンが脳裏をかすめる。確かにあの時、タツミは無意識にしていたようだった。

 アセラとレントも思い当ったようだった。二人の顔色が、僅かに悪い。

「ヒラクは見たか?」

 ふと、ディルがそれまで一言もしゃべらずにいた人物へと話をふる。俺は少し驚いて、話をふられた銀髪の彼を見た。全身から色気を放ち、まるで少女マンガの貴公子然とした気品を漂わせる、美麗な男。今までいたことを忘れていたなんて信じられない程、一度気がつけば引き寄せられる。不思議な男だ。因みに少女漫画が例えにでるのは姉と妹のせいである。

 ヒラク・ステレーナ会計はディルの問いに、椅子を回してこちらを向いた。

「炎は見たよ」

「そうか、お前、あの時見なかったからな。どこにいたんだ」

「ここにいたよ。たしかほら、イズミから頼まれて資料取りに」

「えぇ、頼みました」

 副会長が言うなりディルはそうか、とだけ呟く。

「クラウも同じだろうな、そうか、見てないか」

確認のように口にした言葉は、俺に重くのしかかった。生徒会の面々は分からないとばかりにディルを訝しむ。

「何か、思い当たることがありそうだね?」

 小首を傾げ、俺に言葉を投げたのは会計だった。メガネの奥の瞳を細め、俺を見据える。その瞳をそのままに、レント、アセラへと瞳を向けた。

 俺はきゅっと口を引き結んだ。違うと思いたい。しかし、タツミの力の大きさは一度見た魔法の実習からもうかがえた。材料は十分だった。しかし、言葉にするのは憚られた。そうして俺が渋っていると、正面からぽつりと声がした。

「タツミ……」

 言うな。

「俺は見た」

 ばっと顔を上げた。凛とした声音で言ったのはやはりディル。こいつは知っていて言ったのだろうから、驚くことはないはずなのに、駄目だった。真実と見せつけられているような芯のある瞳は、俺ではなく、声を発したレントを見ている。

「あいつが、炎を操るのを見た。そして制御できなくなるのを見た。女が……敵が怯えて、去るのを見た」

 部屋が沈黙に包まれた。受け止められず、目を俯かせたり、見開いたり、みんなさまざまだが、一様に信じられないようだ。もちろん俺も信じたくはないが、嘘ではないことは明白だった。

 でも、それだけがタツミの全てじゃない。

「俺はタツミが怯えているのを見た。そのあと俺達を庇って立ち向かっていく姿も……話せないと、辛そうに歪めた顔も見た。タツミが炎を起こしたのだって、絶対俺達を守ろうとしてのことじゃないか」

タツミだから、なんだってんだ。彼が炎を起こしたからなんだと言うのだ。

直接言葉にしなかったそれらは目の前のイラつく男には伝わっただろうか。追い出すなんて言ったら許さない。

が、それは杞憂に終わった。

「あいつの秘密、知りたくないか?」

 にやりと口元を笑ませ、カーティス家子息兼生徒会長はそう言った。


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