♯5 神の子ですか。④―終―
唐突に魔法の講師が増えた翌日。
俺は5日ぶりの校門をくぐった。結局長く休んでしまい、その間に学校の修理は完了したらしい。
久しぶりの校内を歩く。廊下ですれ違う生徒達の態度は依然となんら変わりが無かった。俺は実際に目にして初めて安堵の息をついた。
登校するのが怖かった俺だが、アニマさんの元へと送られてくる学校の情報のおかげで、あの出来事がどう処理されたのか、学校に行く前に知ることが出来たため、こうしてやって来た。実際俺が校庭を灰にしたのを見ていたのはダンテさん、クラウ、会長だけで、問題になるのは会長だけである。よって、一般生徒にはあの出来事を「不審者の侵入」と言う事で伝えてあるらしい。もう解決したとも。しかし、ナザやレント、アセラはマリモが俺の名を口にしたことを知っている。俺がひどく怯えたのも知っている。何せナザにすがってしまったのだから。
ナザ、レント、アセラ。彼らになんと言って説明すればいいだろう。いっそ全てを話してしまえば……納得してくれるだろうか?俺を遠ざけてしまわないだろうか?
また俺は一人になるのだろうか?
臥せっていた時に恐れたこと。
ずっと一人でいた頃はそれが常だったから、それでいいと思ってあきらめた。一人でも寂しくなかったから無理して求めなかった。
でも、知ってしまった。
友人の温かさを。楽しさを。大切さを。
人と関わることの大切さを。
一回知ってしまったらもう一人には戻れない。
俺は教室の扉の前に立った。この扉を開けたら彼らがいる。
彼らはどんな顔をするだろう……?
浮かんだ想像に、俺は大きく首を振った。
考えても仕方がない。思い切って扉を開けた。
ざわついていた教室がしんと静まる。クラスの誰もが俺を見ていた。
まさか、広まってしまったのだろうか。俺は肝を冷やした。足がすくんで前に進めない。いくつもの瞳が棒立ちする俺を刺した。
「タツミ―ん!!」
「!?」
突然俺めがけてタックルをかますレント。それに続いて、ナザとアセラも棒立ちだった俺の元にやって来た。三人とも一様に、嬉しそうな表情を浮かべて。
あれ、いつもと変わんない?
「風邪はもういいのか?」
「う、うん」
「よかった」
「タツミん顔青くなーい?ほんとにだいじょーぶ?」
「うん」
「そう?」
「怪我は治ったのか?」
「だいたいは……」
「おまえ無茶すっから」
「タツミ、場所変えない?ちょっと話があるの」
迫る二人を割って入ったのはアセラだった。彼はクラスメイトを一瞥して見せる。談笑に戻ったと見せかけ、ときどきこちらを窺う彼らには俺も気がついていた。怖いから、よそ見をして居たかっただけで。
レントが言ったように、俺の顔はまだ青いのだろう。
頷いて見せるとアセラは苦笑を返した。話とは、なんだろう。
場所を変えるといってもホームルーム前の時間はそう多くはない。結局はあまり使われない突当りの階段の踊り場に4人移動した。
けれど、3人はなかなか口を開かない。話があるのではなかったのか?いや、話はあるのだろうが言いにくいことであるのか。
やはり、この間のことだろうか。それしかないか。気にならない方がおかしいし、わだかまりのあるまま付き合うには彼らはいろいろ見てしまった。
失いたくはない。でも、話せもしないんだ、俺は。
「……話、って?」
いつの間にか距離が出来るのは嫌だった。俺と関わって危なくなるかもしれないというのは事実であると思う。俺は、陛下の命令でここにいるけれど、あんなことがあっても留まっているのは俺の我儘だ。学校や友人のことを考えたら、俺は自分からでも通わない道を選べた。陛下は俺を責めないから、何も言わないけれど。
アセラは目を泳がせる。レントも気まずそうに言葉にならない音を吐いた。
「俺達には、話してくれないのか?」
口を開いたのはナザだった。険のある口調と共に深い群青が俺を見下ろす。
何か隠しているのか?とか、そう言うのじゃなくて、俺が何かを隠していることを確信した言葉。俺は目を見開く。唇が戦慄いた。こめかみが熱い。学校に、来なければよかったなんて、こっちに来てから始めて思った。
「な、なにを」
「とぼけるな」
ごまかせない。
言えないのに、言わないと納得しないといった気迫をナザは放っている。
「俺は、何も……っ」
背が壁にぶつかる。両の肩を押さえられて、俺は壁に押さえつけられた。
「ナザ!」
レントの焦った声が聞こえる。
俺は不安と混乱と、絶望に似た感覚に身を固める。パニックになりそうだ。
あの力を使えば全部吹き飛ばせるのかな……?
「タツミ!」
「!」
はっとした。見れば、持っていたカバンが一部焦げている。
俺は、今なんて考えた?
「ぁ……」
「やっぱり、何か隠してる。ねぇタツミ、あの緑色の髪をした男は何?タツミを狙ってるの?どうしてタツミが狙われるの?答えてよ!」
アセラが俺の服を掴む。
血の気が引いている。蒼白でうろたえる俺は、彼らの目にどう映るのだろう。
「い、えない……」
呟く。
「言えない……ごめん……」
もう、彼らの隣にいられない。
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