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閑話②

サイドアウトの閑話二つ目。

 どことなく重苦しい空気が蔓延するそこは、いかにも怪しい洋館だった。館を取り囲む薔薇や針葉樹がより一層不気味さを醸し出している。周辺に家らしいものはなく、一面に森が広がっていた。

 その洋館の中。

 紫の髪と瞳を持つ青年は、一人紅茶を飲みながら書物を眺めていた。蛇の様に繋がった文字の書かれた書物に目を走らせ、端から理解していく。傍から見てもそれが分かった。それほどに丹念な動きだった。

 ふと、文字からその瞳が外れた。

 そうして息を吐くようにふっと笑うと、書物を閉じた。

「どうかした?」

 よく通る声で語りかける。

 失礼します、と声がして、部屋の扉が開いた。

「計画の件ですが」

「あぁ、もう明日なんだね。で、何か確認するようなこと、ある?」

 心を弾ませているのだろう。青年は楽しげに見える。

「いえ。ただ……いささか早急に思うのですが?」

「そう?」

 青年はその整った要望に笑みを浮かべる。決していい意見ではないと言うのに、青年はその表情を一切崩さなかった。

「彼はまだ未熟です。力を操れていないし、引き出せてもいない。ある程度引き出せるような便の緩まった状態じゃないと、私達の目的は達成できないでしょう?ですから、私はこの時期に仕掛けるのはそう急に思えます」

 持論を悠々と述べる来客に対し、青年はなおも笑みを崩さなかった。

 そうして、一呼吸おいて、青年はフフっと声に出して嗤った。

「少し勘違いをしているよ」

「勘違い?」

「そう。僕はまだ彼から力を取る気はない。未熟なのは僕だって承知さ」

「ではなぜ?」

「顔を見たくなった、じゃ理由にならない?」

「なっ!?」

 客人は大仰に驚いた。それもそう、組織から数名を出したやる計画の一部が、リーダーとはいえ、一個人の私的な感情によるものではたまらない。しかし青年は、冗談だよと言って笑い飛ばした。客人はその様に僅かな苛立ちを覚える。しかしこれがこの人の素だと言うことを知っているため、考えることを放棄した。

「状況確認、かなぁ。どの程度成長したか、彼の周りの環境、性格、全てを考慮しておかないとこれからの作戦は組めない。これからが繊細なんだから」

 青年はふふっとまた楽しげにほほ笑んだ。

 客人の表情がすぐれなかったことに、青年が気が付かないはずもなかった。敢えて気に留めなかった。

 そうして作戦は決行される。


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