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♯4 新歓ですか。①

「タツミ……」

「あ、ケイ。ひさしぶ、わ!」


 入室早々がばっと抱きついてきたケイを何とか受け止めて、風紀委員室の端による。中に入ると、1年生から3年生まで十人前後の生徒が集まっていた。これも、昨日招集を受けた集会のため。集会をするというのは年に数度しかないそうで、もちろん俺は初参加。だから知らない顔ばかりで、ケイがいてくれてほんとよかった。人見知りはまだ治ってないんだよ。

 って言うか……。


「ごめんケイ、離してもらっていい?」

「なんで……?」


 この大きなワンコさんさっきからずっと抱きついてるんだけど。いや、初めてじゃないけどね?風紀室に来ると居るから、その度に抱きつかれるから慣れてるんだけど。……昨日の傷が痛いかな。


「ちょっと怪我してんだ。だから、いい?」

「わか、った……ごめん」


 そう言うとケイはあからさまにしゅんとして、首に巻きつけていた腕を解いた。なんかほんとにワンコみたいだな。……確かそんなジャンルがあったような気がする。無口だし、ぴったりだ。物語の中で主人公が気にいるのも分かるな。なんか、ほっとけないもん。

 俺はちょっとばかり背伸びして、くしゃくしゃとケイの頭を撫でた。ケイは気持ち良さそうに目を細めてされるがまま。黒い天パの髪の毛は思いの外柔らかくて撫でてるこっちも気持ちがいい。

 と、ケイが撫でていた俺の腕を掴んだ。驚いて彼に目を向けると、赤く光る瞳とぶつかった。半眼の紅は真剣に俺を捉える。


「けが……ダイジョブ?……聞いた」

「……」


 聞いちゃったんだ……。まぁ、そうだよね。風紀委員だもんね。でもあんま知られたくなかったな。めっちゃくちゃかっこ悪いじゃん。

 てか、ケイさん。あなた知ってて抱きついてたのね。


「……大丈夫だよ。ある程度直してもらったから」

「そっか。……よか、った……」


 ケイはそう言って柔らかく笑った。うん、その顔は癒しだ。

 昨日はあの後、迎えに来たイ―ズに連れ帰られて説教されて、そのあと来たメリッサ先生に治してもらった。完治とはいかないまでも、明らかに骨に何らかの異常があっただろう個所や、大きな傷はかすり傷程度に軽減されている。さすが高等魔法使い。

 念のため三日間は修行をお休みにすると言ってくれた。ほんとにお二方には迷惑かけっぱなしだ。


 ……ヒラクさんの言葉を聞いたときに思った、イ―ズ達の役に立てないかどうか。今のままじゃ何もできないと再確認してしまった。

 どうすれば、いいんだろう。

 周囲のざわめきが止まった。

 見回すと、みんな一点を向いて立っている。隣のケイも同じように視線を合わせていた。


「みないるな。確認はとらない。居ない者へは近くのクラスの者が連絡するように」


 風紀委員長であるダンテさんは、いつも座っている専用の座卓の脇で声を上げた。

 どうやら集会を始める様だ。俺は頭を切り替えた。


「去年いた奴は分かると思うが新入生歓迎会についてだ」


 そう言うと目を落としていたプリントの束を前の方にいた生徒に渡す。一人一枚ずつ取って、最後に俺達のところで丁度なくなった。

 俺はそのプリントに目を落とす。


『新入生歓迎会についてのお知らせ』


 実施の日付は明後日。そう言えばアセラがそろそろだって言ってたな。というか、なんだかこういうプリント懐かしい。これで、文面に魔法って言葉がなければ特に。ん?魔法?


「この辺では有名だから一年生も聞いたことがあるかもしれないが、うちの学校では魔法使用を基本とした競技をする。今年も例年同様ケイドロをするそうだ。風紀は参加せず規定に反した魔法使用がないかの見回りをする。詳しくはプリントを見ろ。これで説明は終わりだ。解散」


 は?は、え!?

 ぞろぞろと生徒が出ていく中、俺はその場に固まっていた。

 驚きが大きすぎる。プリントと今聞いたことを延々リピートしてがん見する。

 え、魔法使うの?俺もうまともに使えんのかな?いや、若干違うな。俺攻撃系の魔法しかまだまともに使えない。で、何。ケイドロ?……この世界にまであるんですか。もはや謎。どこの人も遊び方考えんのは一緒ですか。ん?でもちょっとルールが違うかな?

 俺は太い線で囲まれたルールの欄に視線を移した。


『捉えた泥棒・警察はそれぞれ結界を張った檻用の教室に入れる。なお、結界が破られた場合、張り直してもよい』


『使用する魔法は第二段階までの物とする。器物破損の場合は使用者が賠償することになるため、攻撃魔法の使用は極力控えるように』


 魔法云々を入れたんですね。しかも警察も捕まるのか。これも謎だな。泥棒に捕まる警察って何よ。

 徐々に混乱も収まって、黙々とプリントに目を走らせる。


「おい、タツミ?」

「!あ、はい」


 顔を上げるといぶかしんだ顔をしたダンテさんがいた。また驚いて周りを見回すと今度は誰もいなかった。ケイももう帰ったようで風紀委員室には俺とダンテさんだけ。俺が固まって動かないから声をかけてくれたのだろう。完ぺきに周りを見ていなかった。


「……大丈夫か?何か不明な点があるなら言ってみろ」

「いえ、大丈夫です。すみません」

「……なら、いいが」


 ダンテさんは府に落ちないようで僅かに首をかしげた。

 やっぱ察しがいいというか。でも話しても分かんないしね。


「俺も戻ります」


 俺は一つお辞儀をして小走りに風紀委員室を出た。



 昇降口を出るとナザと出くわした。部活帰りらしい。まだ日の昇っているうちに帰路に就くのが習慣のため、だいぶ早い時刻だ。ナザは特段疲れた様子もない。

 そう言えば何部だったんだ?聞いたことないような気がする。


「部活?バスケ」

「バスケってあのボールダムダムする奴だよね?」


 俺が手ぶりを交えながら言うと、ナザは僅かに眉を上げた。


「あぁ、そうだ。魔法はよくわかってなかったっぽいのにこっちは分かるんだな」

「ひど!まるで俺が無知みたい」


 態とむくれた様に言うとナザは笑って、ごめんごめんと俺の頭を撫でた。

 魔法が分かんなかったのは仕方ない。

 バスケは大体一緒みたいだし、スポーツはスポーツというくくりだろうか。第一同じ種目がある時点で恐ろしい共通点なのだが、いい加減慣れてきてしまった。さっき大仰に驚いた後だからなおさら。


 分析しつつ撫でられる気持ちよさを甘んじていると、思いきりナザの方に引き寄せられた。歩きながらだがバランスを崩すこともなくナザの胸の上に収まる。


「な、ナザ?」

「このプリント何?風紀の?」


 ぷ、プリント?

 ナザは俺の持っていたプリントを覗きこんでいた。そう言えば、帰りに読もうと思って持ったままだった。

 俺の頭上にあった腕を肩に回し、組んだ状態でナザとは反対側の手に持っていたプリントを引き寄せる。自然と肩を抱かれるような状態になるわけで。俺の顔の真下にあるナザの群青の短髪が一寸くすぐったい。ナザはあまり気にしてはいないようだけど、存外スキンシップの少ない俺としてはこれでもかなり人と近くにいる。……イ―ズはスキンシップ旺盛なので慣れたが、ナザがこういうことをしてくるのは珍しい。

 なんか、気恥ずかしいな。そんなにプリントが気になるか。


「新歓か……お前は参加しないんだな」

「そうみたい。ね、見ずらくない?プリント貸すか「このままでいい」……そう」


 ナザがそう言うので、彼がプリントを見終わるまで肩を抱かれたまま歩いた。歩きにくいことこの上ない。なんとか気恥ずかしさは押し殺して彼が離れるのを待った。

 分かれ道が近付くとナザは自然と距離を戻した。ありがと、と自然に礼を言われ、少なからず安堵の息を漏らす。


「これ確かクラスごとなんだよな。ただクラスは学年関係なく単品で動くから、先輩後輩は関係なく二つに分けられんの」

「え、そうなんだ」


 機械的と言えば機械的だけど、その辺はもう少し考えてくれてもいいんじゃないかな?


「まぁ、殆ど溝がないから出来るんだろうけどよ。また騒ぎになるんだろうな……じゃ、また明日な」

「うん。また明日」


 別れ際、ナザの騒ぎになるという言葉が引っ掛かる。でもまぁ、新歓だし。皆騒ぐのは当たり前かと大して気には止めなかった。


誤字脱字等ありましたらお知らせください。

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