♯3 魔法修行ですか。④
最近BL要素が足りない。
ってか無い。
でももうちょいでかけるはず……!
たぶん。
新(?)キャラ登場です。
次の日の放課後。俺は風紀の見回りに勤しんでいた。殆ど毎日ある見回りでは自分の担当の箇所が決まっていて、そこを簡単に見回れば終われることになっている。ものすごく軽いのでこれでいいのかとも思うのだが、早く帰れるに越したことは無いので特に何も言わなかった。俺が何も言わなかったことにダンテさんは少し驚いていたようだ。俺はどんだけ真面目だと思われてるんだろう。
で、早く帰れるはずなんだけど、今日は三年生が一校時分長いので(進路研修みたいなだったはず)一人一人のシフトを増やして見回りしている。
つまり、あまり来たことのない方面へ来ているわけだ。大して珍しいものがあるわけではないのだが、なんとなく探検しているみたいでわくわくしてしまう。
校舎の影になっている薄暗い茂みの中を、草を踏みしめて歩く。
いつもは昇降口近くを担当しているので、こう言った入り組んだところには来たことが無かった。
こういう薄暗いところは危ないから(あっちな意味で)新入生には任せないらしい。俺も一応新入生なので、二年だけど簡単なところが回されている。
暗がりに、一瞬光がさしたような気がして正面を向いた。そして俺は目を瞠った。
ステージの主役のように、一条の光がさしていた。その元には小さな小屋、と言うよりは古典的かつ歴史的な建物に見える。日本の金閣寺を一段にしてしまったような平屋だ。木々の間の木漏れ日に照らされて、その小屋は見る者に儚げな印象を与えていた。
俺はその小屋に惹かれた。
触ると崩れそうだけど、どうしても中が気になってそれに一歩一歩踏みしめて近づく。実際触っただけで崩れる程朽ちてはいないので、手をかけて襖をあけると難なく侵入できた。
「だれっ!?」
中に人さえいなければ。
「うわっ!」
視界をかすめた右のストレートに、反射的に体が軌道を逸れる。標的に命中しなかった腕は空を突き、繰り出した本人のバランスを奪った。
これもまた反射的に受け止めると、意外なことに顔見知り。
俺の肩より下にある栗毛が動いて、くりっとした青い瞳が俺を訝しそうに見上げる。そして瞼をわずかに上げ、俺の腕から飛びのいた。
「あんたは……風紀の新人」
「……こんにちは?」
まさかこんな可愛らしい子が、睨みながらヤンキ―みたいなことを言ってくるとは思わなかった。
驚きを表に出さずに、隠すように時間にあっているかどうか微妙な挨拶を口にする。
確か一年生だったはずにこの子は、なぜか日本で言うところの柔道着に身を包んでいる。若干デザインが違うがまったく同じの方が怖い。
「なんでここに」
距離を取ったまま詰問して来る彼に、俺は苦笑した。こんな可愛い顔してる子に睨まれても全然怖くない。
「風紀の見回り。先輩いないからね。君こそどうしてここに?」
「ここはおいらの場所だ」
「……ここが?」
言ってから気がついた。失言だ。ニュアンスとして建物の古さを示してしまっている。ここが彼の場所だというのならこんなことを言われたら激怒してもおかしくない。……一人称の違和感にはあえて口を挟まないことにしよう。
「はぁ、事実に怒ったりしねぇよ。この服見りゃなにしてっかわかるだろ?」
明らかに狼狽してしまったため、年下に気を使われてしまった。なんだか居た堪れない。
申し訳なくなって、彼の言った通り服を見て考えてみた。こういった服を着ている部活ってこの世界だと何になるんだろ?うーん。部活ってまだ見てないからなんだかわかんないや。
「柔道……とか」
無いよな、と思いつつ言うと、彼は分かんじゃねぇかと言って、床に敷かれていた畳に腰を下ろした。
マジで……。まさかだわ。どんだけリンクしてんの。
驚きを面の内に押し込んで平静を保ちつつ、邪魔しちゃ悪いと入って来た障子に手をかけた。
「どこ行くんだ?」
鋭い目つきでがん見されて、思わず固まる。さっきまで全然怖くなかった瞳が俺を畏怖させる。なんつー眼力。
「いや、別に」
「なら手合わせしようぜ」
彼はそう言うなりぴょんと跳び上がり、着地と同時に右手左足を前に出し、人差指を曲げて『かかって来い』と生意気にも挑発した。
上等じゃんか。
俺はTシャツの裾をたくし上げ、彼と同じように構えた。
彼の力量は技巧と評価できるものだった。小柄さを不利にさせない俊敏な動きと意表を突く攻撃は、正直俺でさえかわせない時がある。
戦ってみて思ったが、この世界での柔道はあまり形式ばったものではないらしい。最中に柔道なんかわからないぞと、今更のように釘を刺した時、彼はお前のやっていたものと大差ないだろと笑い飛ばした。勝手に解釈したところは、魔法を使わない組み手のこと。
「はっ、さすがだな……ダンテさんが見込んだだけはある」
畳に大の字に寝転がったまま彼が呟いた。上がっていた息はもうだいぶ収まっている。
「どうも。君こそ、いい動きするんだね」
「ふっ、ありがとさん」
俺はもうここには用は無いかなと、胡坐をかいていたところを手をついて立ち上がる。あまり遅くなるとメリッサさんに迷惑をかけてしまう。
「じゃぁ俺はこれで」
「あ、まてよ!」
「なにか?」
まだ何かあるのかと僅かに怪訝な声になってしまった。しかし彼は特に気にした様子もなく身軽に立ち上がり、俺の元へと歩いてきた。
「1-Aの橘コナカ。一応橘道場の跡取りだから。覚えといてよ、セガワ先輩」
そう可愛い顔して微笑むタチバナコナカ。大輪の花を背負わせられそうなそんな笑顔に、
「え?あ、うん……?」
小さな違和感。
あれ?と思った。
突然自己紹介をされたことかとも思ったが違う。返答にも疑問が浮き彫りになってしまう。
そして、ハッと気がついた。
「タチバナって、セカンドだよね?」
「そだよ。武道に準ずる家柄だからね。先輩もじゃねぇの?」
いや、おれは……と言葉を濁しつつ、なぜか心が浮ついた。
なんだか仲間を見つけたようで、実際そういうわけではないけれど嬉しくなった。
へへっと我ながら気持ちの悪い笑い方。
「もしかして、漢字使ったりするの?」
「?するとも、木へんの一文字で表す奴」
「名前は?」
「名前漢字にするとか流石に無いでしょ」
そこはダメか。
ちょっと萎えてしまったけど、浮かれた気持ちは収まらなかった。
「うれしそうっすねぇ。そんなに漢字の名前が珍しい?」
「今まで会ったこと無かったからさ。あ、俺のは親の趣味だから」
「え……マジで?」
一気に冷えた空気に何かまずいことを言ったのかと固まる。
「えっと、どうかした?」
「漢名は武道の道で名の売れた者だけが許される名誉ある名だ。それを親の趣味で付けて良い訳が無い」
冷水を浴びせられたように浮かれた気持ちが一気に冷めた。
また俺は失言を。余計なことは言わないよう心がけていたのに。
弁解しようにも何を言ったらいいのか分からず、何も言えないまま再度固まってしまった。今度のは石化に近い。
「……まさか、知らなかった?」
「ぅ……えっと……」
怪訝な顔が俺を見上げる。
図星をつかれあからさまに反応してしまったのと、今までの沈黙から彼はそれを肯定と受け取り、はぁと深い溜息を吐いた。
「やっぱ武道が廃れてんのな。最近じゃぁその威厳も落ちてきてるし。先輩みたいにこのことを知らない人も多いし。とうとう名まで取られたか」
「いや、俺の実家ってめちゃくちゃ田舎だし、あんまり情報とか入って来なかったし、そう言うので知らなかっただけだから」
努めて冷静に言った。落ち込んでしまった(俺のせいで)彼を見ていると、自分がしっかりしなくてはいけないような気がして、自然とぐちゃぐちゃだった思考がまとまって、まともに頭が働いた。
「悪い」
良いよ、と笑ってくれたコナカの顔は、何かを塞き止めているようで、その顔が頭についた。
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