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♯4 新歓ですか。⑧

戦闘突入。




ついったーはじめました。

更新報告します。

→プロフィールから飛べます。


 ピン、と気が張り詰めた。

 それはほんの一瞬のこと。俺の特性ともいえる第六巻と、鋭すぎる感性が何かを告げた。

 しかし、それは一体何だと言うのか。

 ほんの一瞬のこと。今はもう感じない。

「どうした?むっずかしい顔して」

「いや?俺そんな難しい顔してたか?」

 心配してくれたようだが、ナザには悪いが言えることでもない。

 俺はすぐに顔に出てしまうようだから気をつけないと。

「後何分だ昼休憩」

「えーっと、20っ分近くあるよー。このままだべってよっかぁ―」

「それがいいな。疲れた」

 そう言ってナザは大きく伸びをした。レントも階段なのに寝そべっている。背中痛くないんだろうか。

「セガワ先輩。俺達はそろそろ戻りませんか?」

「もうか?」

「もっちょっとゆっくりしてきなよ―」

 軽やかな動作で立ちあがり、ト―レはモデルの様に腰に手をあてた。全く、様になるから美人は。

 ナザとレントを見ていると自然と頬が緩んでしまう。アセラを混ぜた4人でいるのが最近は当たり前だけど、この世界に来る前の俺には友達と呼べるような人がいなかったから、今の幸せが身にしみてわかる。

 俺はこの世界に来るべきだったんじゃないだろうか。

 ……や、もしかすると、俺が変わったのかもしれない。

「レントそれじゃおばさんだよ」

「ひどっ」

「俺達は仕事ですからね」

「そうだなー、……うん、そうだね」

 まぁ、休憩だからと言って安全だとは言えないし。俺は頷いて腰を上げた。

 その時、

「辰巳!」

「「「「!」」」」

 渡り廊下の方から誰かが俺の名を叫んだ。誰かは声からなんとなくわかるけど……ほら、やっぱり。

「ダンテさん」

「委員長?どう、したんですか息切らして!?」

 予想に違わず、俺達の元まで駆け寄って来たのは風紀委員長であるダンテさんだった。肩で息をしているということは相当走って来たようだ。思うに彼の担当である校舎裏の林辺り(道場のあるところ)から走って来たのではないだろうか。休憩だからと言って持ち場から遠く離れる事はないのだから。そう考えると、余計何事かと思うのだが。

「何か、あったんですか……?」

 胸騒ぎが大きくなる。

 ダンテさんが血相を変えて走って来るほどの何か。

 しかも、俺の元へ。

 これは一度感じたことのある怖気。……どこでだっけ。

 息を整えたダンテさんは、きょろきょろとあたりを見回し、俺に向き直った。

 まだ僅かに肩が上下している。

「今のところ、大丈夫のようだな……」

「ダンテ先輩。どういう意味ですか」

 レントもナザも腰を上げ、俺とト―レ同様神妙な顔つきで彼を見据える。ダンテさんの顔色も険しい。

「侵入者だ。一瞬、大きな魔力を感じた。この下の階だ」

 俺達は一斉に息をのんだ。さっき感じたのはそれだったのか。

「それでここに……」

 ト―レが苦々しく呟いた。おおかた気がつけなかったことを自責しているのだろう。俺も感じている。

 しかし、さっきのがこの下と言うことは、こう姿を見せてもいいころだが。それとも下の階にまだ居るのだろうか。この棟から出るには、二階の渡り廊下を通る以外には窓くらいしかない。俺達はずっと階段にいたから、上に上がっていないことは証明できるな。やはりまだ下か。第一、一度魔力の放出を感じているということは、何らかの魔法を使ったということだ。一体何を……?

「いったんここから離れる。危険人物かどうかの特定が先だ。幸いまだ一階にいるようだしな」

「いや、その必要はないぜ」

「「「「「!?」」」」」

 ぞわりと背筋を悪寒が伝う。

 階下からの声。聞き覚えがある気がする。とても、決定的な場面で。

 俺達の視線が一階へと続くそこに集中する。俺よりも背の高いなぜの影から、コツコツという足音が近づいてくるのを待つ。

 頭が見えた。特徴的な緑色の。

「――っ!」

 冷汗が噴き出す。知らず拳を固く握っていた。

 コツコツと、響く音ですら俺の恐怖心を刺激する。

「ちゃんと、危険人物だから」

「……何者だ」

 俺達と同じ高さで、自らを堂々と危険人物だと名乗るのは、間違いなく俺をこの世界に連れてきたマリモ男。つまり、あの『黒蝶の騎士』のメンバー。

 なんで、このタイミングで……?

 イ―ズの話では半年は絶対に安全なはずじゃなかったのか?そんな短期間で儀式の準備はできないからって。でも、今ここにマリモはいる。

「何者って。そうだなぁ、悪者でいいや」

「お引き取り願いたいのだが」

「素直に聞くと思うか?お前は何か、偉い立場の奴か?俺はある程度暴れないといけないんだけど。そいつの前で」

 すっと指された人差指の先、俺はマリモと目があった。

「「え?」」

 ト―レとレントが俺を向いた。びくりと大げさに震える。体が石の様に重く感じる。俺、こんなに恐れてたんだ。

 ぎゅっと目の前にいたナザのシャツを掴んだ。

「タツミ?」

「大丈夫……じゃなさそうだな」

「ナザ、レント。二人は辰巳を連れて離れろ」

「それは困るな」

 声と共に、マリモが消えた。刹那の衝撃。俺の体は吹き飛ばされて、真横にあった教室のドアを押し倒した。

 蹴られた。

「がっ、けほっ」

 目でとらえられなかった。

 酷い鈍痛が体中を襲う。が、立てない程ではないだろう。

「っ!このっ」

「やめろ!敵わん!」

 ト―レをダンテさんが制す。確かに、これは異次元だ。確かにト―レも強いけれども。彼は魔法がからっきしだと言っていたし。マリモのこの速さは魔法を巧みに使っている。加速と……多分姿隠しを一瞬。

 頭が回る様になって来るのを感じて、俺は立ち上がる。さっきの恐怖は、対面した衝撃からのものだったようだ。まだ怖いけど。さっきよりはいい。体もちゃんと動くし頭も働く。

「タツミ!」

「だいじょーぶ!?」

「先輩!」

「なんとか」

「おーおー、さすがに丈夫なこって」

 マリモはにやりと口元を歪め、俺との間合いを詰めようと加速した。大した距離の無い二点。が、拳は宙を殴る。

「!?、へー」

 俺はさっきまでマリモのいた場所へと足を止める。俺だって加速くらい使えるわ。

「ト―レは生徒会室、ナザとレントは職員室に」

「っ、わかりました。行きましょう!」

「くそっ」

 ダンテさんの指示で三人がその場を離れる。俺はわずかだが胸をなでおろした。

 こいつは完全に俺が目的で来ている。巻き込みたくない。ダンテさんだって。本当は巻き込みたくないが、俺は一人でこいつの相手が出来ると思えるほど自意識過剰ではない。絶対に瞬殺(殺されはしないだろうが)される。また、攫われた羞恥プレイになるかもしれない。それだけはごめん被る。

「辰巳。いけるか?」

「はい」

「まぁいいわ。これでもいいだろ」

 マリモはその細い体をふらふらとしならせ、空中の一点で左手を止めた。まるでそこに何かがある様に。

 空間から火花が飛ぶ。

 俺達の見ている前で、何もないはずの空間から一本の槍が姿を現す。

 あれか、換装って奴の一種か?もちろんRPGの知識なわけだが、イメージ的にはあってる。異空間に入れといて必要な時に出すあれ。

 顔には出してないが、内心だいぶ驚いている俺に対し、ダンテさんはいたって普段通りに見える。眉間には谷が出来ているが。

 重厚な銀色の槍をその重さを感じさせる音で振り回しつつ、マリモはにやりと俺達に気色悪い笑みを向けた。

「おめぇらは素手か?なんか出してもいーんだぜ?」

 おちょくっているようにしか見えない。

 が、俺が素手でやるのは不利だ。何せまだ怪我が完治していないし、さっき一発食らってて肉弾戦はきつい。俺はふっと体の力を抜いて、魔力を込めた。俺も槍でも出すとするよ。

「棟」

 小さく呟く。同時に集結し凍結する大気中の水。

 あっという間に、俺の手には氷でできた鋭利な槍『氷槍』が現れた。

 うん。なんか水漂わせなくっとも出来た。上達したなぁ、我ながら。

「へー、さすがは『神力箱』」

 言うな馬鹿!!ってかこの単語って有名?え?どうなの?

 ちらりとダンテさんを窺うも、視線はマリモに集中しており、表情が変わった様子もない。

 もしかするとあまり有名じゃないかもしれない。いや、ダンテさんは聡いから、敢えて聞かなかったことにしてくれているのかもしれない。まず今はこんなことを考えている場合じゃないな。

「お前は生かす」

 ぶんと突き出された銀の槍は俺の目と鼻の先。

 びびった。

「お前は保証しない。もっと派手に暴れなきゃいけないし、俺」

 俺と同じくらい目と鼻の先でも動じないダンテさん。

 保証しないって、殺しにかかるってことか?そんな。

 こいつは俺のせいでここにいるんだぞ?

「ざけんなっ!」

 俺は駆けだし、腕と同化させた『氷槍』をマリモに向けて一閃する。バックステップで交わされる。俺は何度も斬りかかった。実際、俺はただ無暗に刃物を振り回すアホと同じ状態だったのだが。

 頭が真っ白で、目の前の敵に当たらないのがどうしようもなくもどかしい。それしか考えてなかった。

 くそっ、後一メートルも無いのに、なんで当たらない。

「ぬるいな」

 マリモの声が遠くに聞こえた。

「っ、ぐぁ……!」

 鳩尾を押しこまれる感触。

 マリモの槍の柄が、俺の腹を押し上げていた。突かれ、吹き飛ばされる。

 ガシャァァァァ

 窓ガラスをも砕く衝撃を乗せ、俺の体は二階から落下した。

 背を打ち付ける感覚を感じないまま、俺は意識を手放した。


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