閑話⑦
辰巳がやっと登校してきたその日、風紀室では、ケイと俺――ダンテ・アルベールが眉間にしわを寄せていた。俺達の目の前には、いつか捕まえて数日の謹慎とパンチを食らった、ヘラリとした笑みを浮かべる生徒。その生徒は一枚のカードを持っていて、それが俺達を悩ませていた。
「……つまり、お前はそのカードに従ったと、そう言いたいのか」
「はい。まぁ、従ったのは俺の判断なんで、責任とかそういう事言われると弱いんですけど、でもこのカードもらわなければ俺は手ぇだそうなんて思ってませんでしたよ。好みでしたけど。まぁ、胡散臭かったんで一人じゃやりませんでしたけど」
紅色の、折り畳まれたカード。開かなければラブレターにも見えるそれには、ラブレターのように可愛らしいことは書いていない。
「そして、お前は今回もその指示に従ったと」
そう言った生徒は得意げで、俺はいら立って睨みつけた。そうすれば生徒は肩を態とらしくすくませる。全く、こう言う奴は苦手だ。
俺が手に持った二枚目のカード。全く同じ柄の折り畳みのカード。はい、と返事をする生徒に、俺は大仰にため息をついて見せた。
「他に知っていることは?このカードの送り主に心当たりは?」
「さぁ、わかりません」
「ちっ、ならいい、もう帰れ。カードはこちらで預かる」
失礼しました、と閉まった扉を見送ってから、俺は盛大にため息をこぼした。
「なんだってこんな……」
「これ、なんか……企んでる」
「だろうな」
ケイはソファにどっかりと腰を下ろし、いつもはすぐに手に取るお菓子に目もくれずに考え込む。考え始めると途端に動かなくなることは知っているから、俺は気にせずに自席へと腰を下ろした。考え込んでしまうのは俺も同じだ。
片手で、預かった二枚のカードを開く。そして俺は眉根を寄せた。何度読んでも不快な内容である。
『2-Cの転校生タツミ・セガワが明日の放課後生徒会より学校案内を受ける。生徒会を騙れ。そうすれば彼は君のものになる。――なお、このカードのことは他言しないように。他言すれば君には天罰が下る』
『カードのことを話せ。――タツミ・セガワはこの学校の害になる』
もう一度読み終えて、俺は不快感にブラックコーヒーを煽った。生徒が訪ねてくる前に作ったそれはぬるい。喉に絡まって、無性に叫びたくなった。
始めの一枚目は頭に来る内容だが、まず置いておく。問題は二枚目だ。最後のフレーズが気になる。
『タツミ・セガワはこの学校の害になる』
まるでこの間の一件について何かを知っているような記述。生徒には辰巳が何かしら関わっていることは知られていないはずだ。不審な気配が校内に現れた時点で、一般生徒はテレポートで一時避難場所である少し離れた国立公園に避難させたのだから、何があったかも、殆ど知らない生徒ばかりなのだ。生徒会と、一部の風紀、そして辰巳の友人、それがあの時あの場にいたすべてのはずだった。そうではなかったのだろうか?疑問は俺を駆け廻る。避難した風紀委員や学級委員に人数の確認をさせたが把握している以外の欠落はなかったと記憶しているのだが。
はぁ、と何度目か分からないため息が漏れる。さっきの生徒は何も言ってはこなかったが、確実に辰巳に疑問は持ったはずだ。そこから広がって、余計に辰巳が帰ってきにくい環境になってしまう可能性もあった。ただでさえ彼は責任を感じているのだから。
一先ず、この件は辰巳に話した方がいいだろう。最後の一文を除き、襲われたのは誰かの計画によるものだと言う事だけ。ただ、今話すのは憚られるか……会って、決めよう。
俺は席を立ち、辰巳のクラスに向かった。
そうして既に辰巳が帰ったことを聞き、気まずそうな顔をする彼の友人たちを目にしたのだった。
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