プロローグ③
さぁ、この状況を誰か俺に分かるように端的に説明してくれ。
なんか聞いたことあるような気がするセリフだろうが今はそんなことどうだっていい。
なぜ人が増える。
帽子の男が笑顔で云い放った次の瞬間、ステンドグラスが砕けた。続いて壁の砕かれる音がする。
俺を取り囲んでいた美形たちはすぐさま周囲を見渡した。
やがてちょうどおれの正面の位置(帽子男に重なって見えない)を全員で見据える。
俺は少しでも見えるように体をそらした。
砕けたステンドグラスの散る中で、立っていたのはまたしても美形だった。
深い緑色のがっちりした服(軍服だろうか)に身を包んでいる、茶髪の好青年。異国風の装飾の施された剣を持っている。その後ろ。同じような格好をした人が十名前後。その中に一人髪の長い女性がいた。一人だけ、薄い緑の方の違う軍服を着ている。やはりきれいな人であった。
「意外に早かったね、予想外だよ」
帽子の男は横顔をこちらに向けて流し眼をして言った。
美形なんだからそんなことしたら…ずるいよな。うらやましいよ。
「その子をこちらに渡してもらおうか」
「断るよ」
「素直に聞くとは思っていない」
「なら聞かないでよ」
うわ、冷戦だ。見えないけど火花が散ってる。絶対。
「これじゃ儀式できねぇじゃねぇか。どうすんだ?」
俺の後方、つまり籠の後ろから声がした。これは…俺を連れてきたマリモの声。
「今回はあきらめるしかないね。あぁは言ったけど儀式に必要不可欠なものだけを持って撤退しよう。彼はまた取り返すさ」
そう言って男はまた俺に流し目を送る。さっと目をそらした。
さっきから儀式儀式って、いったい何なんだ。状況的に、絶対に俺に関係あるよね?何、生贄?だったら俺不幸の極みだと思う。
「ひどいなぁ」
すぐ近くから聞こえた男の声に、ばっと顔を上げる。目の前に妖艶にほほ笑んだ美形さんがいてわずかに身を引いた。男の肩越しに見えた正面では、RPGのような大乱闘が始まっていた。皆剣や短剣を持って戦っている。鉄砲はいないのか。そのかわり、ところどことでなにか紋様が光っていた。魔法だろうか。マリモも言ってたし。
「わっ」
いきなり男に肩を掴まれた。驚いて目を見開く。
「ちょっと我慢してね」
男は俺に見せつけるように群青色の大きな鍵をかざすと、それを思いきり俺の胸につきたてた。
「なっ!?」
男は変わらす妖艶に笑う。
妙な感じだった。俺の体にとっぷりとつかる鍵の先端が見える。それなのにまったく痛みを感じない。水面に棒きれをつっこんだ状態に似ている。俺の体はそれを受け入れているかのようだ。気持ち悪い。
男がにわかに鍵を回し出す。
なんだ?熱い。
男が鍵を回していくにつれて俺の体に熱がたまる。沸々とどこからともなく湧き上がるそれは、今までに感じたことがない熱量だった。熱くて、苦しい。
「は――っ」
「あと少し」
燃えるように熱い。
ちょうど鍵のあるあたりから、湧き上がる熱は力の様で、俺の体に充満していく。
カチ
なにかのはまる音がした。
「またね。お姫様」
頭にくる言葉を最後に、俺は意識を手放した。
今回も短めです。
じゃないとストックが…