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閑話⑤


「何なんだ、あいつは」

 砕けた窓から見下ろす先、地面を焦がした炎の終息しつつあるグラウンドを、俺とダンテはまさに目に焼き付けるように見つめていた。

 激しい攻撃の止んだ隙に『雷壁』を解き、状況把握とグラウンドを除いた時にはすでに、あいつは体中から殺気を放ち、全てを焦がしていた。一体、何があったのだ。あいつの標的とする女も見えたが、此処だけ見れば完全に悪者はあいつだ。

 あいつ、タツミ・セガワといったか。あのセンサスさんが護衛しているという、謎の多い転校生。

 ただでさえ目を引く容姿を持ち、それを自覚せず、俺が遊んでやろうとしたら足を踏むほど乱暴で、ついでにその乱暴さを買われて風紀に入った今年一番の話題の人物。疎いと噂で聞くほどだから、自分がどのように生徒達から思われているかなど気にも留めていないのだろう。ファンクラブ設立に時間はかからないと聞く。

 だが、今回のことは彼の印象をがらりと変えるだろう。

 少なくとも、俺は変わった。

 あいつは危険だ。とんでもない魔力量を有し、それをうまく操れずにいる。むしろ、今のあいつは力に溺れているように見えた。

「ディル」

「なんだ」

 ダンテは俺の方に目も向けず、俺と同じように倒れ込んだ奴を見ている。

 こいつは何か知っているな。態度とか全てがそう物語っている。ポーカーフェイス気味だがロボットではないのだ。小等部からの付き合いだ。そのくらいは分かる。俺がこいつの正体の片りんを知っていることも理由にあるが。

「今回の原因が辰巳だと言ったら、お前はどうする」

 さすがに俺も驚いた。原因。そこまで言えてしまうのかお前は。

「それは俺としてか、それとも?」

「お前としてで構わない。会長としてなら言われなくとも分かる」

 確かに、会長として一生徒に責任を押し付ける事は出来ない。たとえあいつが原因でも、あいつ自身が引き起こしたことではないのだから。

なら俺は?そんなことは決まっている。俺はこの仕事が自分にあっていると思ったから選んだんだ。

「対応はかわらねぇよ、会長としても俺としても。ただ、俺はあまりあいつをよく思っていないからな、始めから。理由を知りたいとは思うが」

「そうか」

 話す気はないということか。お前の口が軽くないことは重々承知だが、俺に一文の得もないことは癪だな。

「てめぇ、どこまであいつのこと知ってんだ」

「なんだ?よく思っていない奴のことを知りたがるのか?」

「はっ、またこんなことがあっちゃたまんねーからな。原因はその根源から排除してやりてぇんだよ」

「それは無理だ」

「なんで」

「お前一人でやるってか?無理だ」

 ダンテは無表情を態と崩して嘲笑う。

 頭に来るんだよその顔。

「やってみねぇとわかんねぇ」

「無理だ。宮廷騎士が手を焼く程なんだぞ。会ったんだろ?」

「!なんで知ってんだよ」

「とりあえず、辰巳の件には首をつっこまないことが最善だ」

「てめぇはつっこんでんじゃねぇか」

「そっち関係なんだ」

 はっとして、俺は息をのんだ。

 それは、つまり、そう言うことなのか。

 喉は詰まってそれ以上の言葉を発さない。

 俺はお前の役割の、ほんの一部しか知らないが、俺は身を凍らせたのを今でもしかと覚えている。あまり考えたくないと思うほど。

 ダンテは俺が昔のことを思い出したのを察したのだろう。

 悲しげに笑んで、爪先の向きを変えた。嘘偽りのない表情だった。

「あとはお前に任せる」

 そう言って、ダンテは俺一人をこの場に残して出て行った。あいつのところに向かうのだろう。俺には何も話さずに。

「ちっ」

 蹴りあげた壁の破片は、ひび割れた鏡を砕いた。


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