♯3 魔法修行ですか。⑦-終ー
ちょっとBLっぽくなったかな……?
最近要素が少なすぎてさびしい(・ω・;
若干長め。
スランプです(泣
誰かの声を聞いた気がした。そう、気がしたんだ。でももう聞こえない。何の音も聞こえない。
あれ?俺はどうしたんだっけ?
「……ここは、っ」
体を動かそうとすると、ずきりとした痛みが走った。それで思い出した。
俺は、負けたんだ。その辺のチンピラみたいな奴らに。
今になって悔しさが押し寄せる。自棄になって痛む体を無視して起こした。反動で落ちた濡れタオルに、誰かが世話をしてくれたのだと知る。よく周りを見てみるとコナカの柔道部室だった。電気みたいな灯りが無いのに明るいこの部屋は、外から見た通り日の光が直に当たって心地いい。
ズタズタになった心がほぐされていくような気がして、自然と頬が緩んだ。チクリと痛みがあったのは殴られた部分だろう。きっと腫れて見るも無残な姿になってるんじゃないかな。またイ―ズに怒られる、なんて考えても心は不思議と穏やかだった。
この場所の雰囲気がそうさせているのか。はたまた負けて自分を見つめ直したことでナイーブになっているのか。どちらにせよ、もう少しこのままで居たかった。
最近忙しなくてこうやって浸る時間もほとんどなかった。平日は学校行って、帰ってきたら魔法の修行に組み手に課題。休日も大差ない。随分とハードスケジュールをこなしていたんだと苦笑する。経緯は悔しいけど、少し感謝したくなった。
ふと、人の気配を感じて右側を向いた。殆ど反射的な行動で、果たして立っていた人物に目を見張る。
「起きたみたいだね」
その人物は優しく微笑むと俺の傍らに座った。
シンプルな淡い青色のフレームのメガネを畳んで胸ポケットへ収め、彼は光を浴びて輝く銀髪を耳に掛けた。そんな動作でさえも一端のモデルの様で見とれてしまう。やはり綺麗な人だなと思った。
「だいぶ怪我してたみたいだけど、もう平気かな?一応簡単な処置はしておいたけど」
そう言って微笑む姿にまた見惚れそうになるのを必死に耐える。ちゃんと答えないと失礼だろう。
「はい。ありがとうございました。……あの、助けて下さったんですか?」
我ながらなんとまぬけな質問だ。しかし他になんと言えばいいのか分からなかったのだから仕方がない。
「そうだよ」
思いの外あっさりとした返答が返って来た。僅かに落胆して小さく驚く。日本人的な謙遜を期待してしまった自分がどこかにいたのだろう。もう日本ではないのにそれもおかしい話だ。
「ご迷惑おかけしてすみません。ありがとうございました」
彼のほうに向きなおって頭を下げると、気にしなくていいと柔らかい声音で返ってきて安心した。優しい人のようだ。もう一度お礼を言って、長居するのも悪いので帰ろうと立ち上がる。しかしそれは叶わず、よろけて片膝をついた。
「無理しちゃいけない。もう少し自分の体を労らないと」
「っ……、すみません」
体が悲鳴を上げていた。彼の言うとおりだ。俺はもう一度座りなおして、どうやって帰ろうかと思考を巡らす。だがそれは中断された。
「瀬川君だよね。風紀の。俺のこと覚えてる?」
「えっ、あ、はい」
彼は俺の顔を覗き込んで、妖艶に笑む。襖の隙間から射す光がくねる銀髪を照らしていた。メガネを外した瞳は青く透き通っていて、目が離せなくなる。
「せ、生徒会の方、ですよね」
どもりながらも答えると、おかしかったのか彼はくすりと笑った。
「当たり。ヒラク・ステレーナ、3年ね。生徒会ではクラウと一緒に会計してる。改めてよろしく」
「あ、はい。よろしくお願いしますっ」
うわー。美人さんとお友達になってしまった。なんていうか嬉しいな。すごく大人な感じのする人だから、一個上というよりもっと年上の様な気がして完全に敬語になってる。悪いことではないと思うので修正する気はないが。
一人有頂天になっていると、空気が変わった。温和な空気から、一寸生ぬるい、俺の知らない空気に。俺の無駄に(?)鋭敏な感覚は、焦点をヒラクさんへと向ける。
「君さ、綺麗だよね」
「……へ?」
彼はそう呟くと向き合って座っていた俺の体を優しく推した。チクリと傷に痛みが走り、そのまま押し倒される。俺は瞠目したままその行為をどこか遠いものの様に感じていた。
はらりと顔に何かが掛った。いや、何かなんて分かってる。だってこんなにも近くにヒラクさんの顔があって、見つめてくるのだから。彼の長い髪が俺の頬をくすぐっていた。
「何、してるんですか」
「んー?別にこのまましてもいいけどね」
よくわからない。押し倒されているというのに嫌悪が無いことも分からないが、俺は知識が無いわけではないのにこの状況に危機を感じないということが一番分からない。彼は変なことはしない。彼の言ったことも如何わしい行為をする気が無いことを暗示している。なら、なぜこんな体制になったのだろうか。わざわざこんな奴と面合わせになって。
彼は混乱する俺を見て、またくすりと笑った。顔が近すぎるせいで吐いた息が首筋にかかってくすぐったい。
「辰巳」
「!?」
肩が跳ねた。低く、それでいて艶のある声で名を呼ばれた。さっきまで名字じゃなかった……?
「君、弱いよ」
どくん、と心臓が大きく脈打った。俺がさっきまで考えていたこと。重く圧し掛かっていたこと。
あまり感情を感じさせない笑みに、全て見透かされている、そう感じた。
「このままじゃ自分も、何も守れないよ。君の役目だって果たせない」
「やく、め……?」
役目?俺の役目って?俺の守るものって?自分、だけ?いや、違う。守りたいものは自分だけじゃないはずだ。
俺は、自分が守られる立場で。でも自分自身くらいは自分でも何とか出来るようになりたくて。ただ守られているのが嫌で。それしか考えてなくって。守る?俺が、イ―ズの力に、彼らを守る力になれる?
「風紀でしょ?」
「!」
ハッとした。
それもそうだ。ヒラクさんが俺の私的な事情を知っているわけがない。なんでも見透かされたような気がして、思考がそっちに行ってしまった。しかし、考えた事の密度が濃すぎてすぐに頭から離れてはくれなかった。
彼の言う通り、今回の様なことが度々起きていては風紀の仕事もままならない。
俺は、弱い。その通りなんだ。
「俺、風紀辞めた方がいいんでしょうか……?」
口走ってから後悔した。これは逃げだ。任された仕事が出来ないからと言って、止めたら成長を止める事になる。頑張れば出来るかもしれないのに。
「い、今の無しで……」
慌てて取り消すも、ヒラクさんの強い眼光が俺を捉えて、後の言葉が続かない。
やっぱり失言だった。どうしよう。彼を怒らせたかもしれない。俺を風紀にと認めてくれたのは生徒会なのだ。辞めるなんて、彼らの期待を裏切ることに他ならない。
「あ、あの……ヒラク、さん?」
完全に狼狽えてしまった俺は、どうしたものかと彼を仰ぎ見る。
と、眼光が緩み、先程までと大差ない笑みを浮かべた彼がいた。
よかった。怒ってない、みたいだ。多分。確信はないが大丈夫だろうと判断し、心の中で安堵の息を漏らした。そうして、もう一度彼に焦点を合わせ、
「っ!?」
息をのんだ。
目と鼻の先、そう表現するのが一番しっくりくる距離。鼻が触れ合って、あと数ミリで唇も触れ合ってしまうのではないかという距離に、彼がいた。それでも近づくことを止めていない彼に、俺はまずいと狼狽する。しながらも混乱と雰囲気とで動けなくなってしまっていた。
あと、ほんの数ミリ。それだけで触れてしまう。
知らず、心臓が高鳴っていた。俺は男とする趣味なんてないのに――?
「何やってんだ!?」
「「!」」
聞き覚えのある声に、二人揃ってそちらを向いた。ばん、と開けた襖の向こうにコナカが顔を真っ赤にして立っていた。手には水桶がある。タオルを置いてくれたのはコナカだったのか。
「早く先輩から離れろ!」
血相を変えて叫ぶコナカにヒラクさんはふうと一つ息を吐いた。
「仕方ないね……今日は見逃してあげる」
ヒラクさんはそういうと俺の上から退いた。俺はというと混乱を通り越して放心状態。全然ついていけてない。真っ赤になってコナカ可愛いな―とかどうでもいいことを考えていた。
暫くしてヒラクさんを責め終わったコナカが俺の元にとてとてと歩いてきた。若干放心してそれをただ見つめる。この短時間で色々ありすぎて疲れた。肉体的にも、精神的にも。じっくり考えなければならに問題がたくさん提起されたような気がする。
「セガワ先輩!」
「なに?」
「なに、じゃない!なんで簡単に押し倒されてんの!?いくら怪我してっからってもっとちゃんと自己 防衛しろ!ったく。ここで変なことするんじゃねぇよ。ここは真正な道場なの!わかったか!あと怪我人は寝てろ!保護者呼んだから迎えに来るし」
「は、はい。……って保護者呼んだの!?」
一気に捲し立てるから理解するのに一寸かかった。イ―ズが来る!!え、どういうフラグ!?何したらいい?……何もしなくていいのか。俺怪我人。あれだ、保健室な気分だな。
ここに来るんだろうか。
「場所は伝えたからここまで来てくれると思う。荷物は風紀委員室?」
「あぁ」
「じゃぁ俺とって来る。部長、絶対に先輩に変なことしないでよ?」
「分かってるよ」
「先輩ちゃんと寝ててね!」
ばたん、と襖が閉められる。途端に降りた静寂と気まずさに俺は俯いた。
なんていうか……コナカに申し訳ないな。いろいろ世話してもらって……変なとこ、見せちゃって。別に俺がしたわけじゃないけど。動けなくなっちゃったのは事実だし。第一なんで俺なんかにヒラクさんみたいな美人さんが。あ、そう言えばこの世界の美的感覚が俺とは少しばかりずれていたような。でも俺が美人だって思った人はランキング入ってたりするんだけど、よくわからない。
取りあえずコナカが帰って来てイ―ズが来るまで、この重たい空気が続くとなると、既に気が滅入る。
ヒラクさんは何をするでもなく、襖から覗く空を見ている。何となく俺も視線を合わせた。
空は一面の東雲色だった。まばらに浮かぶ雲に透き通るオレンジが反射して、雲を赤く映し出す。校庭の木々の暗さと相まって、写真集の表紙を飾れそうな景色だった。
「きれいでしょ?」
「はい。綺麗です」
「ふふ、敬語じゃなくっていいよ。ここから見るの好きなんだ」
いつの間にか気まずさは消えていた。
夕焼けを眺める彼はやはりというか、とても綺麗だった。
少ししてコナカがイ―ズを連れて戻って来るまで、俺は夕焼けを眺めていた。
夕焼けの情景に気を取られ、ヒラクさんが傍らから消えているのに、俺は気がつかなかった。
コナカがお母さんみたいだwww
三話終了。やっとだ。
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